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柚希礼音と安蘭けいが対談~宝塚歌劇時代の縁深い二人が、ミュージカル『ビリー・エリオット』でWキャスト競演

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(左から)安蘭けい 柚希礼音

1980年代のサッチャー政権下、不況にあえぐイギリスの炭鉱町を舞台に、バレエに生きる道を見出す少年を主人公に描くミュージカル『ビリー・エリオット』。エルトン・ジョンの音楽を得て、映画版からミュージカル版へと展開されたこの作品が3年ぶりに再演となった。ビリー少年を導くバレエ教師ウィルキンソン先生を初演に引き続き演じる柚希礼音と、再演で初めてこの役に扮する安蘭けいは、宝塚時代に縁の大変深かった間柄だ。二人に思いを聞いた(※このインタビューは8月下旬におこないました)。

(左から)安蘭けい 柚希礼音  (撮影)岩間辰徳



■「演じることって本当に自由なんだ」(柚希礼音)

――先日、柚希さんお一人に取材させていただいた際(https://spice.eplus.jp/articles/272802)、安蘭さんと同じ役を演じられますねとお聞きしたところ、ちょっと感極まっていらっしゃったのが印象的でした。

安蘭 感極まってたの?

柚希 感極まってましたね。とうこさん(安蘭)が星組のトップさんで、私が二番手だったころ、本当に必死で、テンパってましたから。今振り返れば、その当時、こうやって二人揃って取材を受けるみたいなときでも、話せなかったんですよ。自分の意見が全部間違ってるみたいな気がして、不安で。そういう時代があって、その当時、とうこさんに学んだことって、ホントに核心に迫ることばっかりで。そのことを、今でも、毎回の役作りの際、台本を読んで思い出すし。相手の話を聞いているときの芝居がいかに大切かとか。

安蘭 我ながらいいこと言ってたね(照れ笑い)。

柚希 そう、ホントすごい核心で。そんなことって、宝塚を辞めてからはなかなか言ってもらえないですし。「それでいいよ」って言ってるのが、一番みんな空気がいいわけで。でも、言われた相手が「言われた~」ってなることをわかっていながらも、核心を突いたことを言ってくださるということが、すごいことだったなと、年々改めて思うんです。自分がトップになったときも思ったし。いいよいいよって言っていれば終わるけれども、この子が舞台に立ってお客様から変だなと思われる前に言ってあげたいというのは、それは愛情ですから。そのとうこさんと同じ役を演じさせていただけるんだな…と。同じ役だからあんまり関わらないと思っていたけれども、けっこう稽古場でご一緒する機会があったり、とうこさんが演じてらっしゃるのを観る機会もあったり。それでまた、すごいなって。自分が思ってもみなかったような演技をされたりするので、すごく勉強になるなと、刺激を受けながら過ごしています。

安蘭 それは、ちえ(柚希)が下級生時代から、何もできないと自分で思っている中で抜擢とかされていたでしょう。それで、自分はまだ実力が伴っていないのにって、すごくもがいている姿を見てきたので。上級生が下級生に言うという、宝塚のシステムみたいなところがあるのかもしれないけれども。ちえはすごく不器用で、でも全然ひるまない。言ったことを果敢に、泣きながらも取り組んでいくし、吸収力もすごいから、私もその成長を楽しんで言っていたところもあると思う。私自身も責任を感じていたし。でも、ちえは決して変に受け取らないから。だから、言われた言葉を今でもそうやってちゃんと覚えていて。なんであんたに言われなきゃいけないのと思ったら、覚えてないから(笑)。素直に受け取るということは、ちえのすばらしい性格の表れだと思う。

柚希 それで、『THE SCARLET PIMPERNEL』のショーヴランを演じたときとか、本当に苦しんでるときはね、そっとしておいてくださって。海底にいた私が、ある程度海面に顔を出したくらいのとき、ようやく周りが見えたくらいになったら、そこで何をおっしゃるかというと、「合わせよか」なんですよ。「ちえ、あそこ何とかだよ」じゃない。きっといろいろ一人でもがいてやったんだろうから、それを合わせる? っておっしゃってくださる、それもすごいなと。こうした方がやりやすいんじゃないかって、一緒にやってみようって。私ね、ホントに下級生時代からとうこさんの話をよく覚えてるんですよ。『プラハの春』のときも、学生役が十人くらいいる場面で、それぞれ個性がないみたいに言われて、全員が、どういう過去があってどういう性格でみたいなことを考えて、リーダー役を演じていらっしゃるとうこさんに言いに行くということになって。それもとうこさんの発案で。

安蘭 個性を出すためにね。

安蘭けい  (撮影)岩間辰徳

柚希 それで、考えてますというつもりだった下級生、私も含め、とうこさんと話していて、すごく甘かったということも知るし、思いついたことを言ってみたらそこからどんどん深まっていくということもあるし。そういう機会をみんなに与えてくださる方なんですよ。今もきっと、さりげないところで、私に何かをパスしてくださったりしているんだろうと思うので。稽古の最初の方、絶対こうじゃなきゃいけないというところにいる私に、思いもよらないことを言ってくださって。演じることって本当に自由なんだなって、今回もいっぱい教えていただいていて、本当にありがたい機会だなと思います。

