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麦わら帽子で世界を変える! “帽都”・春日部の最後の砦(とりで)が守る、夏の代名詞

さんたつ

【散歩の達人】田中帽子店_1

穀倉地帯だったことから麦わら帽子作りが隆盛した春日部。昭和初期には“帽都”と称されることもあったという。そんな地で、市の伝統工芸品となった麦わら帽子を手掛け続けて145年の老舗『田中帽子店』をたずねた。

田中帽子店(たなかぼうしてん)

田中帽子店[せんげん台]

リボン付けを待つ山積みの帽子を前に、6代目の田中優さん。

ファッション帽、農作業用の労働帽、児童用の制帽など幅広く製造する帽子会社。毎年新作を発表し、今まで生み出した帽子は150以上におよび、すべての品に欧米系の名前を付けているのがほほ笑ましい。現在は約70種類を販売。工場に隣接するコンテナハウスの直売所には定番品だけでなく、試験的に作った一点物が並ぶことも。リボンの巻き替えなど、修理も受け付ける。

春日部メイドの麦わら帽子が猛暑の夏を変える!?

風のない穏やかな日、『田中帽子店』の敷地には無数の麦わら帽子が並んでいた。かつて春日部の冬の風物詩と言われた大事な作業「寒干し」だ。

「麦わら帽子は材料を水で柔らかくしてから縫製するんです。その後、冷たい空気で乾かすことで目が詰まる。今日のような乾燥した日は最適です」と、代表の田中優さん。

寒干しでは型崩れを防ぐ樹脂も塗る。

創業は明治13年(1880)。麦作が盛んだった春日部では、農閑期の副業として7本の麦の茎を手で編み真田紐(ひも)状にした「麦稈真田(ばっかんさなだ)」が作られていた。これが麦わら帽子の材料で、当初は西洋へ輸出されたという。『田中帽子店』も元は麦農家。近隣に国産ビールの草分け「マルコビール」の醸造所があり、大麦を納めながら麦稈真田を編んでいたが、「『うちでも何か作れないか』と、大森の麦細工職人に相談したところ帽子作りをすすめられて始めたそうです」。明治30年(1897)頃にドイツ製の専用ミシンを導入し生産が本格化した。

上から時計回りに、つば先を下げても被れる女性用の「リリー」1万3200円、細い麦稈真田を使った中折れ帽子の「ファーロ」1万2100円、鬼麦というザクザクした編み方によるカンカン帽の「ハンス」1万4300円。

市域では明治時代のうちに製帽所が10カ所以上も生まれ、昭和30年(1955)になる頃には岡山、広島に次いで全国3位の生産地に! 主力はつばの広い農作業用の労働帽で、昭和40年代にはレジャー用帽子も作られ大いに売れた。が、化学繊維の台頭や後継者問題で麦わら帽子の担い手は激減。『田中帽子店』は市域のみならず東日本唯一の専門工場となってしまった。

もはや春日部の麦わら帽子は風前の灯火(ともしび)か……と思えば、否! 現在、6名ほどの少数精鋭の職人が分業で手掛ける数はなんと年間3万個。OEM専門で表に出なかった社名を13年ほど前からブランド化し、販路を広げて大手の雑貨店や書店などの小売店に直接卸す。街で見る機会が増え、今や知名度は全国規模だ。今後の目標は?

下糸のない環縫いミシンで頂点から渦を巻くように縫い重ねる。縫い始めは製造工程の最難所。
職人歴40年以上の70代も現役だ。

「夏になると帽子はたくさん売られるのに、まだまだ被(かぶ)ってない人のほうが多いんです。でも、そこにこそ可能性を感じます。被ってない全員に麦わら帽子を被ってもらう!って。愛用者の方が『これ“春日部の田中”だよ』と人に自慢してくれるのも、私にとっては地域貢献できてるようでうれしくて。“春日部の田中”が街なかにあふれる世界を見たいですね」

つばの縫い付け。
ひげ(バリ)取りも丁寧に。
材料の麦稈真田は早くから国産が消え、中国から調達している。幅は5.7〜8.10mmと主に3種類。
木型は300以上!

見た目のオシャレさだけでなく実用性も抜群。軽い天然素材で通気性がよく、特殊なミシンによる環縫いは伸縮性に優れ、手縫いのような風合い。99.9%の紫外線遮蔽(しゃへい)率は第三者機関のお墨付き。そんな春日部メイドの麦わら帽子が、猛暑の夏を変えるかもしれない。

田中帽子店(たなかぼうしてん)
住所:埼玉県春日部市赤沼1347/営業時間:直売所は10:00~16:00/定休日:土・日は不定(要問い合せ)/アクセス:東武鉄道東武スカイツリーラインせんげん台駅東口から茨急バス「大正大学入口」行きほか11分の「赤沼十字路」下車7分

取材・文=下里康子 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2026年3月号より

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