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成河×福士誠治「二人芝居は冷静な格闘技のよう」~ミュージカル『スリル・ミー』インタビュー

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(左から)成河、福士誠治

2021年4月、東京芸術劇場シアターウエストにて、ミュージカル『スリル・ミー』が3組、6名のキャストで上演される。

本作品は、男2人が演じる“私”と“彼”とピアノ1台のみで繰り広げられる100分間のミュージカル。1920年代、全米を震撼させた二人の天才による衝撃の事件を基にした究極ともいえる心理戦は、アメリカをはじめ、ロンドン・オーストラリア・ギリシャ・韓国など世界中を魅了。日本では2011年の初演以降、演出の栗山民也の手で創り出されたシンプルであるがゆえに緊迫した空間は、観る者を虜にし続けている。

初演から10年を迎える2021年版では、3組6名のキャストが揃った。伝説の初演ペアである田代万里生(私役)と新納慎也(彼役)、2018年上演時に本作へ出演し、連日当日券を求め200名を超える観客が押し寄せた成河(私役)と福士誠治(彼役)、そして、初演から10年の節目に演出の栗山民也によるオーディションが実施され選ばれた松岡広大(私役)と山崎大輝(彼役)の3組だ。この3組にインタビューをする機会が得られたので3回に分けてお届けしよう。二回目は成河福士誠治コンビだ。

インタビュールームに登場した成河と福士は「夏の思い出がね……」とふと語り出す。そしていきなり♪1993~恋をした~oh~君に夢中~と「夏の日の1993」(class)を打ち合わせなしでハモリ出す。一節歌い切った後で「世代だねえ」と笑いながらインタビューに臨んだのだった。

(左から)成河、福士誠治


■再演ではなくリクリエイション

ーー前回と同じ組み合わせで今回再演に臨む事となりましたね。

福士:僕、実は再演というのが人生初めてなんですよ。

成河:え? そうなんだ!

福士:ええ、今までいろんな作品をやらせていただいていますが、“再演”には一瞬身構える自分がいて……。でも、今回は流れる水のようにすっと決まりました。「ソンちゃんとならまたやるか! スケジュール大変だけど」って(笑)。成河くんが相手じゃないとやらなかったと思います。

成河:相手が変わると、一から作らないとならないからね。

福士:もし相手が変わるのなら、もう少し時間が欲しいです。

成河:ヤッバイ! こういうインタビュー、超久しぶりだ! ものすごく時間かかっちゃうかも!? まとめづらいかもしれないけどしゃべりますね(笑)。

日本でいう“再演”という考え方が(世界的にみたら)大分特殊だと思うんですよ。日本は1か月稽古をして1か月公演をやって終わり、という単位で進みますが、本来は年単位で公演をしていくものなんです。サイモン・マクバーニー(※)にも言われましたが、一つの作品を5年間上演し続け、その都度稽古をする……5年間作品を作り続けるという事が日本以外の国では割と多い事なんです。途中でキャストを変えてしまったら一から作り直しになるので、僕はそれには全然興味がわかないんです。
ですから、この『スリル・ミー』も、あの1か月の上演で作品が終わったとは全然思っていないんです。継続しているものという認識があるので、“再演”と思って臨んではいないんです。続きをやる価値があるのかという事だけです。
※成河が出演した『春琴』(08091013年)の演出を担当​

成河

福士:性格の違いですね。ソンちゃんは芸術追求タイプだから。僕は「やったー! 終わったー!」になれるタイプ。でも自分の中ではまだ終わってなかったのかも。

成河:もちろんその都度燃え尽きながらやりますけど、時間が経って俯瞰して見た時に、自分が、そして皆と描いた絵が「ああ、ここがもう少し……」と思うことがある。作品はずっと続けるものですし、何度も何度もできるという事は贅沢なことだなって。

福士:消しゴムで消せるんだよね、再演って。初演の内容を再演では消しゴムで消してそぎ落としていく作業。再演となると「前回からこれを足して……」とやりがちだけど、本当はそぎ落としていく方が作品としては研磨が出来ている気がします。

成河:時間が経たないと分からないことがほとんどすべてだと思うんです。日本の公演サイクルは速いから、本当はしなければならない作業をしないまま上演を続けないといけない。そんな中で再演は「リクリエイション」なんです。僕の中ではね。だから相手は彼でないとならないし、前回作ったものの続きをやりたいんです。特にこの作品は二人だけで作るから余計にね……これからは再演ではなく「リクリエイション」って言おうぜ(笑)!

福士:(笑)。まずは前回まで心と身体をもっていかないとね。それが一番大変なんだけど。そこからさらにいろいろやっていく……さっきから『スリル・ミー』の歌を思い出せないって言ってるよね(笑)。この状態では舞台に立てないから。出演したことがある二人ですが、『スリル・ミー』の身体にしないと。

成河:思い出そう、思い出そうとしているんだけど出てこないんだよ!(笑)。2年前の自分なんて、もはや別人ですから。今の自分があの台詞を言ったら、また誠ちゃんがあの台詞を言ったら、今までの関係性とは全然違いますから。でもその違いを開き直って出せたらいいですね。

■距離感がちょうどいい

ーー成河さんは『タージマハルの衛兵』でも二人芝居に挑戦していますが、二人芝居だからこその魅力とは?

