“違い”は、否定するものじゃない。ありのままの自分も、この世界も、すべて美しいと伝えたい──『姫騎士は蛮族の嫁』OPテーマ「BEAUTIFUL」に込めた想いにフォーカス 前島麻由インタビュー
ファンタジーラブコメ界の異才・コトバノリアキ先生原作によるTVアニメ『姫騎士は蛮族の嫁』。そのオープニングテーマ「BEAUTIFUL」を担当するのは前島麻由さん。
そして、自身の誕生月である4月17日に「BEAUTIFUL」が配信リリースとなる。作品を通して、異種族・異文化が交差する世界観に触れながら、他者と自分を比べてしまう現代的な葛藤や、自分に“ないもの”に目を向けてしまう自身の弱さとも向き合ったという。
本楽曲は、そうして生まれた『姫騎士は蛮族の嫁』の幕開けにピッタリな楽曲でありながら、新生活が始まる季節に寄り添い、背中を力強く押してくれる一曲ともなった。その制作の裏側にある想いを、前島さんにじっくりと聞いた。
【写真】春アニメ『バルよめ』OPテーマ担当 前島麻由インタビュー
SNSなどで多くの人の考えに触れられる時代だからこそ
──まず、今回『姫騎士は蛮族の嫁』のお話をいただいたときの感想からお聞かせください。
前島麻由さん(以下、前島):純粋に嬉しかったですし、これまでもさまざまなアニメのオープニングテーマを担当させていただいてきた中で、今回はどんな作品や個性豊かなキャラクターたちに出会えるのか、という期待がありました。作品との出会いによって楽曲や自分自身の表現にも変化が生まれるので、そういった意味でもワクワクしていました。
──やはり新しい作品と出会うたびに、そうしたワクワクはあるものですか?
前島:ありますね。自分ひとりで曲を作ろうとすると、どうしてもこれまでのインプットの範囲からしか生まれない部分もあったりするので。でもアニメやキャラクターと出会うことで、自分の中にはなかった表現や世界観が引き出される。そういった点が、アニメの主題歌を担当させていただくことならではの楽しさであり、奥深さだと感じています。やっぱりそれは、毎回楽しみにしていますね。
──さまざまな作品に携わってきた前島さんにとって『姫騎士は蛮族の嫁』はどんな作品でしたか?
前島:最初は「笑いもあるファンタジー作品なのかな」という漠然とした印象だったんですけど、読み進めるうちに、異種族や異文化といった多様な存在が共存している世界観や、一つの側面だけでは理解できないものを、さまざまな立場・視点から描いている点がすごく印象的でした。そこには現代にも通じるテーマがしっかりとあって、読んでいくなかで自分自身が共感できる部分もあったり、自分自身の課題も見つかったり……。
──「課題」ですか?
前島:はい。今は情報が溢れていて、SNSなどを通して本当にボーダレスに、多くの人の存在や考え方に触れられる時代で。私は後ろ向きな性格なので、ついつい自分と他人を比べて落ち込んでしまったり、自分に“ないもの”に目を向けてしまったりすることも多かったりして。そういう中で、自分と他者との在り方といいますか。自分の軸を持ちながら相手の価値観も尊重することの難しさや大切さを、この作品を通して改めて考えさせられました。
──いわゆる多様性という言葉で語られることも多いテーマですが、他者との違いや価値観を受け入れることが描かれていますよね。
前島:そうですね。それを個性豊かなキャラクターたちのドラマとして描いていて、ファンタジーという土台の中で自然と楽しみながら受け取れるので。そういった気付きはありつつも、ストーリーを楽しむことができる。そのバランスがとても魅力的だと感じました。
──セラフィーナとヴェーオルの関係性については、どのように読み取られましたか?
