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禁煙化で止まらぬ客離れ。串カツ田中を襲う創業以来の深刻な危機

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2018年6月、大手居酒屋チェーンとしては初の禁煙施策をスタートさせ注目を集めていた串カツ田中ですが、現在、創業以来の深刻な危機に陥っているようです。禁煙導入から3ヶ月目には「客数12%増」を実現させた同社に、一体何が起こっているのでしょうか。フリー・エディター&ライターでジャーナリストの長浜淳之介さんが、その原因を探ります。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

串カツ田中を襲う創業以来の深刻な危機

初の禁煙居酒屋チェーンとして知られる、串カツ専門店「串カツ田中」を展開する、串カツ田中ホールディングスが既存店の集客減に悩まされている。同社直営店の既存店売上高は、今年11月で9ヶ月連続の前年割れとなった。しかも11月は最低の前年同月比88.1%にとどまり、11.9%減と上場以来初の2桁減収になってますます悪化している。

既存店とは新規開店した月を除き18ヶ月以上を経過した店舗を指すが、同社直営店の既存店売上高は今年3月に99.6%となって前年を割って以来、一度も前年同月を上回っていない。創業以来の深刻な危機に陥りつつある。

不振の要因は、喫煙者の顧客離れの加速に対して、非喫煙者の集客の伸び悩みに尽きる。「串カツ田中」は2018年6月に居酒屋チェーンとしては初めて、一部の立ち飲み店舗を除く、店内の全席禁煙・フロア分煙に踏み切った。しばらくは好調に推移していたが、突如変調をきたした。

テイクアウト可と全席禁煙が強調された店舗

既存店客数も4月以降は、8月に101.7%と一時的に回復した以外はずっとマイナスなのである。11月の既存店客数は9.2%減とやはり上場以来最悪の落ち込みで、3ヶ月連続の前年割れだ。顧客単価も下がっており、過去1年で既存店単価が前年を上回ったのは9月の100.9%のみだ。過去1年で3.3%減っている

もっとも出店を重ねて、全店の売上高と客数は、今も2桁以上の高い水準で、前年同月を上回り続けている。18年11月に218店だった店舗数は、19年11月には273店に増えた。1年で55店の増加だ。そろそろ飽和に近づいているのかもしれない。

もちろん、同社の経営陣が無策だったわけではなく、毎月のように串カツ100円セールを実施したり、3世代で楽しめるように子供向けのメニューを充実させたりと、集客浮揚策を打っているが一向に燃えない。

ソース2度漬け禁止の串カツ

2度漬け禁止のためキャベツを利用することも可能

マニアックな嫌煙家たちばかりが、串カツ田中を支持したわけでもない。望まない煙草の煙を吸って肺癌などを発症する健康を害するリスクがない居酒屋チェーンができたと、健康増進への意識が高い良心的な医療関係者、知識層にも絶賛されていた。実際、受動喫煙に対して健康への影響が大きい、子供たちを守る観点から、ファミリーで利用する飲食店を禁煙にするのは、必要な措置である。意識が高い人たちが継続的に利用してくれれば良かったのだが、一体どこに消えてしまったのか。

2020年4月になると、健康増進法が一部改正されて、飲食店は原則屋内禁煙になり、喫煙専用室内でのみ喫煙可となる。資本金5000万円以下の中小企業(大企業の系列でない)が経営する、客席面積100㎡以下の既存店ならば、喫煙可と掲示の上、20歳未満の顧客と従業員が立ち入れないという条件で、喫煙可にできるといった抜け穴はある。しかし、名だたる飲食企業の居酒屋チェーンは、全て禁煙になるわけだ。違反者には最高で50万円の罰金が科される。そうなると、禁煙が売りであった、「串カツ田中」の競争優位性がなくなってしまう懸念がある。