成河:今は一人芝居(『フリー・コミティッド』)をしていますけどね(笑)。去年(19年)は『スリル・ミー』の次は三人芝居(『BLUE/ORANGE』)でしたし。

福士:馬鹿なんですよ、この人は(笑)。自分を追い込むことばかり選んで。

福士誠治

成河:(笑)。でもあの頃は二人芝居がいちばん難しいって思っていました。三人になると随分楽になるなって。向き不向きは別ですけど、いちばん気を付けなければならない事が多いのも二人芝居ですし、やらなければならない事が多いのも二人芝居だと思うんです。自分に対しても他人に対しても俯瞰でいなければならないから。三人だと誰かが客観的になってくれるので夢中になり過ぎた時に邪魔してくれる。でも二人の場合は二人でのめりこんでしまいがちなので、収拾がつかなくなるんです。

福士:相手の台詞の後、必ず次は自分の台詞だからね。ソンちゃんが放ったエネルギーを何かしら僕が返さないとならないし。三人なら「僕は今、関係ないや」でかわせる事もあるけど、二人なら「え? 今誰に言ってるの?」の迷いがないからね。

成河:ある意味格闘技に似ている、いや格闘技でしかないんですよ。本当の格闘技みたいにルールがないものをお客様に見せるので、とても冷静な格闘技だと思うんです。

ーーそこにはお互いに対する信頼関係がないと成り立たないですよね。ちなみに前回はどんなコミュニケーションを取られたんですか?

成河:一緒に一度旅行に行きましたよ(真顔)。

福士:旅行には行っていませんから(笑)。でもソンちゃんとはずっと話していられるんです。話題がつきないから。一つポンとネタを置けば、それについてずっと話すことができる。

成河:距離感がちょうどいいんです。好きなもの、嫌いなものがハッキリしているから。誠ちゃんは入れ込み過ぎず、クールに客観的に物事を見ているから。でも楽しめる人なんです。

福士:僕は現場が楽しくないと嫌。特に今年はクリエイティブが出来る喜びを改めて感じるし。夏休みの自由研究を二人でやろう! となった時に楽しくないとおもしろくないじゃないですか。またやろうという気にもならないですしね。「仕事がないからやむなく受けた」という仕事と「二人でやりたいから死ぬ気でスケジュール切った!」という仕事では明らかにスタートラインが違う。そういう点でソンちゃんとは根本の部分が合うんです。どうせやるなら一瞬苦しくても楽しんでやりたい。終わってから乾杯して「あのところ、最後まで分からなかったね」「演出家がさぁ……」と言う言葉が出ても楽しい。それが出来る相手だからね。

(左から)成河、福士誠治

成河:誠ちゃんは本当に垣根がない人。ある一つのジャンルを極めたり何か一つの事を語れるのは大事な事ですが、俳優ってそんな単純なものではないですから。そんな中、彼は本当にいろいろな場所でやっていてオールラウンダーなところに共感できるし、僕もそうありたいと思っているんです。だから「旅人」と言っているんです。いろいろなところを旅する人だって。

福士:そりゃあ50人の劇場で見せる芝居と、横浜アリーナでスケートを滑りながら見せる芝居は違うと思うよ(笑)。

成河:でもどっちも同じようにできる人でしょ。すごく面白い。僕も違う要素の事を同時にやるのが好きなので、垣根なくやれる誠ちゃんが好きなんです。

福士:そう思うと『スリル・ミー』は凄く研磨された場所だね。ストイックな現場。歌もあるけど……歌って自由な面もあるけど自由過ぎてはいけない抑圧されたものがとても多いし。だからやっていくとその日は満足できても、翌日「あのところはさ……」と言えたり。自分の成長というか、変化を感じられるのが『スリル・ミー』だなって思います。

成河:そうだね。だからこそ2か月、3か月で一区切りにするのは本当にもったいない現場だよね。

福士:といいながら「じゃあ一年間やりますか?」って聞かれたら「えええっ!」って言いますけどね(笑)。

成河:というかやらない(笑)。カレーは寝かせた方がおいしいからね!

成河


■栗山民也の言葉に「腑に落ちた」

ーーお二人を客観的、俯瞰的に見ているのが演出家の栗山民也さんだと思うのですが、栗山さんから初演時に言われ印象に残っている事はありますか?

