着物を着て摂田屋のまち歩きを楽しむ「きものレンタル 楓花」。
「醸造のまち」として近年盛り上がりを見せている長岡市摂田屋。その摂田屋で、和装の魅力に触れてもらうきっかけを作ろうと、着物のレンタル店がオープンしました。色鮮やかな着物を身にまとって、摂田屋散策を楽しむことができます。こちらの「きものレンタル 楓花(ふうか)」をオープンしたのが、長岡市で長年着物レンタル店を営んできた「株式会社 縁enishi」代表の鳥島さん。今回は鳥島さんと、新店舗の店長である星野さんにもお話を聞いてきました。
株式会社 縁enishi
鳥島 悦子 Etsuko Torishima
長岡市生まれ。美容師としてサロンに勤めた後、退職。2006年、長岡市で着物店「縁 -enishi-」をオープン。今年5月に摂田屋で「きものレンタル 楓花」を立ち上げる。
きものレンタル 楓花
星野 幸 Sachi Hoshino
長岡市生まれ。ブライダルをメインに、着付けやヘアメイクの仕事を経験。今年5月より「きものレンタル 楓花」の店長を任される。
念願叶って実現した、摂田屋への出店。
――まずは摂田屋で着物レンタル店をはじめられた経緯を教えてください。
鳥島さん:私は「縁 -enishi-」というハレの日のレンタル着物のお店を経営しているんですけども、ハレの日ではない、日常や観光で着物を楽しんでいただくことに目を向けました。それならこの摂田屋地域が、長岡の中ではいちばん着物が似合う町だなと思ったんですね。「縁 -enishi-」を立ち上げた当初から、ここで気軽に着物を着てまち歩きができるような文化を作りたいなと考えていました。
――構想自体は以前からあったんですね。
鳥島さん:星野さんとの出会いが実現するきっかけになったんです。彼女とは昔からお付き合いがあったんですけども、お会いしたときに「いつか摂田屋で着物をレンタルする場所ができたらいいな」なんて話をしたんです。そしたら、彼女の実家がこの建物のすぐ隣なんですけど「うちの隣が空いていますよ」と。
――それでこの物件に出会ったと。
鳥島さん:しかも彼女は着付けもヘアセットもできるっていう素敵な技術を持っている方だったので、「店長さんをやってもらえないかしら」とお話をしました。それから数ヶ月のうちに話がまとまって、5月にオープンすることができたんです。
――星野さんは前職でも着物に関係するお仕事をされていたんですか?
星野さん:ブライダルをメインに、着付けとかヘアセットのお仕事をしていました。ここの隣の味噌屋が実家なので、私にとって摂田屋は小さい頃からすごく当たり前にある町だったんです。でも近年注目してくださる方がたくさんいて、「日本の文化って素晴らしいな」という気持ちが自分の中にもあって。
――地元が注目されたことをきっかけに、日本文化の魅力に気づいたんですね。
星野さん:ヘアメイクの仕事でも「その人が持っている美しさ」がすごく大事だなって思っていたんですね。「誰かみたいになるメイク」っていうよりも「その方が本来持っている美しさに気づいてもらえるメイク」が好きで。日本人としてのルーツとか着物の美しさとかは、たぶん皆さんの中にあると思うんです。それをこの土地で呼び覚ますようなお仕事をさせていただけるっていうことに、すごくときめいて。いろんな方が着物を手にしてくださったら嬉しいなって思っています。
日本文化の魅力に気づいてもらうきっかけになりたい。
――着物を着てまち歩きを楽しんでもらうことで、「着物を好きになってもらいたいな」という思いがあるんでしょうか?
鳥島さん:そうですね。着物の仕事をはじめてから日本文化の奥深さとか、体感したことが多くあるんです。「日本人で良かったな」とか、そういうことに気づくきっかけになると思いますし、当店で用意しているものはステップとして入りやすい着物ですので、そこで「素敵だな」と感じていただけたら、さらに深堀りして素敵な世界に入っていただきたいですね。
――着物でいう「入りやすさ」ってどういうことなんでしょう?