同社の2019年11月期第2四半期決算説明会で、貫啓二社長は「来年4月になると、条件が同じになるので率先して禁煙化に取り組んだ弊社は有利になる」などと自信を示していたが、それどころか一斉にどの居酒屋チェーンも原則禁煙になってしまったら、埋没してますます売上が落ちるのではないだろうか。

貫啓二社長

禁煙化以降、しばらくは串カツ田中の業績は好調で、禁煙化に踏み切った18年6月こそ既存店売上高が97.1%と前年を割れたが、以降は7月101.9%、8月109.7%、9月95.3%、10月111.6%、11月99.0%、12月113.7%となって、9月がやや不振だった以外は、順調な集客だった。19年に入ってからも、1月102.8%、2月103.2%と前年同月を上回っており、3月も前年を割ったとはいえ、99.6%と微々たるものだった。まさか、ずっと売上減が続くとは思いもよらなかっただろう。

18年12月に発覚した、FC(フランチャイズ)加盟店の横浜市内4店で、監視カメラを従業員に知らせないで更衣室に設置していた、いわゆる盗撮問題が発覚したが、同社は即刻この加盟店を契約解除している。加盟店は盗難があったので、監視カメラは盗難を防止する目的と釈明したが、断固たる態度で示した。本部の直営店が起こした問題でもないし、1月、2月の集客からも、これが業績に響いたとは考えにくい。

串カツ田中は世の中の制度の変化をいち早くキャッチして、販売促進を仕掛けることに長けた会社だ。最初に大きく成功したのは17年に始まった「プレミアムフライデーキャンペーンである。経済産業省が経済団体と組み、働き方改革の一環として、毎月最終週の金曜日、午後3時に仕事を終わることを奨励。消費の喚起も狙ったものだった。しかし、「プレミアムフライデー」を実行する企業は5%にも満たないと言われ、失敗している。

ところが串カツ田中は、2月に「プレミアムフライデー」が始まるのを前倒しして、1ヶ月前の1月に「フライングフライデー」を開催。午後3時にオープンし、通常は最低でも1本120円する串カツを、100円で提供するなどした。これが各種メディアに取り上げられ、「プレミアムフライデー」に熱心な会社というイメージを、世間に植え付けることに成功した。現在も、同社は「プレミアムフライデー」企画を律儀に続けており、直近は12月20日に、午後3時にオープンし、200円以下の串カツ全品を100円で提供している。

プレミアムフライデーの取り組み

串カツ田中は決して禁煙しか取り柄のないチェーンではない。嫌煙家たちのプロパガンダによって、禁煙化のみ、切り取られて語られるようになったのが、串カツ田中の悲劇である。「お店で煙草が吸えないならもう行かない」と喫煙者が離れていった代わりに、ファミリーをはじめ非喫煙者へと顧客は入れ替わっているが、新しい顧客が定着するまでは相当な時間が掛かる模様だ。

もっとも串カツ田中側は当初より、すぐに結果が出なくても、子供連れの家族を大切にすれば、串カツに親しんだ子供は大人になってもずっと食べ続けてくれると、長期の戦略に基づく旨の発言をしていた。1号店が世田谷区内の路面電車が走っているローカルな住宅街にあり、当初からファミリー客が多かったのも、禁煙化を後押しした。イデオロギーではなく、極めて現実的な差別化の施策だったのである。

串カツ田中の郊外店舗

しかし、長期の戦略に基づく禁煙化だと言っておきながら、目先の売上をあまりに気にし過ぎている。禁煙化以来、串カツ100円セールを連発するようになり、それも期間が長期化する傾向が続いている。これはチェーンがFC化を進めたために、短期の回収を求めるFCオーナーのニーズに応えざるを得ない事情を反映しているように見える。その結果、常時、月の3分の1~4分の1くらいが100円セールと、割引ばかりしているので、消費税引き上げのようなここぞの時の値引きキャンペーンが、効かなくなってきているのだ。

