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国の「重要文化的景観」に選定された<葛飾柴又>の知らなかった楽しみ方

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国の「重要文化的景観」に選定された<葛飾柴又>の知らなかった楽しみ方

2018年2月、「葛飾柴又」は東京都で初めて、国の「重要文化財的景観」に選定された。この冠は、〝風景の国宝〟と言ってもいい。歴史のある柴又帝釈天と参道の情緒と佇まい、映画『男はつらいよ』シリーズの舞台となって主人公の寅さんも愛した、矢切の渡しのある江戸川の土手の風景、そこに生きる人々の営み…。温かい町の魅力を感じながら「葛飾柴又」を歩いてみた。

帝釈天につながる参道の風情が温かい

「葛飾柴又」へは、京成金町線「柴又」で下車する。約2.5㎞という京成金町線は、京成高砂と金町を結ぶ長閑な住宅地を走る単線の路線である。瓦葺風の駅舎「柴又」は、平成9年(1997)には「関東の駅百選」に選定されている。駅を出ると出迎えてくれるのが「フーテンの寅像」と「見送るさくら像」だ。言うまでもなく「柴又」は、国民的映画の『男はつらいよ』の舞台であり、寅さんの〝ふるさと〟なのである。

 旅に出る寅さんが、さくらの方を振り返ったシーンをモチーフとした寅さんの銅像は、平成11年(1999)に地元商店会と観光客による募金によって建てられた。振り返る寅さんの視線の向こうにさくらがいて欲しいという多くの人の願いから平成29年(2017)3月に「見送るさくらの像」が完成し、山田洋次監督、さくらの倍賞千恵子らによる除幕式が行われた。

「さくら、行ってくるよ」

「お兄ちゃん、今度いつ帰ってくるの。待っているわよ」

 そんな会話が聞こえてくようだ。

 2人の像を後にすると、ゆるやかに曲がった帝釈天への参道につながる。約300メートルの参道には、戦火を逃れた老舗も多く、下町情緒がただよう懐かしい町並みは温かみがあって人心地がつく。参道は町と人と生活が一体となっているからだろう。

 柴又名物と言われる、鰻、鯉、ドジョウなどの川魚料理、草だんごやおせんべい、くずもちなどのお店が軒を連ねる。風情のある佇まいも魅力的な川魚料理の川千家(かわちや)は創業250年を超える老舗だ。

 参道をはさんで両側に建つ「髙木屋老舗」は、木造瓦葺で明治と大正時代に建てられた。寅さんの実家のモデルとしても知られ、店内には、『男はつらいよ』の渥美清や山田洋次監督、歴代のマドンナの写真やサインが飾ってあり、食事をしながら楽しむこともできる。草だんごのお店は、映画の撮影でも使われた「とらや」や他に「ゑびす家」「大和家」「吉野家」「亀家本舗」とあり、それぞれの店の特徴があるので食べ比べも面白い。

 帝釈天の二天門近くまで行くと、こちらも柴又名物で老舗の民芸品「はじき猿」で知られる「園田木彫店」がある。指でバネをはじくと、小さな猿が飛び跳ねる仕掛けで、「運を跳ね上げる」「災難をはじき去る」という縁起物だ。

お参りだけではもったいない帝釈天

『男はつらいよ』の主人公・車寅次郎(寅さん)が産湯をつかったという御神水があり、笠智衆演じる御前様、佐藤蛾次郎演じる寺男・源公が今にも出てきそうな「柴又帝釈天」。その歴史は400年近くに及ぶ。

「帝釈天題経寺」は日蓮宗の寺院で正式には「経栄山題経寺」という。開山は、下総中山の法華経寺第十九世禅那院日忠上人による。開基は第二代題経院日栄上人が、葛飾柴又へ寄った際、見事な枝ぶりの松の木(隋龍の松)と、その下に霊泉が湧いているのを見つけ庵を開いたことが経栄山題経寺、柴又帝釈天のはじまりで、寛永6年(1629)のことである。日蓮上人自らが刻んだと伝えられる「帝釈天の板本尊」が安置されていたがこれが中世になって一時所在不明になってしまった。第九代の日敬上人のときに、本堂を修理したところ板本尊が発見された。これが安永8年(1779)の春、庚申(かのえさる)の日であったことから、柴又帝釈天では、「庚申の日」を縁日とし、60日ごとに開かれる。

