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田舎暮らしは誰をも無邪気に若くしてくれる/自給自足を夢見て脱サラ農家40年(80)【千葉県八街市】

田舎暮らしの本

田舎暮らしは誰をも無邪気に若くしてくれる/自給自足を夢見て脱サラ農家40年(80)【千葉県八街市】

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人生のネジが1本足りないか
ただヒネているだけか
世の習わしに遅れをとる、あるいは背を向ける
紅白歌合戦を見ず、元旦におせち無く
昨日の1日を丸写し、ランニングして朝食は・・・
畑の野菜と卵と好物のパン、そして珈琲
食べたらふだん通りに鍬を手にして畑に向かう

あっ、新年の光、そんな意識は野菜にはなかろうが
ともあれ急ぎビニールトンネルを開放して初詣を
朝一番の光を、皆に浴びさせてやらねば
固定のビニールの上に加え毎夕防寒シートを2枚
どれどれジャガイモたちよ、新年おめでとう
出荷作業で袋から転がり出た春ジャガイモ
威勢良いその発芽に心動かされたのは11月
米ぬかを入れ、黒マルチをして・・・今
その姿は小さな春だ、ここだけの迎春だ

胸ときめく、世の習わしに遅れをとる男の胸が
ジャガイモごときで、熱くときめく
7年ほど前か、姉の夫の葬儀に普段着で行った
礼服というものがもとより無いゆえに
喪服ばかりの中に普段着の百姓がひとり
まさしく礼を欠く姿であれど仕方がない
誰かが作ったおみくじなるものに
吉凶をゆだねる、それもよし、でも百姓は
凍える手で朝夕シートを掛けては外す日々
ジャガイモの姿で今年の吉凶を占う
ジャガイモのみならず、畑すべての野菜たちよ
新年おめでとう、本年もよろしく

気温と雨に翻弄された年の瀬

メリークリスマス

12月の天気としてはちょっと例年と違う。晴天と雨天が交互。気温7度で雨の昨日は師走に入って最もシンドイ1日だった。毎年この時期は大きな作業が入り乱れる。寒さの中で生育を維持させる野菜が多く。と同時に年明けに始まる新しいタネまきの準備もある。新しいタネまきとはビニールハウスの中での人参と大根、それにジャガイモだ。

その準備のためにまずやるのが畑の清掃。夏草や、夏物野菜の残渣、さらに剪定した果樹の枝を1か所に集めて燃やす。風がある日はもちろんだが、空気が乾燥した日も大きな焚火には危険が伴うのでやらない。あえて雨上がりのドンヨリ湿っぽい日を選んで火をつける。

相変わらず、こんな寒さの中でもイチゴ作りに奮闘している。大変な手間と時間であるクセに、さらに鉢の数を増やして今26鉢。両手に2鉢持って毎朝、毎夕、部屋と庭を13往復する。いちいち履いている靴を脱ぐのは面倒ゆえ、泥靴のまま廊下を歩く。きれい好きが見たら卒倒するかも・・・でもいいの、この上の写真、可愛いくて綺麗でしょ。氷の張る気候の中でのこの花、そして赤い実。文句ない楽しさ、面白さ、それがゴミ屋敷ならぬ泥屋敷の惨状を上回ってお釣りが来るのです。

もはやこのトシでは、サンタさんは来てくれないし、プレゼントもない。でも、今宵は独りサンタさんになって、プレゼントを1つだけ届けよう、自分に届けよう。もらって嬉しいのは、この下の写真みたいな情景。仕事を終え、風呂で全身の汚れを大きなタワシでごごし落としてから飲む安物ワイン、その心地よき酔いの中で眺める情景。畳1枚サイズの電気カーペット。そこに並ぶバナナ、キノコ、イチゴ、カイワレ大根、それらが照明に浮かぶ。サンタにもらって嬉しいプレゼントとはこれなのである。

プレゼントは誰かからではなく自分に贈る

キラキラ光っているものは どうしてもどこかに影をつくる 影しか見えない人だっているんだよ

一昨日、朝日新聞「素粒子」が引いていた谷川俊太郎さんの詩である。今まさに都会の夜はきらびやかであろう。現在の僕はテレビでしか目にすることはないが、なるほど、師走から正月にかけての都会の夜は確かに美しい。そして、巧みな演出の世界だなあという情も僕には沸く。その都会のイルミネーションには負けるが、日暮れ時の焚火の炎も美しいよね。寒い体を暖めてくれるだけでなく、無音、無人、暗闇の中での焚火は人の心を静めて暖める。

