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観光都市・近江八幡の駅前が大きく変わる。再開発の全容と今後の課題

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2026年1月に供用を開始した新市庁舎

観光の街から住む街へ。歴史ある都市・近江八幡で進む駅前再開発

JR東海道本線近江八幡駅

滋賀県のほぼ中央に位置する近江八幡市。豊臣秀次が築いた城下町にルーツを持ち、時代劇のロケ地としても有名な「八幡堀」や白壁の商家が並ぶ街並みなど、歴史情緒あふれる観光都市として知られている。

そんな近江八幡の玄関口であるJR東海道本線(琵琶湖線)近江八幡駅の周辺が今、大きく変わろうとしている。駅前では大規模な分譲マンションの建設が進み、新しい市庁舎も稼働し始めた。静かな観光都市で、複数の大型プロジェクトが同時に動いているのだ。

観光都市のイメージが強い近江八幡エリアで、なぜこれほどの開発が進んでいるのか。本記事では、近江八幡の事例を通して、地方都市における駅前再開発の意義とリスクについて考えていく。

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駅北口のバスロータリー

駅デッキ直結のウエリス近江八幡

建設中のウエリス近江八幡

駅前再開発を象徴するプロジェクトの1つが、NTT都市開発と名鉄都市開発による大規模分譲マンション「ウエリス近江八幡」である。地上19階建て・全290戸という、近江八幡市ではこれまでにないスケールの物件だ。

ウエリス近江八幡の最大の特徴は、近江八幡市で初めてとなる「駅デッキ直結」という立地だ。ペデストリアンデッキで近江八幡駅やイオン近江八幡ショッピングセンターとつながるため、気軽に駅や買い物に行くことができる。車社会である地方都市において、「歩いて暮らせる便利さ」が手に入るのは大きな魅力だ。

ここで、ウエリス近江八幡の概要を見てみよう。

・敷地面積:5,752.02m2
・建築面積:2,334.95m2
・延床面積:2万8,506.51m2
・構造:鉄筋コンクリート造
・規模:地下1階、地上19階建て
・事業主:NTT都市開発株式会社 関西支店・名鉄都市開発株式会社
・設計・監理:株式会社長谷工コーポレーション 大阪エンジニアリング事業部
・施工:株式会社長谷工コーポレーション
・工事完了予定年月:2027年1月
・引き渡し可能年月:2027年3月 ※諸手続き完了後

現在は駅とイオン近江八幡ショッピングセンターがペデストリアンデッキでつながっている
駅やショッピングモールが近接している便利な立地だ

マンション内の共用施設も充実している。フィットネスルームやコワーキングルームが設けられ、リモートワークや健康維持など、現代のライフスタイルに対応する予定だ。間取りは1SLDK〜4LDKと幅広く、単身者からファミリー層まで多様なニーズに応える設計だ。敷地内の駐車場設置率は100%で、車が生活の足である地方の実情もしっかりと踏まえている。

環境性能の面でも先進的だ。滋賀県で初めて「ZEH-M Oriented」と「低炭素建築物」のダブル認定を取得しており、高い断熱性能と省エネ設計を両立させている。

駅や商業施設に歩いて行ける利便性と、地方ならではのゆとりある暮らし。そんないいとこ取りができる住まいが、近江八幡の駅前に誕生しようとしている。

新市庁舎の稼働と市民広場構想

2026年1月に供用を開始した新市庁舎

駅前では、民間のマンション開発だけではなく、行政側でも駅周辺の刷新に向けたプロジェクトが動いている。

その1つが、2026年1月に供用を開始した新市庁舎だ。コンセプトは「誰もが相談しやすく居心地のよいハートフルな庁舎」。階段状に設計されたユニークな外観が特徴で、市民が気軽に足を運べる場所を目指している。

新庁舎が供用を始めた一方で、旧庁舎の解体工事も進行中だ。跡地には新庁舎のエントランスや駐車場が整備される予定で、庁舎周辺の景観が今後さらに変わっていくことになるだろう。

解体中の旧庁舎
市民広場の整備予定地(画像引用:近江八幡市「市民広場ワークショップ お知らせ便Vol.1」)

さらに注目すべきは、旧市民病院跡地の活用計画である。現在は市役所前の駐車場として暫定的に利用されているこの土地を、市民広場として整備する構想が動き出している。市は全3回にわたる市民参加型のワークショップを開催し、広場の活用案を広く募集した。現在は寄せられた意見をもとに基本計画を取りまとめている段階だ。

