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古典の達人・安田登さんが語る、実は日本人に根付いている「儒教」【学びのきほん 使える儒教】

NHK出版デジタルマガジン

古典の達人・安田登さんが語る、実は日本人に根付いている「儒教」【学びのきほん 使える儒教】

人からひどいことを言われる→傷つく。無視される→悲しくなる。怒鳴られる→ビクつく。当たり前に思えるこれらの反応も、「心のプログラミング(持ちよう)」を書き換えられれば、見え方が変わってくるかもしれません。

『NHK出版 学びのきほん 使える儒教』では、古典漢籍の道を究めた能楽師・安田登さんのガイドで、『論語』を中心とした儒教の考え方を使い、自分を変えていく方法を学びます。

今回は本書より、日本人と儒教との関わりについての解説を紹介します。

日本人に根付いている儒教

 儒教は、紀元前五〇〇年頃の中国の思想家、孔子の教えを中心に成立した、政治や道徳の思想と教えです。

 儒教は、日本には仏教よりも前に伝わっていました。『古事記』や『日本書紀』によれば、漢字がまとまった形で日本に入ってきたのは、四世紀末頃(諸説あり)。百済(くだら)の王仁(わに)が『論語』と『千字文(せんじもん)』を伝えたことによります。

『論語』は、孔子とその弟子たちによる言行録です。孔子の死後、弟子たちによってまとめられました。『千字文』は、その名の通り、一〇〇〇の文字を覚えるためのマニュアルです。これを読めば少なくとも一〇〇〇の漢字は理解できるようになるという本です。この二つの書物を活用し、その頃の日本では儒教と文字による統治がおこなわれました。

 ところが六世紀半ばに仏教が伝来し、儒教は仏教に取って代わられます。以後、日本の中心となる宗教は長きにわたって仏教になりました。そのため儒教的なものは次第に見えなくなっていくのですが、実は、私たちの生活や意識の根底には儒教的なものがいまも根付いています。

 代表的なものは二つあります。一つは先祖崇拝、もう一つは親孝行の「孝」の考え方です。

 先祖崇拝、すなわち亡くなった身内を敬うという行為を、私たちは日常的におこなっています。仏壇にお供えをしたり、お墓参りをしたりします。そのときに使うものや、することのいくつかは、儒教から来ています。

 たとえば位牌。位牌はもともと木主(ぼくしゅ)と言い、儒教で先祖を祀る際、霊を呼ぶものとして使われた木の板がもとになっています。また、お水を供えることや、お香を焚くことも、儒教の考え方がベースになっています。

 親孝行に関して言うと、「孝」という漢字には音読み「コウ」はありますが、訓読みはありません(「たかし」は名前に限った読み方です)。訓読みがないということは、その概念はもともと日本にはなかったということです。つまり、親孝行は少なくとも『古事記』の時代までは存在しない概念でした。

重視される「孝」

 父母を敬う「孝」は、儒教の重要な徳目の一つです。「孝」の大切さを説いた『孝経(こうきょう)』に次の言葉があります。

身・体・髪・膚、之を父母に受く。敢えて毀傷せざるは、孝の始めなり。
身を立て道を行い、名を後世に揚げ、以て父母を顕わすは、孝の終わりなり。

(『孝経』加地伸行全訳注 講談社学術文庫)

 自分の身体や髪の毛、肌は、父と母から受け継いだもので、これを傷つけないのが孝の始めだ。身を立てて道をおこない、後世に名をあげて、父母の名前を顕彰する。これが孝の完成だ。そう述べています。

「名を後世に揚げ」は、いわゆる「故郷に錦を飾る」ということですね。学校の卒業式でよく歌われた唱歌「仰げば尊し」の歌詞にある「身をたて名をあげ やよはげめよ」はまさにこれに当たります。儒教の価値観はこんなふうに日本人に根付いています。

 また、日本人がピアスや入れ墨をすごく嫌うのも、もう一つの「身・体・髪・膚、之を父母に受く。敢えて毀傷せざるは、孝の始めなり」から来ています。日本について書かれた三世紀末の中国の歴史書『魏志倭人伝』を読むと、当時の日本人の多くは入れ墨をしていました。儒教以前の日本人は、入れ墨に忌避感を持っていなかったようです。

 現代の日本で入れ墨を入れる人と言えば、ヤクザを思い出します。ヤクザが入れ墨を入れるのは、痛みに耐えるという意味のほかに、親を捨て、家を捨てるという意味もあるそうです。まさに、儒教が重視する孝を否定しています。

本書では、価値観を新たにしていくこと、心の持ちようを変えること、心の変化で大きな物事を動かすことを、儒教から学びます。儒教の本質が分かれば、楽に生きる術が身につく。あるようでなかった儒教の入門書です。

著者紹介

安田 登(やすだ・のぼる)
下掛宝生流ワキ方能楽師。関西大学特任教授。著書に『能 650年続いた仕掛けとは』(新潮新書)、『すごい論語』『あわいの力』(ミシマ社)、『日本人の身体』(ちくま新書)、『見えないものを探す旅 旅と能と古典』『魔法のほね』(亜紀書房)、『別冊NHK100分de名著 読書の学校 史記』『別冊NHK100分de名著 集中講義 平家物語』『役に立つ古典』(NHK出版)など多数。
※刊行時の情報です

◆『NHK出版 学びのきほん 使える儒教』より抜粋
◆ルビなどは割愛しています

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