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デヴィッド・ボウイの魅力って? ロキシー・ミュージックとは違うダンディズムの美学

Re:minder

1970年11月04日 デヴィッド・ボウイのアルバム「世界を売った男」発売日

ニルヴァーナがカバーした「世界を売った男」


私のデヴィッド・ボウイ初体験は中学時代。当時『アメリカン・イディオット』(2004)で大々的に復活を遂げたグリーン・デイに心酔していた頃、彼らが事あるごとに「大嫌いだ」とインタビュー等で叩いていたニルヴァーナのアルバム『MTV Unplugged In New York』(1994)に収録された「世界を売った男」のカバーだった。

無論当時はそれを彼らのオリジナルだと思い込んで聴いていたわけで、デヴィッド・ボウイに関してはその名前も耳にしたことがあるかないかレベル。しかしグリーン・デイみたいな、能天気な(ふりした)ポップなパンクを好む子供の感性にとって、ひたすら陰気で怖くて絶望的としか思えないニルヴァーナの楽曲が並ぶ中、この「世界を売った男」だけがかろうじて一筋の光明を照らしてくれていた。かつタイトルも意味ありげでカッコ良かったので、アルバムでこの曲だけをリピートして聴きまくっていた記憶がある。

その後しばらくして「世界を売った男」がニルヴァーナの曲ではないことを知りショックを受け(同じ境遇のファンは多かったようだ)、ではオリジナルはどんなものかと1970年にリリースされたアルバム『世界を売った男』を聴いてはみたものの、カート・コバーンとはまるで違った、淡々とシュールに歌うボウイの声にちょっと拍子抜けしたのだった。

ジャケットに映るスカート姿のデヴィッド・ボウイ


アルバム全体を聴いてもピンと来ず、正直あまりそのスゴさが分からなかったのだが、子供心に強烈なインパクトを受けたのが、アルバムジャケットに映るスカート姿のボウイであった。

自分の音楽的感性に疑問を持ち始め挫折しかけていた私を、いや、きっと自分にとってのボウイにハマるポイントがどこかにあるはずだ、と、ボウイ探究へのモチベーションを保たせてくれたのがあのスカート姿だったのだと思う。その中性的な妖しさは、しばらく忘れられなかった。

別に彼がいかに偉大なアーティストかなんて、ライナーノーツを読んだりネットで調べればわかる話なのだが、ボウイレベルに影響力のある人となれば、やはり自分なりの答えを見つけて腑に落としたかったのである。

そしてその答えは、私が80年代ニューウェイヴに目覚めたタイミングに、その源流を辿る形でやっと訪れたのだった。女装したボーイ・ジョージやヴァンパイアさながらのメイクのピーター・マーフィー、フリフリした衣装のデュラン・デュラン、そして顔面をまるでキャンバスのように見立てて自在に絵を描く、ヴィサージのスティーヴ・ストレンジ…。後追い世代の自分から見ても、彼らがデヴィッド・ボウイの影響下にあることは明白だった。

奇抜さと退廃と浪漫を孕んだ “ダンディズム”


ニューウェイヴと言ったら(ニューロマンティックはもちろん、ゴスにしろポストパンクにしろ)タイプは違っても必ずある共通項、それは美学とも言える “ダンディズム” である。

そのニューウェイヴがおこる約10年も前のパンクロック以前、いわゆるグラムロック勃興期にリリースされた『世界を売った男』のジャケットのスカート姿には、すでにその後のニューウェイヴを予見するかのような、奇抜さと退廃と浪漫を孕んだ “ダンディズム” があったのだ。

そして、ボウイと並びニューウェイヴ連中の “ダンディズム美学” の礎となったアーティストがロキシー・ミュージックだ。『世界を売った男』の2年後、デビュー作『ロキシー・ミュージック』(1972)はそのサウンドからしてロックンロール、カントリー、ブルース等に妙なシンセサイザーを効かせた奇天烈かつ時に騒々しい音を鳴らしている。

重要なのがそのド派手なヴィジュアル。そして今なおダンディの形容詞と呼ばれるヴォーカル、ブライアン・フェリー。おそらく “伊達男” という意味でのわかりやすいダンディズムを体現している男なのだが、彼はボウイのそれとは全く異なった美学だと言える。フェリーのパフォーマンスは一貫して自己陶酔。その彼にしかできない突き抜け方が最高にかっこいいのだが、あのネチっこい歌声やクネクネした動きからして、完璧に見るものを引き込むカリスマティックなボウイに対してヌケ感が否めないフェリーに愛着を感じてしまうのは、きっと私だけではないはずだ。

ダンディズム、という概念を辿ると、それはヴィジュアル的アプローチの優雅さや麗しさに限ったものでなく、元はフランスにおいて芸術的思想、運動といったアティチュードを指していたものなのである。それは保守的な社会へのアンチテーゼであり、個人主義を先進的と捉え、敢えて風変わりで奇抜であることで創造性を推し進めようというのが、本来の “ダンディズム” だったのである。

美の提唱者として変身を続けたデヴィッド・ボウイ


“美に溺れ、美を貫く” ブライアン・フェリーと、新たな “美の提唱者” として変身を続けたデヴィッド・ボウイ。スタンスの全く異なる “ダンディズム” ではあるが、80年代当時にニューウェイヴを追いかけていたリアルタイムの人たちにとっても、“ダンディ” といえばこのフェリーとボウイの二台巨頭が認識されていたと思う。そしてそれはヴィジュアル面だけでなく、先に述べたような思想的観点はもちろん、ニューウェイヴのサウンド的起源としても、ボウイとロキシー・ミュージックがあったということは記しておきたい。

どちらに軍配をあげるつもりは毛頭ないが、こう考えるとボウイは真の意味での “ダンディズム” を生涯提示してくれたのだなと思う。元はシャイで人前に出るのが苦手なのを隠すために、その都度演じることを決めた “ジギー・スターダスト” や “シン・ホワイト・デューク” というキャラクターだったのだが、彼が登場する以前のロック界においては “音楽で勝負すること” こそがミュージシャンシップだったものを、コンセプトやパフォーミングアートを含めた、音楽性を超越したトータルの存在、スタイルそのものをロックとして提示するという革命を起こしてくれた。

デヴィッド・ボウイ以前と以後で音楽界は確実に変わったと思うし、その精神は脈々と受け継がれ、今日に生きている。これからもこういった彼の命日をはじめ、ことあるごとにボウイの “存在” というアート作品は語り継がれ、永遠に生きていくに違いない。

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