第8回「岡町」駅散策 ~ 阪急宝塚線・箕面線をスズキナオが降りて歩いて飲んでみる
駅前からその街を知るべく街を歩き、巡り合った人に街について聞いてみたり、酒場で店主と話してみたりして、街に住む人、そしてその街の良さを探る本連載。今回は、阪急宝塚線岡町駅周辺を散策します。
駅前には岡町商店街と原田神社
阪急宝塚線・箕面線の各駅を散策していく当シリーズ、今回は岡町駅へやってきました。岡町駅の所在地は豊中市で、曽根駅と豊中駅に挟まれています。大変失礼なことに、担当編集者・Mさんと「では次回は岡町駅に行ってみましょう」と話し合った際、岡町についてのイメージがまったく浮かばず、「駅前が閑散としていたらどうしよう」と不安に思ったりもしたのですが、そんなことはありませんでした。
駅の東口を出るとすぐ目の前に「岡町商店街」のアーケードが見えます。電車の高架に向き合うようにして商店が並び、北へ少し進むと岡町商店街のメイン通りへの入り口があります。角にある「ポン太青果」という八百屋さんは芸人の土肥ポン太さんが経営する名物店で、新鮮な野菜や果物を求めて多くの人が集まっていました。
アーケードは「原田神社」の境内に隣り合うようにして東へ伸びており、商店街からすぐ神社の敷地へと入ることができます。原田神社は、奈良時代以前、天武天皇の時代に創建されたといわれる歴史ある神社で、本殿は国の重要文化財に指定されています。毎年10月1日から10日にかけて行われる「原田神社獅子神事祭」というお祭りは多くの人でにぎわうそうです。
岡町は、大阪市北区中津から能勢妙見山まで続く能勢街道の途中に位置し、西宮から京都へと続く伊丹街道とも交わる場所にありました。交通上、重要な地点であり、また、能勢街道に面して立つ原田神社の存在もあって、江戸時代から大きく発展してきました。
岡町商店街は人通りも多く、昔ながらの店と新しい店とがバランスよく混ざり合っている印象です。1826年創業の食堂で、大阪最古ともいわれる「土手嘉」の年季を感じる建物をじっくり眺め、1970年に竣工したという「桜塚ショッピングセンター」の中を散策しました。
桜塚商店街を抜けると豊中市役所はすぐ
岡町商店街から桜塚商店街へとアーケード街は続き、そのアーケードが途切れた後も、道の両側には商店が点在しています。さらに東へ進むと国道176号線に突き当たり、交差点の向こうに豊中市役所の建物が見えてきました。
通りの雰囲気にどこか見覚えがあると思ったのもそのはずで、当連載の「豊中駅編」の取材の際、豊中駅側からこの辺りまで足を延ばしていたのでした。岡町駅周辺は豊中市役所へも近く、生活上の手続きが必要になった際にも便利そうです。
歩いてきた道を少し岡町駅方面へ引き返すと、「ループトーワビル」という古いビルに目が留まりました。3階部分を見上げると「ペルー家庭料理 ワンカヨ」という看板があります。「ペルー料理、ちょっと気になりますね」と編集担当・Mさんと話し、階段を上ってみることにしました。
お昼時を少し過ぎたタイミングだったので「休憩中かもしれない」とドアの外から店内を覗き込んでいると、お店の方が迎え入れてくれました。今年でオープンから9年目になるお店だそうで、ペルー出身のご夫婦が営んでいます。「ワンカヨ」はペルーの中部にある街の名前だそう。
メニューを見ながら何を飲もうかと迷っていると、奥様のグラさんが「マチュピチュのビールがあります」と教えてくれました。その「クスケーニャ」という銘柄のビールをいただいて飲んでみると、真っすぐな味わいで飲みやすく、早速気に入ってしまいました。
フードメニューの中から、「タヤリン・サルタド(麵入りの野菜炒め)」と、トルティーヤの中に鶏肉やチーズが入った「ケサディア」を注文しました。先に運ばれてきたケサディアは、しっかりと厚みがあり、ボリュームたっぷり。唐辛子のソースをつけるといいお酒のつまみになります。タヤリン・サルタドの見た目はパスタか焼きそばかという感じで、普段自分が食べているものとそれほど変わらぬように思えたのですが、しっかりとした酸味とショウガの風味を感じる味付けが自分にとっては新鮮で、とても美味しかったです。
グラさんに聞くと、ご夫婦が日本に来たのは20年ほど前のことなのだとか。大阪で暮らしながら日本人が経営するレストランで働いていた際、月に一回、ペルー料理を作って提供する機会があったそう。それが好評で月に2回、3回と増え、オーナーの協力もあってこの場所にお店を構えることになったといいます。
お客さんは近隣の人が中心(豊中市役所の職員の方々にも愛されているとのこと)ですが、最近では海外からの観光客も来店するとか。グラさんは岡町の落ち着いた雰囲気が好きなのだそうです。店内ではグラさんが手作りしたカラフルな雑貨も販売されています。ペルーで買ってきたという古い生地を使って作られたポーチが可愛くて、お土産に買わせてもらいました。