福士:なんか、してやられた感があります(笑)。初演のときはソンちゃんと僕とで頑張って作ろうと、稽古が終わっても外の個室でいろいろセッションしてこうしたいんです、と栗山さんに意見を出したら、唯一、一か所だけ僕たちが形式的に動いて最後は絵画的に見せる場面で、栗山さんは「神話的なものみたいに形式的に見せるところが君たちの狂気性を表現しているんだ」とおっしゃって。それまでは心のつながりが~とかいろいろ考えていたのですが、その言葉を聴いた時「そうか、僕は神なんだと思えばいいんだ」と腑に落ちたんです。その演出一つでピラミッドの下にさらに強固な土台が二段くらいガッと作られた気がして。そりゃあ何本も演出しているよな、くそう! 悔しいなと思いました(笑)。

成河:僕は「資本主義の病」という言葉をいただいたときにバーンと衝撃を受けました。「究極の愛」という一つのテーマがこの作品にはありますが、それだけではこの作品を表現しきれない。その向こうにあるのは何だろうと考えていた時に、栗山さんからその言葉をいただいて……。それで僕は腑に落ちたんです。僕自身は“私”と“彼”を「究極の愛」という箱に入れる事には抵抗があって、本人たちはこんなに純粋なのに周りの大人たちが悪いんだ、という事にしてはいけない、かといって社会が悪いという事にしてもいけない。二人の愚かしい行為を見て何を思うのか……そこに「究極の愛」「資本主義の病」という二つの言葉がある事でスッキリしたんです。かといってどうだと言わんばかりに「資本主義の病」を全面に見せるのではなく、ほんのひと振りする要素を入れる、そこが栗山さんの凄いところだと思います。

とはいえ、さっき誠ちゃんが言ったようなとても強烈な正解を出されることに、僕は問題を感じているんです。クリエイションには正解が邪魔だと思うんです。俳優は失敗しながら深めたり積み上げていくもの。そのプロセスが大事なんです。本当に納得してやるには、失敗したり傷ついたり自分の小ささを認めていくのが稽古場なので、圧倒的正解が示されている『スリル・ミー』という現場は結構キツイです。でも栗山さんも「じゃあそのやり方を見せてみて」とおっしゃってくださる方なので、僕らはそこを言い続けていこうと。

福士:栗山さんも新しいやり方を見るのが好きだよね。

福士誠治

成河:ただ時間がない。だから栗山さんにもっと時間をあげてくださいって思う。僕たちは限られた時間の中で、めんどくさいと思われるくらい攻めていきたいと思います。

■今『スリル・ミー』をやる意味とは

成河:他のチームの事はよく分からないけど、僕らは愛だ愛だとあまり言わなかったよね。
福士:稽古が始まる前はボーイズラブという言葉もありましたけどね。でも本を読んだとき、僕は全くそうは思わなかったです。

成河:これが他人事になって額縁に入れられたら本当に怖い事だと思うんです。演じる人間にとっても、作る人間にとっても、観る人間にとっても教訓にならない。皆で体験して事実を教訓にする作品なんです。

福士:ただ事実を見るだけなら新聞でいい訳ですし。何がきっかけでこの二人はこんな事をしたのか、ある意味二人は被害者だと思う人もいれば、やっぱり加害者と思う人もいたり……。誰が一番かわいそうなのかと考える事が出来る作品だと思うんです。それこそコメディみたいに何も残らない作り方もしようと思えばできます。でも感想は一つじゃない。

成河:この作品は100年前の話ですが、その頃の「資本主義の病」から100年後の今、どう思うか。むしろその恐ろしさに気づいていないんじゃないか? というのが、ある意味栗山さんからのメッセージでもあると思うんです。でもなんでこんな事を舞台でやるのか、しんどいわ! という話ですが、僕らが舞台でこれをやる事で皆さんは遠くからそれを見る事ができるんです。人は悪意や闇を近くで見過ぎると吸い込まれてしまう。だけど、なるべく遠くから見ると、その構造とかが分かるので、足を引っ張られないようになる。それを描いているからこの作品は凄いと思うんです。

もともとこの作品は実名で演じられていたんです。だけど、他の国で上演するときに名前を抽象化して“私”と“彼”にして普遍的に語れるものにした。でもこれは凄く危ない事で、普遍的に語れる事で額縁に入れることができてしまうと、事件性が薄れてしまう。何がこの作品で面白かったんだっけ? と立ち戻った時に思ってしまう。これは実名で演じた攻撃的な公演だった、それを日本に直接持ち込もうとは思わないし、出来ないと思いますが、忘れてはいけない事だなと思いながら初演は演じていました。

福士:今回は再演なんだ、資料映像を観るか、と見始めたところで途中からは観なくなるような気がします。今自分が感じている事を元にして演じていかないとこの作品に負けそうだから。改めて続きをやるという事ですが、あえて前の自分を排除しないと怠けてしまいそうですしね。怠けるっていう事ができないくらい内容も曲数も多いですけど。

成河:今回はよりリアルにやりたいですね。

福士:見るに堪えないものを見せたいですね。

成河:でも外には出さないから(笑)!

福士:(笑)

(左から)成河、福士誠治

【こぼれ話】最後の最後までインタビュアーを気遣う二人。福士さんが「大丈夫ですか? 好きな食べ物は? って質問でもいいですよ!」というと「僕は長くなるよ~」と成河さんがすかさず合いの手を入れる。せっかくなのでその質問をそのまま聞いてみたところ、福士さんは「おごってもらえるならお寿司かなぁ。いつでも食べて! っていうなら唐揚げかな」成河さんは「パクチー。山盛りで食べたいね。タイ料理が好きなんですよ、すっぱ辛いのがいいんです!」と答えてくれました。

取材・文=こむらさき  撮影=鈴木久美子

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