Yahoo! JAPAN

建設現場から農業、林業へ。スタートアップと実現させていくコマツの未来ビジョン

TECHBLITZ

「重機の会社」も今は昔。昨今は世界各地のスタートアップや研究機関と連携し、ICT機器活用によるデジタルトランスフォーメーションを実現させるなど、建設業界を「スマートに」変革する旗手として躍進するコマツ。活躍の舞台は農業、林業、さらにその先へと広がり続けている。数々のオープンイノベーションの指揮をとるCTO室・Program Directorの冨樫良一氏が語るコマツの未来ビジョン、そしてイノベーション人材育成のヒントとは。

<目次>
・社会課題の解決に挑むコマツ
・スマートコンストラクション普及、5つのステップ
・将来ビジョン動画を毎年制作し実現させる
・尖ったビジョンで議論を起こす
・経営トップのリーダーシップこそが大事

社会課題の解決に挑むコマツ

 コマツの売上は建設機械・車両が全体の約9割を占めており、従業員の約7割は外国籍です。活動分野は地上・コンストラクション・マイニング(地下)まで幅広く、最近ではスマート林業や農業にも注力しています。

 当社では常に労働者不足・安全性・労働者の健康・技術検証・環境問題といった、建設現場に横たわる課題に取り組んできました。最初のソリューション事例が、2008年の無人ダンプトラックの運行開始です。現在では350台以上の無人ダンプが、マイニング現場で24時間稼働しています。

Image: Komatsu

 私の所属するCTO室は2014年、コマツのオープンイノベーション全体を担う部署として設立されました。産学連携・産産連携・知財戦略全般を担う部署の大きく3つがあり、30~40名のメンバーで構成されています。なお産産連携では、コマツの各グローバル拠点の人材と連携しながら活動しています。

冨樫 良一コマツCTO室 Program Director1993年コマツ入社。新事業推進業務に従事。自走式破砕機、ハイブリッド油圧ショベル等の設計開発を手がけたのち、オープンイノベーション推進業務を経て、2014年、CTO室創設にともない現職。毎年約半年間シリコンバレーに滞在し、大学、ベンチャーキャピタル等の外部アドバイザー活動にも従事。2018年度までは社外委員会活動として、研究産業・産業技術振興協会の研究開発マネジメント委員会委員長を務め、StartUpBase U18で18歳以下の起業家の卵達の審査員や2020年からはARCH(虎ノ門ヒルズインキュベーションセンタ)のメンターとして異業種交流も推進中。世界中を探索しながら、先進技術の情報収集・調査、パートナー選定を推進中。

スマートコンストラクション普及、5つのステップ

 スマートコンストラクションの普及には、いくつかのステップがありました。

 第1ステップは、ドローンを活用した現場の見える化です。第2ステップは現場全体の最適化であり、現場で使われるコマツ機とコマツ以外の建機との連動を可能にするため、LANDLOGというプラットフォームを設立しました。

 第3ステップは、建設業者の94%を占める小規模事業主のキャッシュフローをサポートする金融プラットフォーム(LAND DATA BANK)の設立です。

Image: Komatsu

 スマートコンストラクションビジネスで重要な役割を果たす半自動制御機能を有するICT建機を2013年から市場導入してきたコマツですが、ICT建機の普及率は市場全体のわずか数%。イノベーター理論がカギとする16%まで伸長させるため、2020年から第4ステップとして、既出荷車向けレトロフィット機器の発売を開始しました。コマツ製以外にも装着できることが、この機器の最大の特徴です。

 第5ステップをDXの加速と位置づけ、この4月末に発表したのが、工事現場のデジタル化を加速させるためのEARTHBRAIN(アースブレイン)社の設立です。NTTドコモ、ソニーセミコンダクタソリューションズ、野村総合研究所との4社で立ち上げ、今年7月1日より業務を開始しました。

 ほとんどのモノづくり企業の場合、モノづくり(機械の自動化・高度化)が得意分野なだけに、技術はどんどん進歩するものです。

 問題はコトづくり(施工オペレーションの最適化)です。コトづくりにおいては、社会課題に正面から向き合い、様々な人々に取り組みを評価してもらい、フォロワーを増やしていくことが大事です。

 当社でも、モノづくり――ICT建機などハードウェアの販売――だけでは、売上は伸びませんでした。2015年からスマートコンストラクションという「コト」を交えたビジネス展開に着手し、2016年に国交省がi-Construction(アイ・コンストラクション:建設現場にICTを導入して活用して生産性向上を目指す取り組み)を開始するなど社会システム全体を巻き込む流れができたことで、導入が一気に加速。21年4月までに、国内で1万4000超の導入事例ができたのです。

将来ビジョンの動画を毎年制作

 コマツは現在、シリコンバレーを中心に中近東・ヨーロッパ・シンガポール・オーストラリア・中国の各拠点の、大学・研究機関・ベンチャーキャピタル・スタートアップと連携しながら、イノベーションを進めています。

 イノベーションの柱は、明確な将来ビジョンを示し、いかにその目標を達成するかです。そのために当社では、毎年複数のテーマで将来ビジョン動画を制作しています。映像で世界各地の社員に分かりやく具体的なメッセージを示すことで、6万人の社員のベクトルを合わせるとともに、社外にも仲間をつくることを目標としています。

 これまでに、半自動(自動)建設機械、無人ダンプ、オープンデータの活用など、様々な将来ビジョンを具現化してきました。今後も様々な社会課題の解決に向けて挑戦を続ける姿勢に変わりはなく、目下、農業と林業にも力を入れています。