田舎暮らしにおいて思うこと。美しさ、驚き、コーフン・・・そういったものを誰かの作品によって得ようとする人間の気持ちである。キラキラ光るものを好むことである。その前に、まず自身の作品に取り組んでみてはどうか。田舎暮らしには、その気さえあればいくらでも手掛けるべき作品がある。

細菌万歳

免疫と細菌に教えられること

12月29日。思い出すのはサラリーマン時代の仕事納めである。ふだんより2時間くらい早く仕事を切り上げ、デスク周りや足元の床を掃除する。間もなく少量のアルコ―ルとつまみが並べられ、経営者が1年間ご苦労様の言葉を述べる。それで家路にとなればいいのだが、月刊雑誌を担当している僕はそうもいかなかった。

仕事納めと年末の掃除・・・今はトンと縁がない。常より部屋は乱れているが、特に今は、床に電気カーペットを敷き、泥靴で運ぶ鉢植えのイチゴ26個でもって混雑している。部屋の3か所に産卵場所もある。おいでと言ったわけではないが、衣類の入った段ボール箱に卵を産むためニワトリたち10羽くらいが出入りする。ニワトリは泥足だし、ときにはウンチを落としても行く。

どうにも不衛生ではある。しかし、そう心配することはないよ、むしろいいことかも・・・そんな援軍が現れた。援軍とは、マリー・モニロ・ロバン著『細菌万歳!  細菌たちが地球を守る』という本である。

牧場の近くで生まれ育ち、日常的に家畜に触れながら生活する人は、都市で生きている人たちに比べアレルギーやアトピー、肥満といった炎症性の症状を発する率が低いという。農場のホコリには都市で見つかるホコリには見られないような多様な微生物が大量に含まれている。農場で生活する人のベッドにはそれら微生物が住み着き、それが住人の体内における微生物多様性を増やす。結果、幼少から触れることで免疫が形成されるのだという。

不衛生のようでいて強さを育む暮らし

勇気をもらったついでだ、正直に話そう。うちの庭には日暮れとともに地面を覆いつくすほどのゴキブリが現れる。日暮れとともにとは、夜行性という理由の他に、ニワトリたちが寝てしまい、ゴキたちは食われる心配がないと考えているのだと僕は思っている。それにしても、なぜこれほどまでの数がいるのか。

玄関から5メートルの距離である3方向。そこにニワトリたちが常に糞を落とす。そこに僕は出荷する際に切り落とした大根、白菜、チンゲン菜、ブロッコリーなどの葉をあえて落とす。ニワトリたちの餌であるコメぬかや台所から出た残りものをも毎日まく。すなわち、これでほとんど労せずして野菜への肥料が出来上がるわけだ。

ゴキブリはそれを狙う。ニワトリが寝た後、大軍団が登場する。当然ながら部屋の中にも無数、侵入する。僕は長年の経験で、あの素早いゴキブリを足で踏みつぶす。入れ物があって、つぶしたゴキブリをためておく。次の日、ニワトリたちに食べさせる。えっ、ゴキブリを? 驚く人もいようが、そもそもニワトリは昆虫が大好き。バッタ、カマキリ、トカゲ、ハサミムシ・・・大騒ぎして奪い合う。ゴキブリも昆虫なのだ。

ゴキブリがどれだけいようとも、僕はスプレーのようなものは使わない。前に書いた。医学雑誌の編集に関わっていたクセに医者とクスリが好きじゃない。畑に除草剤や害虫防除の農薬を使わないだけでなく、僕自身、クスリを全く飲まない、飲む必要がない・・・上に書いたように、子供の頃から汚いことが平気だったゆえ高い免疫力を得たからかもしれない。

