「おばけヤダ」とおびえる子のギフトに! “怖くないおばけ”の絵本3選[絵本の専門家が選出]
絵本は、子どもへの贈りものに最適なアイテム。とはいえ、ぴったりな1冊を選ぶのは、なかなか難しいもの。連載【子どもの本のプロが選ぶギフト絵本】では、絵本の専門家が、プレゼントにふさわしい絵本をセレクトします。第24回は、絵本コーディネーターの東條知美(とうじょう・ともみ)さんが、おすすめの“おばけの絵本”をご紹介。
▶画像 相葉雅紀も驚いた『いきもの超ワールド展』(国立科学博物館)を徹底解説!「うれしい」をみんなで分かち合う物語
夏の絵本の定番のひとつ・おばけの絵本。おばけと聞くと、こわ~い絵本を想像される方も多いでしょう。でも、子どもだけでの留守番もあり得る夏休み、怖い絵本では、ますます留守番が不安になってしまうかもしれません。留守番に限らず、トイレやお風呂もおばけが怖いから、ひとりじゃ嫌という子どもも少なくないですよね。
今回ご紹介する絵本に出てくるのは、かわいいおばけ、気配だけのおばけ、子どもを守ってくれるおばけ。怖いおばけは登場しません。優しい気持ちや楽しい気持ちになれる、そんな3冊を選んでみました。
最初にご紹介するのは、『リリとネネのおばけパンケーキ』(講談社)。主人公は、しっかり者のリス「リリ」と、のんきなネズミの「ネネ」。2匹は小さな可動式のおうちで、どんぐりパンケーキのお店を営んでいます。
森の仲間たちに大好評で、前作『リリとネネのどんぐりパンケーキ』では、くまさんが100枚ものパンケーキを平らげてしまったほど。さて、今回のお客様はというと……なんと、おばけ!?
『リリとネネのおばけパンケーキ』(作:田島かおり/講談社)
ある夜、2匹がパンケーキを焼いていると、窓を横切る白い影。おそるおそる窓を開けると、そこにいたのは、おなかが空いてペコペコだという「おばけちゃん」でした。
「おなかが すいているなんて、たいへん たいへん」と、2匹はパンケーキを振る舞います。すると、ひと口ごとにおばけちゃんの体のまわりに、わたあめのようなものがふーわふわ。なめてみると、甘くて、本当にわたあめみたいです。
ネネは提案します。「この おばけわたあめ、あまくて おいしいから、パンケーキに のせてみようか」。なんておおらか! ……いえいえ、これぞ職人魂ですね。あくなき味の追求が、奇跡のマリアージュを生み出します。
おいしいものはみんなに食べてもらいたいと、2匹は初めて夜にお店を開けることにしました。夜のお客様は、昼間とはちょっと違います。フクロウの親子、コウモリの兄弟、モモンガ。おばけちゃんは、みんなが自分を怖がらないかと心配しますが──?
引用:『リリとネネのおばけパンケーキ』(作:田島かおり/講談社)
読んでいるときの子どもの笑顔が目に浮かぶような、おいしくてかわいい王道のファンタジー。はずかしがり屋で“小さきもの”が大好きだという作者・田島かおりさんが紡ぐ物語は、どの作品もふんわりとやさしく、素敵なものをみんなで分かち合いたいという想いにあふれています。
キャラクターの愛らしさはもちろんのこと、夜の「闇」、さまざまな「光」を色鉛筆だけで描き切るこの圧倒的な画力を、物語とともに味わっていただきたいです。
*読み聞かせ 3さいくらいから
*ひとり読み 5さいくらいから
姿は見えないのに気配に満ちた“おばけ屋敷”!?
