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リリース40周年!松任谷由実「PEARL PIERCE」夏になると聴きたくなる名作

Re:minder

1982年06月21日 松任谷由実のアルバム「PEARL PIERCE」がリリースされた日

冬の季語にもなった「ユーミン」


ユーミンといえば冬。毎年暮れにアルバムをリリースしていたことからも冬のイメージが強い。アルバムプロモーションは暮れの風物詩になっていたし、俳句の世界では「ユーミン」が冬の季語だと話題になったこともある。ゲレンデやクリスマスに絡んだ曲がよく知られていることも大きい。

しかしユーミンは春夏秋冬それぞれの風景に平等に寄り添っているし、夏にもちゃんとアルバムをリリースしている。1978年から1982年にかけてはほぼ半年ペースでクオリティの高いアルバムを発表していた。さすが「才能は母乳と一緒で出さないと身体に毒」なんてことを語っていただけのことはある。

私が高校1年生だった1982年の夏、アルバム『PEARL PIERCE』はリリースされた。前年「守ってあげたい」のヒットと、「赤いスイートピー」「渚のバルコニー」など、松田聖子への曲提供が注目されたことで、中学生の時はアイドルに夢中だったはずの女子たちがこぞってユーミンを聴き出していた頃でもあった。

高校生になり、大人への階段を昇りつつある女の子たちにとって、恋する大人の女性の心情を表現しているユーミンの作品たちは、とてもわかりやすい恋愛の参考書だったのだと思う。

ユーミン自身も著書『ルージュの伝言』で、

「『PEARL PIERCE』は大人っぽいアルバムだって、私があちこちで言ってるの。本当は大人の詩とはちっとも思ってないんだけど、今度のレコードは大人っぽいって外には言うの。それは大人っぽいですよって言っておかないと、高校生とかが買ってくんないんじゃないかと思ってるからなのよ。」

… と語っているとおり、ある意味狙い通りだったのかもしれない。思えば、「ユーミン=OLのバイブル」的に言われ始めたのも、このあたりからではなかっただろうか。

このアルバムはファンの間でも人気が高く、「これが一番好き」という人も多い。男性ファンはそのサウンドに、女性ファンはその歌詞に魅了されているようだ。リリースから40年経つというのに、今でも強く支持されているこの作品、そして夏になると必ず聴きたくなるこのアルバムについて、私なりの解説をつけてみた。

ようこそ輝く時間へ


ホーンセクションのゴージャス感がたまらないイントロが眩いオープニングナンバー。曲に出てくるシチュエーションは、後楽園ゆうえんち(当時)のスカイフラワーから見下ろす風景だと言われている。「大人になったら宿題はなくなるものだと思ってた」という歌詞が理解できるようになったのは社会人になってから。いや、むしろ大人になればなるほど公私ともに宿題は増えていく。そして「忘れました」は通用しないよな… としみじみしたり。間奏やアウトロでのEVEの濃厚なコーラスがゴージャス感をさらにアップさせている。

真珠のピアス


山下達郎「Sparkle」、カシオベア「ASAYAKE」と並んで「三大ギターカッティングイントロ」と私は勝手に呼んでいる。「私がもし彼に振られるようなことがあったら、彼のベッドの下にこっそりピアスを捨てればいいんだ」と、失恋に対する復讐術を女性たちに伝授した、ある意味恐ろしい曲。歌詞といいメロディーといいコード進行といい、極上の1曲。当時ユーミン自身が「これだけの曲、書けるもんなら書いてみろ!」と言っていた記憶がある。全体的にアンニュイなムードが漂うが、ライブバージョンは派手なアレンジで、「これってホントに失恋の歌か?」と疑いたくなったりもする。

ランチタイムが終わる頃


バート・バカラック風のサウンドに乗せて、昼休みに日比谷公園で佇むOLを描いている。彼からの連絡がなくなり、「手紙もだせぬほど忙しいのよ」と同僚のOLに同情されるも、自分の中ではもう恋は終わってしまったのだと悟っているのだろう。ところで、この曲を真似て、実際に日比谷公園に行って「ランチタイムが終わる頃ごっこ」をしたユーミンファンは多いのではないだろうか。私も数年前にやったことがある。オッサンなのに(笑)。