前島:騎士としての使命を全うすることだけを信念に生きてきたセラフィーナの、まっすぐでピュアな部分と、彼女の持つ価値観や正義、ある種プライドや誇りという言い方もできるかもしれませんが、それをいい意味で揺さぶり、新しい世界を見せていくヴェーオル。
彼もまたとてもピュアで、セラフィーナだからこそ惹かれ、彼女に自分の世界を見せたいと思っている。お互いにありのままを見せ合える、とても純粋な関係性が印象的に残っています。
これって理想的だよなと思う反面、意外と誰にでもできることではないとも感じていて。だからこそ、より惹かれる関係性なのかなと思います。
「また聴きたい」と思わせる引き際の美しさ
──その奥深い作品世界を彩るオープニングテーマ「BEAUTIFUL」についてもお聞かせください。制作はどのように進んでいったのでしょうか?
前島:作品から感じたテーマや、そこから派生した自分自身の生きづらさといった部分を、作詞の深川(琴美)さんにすべて共有させていただきました。それこそ、セラフィーナとヴェーオルの関係のように、取り繕わず、等身大の自分の言葉でお話ししたことで、楽曲にもよりリアルな感情が落とし込まれていったと思います。
──お付き合いの長くなってきた深川さんと一緒だからこその制作といいますか。
前島:実は直接お会いしたことはまだないんですけれど、歌を通して私という人間を理解してくださっている感覚があって。自分の中のソウルのようなものは伝わっているんじゃないかという、安心感や信頼関係があって。だからこそ、今回も本当に正直に、自分の気持ちをさらけ出すことができました。
──まさに理想的なパートナー。そういう意味でも、本作にピッタリですね。
前島:本当にそう思います。深川さん自身も、きっとさまざまな経験をされてきた方だと思いますし、同じ女性という視点でも、人生の先輩としても、そして表現者としても、どこか通じ合うものがある気がしていて。
自分たちでも言葉にできないようなシンパシーが、きっとあるんじゃないかなと感じています。そういったことを深川さんも感じてくれているんじゃないかなって。だからこそ、毎回どんな歌詞を書いてくださるのかというのも、とても楽しみにしています。
── 一方で、作曲はOHTORAさん、New Kさんが手がけられています。今回の「BEAUTIFUL」のサウンドについては、どんな印象を受けましたか?
前島:自分の想像以上に、“軽さ”と“重み”のバランスが絶妙だなと感じました。そのバランスがすごく生きているなという印象を受けまして。自分が歌うときも、その軽やかさと奥にある重さの両方を、しっかり届けたいと意識しました。また、キャッチーさもありつつ、おっ!と心を掴まれるような引っかかりのあるセクションもあって、それらが上手に丁寧に織り交ぜられている。そうした構成の巧みさもすごく印象的でした。
──激しい曲というわけではないのに、楽曲全体としてはジェットコースターのような展開ですよね。
前島:そうですね。激しく盛り上がるタイプの曲というわけではないんですけど、その中にしっかりと抑揚や起伏があって。雰囲気を崩さずに、その“ジェットコースター感”を作り出しているのが本当にすごいなと思いました。毎回素敵だなと感じながら聴いています。
個人的な印象としては“足し算”というより“引き算”の美しさを感じました。今は技術的にもいろいろなことができる時代ですし、異世界という非現実的な世界を彩るとなると、どうしても要素を足したくなると思うんですけど、今回はあえて削ぎ落とす方向に舵を切ってくださっていて。その引き算があるからこそ、私の歌や表現が際立つ形になっているのかなと感じました。
──ラストも印象的でした。血湧き肉躍るような力強さがありながらも、すっと引いていく引き際の美しさが際立っていて。
前島:そうなんです。しっかり盛り上がるのに、スッと引いて終わる。この楽曲の大きな魅力だと思いますし、「また聴きたい」と思わせるような、まさに引き際の美しさがあるように感じています。そこも含めて「BEAUTIFUL」という楽曲の魅力だと感じています。
「BEAUTIFUL」の魅力をさらに深掘り
──歌詞についても再度おうかがいさせてください。先程、深川さんから届く歌詞が楽しみというお話がありましたが、実際に届いたときはどんな印象でしたか?
前島:自分なりに作品から感じたことや思いはシェアさせていただいていたんですけど、それを踏まえた上で、さらに“自分が欲しかった言葉”をもらえた感覚があって。自分で伝えたはずなのに、「ああ、自分はこういう言葉が欲しかったんだ」と気づかされるような瞬間がたくさんありました。今の私に必要な言葉だったり、新しい視点だったりが、すっと自然に心に入ってくるような感覚で。沁みる言葉が多かったですね。
──特に心に染みた部分というと?