 私は「重機は地球規模の3Dプリンタだ」と考えています。この考えは建設現場だけでなく、農業・林業にも通じるものです。

 たとえば、田んぼと畑は全く別物です。今日田んぼだった土地が、明日畑になることは、普通では考えられません。ただし、建設機械をベースにした農業機械を使えば、そうした転向も可能です。今までの農業の概念が、ガラッと変わるのです。

Image: Komatsu

 さらに、畑の場合は、作物に応じて畝など土の作り方が変わってきます。多機能ICTブルドーザを使えば、まっ平らな畑も、微妙な角度をつけた畑も簡単に作れます。

 また、コマツでは海外でも農業イノベーションを進めています。たとえば、インドネシアは世界最大の米の消費国です。現在のところ自給率は100%とはいえ、世界4位の人口を抱え、今後もますます増えることが予想されており、生産量の拡大が課題です。そこで農業用ブルドーザを活用し、土地を開墾しての田んぼづくりを行っています。

 一方、林業においては、植林用から伐採用まで多くの林業機器を開発しています。 日本は国土全体の約7割が森林という森林大国ですが、有効な森林活用はできていません。

Image: Komatsu

 私たちは、すべての林業の工程をデジタル化することはもちろん、今後50年、70年後の人たちに負の遺産を継がせないことが大事だと考えています。植林時に土地を林業に適する形状に整地し、作業道を十分確保し、自然災害を招かないような配慮を行うなど、将来的な森林づくりを進めています。

 これまでオープンイノベーションを行ってきてつくづく感じることは、「誰かが動く前に、自らが破壊者となって動くことが大事」ということです。ビジネス展開では、「モノづくりと同時にコトづくりも進める」ことが大事です。

 そして、一度着手したら――我々も2013年にICT機器を作り始め、今ようやく花開く時期にきましたが、すでに7年以上が経過しています――果敢にアタックしながら、長期的な視点で利益化を目指すことが非常に重要ではないでしょうか。

 オープンイノベーションでの技術の棲み分けについては、「技術のコアは自社で」という方針は今後も変わりません。ただ、非常に商品数が多いので、コマツが中心となって開発する機器だけでなく、パートナーと組んで開発する機器もあります。パートナーシップ戦略は機種の位置づけやポジション・種類によって変わるため、それぞれどんな形が適切かを、日々模索しています。

尖ったビジョンで議論を起こす

 具体的なオープンイノベーションの進め方としては、先述した将来ビジョン動画を軸に進めていきます。協業パートナーが決まった時点でステアリングコミッティを設置し、上層部を巻き込んで意思決定すると同時に、実務部隊に活動に加わってもらい、費用やビジョンなどの共有を行っていきます。

 いかに早く実務部隊を巻き込んで動くかが大事ですが、皆忙しく、「すぐさま足並みを揃えて」とはいかないところが悩みでもあります。

Image: Komatsu

 上層部や実務部隊を巻き込む上で大事なのは、いかに尖ったテーマを映像化するか。様々な部署から様々な人が集まって作ろうとすると、どうしてもテーマの角が取れてしまい、メッセージ性の薄い、ぼんやりした内容になってしまうものです。そのため、メンバーはその時々で変わるとしても、少人数でいち早く制作することを大事にしています。

 もちろん、尖ったメッセージには賛否両論が出ますが、動画はあくまでも一つの方向性を示したものであり、議論の誘発剤として機能することが大事だと考えています。議論を進めることで方向性が明確になり、プロセスなども見えてくるものです。

 定期的なアイデアソンやハッカソン開催によって社内人材の意識向上を図る一方、我々も世界のイノベーション動向についての情報を社内に発信しています。それらのフィードバックをもとに、ネットワーク作りや情報のキャッチボールができる仕組みをどんどんつくり、オープンイノベーションに親和性を持った人材を発掘している最中です。

経営トップのリーダーシップこそが大事

 スピード感を出す上で、当社の場合、「経営トップのリーダーシップ」「ビジネス推進部隊」「新技術探索部隊」「オープンプラットフォーム推進部隊」の4つを同時に進行させています。

 その中で最も大事なのが「経営トップのリーダーシップ」。強いメッセージ性と“錦の御旗”のようなバックアップがないと、やはり痛みを伴う改革はできません。

 「ビジネス推進部隊」とは、CEO直下のいわゆるビジネスの出島組織です。CEO直下なので即断即決が可能であり、必要人材の中途採用も早く、企画・開発から営業・サービスまでを一気通貫で行います。

 「新技術探索部隊」とは、我々CTO室のことです。社外と連携する際は社内の諸事情を鑑みないとうまく進まないことが多いため、社内事情に精通し、かつ社外・市場情報の感度が高いプロパー人材で主に構成されています。

 「オープンプラットフォーム推進部隊」とは、建設業向けプラットフォームLANDLOG(ランドログ)の活動などを指します。代表をはじめ社員のほとんどがコマツ以外の人材であり、コマツ色を極力消すことで、お客様と現場が真に望む仕組みづくりを進めています。

 コロナ禍の影響で、なかなか海外出張などはできていませんが、シリコンバレー現地拠点メンバーはリアルな活動を開始していますし、ヨーロッパなど各拠点でも、VC出資などによる太いネットワークがすでに築けています。大学からも非常に幅広く、色のついていない情報が入ってきます。

 また、建設業界は横の繋がりがかなり密で、新しい情報が入ってきやすいという特徴がありますね。競争はありますが、変な「垣根」はなく、情報交換も活発なため、次の事業展開などについても話がしやすいです。

 現状はオンラインでのコミュニケーションが中心ですが、かえって連携が強まっている面もあります。VCや大学などのネットワークを組み合わせながら、コロナ禍においても情報収集のスピードは緩めてはいません。

【関連記事】

おすすめの記事