コロナ禍以後、除菌と殺菌が過熱した。しかし、身辺を過剰に清潔にすると人体は脆弱になる。農業における畑土も同じ。多くの微生物が存在することこそが自然なのだ。僕が除草剤を使わないのはその微生物と共存する暮しを望むからだけでなく雑草たちに対し、”飛び道具”で一気にやってしまおうという態度はフェアじゃない。素手で戦うべきじゃないかとの思いもある。自分の手で抜き取る。抜き取った草の山に鶏糞やコメぬかをまく。草はゆるやかに分解して土となり、出来上がった栄養を食して微生物が増殖する。田舎暮らしとは、都会生活ではふだんあまりない足元の土の奥深くへの意識を与えてくれる。

田舎暮らしは誰をも無邪気で若くする

年越しも普段のまま生きること

2025年がもうじき終わる。百姓になって40年。僕には大晦日も元日もなく、お節料理にも縁がない。ふだん通りにランニングし、ふだん通りに畑に出て働き、ふだん通りに畑から収穫したものを食べて元旦の光を浴びる。

味気ないヤツだと思われるだろうが、初詣はしたことがなく、当然ながらおみくじというものも引いたことがない。へそ曲がりなんだろうか・・・いや、もしかしたら予定調和的な幸福風景が肌に合わない、あるいは、にぎやかな場所が単に苦手な性分かも。

こんな風変わりな男の体に一貫して流れ続けたのが土に接して生きる、田舎暮らしへの願望だった。前にも書いたように、虫、鳥、魚、泥遊びが好きな子供だった。僕が生まれた家は商店をやっていた。廃業後、使われなくなった菓子や飴玉の入った大きなガラス瓶がいっぱいあり、ショーケースもあった。そこでメジロ、デンデンムシ、ドジョウ、アリ、時には海でつかまえたタツノオトシゴなんかを飼った。世間と距離を置き、ひとりコツコツという精神はその頃からずっと続いている。

動物も植物も暮らしの仲間になる

大晦日の今日も、ヒヨコたちへの朝食を持ってバナナハウスに入る。大きい茶色がママで、その子、8羽のヒヨコはなんと全員メスである。生後すぐからボディータッチし、話しかけてもきたから僕がおはようと言って手を差し出すとつんつんとクチバシでつつく。

ヒヨコに朝食を与えてからバナナを観察する。毛布を2枚巻き、電気毛布を巻き、その上から厚手のカーテンが縛ってある。高さ2メートル。ちょっと葉はくたびれてきたが、ちゃんと生きている。無防備ならとっくに枯れているだろう。

このハウスから外に出せる日まであと100日くらいか。長丁場である。しかし、いつか自前のバナナを朝の食卓に並べるぜ。辛抱強くその時を待つぜ・・・落ち着きがない、せっかち、担任の先生からの言葉に母は泣かされたはずだが、今の僕はじつに辛抱強く、長い時を楽しみながらじっくり待てる。

注文品の発送作業は29日で終了した。少しホッとする。同時に嬉しい。休めるからというわけじゃない。いつも日中の数時間を要する荷造りがないとすると、ふだん気になっていながらやれずにいた作業に徹底できるからだ。発送作業を再開する前日1月3日までの5日間、存分に仕事ができる。それで心がはずむのだ。

若さは暦ではなく感性に宿る

元旦。いつものようにランニングする。いつものように、珈琲、パン、野菜、チーズ、卵の朝食をとる。そして、荷造りがないゆえにゆるやかな気持ちで畑に向かう。たぶん、これが皆さんの目に触れる頃、僕は79歳の誕生日である。えっ、79歳? そんなジイサンの書いてるものなんかい、これは・・・20代、30代、いや40代だって逃げ腰になるかもしれない。たしかに、その年齢は僕の孫くらいだものね。

しかしである。たしかに暦年齢ではジイサンだが、アナタが思うよりずっと若い。ランニング、腹筋を日々欠かさず、40キロの荷物を抱えて畑の坂を登れる。畑仕事は365日休みなし。いや、体の若さよりも、僕は気持ちが若いことを若い人たちに強調したい。ひょっこり遭遇したウシガエルやカマキリと遊ぶ。真冬のイチゴ作りに胸ときめかせる。いつか自家製のバナナを朝食に添えるぞ、そんな夢をも抱く。

寒気の中で梅の蕾がふくらむ・・・あと40日するとこの上の写真みたいな風景が訪れる。花と鳥と虫を友とし、青い空に白い雲が浮かぶ風景を喜ぶ。心の若さ、というよりその無邪気さは、もちろん田舎暮らしという人生の選択が授けてくれたものである。

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