前島:シンプルに、やっぱりサビのメッセージ性がとても強くて普遍的なものだと感じました。「あなた」と「私」、「美しさ」、「違い」……そのすべて、この世界を愛しているというメッセージには、すごく心を動かされました。さっきもお話したように、どうしても人は、自分に“ないもの”に目を向けてしまいがちだと思うんですけど、喜びも哀しみも、上手くいかないことも含めて、すべてが自分自身なんですよね。
すでに自分が手にしているものの中にも、ちゃんと幸せはあるはずで。それに気づけるのは“愛”があるからなんだと思うんですけど、頭では分かっていても、つい忘れてしまうことも多くて。そんな自分に対して、「それでいいんだよ」「あなたはちゃんと美しいんだよ」と優しく肯定してくれるようなサビのフレーズが、自分の中では一番印象に残っています。
──たしかにサビはもちろんですが、〈ひとしずくの血潮でも意味のないものなどは無い!〉というフレーズも印象的でした。
前島:まさにそのフレーズは印象的でした! 一つひとつの言葉がすごく強くて、でも同時に、受け取る側の想像や解釈の余地もちゃんと残されている。聴く人それぞれが、自分の経験や感情と重ねながら受け取れるような余白があるのも、とても素敵だなと思いました。
──ハイトーンの力強さだけでなく、あえて抜くようなニュアンスや抑揚も印象的でした。レコーディングで意識されたことというとどうでしょうか?
前島:この普遍的で根源的なメッセージを届けるためには、自分自身がピュアな状態で歌うことが大切だと思っていました。セラフィーナとヴェーオルの関係性のように、まっすぐで飾らない気持ちで歌うことで、聴いてくださる方にもより自然に届くんじゃないかなと感じていて。
そのため、細かく「ここはこう歌おう」と設計するというよりは、できるだけまっさらな状態で歌に向き合おうと。そのなかで、さまざまな表情を織り交ぜながらニュアンスを大切にしたいと思っていました。
楽曲自体が持っている“軽さと重さのバランス”や“抑揚”をどう表現するか。ある種、メッセージがすごく大きい曲なので、大きいメッセージだからこそにあるいろんな側面をきちんと伝えられるように意識しました。
主題歌は時に憑依するような感覚で
──ところで、TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』2nd season後期OPテーマ「Long shot」を歌われてから、ちょうど5年になりますよね。
前島:そうですね。もう5年に……早いです。MYTH & ROIDとしてデビューしてから、いちばん音楽に関わらせていただいた作品でもあるんですよね。当時、自分もデビューしたばかりで右も左もわからずで。どの経験をするのもはじめてな自分とスバルの姿が重なる瞬間もありました。
『リゼロ』を通して、キャラクターたちに背中を押してもらったり、励ましてもらったり、ときには導いてもらったりという感覚があって。ソロとして活動するようになってからも、『リゼロ』がもう一度この世界に引き戻してくれたきっかけでもあるので、いつの時代の自分にとってもすごく大切な存在です。自分にとって大切な作品だからこそ、そこからもらった力を、今度は自分の歌で誰かに返していきたいと思っています。
──先ほどプライドや誇りというお話もありました。前島さんはオープニング主題歌を歌われる機会が多いように感じるのですが、オープニングを歌うに当たって意識されていることや大切にされていることはありますか?