次にご紹介するのは、『ねむいねむいねずみ』(PHP研究所)。作者は、大人のファンも多い、漫画家で絵本作家の佐々木マキさん。
悠々と繰り出される線、枠を活かした遊び、淡々とした表情の登場人物。語りかけてくる文体はいつも穏やかでムダがなく、独特の抜け感が読者をリラックスさせます。
本作は、その昔、私が子育てに奮闘していたころ、宵っぱりだったわが子になんとか寝てもらいたくて選んだ絵本でもあります。タイトル、そして、表紙に描かれたねずみのいかにも眠たそうな顔つきから「寝かしつけによさそう!」と思ったのですが……大きな間違いでした。
幼い息子は、絵本を読んで大興奮の大はしゃぎ。眠るどころではなくなった、という思い出の一冊です(笑)。
『ねむいねむいねずみ』(作・絵:佐々木マキ/PHP研究所)
主人公の「ねむいねむいねずみ」は旅人です。一日中歩き疲れたある晩、目の前に一軒の古い家を見つけました。誰も住んでいない、荒れ果てたお屋敷です。
「こんやは ここで ぐっすり ねようっと」
ねずみはベッドに寝転がって眠ろうとしますが、「ドタン! ゴトン! バタン! ガタタン!」。不気味な怪奇現象が、次々と襲いかかってきます。
「なんだい、このいえは。おばけやしきか、なにかかい?」
はたして、ねずみは無事に眠りにつくことができるのでしょうか?
この絵本のすごいところは、おばけ自体は描かれていないのに、全編に渡って“おばけの気配”に満ちていること。そして、夢の中にお母さんが出てくるシーンは、大人が読むとキュンと切なくなります。疲れて怖くて……そんなとき、心の中でお母さんを求めているなんて、いじらしいではありませんか。
そもそもねずみは、なぜひとりで旅をしているのでしょうか。
読者にゆだねる部分が大きいのは、おもしろい絵本の特徴だと思います。はしばしに漫画的な技がきらめき、大人も子どもも一緒に楽しめるおばけの絵本。1979年初版のロングセラーです。
*読み聞かせ 2・3さいくらいから
*ひとり読み 5さいくらいから
最後にご紹介するのは、漫画家、イラストレーターとしても活躍されている絵本作家・ながしまひろみさんの『まっくらぼん』(岩崎書店)。
暗闇の中で子どもを守る「まっくらぼん」とは?
『まっくらぼん』(作・絵:ながしまひろみ/岩崎書店)
ある夜、海辺の小さな町で停電が起こります。すみちゃんとお母さんのおうちも真っ暗です。灯りを探しに行くお母さんと、ひとり残されておびえるすみちゃん。そのとき──。
「ぼくと ともだちに なると こわくないよ」
「まっくらで おおきな いきもの」が立っていました。これが「まっくらぼん」です。
満天の星の下、「まっくらぼん」の背中に乗り、飛び回って町を探検するすみちゃん。暗闇の中で、町にはたくさんのにおい、たくさんの音があふれていることに気づきます。そして、灯台の上から灯りを取り戻した町を見て、すみちゃんはお母さんが恋しくなるのでした。
暗闇の中で子どもを守る「まっくらぼん」は、おばけ? 妖怪? 神さま? それとも……。読者の心にゆだねられた「まっくらぼん」。あなただけの「まっくらぼん」。
暗闇が舞台の本作は、「光」の印象をはしばしに感じる絵本でもあります。星空、窓の明かり、灯台の光。そして、「まっくらぼん」という守り人のような存在の「光」、すみちゃんという子ども──かけがえのない生命の「光」です。
「まっくらぼんと いっしょに あかるい ほうへ。」
「光」は「希望」と言い換えてもよいでしょう。初めてこの絵本を読んだとき、私は不思議と励まされるような気持ちになりました。
誰もが暗闇(悲しみや寂しさ)から逃れることはできない、でも光(希望)は決して消えない──。ながしまひろみさんの作品はいつも、ほんの少しの寂しさと、消えない灯りを読者の胸に宿します。
大人の方にもおすすめしたい一冊、ぜひ親子で楽しんでいただきたいです。
*読み聞かせ 3・4さいくらいから
*ひとり読み 5さいくらいから
取材・文/星野早百合