【永久保存】巨匠ジョージ・ルーカス濃厚トーク完全レポ! カンヌで「映画人生」振り返り盟友コッポラと抱擁【超貴重】
ジョージ・ルーカス、カンヌに降臨
「ランデヴー・アヴェック ジョージ・ルーカス」――第77回カンヌ国際映画祭、ドビュッシー劇場で5月24日に行われたジョージ・ルーカスのトークショーは、開場の30分前にもう長い列ができていた。
チケットを入手できなかった人たちが「ルーカスのチケット求む!」と手書きのパネルを手に、何人も会場の前に立つ。若い、学生らしき人たちが目立つ。イラストをつけるなど、どうにか目立ってチケットを譲ってもらおうと、涙ぐましい努力。あの彼は入場できたのだろうか……。
カンヌ映画祭には28歳以下の映画ファンが参加できるパスがある。最初か最後の3日間、本来プロしか参加できない映画祭に参加できるのである。メリル・ストリープとルーカスのトークショーは、この映画ファンたちも参加できるように、最初と最後にセッティングされていた。
――確かに、ジョン・ウィリアムズの“あのテーマ”なしの『スター・ウォーズ』なんて想像できない。
観客は大喜びしてくれた。けれど批評家は叩くんだよ。「キッズ・ムービーだ」って。そうだよ、『スター・ウォーズ』はキッズ・ムービーなんだ。10歳~16歳の子供たちが見たいと思っている物語、彼らに見せたい物語なんだ。ダークな時代に、友達や兄弟が棺に入って帰ってくるような時代に、子供たちに何が大切か、映画で何を見せてやりたいのか、だと思うよ。
「黒人が出てこない」なんて言われることもあった。ランド・カルリジアン(演:ビリー・ディー・ウィリアムズ)は重要な役だし、複雑な人物じゃないのか? 新三部作のサミュエル・L・ジャクソン(メイス・ウィンドゥ役)は最高位のジェダイで、紫のライトセーバーを使う人物だ。人種差別的だなんて意見も出るが、『スター・ウォーズ』の世界ではみんなイコールな存在なんだよ。
人間もエイリアンも、どこの星の住人だろうと部族だろうと、みんな同じ存在であることが大事なんだ。どこから来ようと、どんな見かけをしていようと、みんな同じ生命なのさ。子供たちにも、そこのところをわかってほしいと思っている。それから「女性が描けていない」とも言われるけれど、じゃあレイアはどうなんだと言いたいね。彼女は反乱軍のリーダーであり、誰よりも賢く、勇気があって実行力もある。オール・ウーマン・キル・エブリバディ、ということなんだ。
――『スター・ウォーズ』の公開された時代はフェミニズムが進んでいく時代でもあった。アメリカの70年代フェミニズムでは、男女平等の行き着く先は「オール・ウーマン・キル・エブリバディ」であったかもしれない。ここにはちょっと違和感を感じたが、レイア姫は戦争下の兵士でもある。引き金を引くのに躊躇してはいられない。
「黒澤は天才だ。だから新作をコッポラとプロデュースすることにした」
――ディディエは聞く。「『スター・ウォーズ』のない世界は想像できますか?」。ルーカスはこう答える。
もう、ほとんど来ているね。67歳になったときに考えたんだ。これから先、79歳になっても『スター・ウォーズ』を作っていくのか? と。それで、手放す時が来たと思った。新しい暮らしをしよう、とね。アイデアはまだまだあったよ。でも、あきらめることにした。
――2012年、ルーカスは<ルーカス・フィルム>をディズニーに売却した。
『帝国の逆襲』が終わったあたりから、他に何をしたいか考えるようになって、“才能のある人を助けたい”と思った。今ならそれができる、ってね。
そんな時、黒澤明が時代劇を作りたがっていると知った。黒澤は天才だ。でもスタジオはやりたがらない。馬がたくさん出るので金がかかるから、って言うんだ。それはおかしい。絶対に作られるべきだと思った。それでフランシスとプロデュースをすることにした。配給権を、日本国内は日本で持ち、海外のセールを僕らが持つという条件でね。それが『影武者』(1980年)だ。
――他にもポール・シュレイダーの『MISHIMA』(1985年)、ハスケル・ウェクスラーの『ラティノ』(1985年)、ジム・ヘンソンの『ラビリンス/魔王の迷宮』(1986年)などなど、ルーカスがエグゼクティブ・プロデューサーとして制作を支援した作家や作品は数多い。
僕はね、映画を作りたいんだ。金儲けをしたいんじゃない。それはずっと変わらない。才能があって、映画を作りたがっている人がいれば、作ればいい、僕が助けるよ、ということだ。どこから来ようと関係ない。僕たちの仲間、同時期に学生で映画を作りたがっていて、お互いによく知っている仲間たち、フランシス、マーティン・スコセッシ、スピルバーグはみんなそう思っていると思う。
共通しているのは、“自分が好きだから作る”というところだね。プレビュー(※反応を測るための事前試写)とかフォーカス・グループ(※情報収集のための少数顧客グループ)とか、マーケティングがリードするようなシステムは嫌いだ。そんなもので本当に観客が求めているものなんてわからないよ。『スター・ウォーズ』がそれを証明している。インベストメント(※投資、株式購入)なんてしちゃいけない。無駄だよ。
こういうことを言うと、スタジオの人間は「君たちはわかっちゃいない」と言うけれど、フランシスをごらんよ、また作っているじゃないか(笑)。好きなものを、作りたいから、作る。そのパッションが大事なんだ。
――満場の観客の拍手と歓声、口笛が、ドビュッシー劇場に響き渡る。永遠の映画少年ルーカスをたたえて。この観客の中からルーカスやコッポラ、スピルバーグやスコセッシに続く映画作家が誕生していくに違いない。
取材・文・撮影:まつかわゆま