 板本尊が発見されて間もなく、「天明の大飢饉」が起こり飢饉や疫病が流行った。このとき住職だった日敬上人が板本尊を背負い、「南無妙法連華経」と唱えながら苦しんでいる人々を救済して歩いた。さらに、庚申の日に夜通し眠らず、身を慎めば長生きできるという、「庚申(こうしん)信仰」が盛んになって、「柴又の帝釈天が庚申の日に出現した」と広まり、「庶民の寺」として信仰を寄せるようになった。

 その後明治22年(1888)には、本堂の拝殿を建て替え、庫裏も新築し、明治29年(1896)には、現在の二天門が完成した。その後、大正時代になると帝釈堂内殿が増設され、昭和30年代には大鐘楼堂、大回廊が完成。さらに昭和40年(1965)から3年をかけて、大客殿前の庭園を大改修して池泉式庭園の「邃渓園(すいけいえん)」が完成した。庭園の滝が幽邃で物静かであることから「邃渓園」と名づけられたという。昭和59年(1984)には庭園の周りに回廊が設けられ、庭園に降りることはできないが、全方向から眺められるようになっている。また、大客殿は平成14年(2002)、東京都の歴史的建造物(選定番号48)に指定された。大客殿は全て檜で造られており、特に座敷4室の奥に位置する「頂経の間」の「南天の床柱」は、樹齢1500年の南天の自然木が使われており見事だ。

江戸期建築の最後の名匠と言われた坂田留吉棟梁によって造りあげられた「二天門」は総欅造り。門前通りの正面に聳え立ち、この門をくぐると瑞龍のマツ、帝釈堂が目前に現れる。(画像提供:帝釈天題経寺)

邃渓園は、向島の庭師・永井楽山の設計による。

〝彫刻の寺〟帝釈堂にはアートがある

 柴又帝釈天は、「彫刻の寺」という異名も持つほど、二天門をはじめ境内のお堂は彫刻で飾られている。とくに帝釈堂内陣の外側にある10枚の胴羽目彫刻は、法華経に説かれる代表的な説話を選び、大正11年(1922)から昭和9年(1934)にわたり制作されたものだ。

 胴羽目彫刻は大正11年に加藤寅之助が「法師守護の図」を完成させ、残りの9枚を東京在住の彫刻師に依頼することが決まった。ところが翌年の大正12年に関東大震災に遭い、彫刻材が焼失するという被害に見舞われた。そこで改めて全国から彫刻材を求め、昭和元年から彫刻工事が始められたのである。

 彫刻師それぞれが、厚さ約21センチ、縦127センチ、横227センチの欅板に彫った胴羽目彫刻は、実に緻密で、法華経の経典を知らなくても、ストーリーに惹き込まれ、見ているとつい手を合わせたくなる。寸分違わない立体感が表現され、往時の彫刻師たちのプロとしての矜持が胸に迫ってくるのだ。

 帝釈堂は長年吹き曝しだったが、平成3年には彫刻を保護するため、ガラスで覆うようになり、見学者用の通路が設けられて「彫刻ギャラリー」として一般公開されている。(大客殿、庭園、彫刻ギャラリーは有料)

 400年に及ぶ柴又帝釈天題経寺は、年月を重ねるごとに施設も整い、建築物としても興味深く、宗派に限らず多くの人々を楽しませてくれる寺として、葛飾柴又の文化の一翼を担っている。

帝釈天題経寺 
東京都指定名勝「邃渓園」
入園料:庭園、彫刻ギャラリー共通 大人400円、子供(小・中学生)200円
開園時間:9:00~16:00
休園日:12月28日~1月3日(庭園のみ休園)
住所:葛飾区柴又7-10-3

次回は、葛飾柴又の「寅さん記念館」などを中心にお伝えする。

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