【静岡ワサビは今】ワサビは静岡の大地と歴史が生んだ文化!うんちくから、ワサビを楽しむ伊豆の新施設まで、たっぷり紹介します
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「静岡ワサビは今」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年6月18日放送)
(山田)今日はワサビの話題です。5月11日付の静岡新聞の大自在に川内さんがこの話題について書かれています。
(川内)今年の大型連休中、伊豆に渓流釣りに行ったんですが、その時、ワサビを本当に五感で味わいました。伊豆では渓流とワサビ田が隣り合わせのことも多く、新緑とワサビ田の組み合わせは、見ていてとても気持ちいいですね。
私はワサビが大好きで、先週、家族ですし屋に行ったときも「増しワサビ」を小皿に入れてもらいました。会社の食堂では、冷たいお蕎麦にワサビが付くんですが、頼む時は「たっぷりね」とお願いしています。
私が記者として勤務した支局は、伊豆や御殿場などワサビ栽培が盛んなところが多く、ワサビが身近でした。また渓流釣りが好きなので、オクシズや伊豆の山奥でワサビ田の景色を楽しんだり、味わったりしています。
父の日は「わさびの日」⁉
(川内)ところで、6月の第3日曜日の父の日、今年はおとといの16日だったんですが、この日は「わさびの日」でもあるっていうのを知ってますか?
(山田)6月16日はワサビなんですか⁉
(川内)6月の第3日曜日が、「わさびの日」なんですよ。静岡県山葵(わさび)組合連合会が定めているんです。
(山田)どういうことですか。
(川内)ワサビのさわやかな辛味には食欲増進効果があるので、いつも頑張ってるお父さんにワサビを食べてもらい、暑い夏を乗り切ってくださいよということです。ワサビは周年収穫できますが、5月、6月が収穫の最盛期だからとも聞いています。
(山田)ワサビって時期がいつなのかなと思ってたら、メインはこの時期なんですね。
(川内)世界農業遺産にも登録されている静岡ワサビの主産地は、伊豆の天城山ろくや静岡市のオクシズ、御殿場、富士宮など。2022年の水ワサビ、つまり一般に流通している茎ワサビの生産量は223トンで、全国の約6割を占める最大の産地なんです。今、世界的な和食ブームで海外でもワサビは人気があるんですよ。
(山田)あー、そうか。
(川内)横文字で「WASABI」と書きます。静岡県は輸出の戦略品目に位置づけていて、主に、韓国、アメリカ、ヨーロッパに輸出されています。
ワサビを五感で楽しむ施設が登場。その楽しみ方は…
(川内)ワサビ文化を継承するために、「ワサビを五感で楽しむ」をテーマにした「伊豆わさビジターセンター」というのが4月、伊豆市にオープンしたので、釣りのついでに行ってきました。ワサビの歴史や健康効果なども紹介されていて、私も体験したんですけどVR(仮想現実)を楽しむことができます。
(山田)何を見るんですか。
(川内)VRゴーグルを着けて、ワサビ田ツアーを体験できます。ワサビを運ぶトロッコに乗って360度映像を見ることができるのですが、非常にリアルで、とても楽しかったです。伊豆市は、いわゆる「わさびツーリズム」の拠点にもしたいということで、今、ワサビ田を組み込んだサイクリングツアーなどが人気のようですね。
(山田)それこそ海外の方にもよさそうですね。
最古は奈良時代!?長いワサビの歴史
(川内)日本固有の香辛料であるワサビの歴史を見ると、日本に残る最古の記録というのは、出土した飛鳥・奈良時代の木簡だそうです。
(山田)そんな古いんですね!
