「犬だけは置いていけない」“老老飼育”の飼い主に頼ってほしい…最期のときに誓うこと
人も犬も長寿になる中広がる、"老々飼育”。
「『ごめんね、ごめんね』と泣きながら老いた愛犬を託す、高齢の飼い主もいる」と『逢犬はうす』を運営する宮西雅子さんが前回の記事で教えてくれました。
飼い主たちに頼ってほしいからこそ
札幌で年老いた犬たちを預かる団体『逢犬はうす』では宮西雅子さんを含め、スタッフは4人。
ほかにボランティアも加わり、10人ほどで犬たちのケアにあたっています。
おむつを替え、薬も飲ませ…預かっている犬の体調や好みに合わせて、食事を用意します。
「玄米のおじやはすごく喜ぶ…かつお節だから」
敷地内にあるドッグランは、活動をサポートするボランティアが作りました。
預かり料金は1日2800円。
病院代や薬代などは実費ですが、飼い主の負担を減らしたいと、宮西さんは、相場より料金を抑えています。
2016年の立ち上げ以来、値上げはしていません。
ただスタッフの人件費などを考えると、ほぼ利益は残らない運営です。
「預かりの料金が高いと、飼い主はしんどいって…。そうであれば費用を抑えて、できるだけ数多くの飼い主に頼ってほしいという考え」
平均寿命は倍に…「置いておけない」
「きのうウンチが出たが、ちょっと下痢も混ざっている。たまにちょっと血も混じっている。ちょっと食べるけれど」
朝から夕方まで預けるという飼い主が訪ねてきました。
抱きかかえてきた愛犬は、まもなく16歳になるバニラちゃん。
身体を動かすことも少なくなり、夜鳴きが続くなど、認知症の兆しも顕著です。
このため、24時間目を離すことができず、仕事で留守にする間の愛犬が心配で、ここを頼っています。
「『逢犬はうす』の存在は助かります、ないと困る。置いておけないから犬だけでは…」
日本ペットフード教会の調べでは、飼い犬の平均寿命は14.9歳。
1980年代の倍近くになったとのデータもあります。
飼い主の病気や入院、施設への入所など。
犬の長寿化が、不幸な飼育放棄につながるケースが少なくありません。
取材のあと、“虹の橋”へ
取材をさせてくれた、16歳のバニラちゃんは、今日ドキッ!の特集の放送日、10月8日に“虹の橋”を渡りました。
取材をしたHBC・熊谷七海記者は家族からこう聞いたといいます。
「亡くなった寂しさはあるものの、十分、バニラちゃんのためにしてあげられたと自信を持って見送ることができた」
頼る場所があること…それが、最期のときを迎える犬たちへの愛情でもあり、送り出す飼い主たちの救いにもなっています。
互いに老いていく中で…
年老いた犬を抱えながら、飼い主自身も高齢となり、以前と同じような暮らしが困難になっていく“老々飼育”―。
この問題の解決にあたる人物は、愛犬を飼い切るためには、信頼できる第三者が欠かせないと話します。
NPO法人ホッカイドウ・アニマル・ロー代表理事の今井真由美さんは 「いまの時代は、やはり第三者の関与が、とても大切かなと思う」と話します。
「おひとりさま、単身世帯が多いからこそ、分かち合える人、安心できる関係、共倒れにならないためにも、信頼できる第三者に託したりお願いすることは、ペットの生涯を守るとともに、ご自身を守ることにもなります」
高齢者にとって、愛犬は心を癒やす家族。
しかし、互いに老いていくなかで、その命を支えきれなくなる現実があります。
旅立ちのときに、約束すること
札幌・北区に『逢犬はうす』を立ち上げて、まもなく10年。
宮西雅子さんは、これまでに500頭の年老いた犬たちを看取りました。
宮西さんは、預かっている犬が旅立つとき、こんな約束をします。
「最期を迎えた犬たちには“また会おうね”…と伝えるけれど、また“そういう子を助けるよ”って声をかけて」
居場所を失ってしまう犬たちを救いたい…この思いが、宮西さんの原動力です。
老々飼育のための「あるプラン」
『逢犬はうす』では、季節ごとにイベントを開催しています。
活動のための資金を集めたり、愛犬との思い出や介護の話をしたりするなど、交流の場を設けています。
出店する10店舗の収益の1割に加え、バザーの売り上げのすべてが、犬たちの医療費に充てられます。
愛犬を託した飼い主がその後亡くなってしまい、犬だけが残されるなどした場合にも使われます。
イベント会場には、宮西さんらの支えで、愛犬を看取った人たちの姿もありました。
利用していた飼い主からは、感謝の言葉が溢れます。
「2年9か月預かってもらい、19歳8か月までがんばってくれた。宮西さんとスタッフのおかげです」
「自分の手から離してしまうときって、罪悪感があると思うんですけれど“そんなに頑張らなくても大丈夫だよ”って、宮西さんから言っていただいて」
「看てもらって、助かりました」
宮西雅子さんは 「あのときねぇ…思い出して、すぐ涙ぐむから」と声が詰まります。
宮西さんはいま、老々飼育の現実と向き合うために、あるプランを練っています。
「実は、飼い主さんも一緒に住める保護施設を作れればいいなと思っていて。そうしたら、泣きの涙で愛犬を置くことはなくなる。いま、そのための事業計画をコツコツと作ってる最中。来年には作りたい」
飼い主と愛犬が、共に歳を重ねる時代。
宮西雅子さんは、老いの先にある、新しい“終の棲家”を作ろうと活動を続けています。
飼い主にできること
最後まで”飼い切る責任”はもちろん大切ですが、ペットが傍にいることで心が満たされたり、生きがいにつながったり…。
高齢化社会になって一層、動物たちの力が必要になっている側面もあるのではないでしょうか。
今回取材した『逢犬はうす』と同じような、いわゆる“老犬ホーム”と呼ばれる施設は少しずつ増えているといいます。
しかし、費用面から利用が難しいことも考えられます。
そうした場合、動物を託することができる相手を見つけておくこと。
また、愛犬がどんな性格で、ワクチンを接種しているかなどを記した、「ペットのエンディングノート」も用意しておくことが大切です。
家族や友人、老犬ホーム。
大事な愛犬を託せる先を見つけておくことも、最後まで飼い切るという、飼い主の愛情と責任ではないでしょうか。
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年10月8日)の情報に基づきます。