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福岡から電車で20分。まるでフランスの田舎町へトリップしたようなノスタルジックなフランス料理店【筑紫野市】

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福岡 筑紫野市 ビストロ KIFF

福岡の中心部から電車に揺られて約20分。朝倉街道駅を降り、夕食の買い物や家路を急ぐ街の人をすり抜けて、私は一軒のレストランへやって来ました。県道から小道へ入ると辺りはぐんと静かで、黄昏時の空と空気は澄んでいます。

「築60年の物置となっていた古い納屋を改装してレストランにしようと思います」。
そんなインスタグラムの投稿を半年ほど前に見つけてオープンを心待ちにしていたこともあり、入店前からドキドキワクワクが止まりません。漆喰の壁に温もりのある木の扉を見つけたら早速中へ。ここが今回の目的地、今年の11月4日にオープンしたフランス郷土料理とナチュラルワインの店「KIFF」です。

静かに扉を開くと、オーナーシェフの戸田朋典さんが笑顔で迎えてくれました。「KIFF」は2つの楽しみ方ができるお店です。ベンチや小テーブルを据えるエントランスと厨房に面したスタンディングのカウンター(写真)は15時から開店する「KIFF STAND」のスペース。予約なしでフラッと立ち寄り、小皿料理とナチュラルワインを気軽に楽しめます。

そしてさらに奥、古く大きな木の扉の先がディナーメニューを味わえるレストラン「KIFF」のスペースです。「ここは元々、実家の納屋でした。元大工の父と僕、そして友人にも手伝ってもらい約1年をかけて改装したんです」と戸田さん。むき出しのコンクリートの壁は無骨で、あらわになった梁や使い込まれた棚、餅つきで使っていた木箱をリメイクしたというテーブルには優しいぬくもりが宿ります。まるでフランスの田舎町にやって来たかのようで、“ここだけ時間がゆっくりと流れている”、そんな錯覚と不思議な安らぎを覚えました。

また、レストランスペースは完全予約制です。「ゆったりくつろいでほしい」との配慮から、1組ずつ入店時間(17時〜・18時〜・19時〜・20時〜)を区切っての案内となっています。加えて1人2杯以上のドリンクオーダーが原則で、ノンアルコールの場合は別途1人1000円のチャージが必要。電話またはインスタグラムのDMから予約して出かけてくださいね。

戸田さんは大学を卒業して会社員になるも、職人の世界やモノ作りへの憧れが捨てきれず、24歳で唐津市にある燻製専門店「燻や」へ転職。営業や製造に携わりながら、“独立して店を出す”という目標を掲げていました。しかし、個人で設備を整え、食肉製品の製造許可を取るには想像以上に高いハードルが……。そう悩んでいた時に出合ったのが、東京にある豚肉料理を主体としたフランス料理店「LAUBURU(ローブリュー)」の櫻井信一郎シェフによる本「レストランのシャルキュトリー」でした。

「 “30歳を目前に、この年でフランス料理の世界へ飛び込むなんて”と、最後まで躊躇しましたね。でも、どうしても櫻井シェフの元で学びたいと決意して手紙を出し、直接レストランにも伺って働かせて欲しいとお願いしました。もちろん最初は断られましたが、約1年後に様々なタイミングが重なり奇跡的に働かせてもらえることになったんです。料理未経験の素人が東京の星付き店の厨房に入れるなんて今思えば信じられませんが、そこから8年間、一から基礎をみっちりと体に叩き込みました」と修業時代を振り返ります。黒板メニューには、戸田さんが愛する「LAUBURU」で学んだ料理、フランスの郷土料理がズラリと並んでいました。

独立準備中は福岡市・赤坂の「ル・ルビー」でワインを学び、嘉穂郡桂川町の有機農家「合鴨家族 古野農場」で農作業の手伝いもしていたそう。繋がった縁を元に仕入れる食材や自家栽培の野菜でメニューを組み立て、修業時代から買い貯めてきたというナチュラルワインが料理の味を引き立てます。

まずいただいたのは「惣菜野菜の盛合わせ」(1200円)。古野農場のニンジンを使ったラペ、古処鶏のガラスープで炊いたレンズ豆、静岡直送の生マッシュルームのマリネ、フランス産の根セロリには自家製のマヨネーズソースを和え、旬のカリフラワーにはシブレットやディルが香るクリームソースを和えてあります。素朴ながらも食材の力強さが感じられ、ビネグレットの酸味やハーブ、エシャロットの香りといったフランス料理らしいアクセントがたまりません。

続いては、フランス港町の郷土料理「スープドポワソン」(1800円)をオーダー。根魚を中心にした鮮魚を血抜きして、一晩水気を抜いて香味野菜と共に炒め、煮込んで濾して……と約2日間かけて仕込む自慢の逸品です。魚の香ばしさと凝縮された旨味、トマトやサフランの風味が口いっぱいに広がり、香りの余韻だけでワインが飲めそう。グリュイエールチーズとアイオリソース、クルトンを少し加えれば、ますますワインが進みます。

「LAUBURU」で働く前の数カ月間は、ドイツやフランスの地方を巡りシャルキュトリーを食べ歩いたという戸田さん。そこで、機械を使って作り込むドイツ式のソーセージより、店の個性が光るフランスの手作りソーセージが自分の目指している味だと気付いたそうです。この「アンドゥイエット」(1800円)は、そんな戸田さんの思い入れや経験が詰まったメイン料理。モツを使って作るフランスの伝統的な粗粒ソーセージで、福岡ではなかなか出合えないマニアックな逸品ですよ。

丁寧に洗浄し下処理した新鮮な豚の直腸の中には、スパイスで味付けした豚の胃袋や大腸、タマネギなどがぎっしりと。幻の豚といわれるメイシャントンのラードでじわじわと焼き上げており、表面はガリッと香ばしく、中はジュワッとジューシーです。好き嫌いの分かれる料理でもありますが、内臓系の料理やクセのある料理が好きな人にとっては垂涎もの! このワイルドな香りと食感、旨味を知ってしまったら、もう後戻りはできないかもしれません。

「お店に入ると、その国の料理だけでなく、雰囲気、文化も丸ごと味わえる。そんな、タイ料理や中華料理のような立ち位置のフレンチ食堂でありたいです」と戸田さんは笑顔で話します。ちなみに「KIFF」という店名は、好きや楽しむといった意味を持つフランス語のスラングに由来するそう。戸田さんの好きが詰まった、かしこまらない居心地の良い空間にぴったりの名前だと思いました。
完全に日が暮れると、店内と外観はますますノスタルジックな雰囲気に。どこか幻想的な景色と、舌や心に残る温かな余韻は、帰り道もしばらく醒めることがありませんでした。

KIFF(キフ)
筑紫野市針摺中央2-6-51
092-600-4086 ※レストランスペースは完全予約制

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