(川内)万葉仮名の3文字で「委佐俾(わさび)」とあって、当時は薬草として使われていたようです。料理への利用は鎌倉時代末期とみられる文献に出ています。
そして静岡の栽培、つまり日本で最初の栽培は、慶長年間の1600年頃、静岡市のオクシズにある有東木で始まったとされています。水温が一定の湧き水が豊富という好条件がありました。この風味を、駿府で大御所政治をしていた徳川家康が絶賛し、将軍の献立に使われるようになったということです。まさに家康は静岡ワサビをメジャーにした立役者だと言えます。
(山田)そうなんですね。
(川内)ただ、この風味の良さゆえ、家康は有東木のワサビを門外不出にして囲ってしまったとも言われてるんですよ。
そこで、この静岡ワサビの大きな飛躍のきっかけになったのが、伊豆に栽培が伝わり広がったことなんです。1744年に伊豆のシイタケ農家の板垣勘四郎という人が、代官の命を受け、シイタケ栽培を教えるために有東木を訪れたんです。
その時にワサビに目をつけ、「地形や水質が似ている伊豆でもいけるんじゃないか」ということで、門外不出のワサビの苗を持ち帰ったようなんです。この経緯はいろいろ言われています。
(山田)諸説あり、と。
(川内)有東木の望月家の娘さんが板垣さんを好きになって、お弁当箱にこっそり詰めてあげたとか、望月家と板垣家がともに武田家の親族だったとか、いろいろあるんです。
伊豆は江戸に近いことが非常に強みで、天明年間(1780年代)には天城のワサビが江戸に盛んに出荷され、伊東の港から快速船で1日で江戸の日本橋の河岸に運ばれたという記録があります。握りずしが江戸っ子の人気を集め、その頃からマグロが捕れ始めたり醤油が普及したりしたことも追い風になったんです。
食欲増進や食中毒防止に効果も
(川内)今注目されているのは、わさびの健康効果です。ワサビはアブラナ科で、ダイコンなどの仲間です。象徴的なこの辛味成分は、「イソチオシアネート」といって、ワサビにとって害虫や病原体から防御するために備わっているそうです。その辛みを、私たち人間がおいしさとして享受しているという話なんですね。
(山田)なるほど。
(川内)食欲増進のほか、殺菌や細菌の増殖を抑える抗菌作用、抗がん、あとピロリ菌の抑制など、いろんな効果が報告されています。
これは書籍で見たんですが、食パンとすりおろしたワサビを密閉容器に入れて8日間置いたら、全くカビが生えなかったけれど、ワサビなしの食パンだけだとびっしりとカビが生えたという実験結果もあります。
食中毒の防止効果もあるということで、これから梅雨時や夏場にかけての食べ物が傷みやすい季節に、いいですね。江戸時代、冷蔵や冷凍施設がないため、握りずしにわさびを使うのが広まったという話もあります。
(山田)梅干しに近い使い方ですね。
(川内)さわやかな辛味の中に、甘さもあるんですよね。特にすりおろしたばかりのものはおいしく、刺身やすし、そばの薬味でもいいし、ステーキなどお肉にも合いますね。私は「わさビジターセンター」に行ったときに近所のお店で食べた「ワサビ飯」がお薦めです。ワサビと鰹節、醤油のみのシンプルな料理は、ワサビのおいしさがストレートに味わえます。
(山田)おいしいですよね。
(川内)元々は農家のまかない的な食事だったようです。
私はすりおろしたワサビの焼酎割りが好きです。すっきり辛口で食事にも合います。緑茶割りが「静岡割り」と言われるのに対抗して、「オクシズ割り」という呼び方があるようです。伊豆での呼び方は聞いたことがありませんが、石川さゆりさんの「天城越え」の歌詞にも「ワサビ沢」が出てきますし、「天城割り」でどうですかね?
(山田)天城割り、いいですね。
(川内)今はチューブ入りのワサビが主流ですが、生の茎ワサビもぜひ食べてほしいと思います。売っているスーパーもありますし、JAの直売所や道の駅にも置いてありますね。
ワサビの食べ方にもうんちくがあります。一つは、「鬼平犯科帳」などで知られる作家の池波正太郎さんが「男の作法」という本の中に記していますが、お刺身を食べる時に、醤油に溶かしてはいけないということです。刺身の上にちょっと乗せて、醤油をちょっとつければいいんだ、そうしないとワサビの香りが抜けちゃう、醤油もにごって新鮮でなくなるしねーと書いています。もちろん食べ方は自由ですが、私はこれを読んでから、ちょっと「粋」な感じもあってそうしてますし、実際おいしいかなと思います。
酷暑や農家の高齢化など、課題も
(川内)静岡ワサビには、課題もあります。深刻なのは温暖化などに伴う不作。涼しい気候を好むワサビにとって近年の酷暑は厳しい環境です。暑さに強い品種への改良も行われています。また、農家の高齢化による栽培面積や収穫量の減少もあります。先ほど生産量全国トップと話しましたが、2005年に比べると約3割減っています。
県内の栽培法の主流は、明治時代に伊豆で開発され、全国に広がっている「畳石式」(たたみいししき)です。「伊豆式」とも言うんですが、石を積み上げて隙間から水をろ過させる方法です。不純物を取り除き、水の濁りや環境変化に弱いわさびの安定栽培を可能にしているそうです。
2022年の台風15号でワサビ田は大きな被害を受けましたが、高齢化でワサビ田を修復できる技術を持っている人も減っています。このため、静岡県は本年度、ベテランの農家を講師に、ワサビ田を修復する技の継承に乗り出すというようなことが静岡新聞の記事に出ていました。
(山田)もっと、ワサビ田を大事にしていこうということですね。
(川内)そうですね。ワサビは溶岩流の隙間に蓄えられた豊富な湧き水で育まれていて、深く刻まれた谷は、ワサビの敵である直射日光を遮ってるんですよね。ということは火山性の地形や地質など、まさに静岡の大地と歴史が生んだ文化ということになります。
そのことをかみしめながら味わえば、一層深い味わいになるでしょう。辛さとありがたさに、思わず涙ぐんでしまいます。
(山田)なるほど、ワサビだけに。今日はワサビ好きの川内さんが熱弁してくださいました。お刺身を食べる時など、ちょっと意識してみてはどうでしょうか。今日の勉強はこれでおしまい!