鳥島さん:例えば、星野さんが着ている着物の下に白い襟が見えるじゃないですか。私が来ているのは「襦袢」っていうものなんですけど、彼女が着ているものはそれを簡略化した「Tシャツ襦袢」っていうものなんです。Tシャツに襟が付いているので、スポンと被るだけでいいんです。
星野さん:通常の着物だと着付けに30分くらいかかるんですけど、このTシャツ襦袢だと10分くらいで着られてしまうんです。
――へ〜! そんなに時間短縮されるんですね。
鳥島さん:時間的にも手数的にも、こんなに簡単に着物が着られるっていうことを体験していただけたら、着物を好きになってもらえるかもしれないなって思っています。
――そもそも鳥島さんはどうして着物を好きになったんですか?
鳥島さん:もともと美容師だったんですよ。サロン勤めをしていたんですけど辞めて、「これからの人生で何をしていこうかな」って考えたときに、美容に関係する仕事をしたいっていうことと、着付けをもう一度習い直そうと思ったんです。それで出会った着付けの先生が、とても自由な目線を持っている方で。型にとらわれない着方をいろいろ教えてくださったんです。
――その先生との出会いが、着物にハマるきっかけになったと。
鳥島さん:その中で「アンティーク着物」っていうものを知りました。リサイクル着物ショップに行って初めて見たときに、デザインとか形がすごく美しくて、すごく感激しちゃって。着るものなのに芸術的要素がすごく強くて、アートだなって思いました。そこから収集がはじまったんです(笑)
――収集ですか(笑)
鳥島さん:部屋中着物だらけになっていって、これはもう着物屋をやるしかないと思って、美容の技術を生かしながら着物の販売をはじめました。そこから、着物のニーズがあるのは結婚式のお呼ばれのときとか、そういうハレの日のだろうと思ってレンタルにシフトしました。オープンしたのが2006年なので、18年経ちます。
ふたりが思う、語りきれない着物の魅力。
――鳥島さんが思う、着物の魅力ってどんなところですか?
鳥島さん:それ、聞きますか。めっちゃありますよ(笑)。ひとつは実用的な面で、許容量がすごく広いんです。ドレスだとサイズが合わないと詰めたり、デリケートに調整するんですけど、着物の場合は「あなたも、あなたも受け入れますよ」っていう許容量がすごくって。
――なるほど。
鳥島さん:例えば、星野さんは身長が150cmちょっとですけど、「おはしょり」っていうものを作って丈を上げ下げできるので、同じ着物を165cmくらいの人や、LLサイズぐらいの人でも着ていただけるんですよ。
――確かに、サイズを気にせず選べるのは魅力のひとつですよね。
鳥島さん:あとは母親の着物を受け継いで「腕の部分がちょっと短いな」となったら、一度ほどいて縫い直しをすることもできますし、フレキシブルに形を変えて受け継いでいけるところがすごくエコですね。「SDGs」と盛んにいわれていますけど、「日本人はそういうことを大昔からしているんだよ」ということが着物に現れているんです。
――星野さんは着物のどんなところが魅力だと思いますか?
星野さん:ひとことで言うと、着物は日本女性の美しさをすごく表現してくれているんですよ。若いときって何を着てもかわいいじゃないですか。でも年齢を重ねた美しさもあると思っていて。人生とか、内側から醸し出すものが、その方の魅力になると思うんです。
――若いときとはまた違った美しさがありますよね。
星野さん:そういう歳の重ね方をした方が着物を着たときの美しさって、すごく放つものがあるんじゃないかなと。気品の高さだったり、立ち居振る舞いだったり、着物を着ることで、その人自身がより美しくいられるような気がします。そういう美しさを引き出してくれて、年齢を重ねてより輝けるって、なかなか洋服にはできないことですよね。
――着物を着て参加するイベントも企画中だそうですね。
鳥島さん:「和食のマナーを学ぶランチ会」を7月に開催する予定です。この町の活性化という意味合いも込めて摂田屋の「割烹 新喜屋」さんで開催します。着物を着て、ただのマナーだけじゃなくて、マナーの中に含まれている日本文化も一緒に学んでいくという会です。今後も「着物を着て体験したい」という方に来ていただけるように、和に関する体験型のイベントを続けていこうと思っています。
きものレンタル 楓花
長岡市摂田屋4丁目5番12号 明星館2階
TEL:080-32417868