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札幌は「夢の国」なのか?完結編 57歳 さっぽろ単身日記

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札幌は「夢の国」なのか?完結編 57歳 さっぽろ単身日記

さっぽろ単身日記・「夢の国」完結編

札幌の地下鉄の専用席は東京や大阪の優先席と比べて空席率が高い気がする。

前回の日記でこのような感想を述べた。

https://sodane.hokkaido.jp/column/202206110651002227.html

ただ、最近は自分の感覚と世間のズレを思い知らされることが多く、一抹の不安が残る。客観的に証明できればいいが、そんな都合のいいデータがあるわけ……

あった。

宇都宮大学と北星学園大学の共同研究で、論文のタイトルは「公共交通機関の優先席の実効性に関する考察 ―札幌市営地下鉄の専用席と関東圏地下鉄の優先席の比較調査より―」。

2016年11月から17年1月にかけて、札幌市営地下鉄3路線と、混雑率が近い関東の地下鉄3路線の優先席(札幌は専用席)の平日ラッシュ時の車内で、優先席(専用席)に座っている人の数や、その人が対象者かどうかを目視で数えたという。

その結果は、私の感覚をはるかに上回るものだった。

札幌の地下鉄で専用席に座っていた人が対象者だった割合が93・4%だったのに対し、関東の地下鉄の優先席ではわずか19・9%。つまり札幌では10人中9人以上が対象者なのに、関東では2人だけ。あとの8人は優先席の対象者ではない乗客が座っていたというのだ。

札幌と関東でこれほど違うとは。

「専用席」のインパクトはそんなに大きいのか。

ただ、論文を読み進めると、次の数字で頭が混乱してしまった。

札幌の地下鉄の一般利用者(優先・専用席対象者以外の利用者)へのアンケート調査の結果、48%が専用席と優先席の違いを認識していなかったというのだ。

つまり、「専用席」というだけでは説明がつかないということになる。

論文は結論として、次のように述べている。

「本論で明らかとなったのは、専用席という言葉だけで札幌市営地下鉄の専用席の徹底がなされているわけではないということである」

では他にどんな理由があるのだろうか。

札幌と関東の地下鉄の一般利用者へのアンケート調査で、興味深い結果が紹介されていた。

「対象ではない人が座ってはいけない雰囲気」について、「とても感じる」「まあ感じる」と回答した割合は、関東の優先席で39%だったのに対し、札幌の専用席では56%。札幌は優先席でも55%で、専用席と優先席との間に意識の差はなかった。

また、優先席(専用席)に座らない理由について、「周りの目が気になる」と答えた割合は、関東の優先席で17%だったのに対し、札幌は専用席で24%、優先席で27%だった。

こうした結果から、論文は「専用席の名称に加え、雰囲気や優先席/専用席の制度といった複数の社会的プレッシャーによる要因で交通マナーが守られているといった結果が出た」と分析している。

「社会的プレッシャー」

私が素晴らしいと感じた札幌市民の譲り合い精神の正体は、これだったのだろうか。

論文をまとめた宇都宮大学地域デザイン科学部客員教授の土橋喜人さんに直接聞いてみた。

土橋さんは札幌出身で札幌南高校OB。銀行や国際協力機構(JICA)などで勤務した経験を持つ異色の研究者だ。青年海外協力隊員として派遣されたフィジーで交通事故に遭い、左足の大けがで半年以上入院した。いまも障害者手帳3級を持っていて片松葉をついて外出しているという。

――調査を始めたきっかけは。

(土橋)30歳のときに交通事故で障害を負ってから、関東では地下鉄やバスで優先席に座りたくても座れないということを日常的に経験しました。ところが札幌に帰省すると、地下鉄ではどんなに混んでいても専用席に対象者以外の人が座っていることはほとんどないことに気づきました。その理由を探れば、優先席を必要としている人がもっと利用しやすくなるためのヒントがつかめるのではないかと思いました。

――札幌の地下鉄の専用席が空いている理由は「社会的プレッシャー」なのか。

(土橋)専用席には対象者以外は座らない、あるいは対象者は他の席が空いていても専用席に座る、という光景が日常化することで、専用席とはそういうものだという雰囲気を醸成し、それが札幌市民の社会的合意形成になっていると私は解釈しています。専用席の名称がきっかけとなって、社会的プレッシャーを育んだと言えるのではないでしょうか。

――それは優先席(専用席)の利用者にとって理想的なのか。

(土橋)関東での意識調査で、「席を譲ったことがある」と答えた人が8割なのに対し、「席を譲られたことがある」と答えたのは1割程度だったとのデータがあります。優先席を必要としている人が近づくと、何も言わずに席を外す姿を目にします。席を譲りたいと思っている人も、譲って欲しいと思っている人も、それを言葉や行動に移すことが日本人は下手です。人を助けたい気持ちや感謝の気持ちを自然に表現できるようになれば、優先席も専用席も必要ないかも知れません。

土橋さんたちの研究は、2021年度の日本福祉のまちづくり学会賞(学術)を受賞した。この学会では、さまざまな領域の研究者や実務家が、だれもが住みやすい社会を目指す研究をしているという。

優先席も専用席もない社会。

これは「夢の国」ではなく、現実にしたい。そう感じた。

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