見逃しがちな<海洋ゴミ>による悪影響 生きものたちにとっては「死のゆりかご」?
海洋ゴミやマイクロプラスチックが国際的な環境問題となっていることは、広く認知されるようになりました。しかし、こうしたゴミが意外な形で海洋生物たちを死に至らしめていることは、まだあまり知られていないかもしれません。
“死のゆりかご”となってしまっている海洋ゴミと、それらへの対処法について一緒に考えましょう。
海洋ゴミ問題の現実
今日、毎年のように海洋ゴミの問題を耳にします。身近な水族館や博物館でも、その問題が繰り返し啓発されています。
プラスチックだけをとっても、世界に合計1億5000万トン以上の量が存在していると言われ、毎年約800万トン(ジャンボジェット機にして5万機相当)に及ぶ量が新たに流れ出ていると推定されています。
こうした海洋ゴミは生き物たちに直接巻きついてケガをさせたり、生き物がエサと間違えて誤飲してしまうといった被害を及ぼします。
また、プラスチックが劣化や波の作用などにより破砕され、5ミリ以下の欠片となった「マイクロプラスチック」の悪影響も懸念されています。実際にマイクロプラスチックをサンゴが取り込むことで、サンゴと共生関係にある褐虫藻が減少するといった悪影響が報告されています。
プラスチックが完全に分解されるまでには、途方もない時間がかかります。海の生態系のバランスを、マイクロプラスチックが崩してしまうのです。
入ったら出られない、死のトラップ
このような海洋ゴミ問題の話は、至る所でよく聞きます。
しかし、悪影響はこれらに留まりません。海洋ゴミは、生き物たちを「閉じ込めている」可能性があるのです。
例えば、流れ藻などに乗って水面を移動する生き物や海底で穴に隠れて生きている生き物たちは、空き缶やペットボトルなどの海洋ゴミを上手く隠れ家として使うことがあります。
人によっては「ゴミが生き物に有効利用されているのだからいいじゃないか」と思うかもしれませんが、ここには見えにくい大問題が潜んでいます。
この安全なゴミの中で成長することによって、彼らは穴の外へ出る術をなくしてしまうのです。彼らは死ぬまで牢獄の中に閉じ込められ、そのまま死んでしまいます。
海底の巣穴と異なり、硬い海洋ゴミは自分で穴を掘ることができません。そのまま彼らは、死ぬまで外に出られないという地獄を味わうことになります。まさに“死のゆりかご”と言えるでしょう。
筆者が以前に飼育していた、ハナオコゼやマツダイの仲間なども、流れ藻や海洋ゴミと共に採集したものです。こうした魚の一部には、海洋ゴミに閉じ込められて死んでしまった個体がたくさんいたことでしょう。
海洋ゴミを捨てる……その前に!
筆者は海で遊んだ際、なるべく海洋ゴミを拾ってから帰ります。その影響は微々たるものですが、少しでも海をキレイにしたいと思い続けています。
そんな海洋ゴミを拾う時に、実はその空き缶やペットボトルの中には生き物が入っている可能性があるのです。
なかなか全ての生き物を救うことは困難かもしれませんが、海洋ゴミを拾った際には意識的に中身を見てみましょう。ゴミの中に閉じ込められる寸前の彼らが隠れているかもしれません。
海で遊んだ際にゴミを拾ってから帰る人、ボランティア活動で海洋ゴミの清掃活動をされている人もいるかと思います。そんな時に少しでも、“死のゆりかご”の存在を思い出してもらえると嬉しいです。
まとめてゴミを捨ててしまうその前に、「もしや?」と思い、中を見てみましょう。そのあなたの気づきが、より多くの生き物たちを救うことになるかもしれません。
(サカナトライター:みのり)
参考文献
日本財団−【増え続ける海洋ごみ】今さら聞けない海洋ごみ問題。私たちにできること