前島:とにかく、自分を楽曲に委ねることですね。メロディや言葉、リズム、そのすべてに自分を預けて、時に憑依するような感覚で歌っています。
その時、その曲、その作品。それぞれの結び付きのなかで生まれた表現と、これまで積み重ねてきた経験や技術、そして自分が生きてきた中で培ってきた表現、それらすべてが重なって、今の歌声が生まれていると思っていて、どれが欠けても成立しないものだと感じています。
だからこそ、常に“感情の鮮度”を一番高い状態で歌に乗せること、そして余計なものを削ぎ落としたピュアな表現であることというのを大切にしています。自分にとって歌は、感情の解放でもあるので。
そうした自分の音楽性やポリシーが、オープニングという作品の始まりを彩る表現として、しっかりはまっていると感じていただけているなら、とても嬉しいです。そして、もしそこに“前島麻由ならでは”の価値を見出していただけているのであれば、それ以上に嬉しいことはないですね。
──エンディングは、昨今ゆかりの深いsajou no hanaが担当されています。
前島:またこういう形でご一緒できて嬉しいです。彼女とはこれまでたくさんの喜びや悲しみ、さまざまな感情を共有してきて、かけがえのない存在と言いますか。良き仲間であり、いろいろな思いや葛藤を抱えながらも、時には寄り添い、支え合いながら歩んでいける関係で。お互いの存在によって気づかされることも多いですし、まさに切磋琢磨できる仲間だと思っています。
お互いに、それぞれの“美しさ”を心から理解し合っている感覚があって。それぞれの持つ美しさで、この作品の美しさを表現できることがすごく嬉しいですし、本当に幸せなことだなと感じています。
──5月28日(木)には、東京・青山RizMでsajou no hanaさんとのツーマンライブ「シルフィウム」も開催されるとのことで。
前島:ツーマンライブ「シルフィウム」シリーズを定期的に開催していて、今回でVol.5を迎えます。ちょうど『姫騎士は蛮族の嫁』の放送期間中に開催できるので、とても嬉しいですね。現在進行形で作品を観てくださっている方にとっては、普段画面越しに聴いている楽曲を、バンドアレンジで体感できる場にもなりますし、まだ作品を知らない方にとっても、ライブをきっかけに興味を持っていただけたら嬉しいです。
作品を観ていただければ、きっとテーマの奥深さやキャラクター同士のヒューマンドラマに惹き込まれると思います。良い相乗効果を埋める空間になったらいいな、なんて目論んでおります。
──そして、4月26日(日)には前島さん自身のワンマン「BORN 4 TODAY vol.4」が、東京・下北沢THREEにて開催予定です。
前島:4月は自分の誕生月でもあるので、もともと思い入れの強い時期なんです。そのタイミングで、2026年最初のシングルとして「BEAUTIFUL」を届けられることにも運命的なものを感じていますし、ライブでもしっかりこの楽曲を届けられたらと思っています。
──新生活が始まる季節でもありますし、背中を押してくれる楽曲になりそうですね。イントロの部分も、思わず手を上げたくなったり、ハンドクラップしたくなるような力がありますよね。
前島:本当にそう思います。イントロからどこか背中を押してくれるような力があって、あの部分は映像がどうなるのか、特に楽しみなところです。新しい環境に身をおいて、自分と周りを比べてしまったり、自信をなくしてしまう瞬間もあると思うんですけど、そんなときにこの曲を通して、「そのままの自分でもいい」と思えたり、少しでも心が軽くなるきっかけになれたら嬉しいです。
喜びも、悲しみも、不安を感じる自分も美しいし、そうした感情を生み出すこの世界そのものが美しい。そんなことを感じてもらいながら、そっと寄り添えるような楽曲になっていたらいいなと思っています。
──では最後に、放送や楽曲配信を楽しみにしている方へお一言いただけたらと思います。
前島:私自身もひとりのファンとして、アニメ映像と「BEAUTIFUL」がどう重なっていくのか、とても楽しみにしています。きっと皆さんも同じ気持ちだと思うので、その“化学反応”を一緒に待ちわびていただけたら嬉しいです。
そして本作は、セラフィーナやヴェーオルをはじめ、個性豊かで魅力的なキャラクターたちがたくさん登場します。作品をすでに知っている方も、これから触れる方も、ぜひ一緒にワクワクしながら楽しんでいただけたらと思います。
さきほどもお話をさせていただきましたが、どうしても何かしらのフィルターを通して物事を見てしまいがちな時代だと思います。自分自身もそう感じることが多いですし、だからこそ“ピュアでいること”の難しさも実感しています。
この作品や楽曲を通して、そうしたフィルターを少しだけ外して、物事や人と向き合うきっかけになったらいいなと思っています。
作品とあわせて、観る方・聴く方自身もピュアな気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです。
[取材・文/逆井マリ]