伊勢神宮と出雲大社は何が違う?神社建築の基本「平入り・妻入り」とは
神社を参拝する際、皆さんはどのようなことに注意して参拝しているだろうか。
もちろん最も大切なことは、神さまに真摯な思いで願いを伝えることだ。
神社に関する書籍を執筆してきた筆者としては、その神社にどなたをお祀りしているか、このことをまず確かめてほしいと常々思っている。
神社の最も目立つところに立札(標柱)が立てられていることに気付くはずだ。
それを読めば、誰が、いつ、どのような由来でここに祀られているのかがわかる。
祭神には、『記紀』の神話に登場する神々をはじめ、歴代の天皇や皇后など実在の人物、さらには鏡や剣といった神宝が祀られることもある。
それらが単体のときもあれば、複数祀られているときもあるのだ。
それから参道を歩き、鳥居、神橋、楼門などを経て本殿へと向かう。
もし参道のどこかに社務所があれば、神職の方に神社について質問するのもよし、そこに置かれたパンフレットをいただくのもよい。
こうして祭神や神社の由来を知ったうえで神前へ進めば、参拝はより意義深いものとなるだろう。
そこで今度は、神さまをお祀りする社殿そのものにも目を向けてみたい。
神社ごとに異なる社殿の形には、それぞれ長い歴史と意味が込められているからだ。
本一冊あれば理解できる「平入り」と「妻入り」の違い
社殿の形を理解する前に、まず知っておきたい基本がある。
手元にある本なら何でもよいので、真ん中あたりを開いてみてほしい。
そのまま逆さにして置くと切妻造(きりづまづくり)の屋根型ができるのだ。
そのとき表紙の面を自分の手前に向けて置く。
この表紙が見えている側、つまり大棟と平行な面を「平(ひら)」という。
また、平側から建物に入るのを「平入り(ひらいり)」と呼ぶ。
そして、伏せた本の左右両端を見てみよう。
両端が三角の山形になっているのに気付くだろう。
この三角形になった端の部分が「妻(つま)」で、この妻の方から入るのを「妻入り(つまいり)」と呼ぶ。
つまり社殿の基本となる形式には「切妻造・平入り」と「切妻造・妻入り」の二種類があるのだ。
神社建築の原点「神明造」と「大社造」
ではここからは、「切妻造・平入り」と「切妻造・妻入り」の代表的社殿である「神明造(しんめいづくり)」と「大社造(たいしゃづくり)」を解説する。
神明造は「切妻造・平入り」、大社造は「切妻造・妻入り」を代表する形式である。
「神明造」は、伊勢神宮正殿を原型とする様式だ。
建物全体が直線的で、戸口は一つ、平面は桁行(けたゆき)三間、梁間(はりま)は二間が原型となる。
「大社造」は出雲大社(いずものおおやしろ)にはじまる最古の社殿形式の一つとされる。
なお、大阪の住吉大社本殿も切妻造・妻入りだが、こちらは住吉造と呼ばれる別の古い形式である。
「神明造」と「大社造」、この二つの様式は社殿形式としては非常に古く、仏教伝来以前の神殿建築の形を示すものといわれる。
流造・春日造・八幡造へ発展した社殿
次に「神明造」「大社造」から発展した社殿の形を解説しよう。
「流造(ながれづくり)」は、神明造のような切妻造・平入りの形式から発展したものとされる。
前面に流れる屋根が曲線形に長く伸びて、参拝者が礼拝する向拝(ごはい)となったものだ。
上賀茂神社、下鴨神社がこの代表例で国宝に指定されている。
両社の本殿は、ともに三間社流造の基本となるもの。
流造は全国の神社本殿で最も多く見られる形式とされる。
外国人も含め多くの参拝者でにぎわう伏見稲荷大社本殿は、正面が五間もある五間社流造で、宇治上神社本殿(国宝)は流造最古の遺構をいまに伝える。
「春日造(かすがつくり)」は、切妻造・妻入り側に向拝を設けた形だ。
この形式は藤原氏の氏神を祀った春日神社にみられ、京都の大原野神社にも春日大社とほぼ同形の社殿が四棟並ぶ。
「八幡造(はちまんづくり)」は、切妻造・平入りを二棟へ並行して前後に並べ、相の間で繋いだものだ。
その代表例は、石清水八幡宮の本殿(国宝)で、内殿と外殿を前後に並べた八幡造の社殿を横に三棟連ねている。
社殿の形式は、このほかにも数多く存在する。
八坂神社にみられる大規模な複雑な構成の「祇園造(ぎおんづくり)」、北野天満宮にみられる入母屋造の本殿と拝殿の間に石の間(相の間)を設けて繋ぐ「権現造(ごんげんづくり)」。
さらに日本最古級の神社の一つとされる、松尾大社(まつのおたいしゃ)正殿は、正面三間、側面四間、両流造の松尾造(まつのおづくり)で知られる。
神社を訪れると、多くの人はご利益に目を向けがちだ。
しかし、社殿の形にも古代から受け継がれた信仰や建築技術の歴史が刻まれている。
次に神社を参拝するときは、ぜひ社殿の形にも注目してみてほしい。
日本人が神さまと向き合ってきた、確かな息づかいを感じられるだろう。
※参考文献
高野晃彰著 『全国一の宮巡拝パーフェクトガイド』メイツユニバーサルコンテンツ
文 / 高野晃彰 校正 / 草の実堂編集部