安蘭 私はこの作品をニューヨークで初めて観て、日本ではできないだろうなと思って。あまりにも子役のレベルが高すぎて、英才教育されていて、そこまでできる日本の子ってなかなかいないだろうなと。そう思っていたら、一年とか長い時間をかけて育てていくというシステムができると聞いて、日本でもミュージカルを作るときにそうやって取り組むようになったんだなと思って。日本版の初演を観たときに感動したし、ウィルキンソン先生も、ニューヨークで観たときよりもっと重要な役に思えて、やりたいなと。それで、再演のとき、オーディションの話が来て。私自身は、同じ役だったら、ちえにいろいろ聞けるしなと思った。ただ、上級生の私が入ることで、周りがどう思うかわからないし、ちえ自身もどう思うかわからないなという心配はあったけれども、そんなことより純粋に、この作品に関わりたいという意識の方が強くて。上級生に下級生が気を遣うのは当たり前なんですよ。でも、同じ役をやるということで変に気を遣ってほしくなかったから、今回の稽古場で初めてちえに会ったとき、「気を遣わないで」と言って。でも、そう言ったこと自体で気を遣わせたかなとか(笑)。

柚希 でも、何だかんだ言って、上級生の方がいつも気を遣ってくださいますよね。それは上級生になればなるほどわかることなんですけれども。下級生が上級生に気を遣って大変というイメージがあるかもしれないけれども、どう思い返しても上級生の方が気を遣っていて。今言うべきかな、今じゃないかなって何日間も考えて言ってくださったりとか。そういう気持ちを下級生は知らずに、批判されたとか思ったりするけれども、それってすごい愛情なんだなとだんだんわかっていって。稽古の最初の方でとうこさんが気を遣わないでねっておっしゃったことにも、絶対に気を遣わせてはいけないとより思い。

安蘭 やっぱり気を遣わせたかな(笑)。

柚希 (笑)そんなこと思わせないようにしないといけないなと。同じ役をさせていただくのはすごくありがたいことなんです。でも、私がとうこさん、とうこさんってしすぎたら、逆にとうこさんが居心地悪いから、私は私で初演のときからやっているということをちゃんと認識して、ちえからやりなさいと言われたら、「え、とうこさん先に」とか言わずにちゃんとやると。

安蘭 ウィルキンソン先生は、ビリーにすごく影響を与える人で、この物語の中で、主人公を除くと、お父さんと並んで大切な役かなと。ウィルキンソン先生がいないとビリーはバレエの道を歩めないわけで。先生が不器用ながらも愛情をもって育てていくという姿に、女性としてすごく共感できたんですよね。母性を感じるし、すごく魅力的だなと。

柚希 ウィルキンソン先生は、もともとはあまり愛情表現する人じゃないと思うんですよ。昔はすごく愛情豊かで人のこともすごく信頼して、誰かのことをすごく大切にして愛していたと思うんだけれども、きっと何かにすごい裏切られ方をしたか何かで、みんなに壁を作る人になったんじゃないかなと。でも、心の奥は愛情深い。そういう人がビリーに対する愛情が止められなくてどうしたらいいかわからないというのが、本当に素敵で。ウィルキンソン先生の人生、すべてが幸せじゃないですけれども、ダンナさんも浮気してリストラされてアル中になったりして、子供についても、この子を産んだから自分はバレエの第一線から退いたとに思っているだろうし。週に一回バレエを教えるのも、バレエ自体は大好きなままだけれども、習いに来ている子たちは、稽古中にパイを食べちゃったり、女の子はバレエで男の子はボクシングみたいな、よくある習い事の一つとしてしか考えていなかったりするわけで。そんな中で、ウィルキンソン先生は、ビリーに会って、生きる希望を見出したんだろうなと思いますね。ウィルキンソン先生が出ていない場面でも、袖にいて、今この瞬間、ウィルキンソン先生うれしいだろうなとか想像しているんです。このビリーの推薦状、一生懸命書いたんだろうなとか思って。ビリーの人生に本当に深く関わっていますよね。

柚希礼音  (撮影)岩間辰徳



■「夢をもつことの大切さを教えてくれる作品」(安蘭けい)

――お稽古場でのお互いの演技はいかがですか。

柚希 とうこさんのウィルキンソン先生はですねえ、もうリラックスしていて。

安蘭 緊張してんねん。(笑)この間、初めて一幕を通したとき、すごく緊張した。自分の中で(役としての)流れがまだできていなくて。でも、二回目で流れをつかめたから。

柚希 二回目でもうつかんだんですか。私、三年前にあれだけ公演したのに、まだなかなかリラックスできなくて。苦手なところとかできないところとか緊張しちゃうんですけれども、とうこさんに相談したらこういう風におっしゃるんだろうなとか考えて。