たとえば、禁煙化した18年6月では1日~14日に「感謝祭キャンペーン」と称して串カツ全品を100円で提供したのはまだしも、22日~30日にチラシ・画像を提示した人限定だが「200店舗達成記念キャンペーン」でドリンク200円に割り引いて提供している。通常は「角ハイボール」で390円である。200店舗達成記念は第2弾もあり、7月1~8日で串カツ全品が100円になった。同年9月には「禁煙化感謝祭」と銘打って3日~14日の平日は終日、土日は17時まで串カツ全品を100円で提供している。この頃は、既存店売上も好調だったので、これで良かったのだろう

既存店売上のマイナス傾向が定着した19年6月には21日~30日に、「東証一部上場記念特別キャンペーン」と称し、串カツ全品100円またはハイボール何杯でも100円のキャンペーンを実施。7月からは500円で「田中で飲みPASS」という1ヶ月有効の定期券を購入すると、400円以下のドリンクが1杯199円となる、ドリンク割引の定額サービスを始めた。会員数は10万人超えと好調という。翌7月22日から8月9日にかけて、串カツ全品100円に加えて、「田中で飲みPASS」でドリンクが199円になる、串カツ田中史上最強コスパキャンペーンを実施した。そればかりではなく、8月19日~31日にも串カツ全品100円を「真夏の串カツキャンペーン」と称して実施した。19年8月は、通常の価格で営業したのは、なんと10日~18日の9日間だけだ。

19年8月からは、平日食べ放題も導入した。前日までの予約必須の1日30名・午後6時までの来店者限定で大人1480円(小学生以下割引あり)の串カツ食べ放題、大人2180円(同)のほぼ全品食べ放題も始めたが、すべからく効果が出ていない。もう何が本当の値段なのか、価格が崩壊している

消費税引き上げ後のテコ入れとして、19年11月には、“1111”が串カツの串が並んでいるように見えることから「串カツ田中の日」と称して、11月11日の1日から8日までは串カツ全品100円、9~10日は休日ながら串カツ全品1480円の食べ放題、11日はさらにお得に串カツ全品1111円の食べ放題を実施している。9~10日と11日のキャンペーンは1日限定20人で、Web予約を必須とした。「串カツ田中の日」は5回目だったそうだが、これまた全然効かなかった

串カツ全品100円、食べ放題、ハッピーアワーと割引キャンペーンが満載

結局、串カツ田中は、煙草の煙がない空気のきれいな居酒屋だからこそ行きたいと強固に主張する嫌煙家たちに見捨てられたのだ。嫌煙家たちは自分たちの禁煙イデオロギーを通すために串カツ田中をネタに使い、薄情にも飽きてしまった。彼らがしっかりと支えればこうはならない。

串カツ田中が率先して禁煙化に踏み切ったのは、「プレミアムフライデーの成功体験によっている。つまりリスクを取ってファーストペンギンになることで、企業イメージを上げて、売上を伸ばそうとした。ところが、あまりにも値下げキャンペーンを連発し過ぎて、価格崩壊を起こしてしまっている。

串カツ全品100円は「プレミアムフライデー」に一本化し、ドリンク割引は「田中で飲みPASS」に一本化するなど、特に同社のサイトやツイッターをチェックしていない人でも、誰でもわかるようにしないと、割引を受けた人とそうでない人の不公平感が生じてしまう。

気になるのは新商品のキャンペーンが、全くと言っていいほどなされていないことだ。目新しいメニューがなくて、頻繁に割り引いている居酒屋と、顧客にみなされてしまっている

風情ある京都・三条木屋町店外観

新商品でなくても「串カツ田中」には顧客がセルフでジャガイモを潰して食べるポテトサラダ、セルフで焼くたこ焼きなど面白い体験型メニューが幾つかある。南大阪の名物、かすうどんだって売りのはずだ。

かすうどん

なぜ、アピールしないのか。

image by: 長浜淳之介

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