奄美大島「児童養護施設」での性教育 医師が子どもたちへ「将来の夢」を聞いたその理由
性教育について、奄美大島の産婦人科医・小徳羅漢先生に取材。島唯一の児童養護施設の子どもたちへ行った実践編。本当に役立つ性教育の内容について。(全2回の2回目)。
見る➡男の子の【精巣捻転】とは? 6時間以内に緊急手術をしないと「精巣・金玉・睾丸」が失われる危険性 泌尿器科医が詳しく解説産婦人科医・小徳羅漢先生に、奄美大島唯一の児童養護施設で行った性教育について聞く連載2回目。今回は、授業を受けた子どもたちの反応、そして島での今後の取り組みについて伺いました。
「妊娠・セックス」だけではなく「自分の健康を守る」ことも性教育
──今回の児童養護施設の性教育では、実際にどのような授業をしたのですか?
小徳羅漢先生(以下、小徳先生):今回は、性的マイノリティであるLGBTQなども含め、もっと広い意味での性教育を行いました。
性教育というと妊娠・出産や生理、セックス、性感染症などをイメージするかもしれませんが、実際にはもっと幅広い内容が含まれています。
例えば、自分の健康と幸福、尊厳を守ることや尊重された社会的・性的な関係を育てることなども、広い意味では包括的性教育です。
つまり、ひと言で言えば性教育とは、自分自身や自分の大切な人を守るために必要な知識です。子どもたちには自分自身がかけがえのない存在であることを知ってもらい、自分自身を大切にできるようになってもらいたいと思って授業をしました。
オンライン取材中の小徳羅漢先生。
「保育士になって白百合の寮に戻りたい」という生徒も
──具体的な内容を教えてください。
小徳先生:まず、子どもたちに将来やりたいことや夢を聞くところからスタートしました。自分の夢を大切にすることは、自分自身を大切にすることにつながるからです。
一人ひとりに夢を聞くと、皆、夢中になって将来の目標を話してくれました。彼らの目標は、看護師や教師などさまざまです。中には保育士になって「自分が育った白百合の寮に戻って恩返しがしたい」と言う生徒もいました。
そのようにそれぞれの夢や目標を話し合ったうえで「もしも、予想外の妊娠などが起きたら、その夢を叶えることが難しくなってしまうかもしれない。だからこそ、そうならないためにも、正しい知識を身につけることが大切だよね」というと、皆、とても素直に話を聞いてくれたのです。
純粋な子どもが社会で傷つかないための「性教育」
──子どもたちの反応はどうでしたか?
小徳先生:どの子も、本当に真剣に話を聞いてくれて、とてもピュアな心を持っていることが伝わってきました。本音を言えば、「もっと反抗的な態度を取られるかもしれない」と心配していたのです。
思春期の少年・少女たちですから、大人に対して反抗的になっても不思議はありません。しかし、実際にはまったく心配は不要でした。
同時に「このように純粋な子どもたちだからこそ、何も知らないままで社会に出て傷つくようなことがあってはいけない」とも強く思いました。彼ら、彼女らが身を守るためにも、性に関する話題を避けることなく、もっとオープンに話していくことが必要なのです。
また、女性職員からは「性の話をこんなにフラットに話していいんだとわかりました」などと言ってもらうことができました。やはり女性同士であっても、なかなか性のことは話しにくいのだと改めて感じました。
写真:maruco/イメージマート
傷つけない伝え方を考え「一人反省会」も
──やっぱり、性教育はすべての子どもたちに必要なことなのですね。
小徳先生:はい。ただ一方で、自分の伝え方が本当に適切だったかどうか、毎回、授業が終わるたびに「一人反省会」も開いています。
授業中、ふといなくなってしまった生徒がいました。もちろん、授業を受けるのも受けないのも自由ですから、それはまったく構いません。
ただ、児童養護施設にはさまざまな背景を持つ子どもたちが過ごしているので、もしかしたら自分の伝え方で彼女、彼らを傷つけてしまったのかもしれない──。そんなふうに思って、いつも終わると反省会を開くのです。
次なる取り組みは特別養護学校での性教育
──小徳先生の次なる展開も気になります。
小徳先生:実は、特別養護学校からも授業の依頼が来ています。重度の心身障害などを持つ子どもたちに、「何を」「どのように」伝えるかはとても難しい課題ですが、前向きに取り組んでいきたいと思います。
性教育は年齢、性別を問わず、生きていくためにすべての人にとって必要な知識だからです。
──最後にメッセージをお願いします。
小徳先生:今後は現場で性教育に関わる保健体育の先生など、さらに連携の輪を広げていきたいです。そして、奄美大島の取り組みを鹿児島県全体へ、そして全国へと広げていきたいと思っています。
そうすることで、悲しい思いをするママやパパ、子どもたちを一人でも減らすことができればと願っています。
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「すべての子どもたちが自分を大切にできるようになるために」。離島で奮闘を続ける小徳先生。小徳先生の挑戦が、奄美大島からやがては全国へ広がることを願ってやみません。
小徳先生の夢が叶うその日まで、私たちもずっと応援し続けたいと思っています。
取材・文/横井かずえ