【保護者の声】「大好きな習い事を辞めたい」落ち込む息子に見た"障害理解の壁"。「先生との相性」と辞め時の判断
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
「きいちゃんのペース」で迎えた、感動のステージ
9歳の時、キッズドラム教室に入会したきいちゃん。集団のクラスと個人のクラスがあったのですが、本人の性格や周りに圧倒されてしまう懸念を考え、1対1の個人クラスでお願いすることに(お財布は痛かった……涙)。
その甲斐あってか、最初こそ緊張していたものの、だんだんと慣れて、楽しくドラム教室に通ってくれるようになりました。
先生には前もって、「バリバリと上達させるよりも、まずはドラムを楽しんでほしいので、きいちゃんのペースに合わせた指導をお願いしたい」と、私の意向をお伝えしていました。
それでもきいちゃんは私の目から見ても少しずつ上手くなってきて、やっぱり継続すれば上達していくものだなあと感心したものです。
そしてなんと!きいちゃん、ライブハウスでおこなわれた発表会にも出たんですよ!
大勢の人の前で緊張して本番は叩けないかもと心配もしたのですが、きいちゃんにとって、発表会に出るということ自体が挑戦で学びなので、叩けなくてもいい覚悟で出場を決めました。すると、なんと緊張で固くなることもなく、ちゃんと発表できたんです……!!
これには私も感動……!!!「続けていれば、こんなに素敵な景色が見られるんだ」と、親子で大きな自信をもらった瞬間でした。
直面した「技術の壁」と、埋まらない価値観の溝
しかし、感動の発表会が終わってしばらくした頃から、少しずつ空気が変わり始めました。
発表会が終わった後も、発表会の演目であった「はたらくくるま」を引き続き叩いていたきいちゃん。ある日のレッスン後、ドラムの先生から「お母さん、相談があります」と切り出されました。
先生によると、今の叩き方は初歩のステップであり、次の段階に進むには今のきいちゃんには難易度が高すぎるのではないか、ということでした。たしかに、その次のステップの叩き方を聞くと、いきなり2~3段階くらいハードになって、今のきいちゃんには難しいかもしれないと思いました。
私は先生に、改めて自分の想いを伝えました。
「プロを目指しているわけではないので、今の叩き方をアレンジして、少しずつ難易度を上げるような、柔軟な進め方はできませんか?」
けれど、技術を重んじる先生にとって、それは難しい提案だったようです。
「その叩き方って基本にはないんですよ」「でも、今の彼には(次のステップは)できないですよ」そんな言葉が繰り返されました。
先生は指導者として「正しい技術」を伝えようとしていたのだと思います。ただ、私たちが求めていた「楽しむためのドラム」との間に、少しずつ埋められない溝ができ始めていました。
「聞こえていない」わけじゃない。子どもの心を守るために
何より私の胸を締めつけたのは、そのやり取りをそばで聞いていたきいちゃんの姿でした。
障害があることで、言葉でのコミュニケーションがゆっくりな場合、大人はつい「本人の前で、本人の課題」をストレートに話しすぎてしまうことがあります。でも、きいちゃんはちゃんと聞いていました。大好きな先生の口から繰り返される「できない、できない」という言葉のニュアンスを、敏感に感じ取っていたのです。
ふと見ると、あんなに楽しそうだったきいちゃんが、見たこともないほどしょんぼりとした表情をしていました。子どもが自信を失っていく姿を見るのは、親として何よりつらいものです。
先生には、「できないこと」を数えるのではなく、「今できていること」を一緒に喜んでほしかった。それに、たとえ今できなくても、2年後、3年後にはできるようになるかもしれない。失敗するのだって経験です。もっと先の未来を見据えて伴走してほしかった……。そんな切なさが込み上げてきました。
勇気ある「お休み」。また新しい「好き」に出合うまで
それからしばらくして、自信を失ってしまったきいちゃんは、自分から「ドラム行きたくない」と言うようになり、私たちは教室を辞めることにしました。
せっかく1年続けてきたのに……という葛藤もありました。でも、無理に通って、楽しんでいたドラムを嫌いになることだけは避けたかったのです。
これまで、障害のないお子さんを主に教えてきた先生にとって、きいちゃんへの指導は、ある意味で試行錯誤の連続だったのかもしれません。
今回のことで、私自身も大切なことを教わりました。たとえ言葉が拙くても、子どもは周囲の温度感を驚くほどよく感じ取っています。私たち大人が一番に考えなければならないのは、そんな子どもたちの繊細な心を守り、育んでいくこと。そんな当たり前で、でもつい忘れがちになってしまうことを、きいちゃんのしょんぼりした背中から教わった気がします。
ドラム教室の扉は一度閉じてしまいましたが、きいちゃんはまだ10歳。これから先、また「やってみたい!」と思えることができたら、その歩みを全力で、そしてきいちゃんに無理のないペースで応援したいと思っています。
執筆/星きのこ
(監修:鈴木先生より)
神経発達症のお子さんにとって、太鼓やドラムのようなパーカッションは、リズムに乗って演奏する中で脳の活動が活性化され、心身をバランス良く鍛えることにつながると考えられています。また、集団の中では周囲の刺激を過剰に受け取りやすい特性を考慮し、多少お財布が痛くても個人クラスにしたことも良かったのではないでしょうか。
キッズドラム教室は1ヶ所だけではありません。ほかにきっときいちゃんに向いた教室があるはずです。習い事は、教える先生との相性が重要です。障がいのあるお子さんの指導経験があり、特性を正しく理解してくれる先生に出会えれば良いのです。焦らず長い目で見守ってあげましょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。