――ほとんど師匠ですね(笑)。

柚希 師匠です。心の師匠。違う作品でも、「あ、私また一つのセリフを一つの感情だけで聞いてた」と気づいて、「一つのセリフの中にいろいろな感情の気づきがあるんだ、これもとうこさんに教わったこと」って思ったり。人にも、「これはとうこさんに教わったことなんだけど」って言いますし。

安蘭 (笑)ちえの演技はまだダンス・ナンバーしか観られてないけど、初演のときはイケイケで、子供たちよりビリーより先生がロイヤル・バレエのオーディション行けばいいのにという感じで(笑)。そういう役作りだったんだと思うけれども、今回はちょっとすさんだ感じになったから、ちょっと大人の階段昇ったかなと。

柚希 昇りましたか。すごくうれしいです。

安蘭 絶対この三年間でいろいろな経験しただろうし。

柚希 感無量でございます。

柚希礼音  (撮影)岩間辰徳

――そういう言葉を聞くと、柚希さんの、もっと上に行きたいという前向きな気持ちがまた引き出されるんじゃないんですか。

柚希 そうなんです。

安蘭 ちえは全然卑屈じゃなく人の言うことを聞くから。うらやましいくらい。落ち込んだりもするけれども、絶対変に取らないから。

柚希 常に何かできないことがあるんですよ。課題がある。

安蘭 若いときとか、期待されてるし、注目されてるから、その分の重圧とかも半端じゃなかったと思う。それでもこなしていかなくちゃいけなかったわけで。

柚希 それはとうこさんも同じじゃないですか。実力が伴ってるからそうはならなかったんですか。

安蘭 伴ってない(笑)。私も実力に見合わない作品をやらなくちゃいけなかったこともあるし。。

柚希 今年の自粛期間も、苦手なことを勉強する機会だなととらえて。そういうのがいつもあるんです。これがもうちょっとだけゆったりとした気持ちになれるように早くなりたいのに、まだこんなところにいるって何でだろうと。

安蘭 それは、他の人だったらそこまでやってないのに、ちえだからやっているということじゃない? ちえに探究心があって、もっともっとと思うから、やっているわけで。

安蘭けい  (撮影)岩間辰徳

――この作品の舞台となる町も、炭鉱閉鎖という、コミュニティにとっての一大事を迎えていますが、今回、世界全体がコロナ禍という一大事を迎えている中での上演となりました。

安蘭 テレビを観ていても、コロナ禍で仕事をなくした人、生活に困っている人たちの話をやっていて、作品の物語とシチュエーションがすごくかぶりますね。

柚希 古き良き昭和の家庭みたいな、地域の関わりなんかもすごく感じるような作品ですよね。こらって叩くけどでもそこには愛情がある、みたいな。一つ一つ、古き良きという感じがするところがあって、そのたび心臓のところをこしょこしょってされるみたいなせつなさがあって。長男は炭鉱での仕事で一家を支えていくと思い込んでいたのに、それがなくなる。その状態でビリーを送り出すってどんな気持ちだろうとか。炭鉱夫たちの、最後までプライドをもっている姿とか。人と人との関わり、心と心の愛情のつながりというものをすごく感じる作品ですね。

安蘭 その時代だからこその人と人とのつながりがあるよね。今は、こらって手を上げることとか、言葉もこれは言っちゃいけないとか、どうやって教育するんだろうって逆に聞きたいところがあったりして。時代が変わったらその時代に適応する子供たちが育っていくんだろうけれども。

そして、夢をもつということができない子供たちがいるということが悲しいなと。私もちえも、宝塚に入りたいという夢があったわけで。でも、その夢すらない子供たちが昔より増えていて、この先、どういう日本、世界になっていくのかなと考えたら少し恐ろしいなと。ビリーを演じる子たちも、12歳とかで、実際夢がちゃんとあるのかも聞いてみたいし、この舞台を経験したことでダンスをやりたいとか思ってくれたらいいし。夢をもつことの大切さを本当に教えてくれる作品だから、改めてすごいなと感じて。

柚希 このコロナ禍でまずは皆さんお身体を大切に過ごしてほしいなと思う。そして、ちょっとでも観に行こうかなと思っている方には、劇場側も制作側も感染予防策をしっかりしていますし、心がすさむようなことの多い時代に、何か心の栄養を持って帰ってもらえる、また明日から頑張ろうと思っていただける作品だと思うので、観に来ていただけたらうれしいです。

(左から)安蘭けい 柚希礼音  (撮影)岩間辰徳



取材・文=藤本真由(舞台評論家)
写真撮影=岩間辰徳
[安蘭けい衣装]
ワンピース¥39000/グレースコンチネンタル
ピアス¥4419/アビステ
パンプス¥16000/ダイアナ(ダイアナ 銀座本店)

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