フォーカス


失恋の曲が多い中、これはハッピーな曲。ずっとメガネをかけていた主人公が彼と出会うことでメガネを外し、新しい自分に目覚める。「あなただけにめぐり逢うために今まで私あんまりモテなかった」というところは、「ダンデライオン」の「傷ついた日々は彼に出会うための運命が用意してくれた大切なレッスン」という、あの名フレーズにも通じる。ネガティブなことは全てポジティブに転じるために起こったことなんだ、と勇気をくれる。サウンドとしては曲を通して響くソウルフルなオルガンが渋い。

夕涼み


スローな16ビートに癒やされるグルーヴィーなチルナンバー。ゆらゆらと漂うようなメロディが心地よい。この曲についての思い出は以前『松任谷由実「夕涼み」夏の終わりは切ない恋の思い出とともに…』というコラムで書いているのでお読みいただけると嬉しい。ちなみに原曲はクー・レデスマというフィリピンのシンガーに書いた「夏物語(ONE DAY SOON)」という曲。

私のロンサム・タウン


「錆びた船がナホトカに向けて遠去かる」と、ロシア(当時はソ連)の都市名が曲中に出てくるが、曲の舞台は新潟。コンサートツアーで全国の街を回るご自身の心情を描いている。ステージが終わったあとに訪れる虚無感みたいなものも感じられる。そういえば竹内まりやがこの曲を好きだと言っていた記憶がある。

DANG DANG


当初付けられていたタイトルは「土用波」。「あなたにふさわしいのは私じゃない」と身を引くようでいて、彼に会うチャンスを残すために「彼女は知らないなら友達になるわ」という主人公。ある意味ストーカーソングと言われている「まちぶせ」より怖い。軽快なメロディー展開で、コンサートでもノリノリで歌われることか多いので、その恐ろしさにはみんな気づいていないのかもしれないが。

昔の彼に会うのなら


「別れた彼と会うならどんなシチュエーションにしようかな〜」と妄想するだけして、結局会わないのかよ!と軽くツッコミを入れたくなる曲(笑)。「食事は裏通りで飲茶」なので、舞台は横浜だと勝手に思っている。ちなみにこの曲は、荒井由実時代にポニーテールという女性二人組に書いた「二人は片想い」という曲の歌詞違い。「同じ彼を愛してた私たち」という、全く違うストーリー。アレンジも全く違う世界観。軽快なリズムに乗せて歌うユーミンバージョンをイメージして聴くとビックリする。

消息


プラットホームを隔てて昔の彼を見つけるも、声をかけることもなく、やがて離れていく二人。列車が過ぎ去っていくことで、彼女は失恋の苦しみから解き放たれていく。「そうそう、この人は列車が見えなくなった瞬間、もう次に向かって歩きだしてると思う。そんなもんだよ。」と、当時同級生の女子が語っていた。失くした恋をズルズルと引きずってしまうのは男だけなのか。

忘れないでね


既婚者(もしくは同棲している相手がいるか)を好きになってしまったけど、添い遂げることはできない私。「I want you」「I miss you」という気持ちを伝えるために「ルルル ルルル ルルルと3回鳴らして」電話を切るのだけど、当時は携帯電話などないわけで、これって横にいる奥さん(彼女)に対して存在感をアピールしてるためにやっているのだろうか。『金曜日の妻たちへ」や『くれない族の反乱』など、不倫がテーマのドラマがトレンドになるのはこれよりもう少し先。そういう意味では不倫をサラっとおしゃれに扱う先取りだったのかもしれない。

―― ところでこの次にリリースされたアルバム『REINCARNATION』では、シンセサイザーが以前よりもかなり使われていて、デジタル色が強くなった印象がある。そういう意味で『PEARL PIERCE』は、アダルト・コンテンポラリーともいえるグルーヴィーなサウンドに、一旦けりをつけたような気がするのである。

事実、私の知人はこのアルバムを最後にユーミンをあまり聴かなくなったと言う。理由は「グルーヴを感じなくなったから」だそうだ。なるほど……。私は『REINCARNATION』も大好きなのだが、みなさんの印象はどうだろうか。

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