グラさんいわく、ペルーにはマチュピチュ以外にも古代の遺跡がたくさん存在し、見どころがたくさんあるのだとか。いつか行ってみたいなと思いつつ、店を後にします。ちなみにお店のメニューの中では、魚介類のマリネ的な料理である「セビッチェ」や紫トウモロコシのスープがおすすめだとか。ランチセットもお得だそうです。
駅の西側は古墳群もある閑静な住宅街
再び岡町商店街、桜塚商店街あたりを散策しつつ、今度は駅の反対側、西側を歩いてみることにしました。人通りの多い東側とは違い、西側は静かな住宅街といった雰囲気です。大きな邸宅も目立ち、「もし、こんな家で暮らせたら……」と想像を膨らませながら歩きました。
そんな住宅街に緑の茂った一角があり、その前に「史跡大石塚小石塚古墳」という文字の刻まれた石碑が立っていました。4世紀から5世紀にかけて、この地には多くの古墳が築かれたそうで、今もそのうちのいくつかが遺されています。
「大石塚古墳」と「小石塚古墳」の間の敷地は公園になっていて、学校帰りの子どもたちやお年寄りがベンチに座ってくつろいでいる姿がありました。すぐそばには「豊中市立伝統芸能館」という施設があり、寄席が行われたり、地域の方がホールとして利用できたりもするようでした。
「豊中市立岡町図書館」の前を通りかかると、館内に「名誉市民 山田洋次ライブラリー」と書いた看板が見えました。後で調べてみたところ、『男はつらいよ』シリーズなどで知られる山田洋次監督は岡町の出身で、豊中市から名誉市民の称号を授与されているそう。図書館内には山田洋次関連の資料をそろえたライブラリーが開設されています。
駅の西側を引き続きうろうろ歩いていると、「やじろ兵衛」という居酒屋の軒先にのれんが出ているのを見つけました。入ってみると、カウンターにお惣菜がたくさん並ぶ、なんともいい雰囲気のお店です。
店主の敏子さんはさっき歩いた図書館のすぐ近くで生まれた生粋の“岡町っ子”で、「もうすぐ80歳ですよ!」と教えてくださったのが信じられないほどに若々しくお元気そうです。
「やじろ兵衛」は創業40年になるというお店。その時々の日替わり惣菜、ポテトサラダや糸こんにゃくのような定番惣菜がたくさん並び、焼き魚や揚げ物などの一品料理もあって、どれを注文しようか迷ってしまいます。
糸こんにゃく、たこの酢の物をいただくと、どちらも盛り付けがサービス満点でうれしい限り。生ビールで乾杯した後に頼んだレモン酎ハイの焼酎の量もたっぷりで、「うちのは濃いかも!私がお酒飲まへんから、ええ加減でね」と敏子さんは笑います。
「岡町は昔からこんな感じです。特にこっち(西側)は住宅街で静かでね。うちのお客さんには市役所の方も多いんです。仕事が終わって帰る前に一杯飲んで行く時に、役所の近くより、少し離れた場所の方が行きやすいんでしょうね」
店名の「やじろ兵衛」は「傾いてもまた戻れるからって、それでつけたんです」とのこと。近隣に住むご常連さんが多く、取材時も周りの方がみな30年、40年と通っていると話してくれました。中には若い頃に九州から働きに大阪に出てきて、以来ずっと岡町に住んでいるという方もいて、「この辺りはあちこちの土地から来た人が多いからな」と、そんなお話を聞きつつお酒を飲みました。
お客さんはみな、敏子さんとの会話を楽しみにして来ているようです。ご常連さんが「この店はな、ビシッと言われるから、あんまり酔っぱらったら追い出されんねん(笑)。店も料理も、昔っからずっと変わってないもんな。変わったのはママの年齢だけや。まあ、そんなこと言ったら引っぱたかれるんやけどな(笑)」と言い、「こんなお客さんにビシビシ言うのがうちの店!」と敏子さん。
「生まれたのが岡町やから、住みやすいのかどうかも、これが当たり前過ぎてわからんぐらい」と語る敏子さんは今、4歳になるひ孫さんが可愛くて仕方ないそうで「毎週ここにご飯食べにくるんです」と、それをとても楽しみにしているようでした。
アジの干物を焼いてもらい、さらに濃い目のレモン酎ハイをもう一杯追加します。常連さんに岡町のおすすめのお店を教わり、「岡町、またすぐに来なくては」と思いつつ、幸せな酔い心地に身を任せました。
岡町駅周辺物件情報
岡町駅は豊中市の中央部に位置する駅です。西側には大阪国際空港、東側には服部緑地があり、国内はもとより海外への移動にも便利な町でありながら、大きな公園もあり住環境としても住みやすい街です。気になる家賃は、ワンルーム6.19万円、1K5.45万円、1DK 5.48万円で、1LDKなら9.37万円、2DKが6.31万円、3LDKは14.5万円となっています(2025年6月時点)。岡町を含む阪急宝塚線の大阪府内にある駅は、どの駅も梅田までの所要時間が短く、各駅停車のみ停車する駅でも通勤・通学に便利です。
スズキナオさんによる人気連載が書籍化! 加筆修正を大幅に行ない「大阪環状線」1周の降りて歩いて飲んでみるが楽しめます。