マンション開発や新市庁舎の稼働、そして市民広場の計画。行政と民間の複数プロジェクトが同時に進むことで、近江八幡駅の周辺は「点」ではなく、エリア全体の「面」として大きく生まれ変わろうとしている。

市民広場としての構想が進んでいる旧市民病院跡地

地方都市における駅前開発の意義とリスクとは

八幡堀

駅前再開発は、近江八幡の暮らしにどのような変化をもたらすのか。その意義とリスクを両面から考えてみたい。

まず意義として挙げられるのは、「地方都市でも駅前に住む」という選択肢が生まれることだ。地方では車での移動が当たり前で、住まい選びにおいて駅の近さを重視する人はそれほど多くなかった。しかし、駅前に利便性の高い住宅が供給されれば、これまでとは異なる層の関心を集めることができる。

例えば、通勤や通学の利便性を重視する若年層にとって、駅直結のマンションは「この街に住み続けよう」と思える動機の1つになるだろう。また、年齢を重ねて車の運転に不安を感じ始めた高齢世帯にとっても、歩いて買い物や通院ができる駅前は魅力的な住み替え先になる。人口減少や高齢化が進む地方において、駅前再開発が受け皿として機能する意義は大きい。

一方で、懸念すべきリスクもある。開発によって生まれたマンションの居住者が、市外からの流入ではなく市内での住み替えが中心となる場合、元々住んでいた郊外では空き家が増加し、地域コミュニティの崩壊が加速する懸念もある。総人口が増えない中での開発は、郊外の衰退という副作用を伴うことも忘れてはならない。

また、駅前の風景が「どこの街でも同じ」になってしまう問題もある。実際、全国の地方都市で進む駅前再開発を見ると、大規模マンション、商業施設、駅前広場という組み合わせが多く、街の個性が失われてしまうのではないか、という声も少なくない。

広場の活用案を議論したワークショップの様子(画像引用:近江八幡市「市民広場ワークショップ お知らせ便Vol.3」)

近江八幡の場合、この問題はさらに複雑だ。八幡堀や白壁の街並みなどの歴史的な景観が、この街の大きな魅力だが、駅前が新しく整備されるほど、観光地との間にギャップが生まれやすくなる。観光客が楽しむ歴史的な風景と、住民が生活する近代的な駅前が、うまくつながらずに分断されてしまうリスクがあるのだ。観光の街としての個性と、暮らしやすい街としての進化。その両立が、近江八幡エリアが向き合うべきテーマの1つではないだろうか。

では、このリスクを防ぐためにはどうすればよいのか。そのヒントとなるのが、前章で紹介した市民広場のワークショップのような、住民参加型の取り組みだろう。まちづくりを行政やデベロッパー任せにせず、住民自身が「どんな駅前にしたいか」を考え、声を届けることで、他の街にはない「近江八幡らしさ」が反映されていくはずだ。

歴史ある街並みを大切にしてきた住民たちが、近代化する駅前をどう受け入れ、自分たちらしい場所として育てていけるか。建物や道路などのハード面の整備が進む今、街の個性をどう守り、つくっていくかという、住民それぞれの関わり方が問われている。

変わりゆく近江八幡が描く未来図

近江八幡の駅前再開発により複数のプロジェクトが同時に進めば、街の機能そのものがアップデートされる。近江八幡の駅前再開発には、歴史ある観光都市の良さを守りながら、暮らしやすさも高めていくという、大きな挑戦が込められている。

そして、これらのプロジェクトが完成を迎えれば、駅前の風景は一変し、人の流れも大きく変わるだろう。画一化のリスクや、観光エリアとの調和などの課題は残るが、住民自らがまちづくりに参加し始めている点は近江八幡ならではの可能性を感じる。

「地方に住むなら郊外の一戸建て」というイメージは、少しずつ変わりつつある。駅前に住んで、歩いて買い物や通勤ができる。そんな都市型の便利な暮らしが、地方都市でも手の届く選択肢になり始めているのだ。歴史と利便性が共存する近江八幡のこれからに、引き続き注目していきたい。

杉山 明熙
不動産特化ライター
元不動産営業のWEBライター。宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、賃貸不動産経営管理士。12年間の不動産営業を経験後、不動産特化ライターとして大手メディアや不動産会社のオウンドメディアで、住まいや不動産投資に関する記事を多く提供している。不動産業界経験者にしかわからないことを発信することで「実情がわかりにくい不動産業界をもっと身近に感じてもらいたい」をモットーに執筆活動を展開中。

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