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UP-BEATの音楽的変遷を辿るシングルコレクション、ゴスからゴスペルまで?

Re:minder

2022年04月27日 UP-BEATの『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』がリリースされた日

ビートロックでもビジュアル系でもないUP-BEATの独自性


華麗なルックスとファッションでBOØWYのような “ビートロック” を奏で、のちの “ビジュアル系” バンドからも多大なリスペクトを寄せられるバンド―― それがUP-BEATに対する、一般の最大公約数的なイメージかもしれない。

しかし最新リリースのシングルコレクション『BEAT-UP ~UP-BEAT Complete Singles~』の宣伝文句には、「ビートロックやビジュアル系といった狭義のカテゴライズを越えた孤高の輝き」とある。概念先行ではなく、“あくまでこのバンド自体を見よ” と注意を促しているのだ。

“ビートロック” と “ビジュアル系” の二語が、UP-BEATの独自性を見えづらいものにしてしまった感は否めない。今回このシングルコレクションを繰り返し聴く中で、このバンドにしかない “独自性” というものを確かに感じた。クロノロジカルに並べられたシングルはディスク計3枚に及び、1986年のデビューから95年の解散までのバンドの音楽的変遷を把握するうえで資料的価値も高い。とはいえ、そうしたお勉強的側面や余計な先入観を交えず、直感的にググっときた幾つかの楽曲を紹介していきたい。

「Vanity -Brand New-」MVに観る撃的なゴス美学


ディスク1を聴いてまず気に入ったのは「Vanity -Brand New-」だ。ポリスの疾走感のあるレゲエパンクを咀嚼したと思しき曲で、死とエロスの狭間で揺れる翳のある女の魅力を歌っている。

この中の「君の作り笑顔は 絶望的に綺麗だね」という名文句にズバッと射貫かれてしまった。「絶望的」にアクセントを置く歌い方も絶妙で、かつ「Vanity(虚無)」というタイトルもあいまってポリスにはない、耽美的なゴスロックにまで昇華されている。

… と勝手に思っていたら、この曲のMVがゴスの暗黒美学を体現した超大傑作で、僕の直観を裏付けるものだった(『BEAT-UP』リリースに合わせてVictor EntertainmentがYouTubeに公式にアップしている)。

MVの内容はこうである。怪しげな色彩を発する真っ暗で静寂に包まれた水面、画面前方の右手にはピントのぼやけた人物の姿が映る。次第に焦点が合いはじめ、そこには顔面蒼白で首を傾げた、死体か機械のように動きのないボーカル広石武彦が映る。彼は道化師のようにゆるやかな(しかしモード的に洗練された)シルエットの暗緑色のシャツを纏い、マリオネットが暗黒舞踏を舞うような、何とも言えない不気味な動きをする。ゾクッとする反面、目を離せない魅力がある。そして彼を取り囲むように、各々異なる方向を向いたバンドメンバーたちが、超現実的なまでに不動のポーズで水面に浮遊するように佇立している。立石の肘をガクッと操り人形のように落とす動きなど、デヴィッド・ボウイのパントマイムやピーター・マーフィーのパフォーマンスを参照したものかもしれない。とはいえ、これは単なる模倣の域を超えている。広石がロックスターでなかったらコンテンポラリー・ダンサーとして名を成したかもしれないと思う程、その優雅でグロテスクな表現力に僕は圧倒された。

ディスク1でもう一曲特筆すべきは「Prisoner of Love」である。高速で弾かれるアコースティックギターと天上的な音色のキーボードのマリアージュは、キュアーの名曲「Just Like Heaven」を彷彿とさせる。見事に換骨奪胎したものだ… と思ったら、UP-BEATのリリースの方が「Just Like Heaven」より8か月も早いのだ。キュアーを越えた!?

ゴスペルやブラックミュージックを感じさせるUP-BEATの幅広い音楽性


さて、UP-BEATの歴史をざっくり二つに区切るならば、それは東川真二(ギター)と水江慎一郎(ベース)が脱退した時点であろう。

アルバムで言えば『Weeds&Flowers』がメンバー脱退後に初めて作られた作品で、このあたりからストーンズ風の粘っこいロック(「Dance to the Ruin」)や、もろにカントリーブルースの曲(「And I Wish You Happiness」)が如実に出て来る。

ほぼすべての曲の作詞作曲を手がける広石に、黒人音楽のフレイヴァーが滲み出て来るのだ。“ビートロック” の代表としてシャープなイメージをもち、“ビジュアル系” の元祖に括られもした耽美的なUP-BEATが、土臭いロックをやりはじめた。

その意味でディスク3は興味深い。M2「So Good So Bad」はレイドバックしたダブレゲエになっていて、(クラッシュ経由かもしれないが)ジャマイカ黒人発祥の音楽にこのバンドは向うことになった。

そして極めつけはアルバム初収録になった、ディスク3の最終トラック「Glory Days~天使の棲む街~」である。これがストーンズ「無情の世界」をよりポップに近づけたような、ゴスペルコーラスがふんだんに入った名曲なのである。すべてを総括するのはこの曲しかありえない、という包容力がある。

もしUP-BEATが解散しないで続いたら、ゴスペルからさらに遡って黒人音楽の起源とされる奴隷制時代の霊歌(スピリチュアル)まで向かっただろうかなどと、より“黒い” バンドになった姿も妄想してしまう。

改めて、UP-BEATは “ビートロック” や “ビジュアル系” の範疇には収まらない、幅広い音楽性をもつバンドだったことがこのシングル集から分った。国民的バンドBOØWYと比較され、その陰に隠れがちだったかもしれないが、今こそ確かな実力と影響力をもつこのバンドの “独自性” を再評価する機運が高まっている。

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