燕市の設計事務所がはじめた、偶然に会える場所「アオウゼベース」。
燕市粟生津地区の「アオウゼベース」は、旧農協の建物を活用したシェアオフィス、コワーキングスペース、イベントスペースです。運営母体の設計事務所「株式会社オシア」の松井さんに、施設の成り立ちや隣にある「アウトドアセレクトショップ ocean’s」との関係など、いろいろとお話を聞いてきました。
アオウゼベース
松井 結花 Yuka Matsui
1988年燕市生まれ。ブライダル系の専門学校を卒業後、飲食系の仕事を経験。2014年に燕市の建築事務所「株式会社オシア」に転職。住宅アドバイザーとして働きながら、2023年から同社が運営する「アオウゼベース」の立ち上げから管理まで携わる。自然を楽しむことが好き。
設計事務所、アウトドアショップ、コワーキングスペース。関連がないようで、実はどれも人の流れを作っている。
——「アオウゼベース」は、設計事務所「株式会社オシア」さんが運営されているそうですね。
松井さん:当社は自然素材を扱う住宅会社で、本社もモデルハウスも薪ストーブを使用しています。当社で家を建てられる方には、薪ストーブを取り入れる方が多くいらっしゃるので、薪を保管する場所が必要になりまして。それで設計事務所以外の事業もいくつか展開しているんです。ひとつは、2022年にオープンした「アウトドアセレクトショップ ocean’s」。本社の近くにあったお米の低温倉庫を活用して、薪を製造、保管するスペースを確保するためにスタートしました。
——ちょっとすみません。読者さんへのちょっとした補足情報として、薪ストーブのメリットをお聞きしたいです。
松井さん:今の時代、ボタンを押すだけで暖房も冷房も効きますから、それには相反しているかもしれないですけど、自分で確保した薪を乾燥させて、火起こしをする。家が暖まるまでには1時間ほどかかります。そういった過程を楽しめるところが魅力でしょうか。
——けっこう暖かいと聞きますよね。
松井さん:薪ストーブならではの暖かさがありますね。ストーブで焼き芋ができたり、ちょっとした煮込み料理ができたりもします。薪ストーブで沸かしたお湯でコーヒーを入れると、とても美味しいですよ。
——そういう生活に共感される方がお客さまに多いんですね。
松井さん:おっしゃる通りです。薪ストーブには、アウトドアに通じるものもあるんですよ。お客さまは自然を楽しまれる方が多いので、「アウトドアセレクトショップ ocean’s」のスタートに踏み切りました。薪の販売やそれに関連する着火剤、アクセサリー類以外にも、キャンプなどアウトドアのグッズも一緒に販売できたらいいなと思いまして。
——でもそこからどうして、「アオウゼベース」が誕生することになったんですか?
松井さん:「アオウゼベース」は、「アウトドアセレクトショップ ocean’s」の隣にあります。「アオウゼベース」の建物は少し前まで、農協さんの事務所でした。当社はこの地域を活性化したいと考えていて、そのために何ができるだろうかと模索しているタイミングで、「ツバメビール」の前部屋さんと出会いまして(※編集部注「ツバメビール」は「アオウゼベース」の敷地内でビールの製造・販売を行っています)。そこで旧農協さんの建物を活用し、しっかりとこの地域でお金が循環するビジネスを立ち上げたいと考えました。たどり着いたのは、起業したい、自分がいいと思っているものを発信したいという方々が集まる場所です。そこに出会いがあり、また新しい何かが生まれて、この地域の皆さんが「地元で自分たちができることがある」と思ってくれたらいいですよね。
——「アオウゼベース」と「アウトドアセレクトショップ ocean’s」、ふたつが隣接するメリットはあるんでしょうか?
松井さん:結果的には、お互いにメリットがあったと思っています。「ocean’s」のお客さまが「ここは何ですか?」と「アオウゼベース」を発見してくれますし、その逆もあります。「ツバメビール」さんも同様です。「人の流れが生まれた」というのが、いちばん嬉しいポイントでした。
「得意」を持つ者同士をつなげ、「得意」な分野で力を合わせる。
——「アオウゼベース」は、かなり立派な建物ですよね。
松井さん:1階はコワーキングスペースとして、ふらっと何時間か仕事ができる、月会員としても利用できるというかたちで運営をしています。なにせスペースが十分にあるので、他にもシェアオフィス、イベントスペースがあります。イベントスペースではセミナー、研修を開催できますし、天候の影響なしにマルシェなどを開催していただけます。外部の方のご利用も大歓迎ですけど、ここを拠点にビジネスをしている方が、普段仕事をしている場所で大勢に発信していただくのがいちばん嬉しいですね。
——いくつか実例を教えてください。
松井さん:去年、「ツバメビール」さんに参加していただいてビールのイベントを開催しました。キッチンカーも出店して、お祭りみたいに盛り上がりましたよ。当社でも社内勉強会の会場として使っています。
——ビールのイベントは、松井さん含め「オシア」のスタッフさんが企画したんですか?
松井さん:もちろん私は企画から参加しましたけど、当社のスタッフというより「アオウゼベース」の利用者さんたちが自然と加わってくれたって感じでした。「なんか、こんなこともできそうだよね」って。それが叶うのが、シェアオフィスのいいところなんだと改めて思いましたね。ものづくり、文章作成、企画、撮影など、それぞれを得意とされている方がいます。「得意」があるので自然と役割分担ができますし、「この人にも声をかけてみよう」っていうことができますから。同じ空間にいる人たちが、イベントをきっかけにひとつになれたのは大きな発見でした。
——松井さんは普段どちらで働いているんですか?
松井さん:「オシア」と「アオウゼベース」の半々ですかね。
——ということは、松井さんには「オシア」の同僚がいて、なおかつ「アオウゼベース」にも仲間がいるって感じですか?
松井さん:そうなんです。「アオウゼベース」にいると、人と人とのつながりがどんどん、意図せず勝手に広がっていくんです。「アオウゼベース」はそういう場所なんだなって、最近すごく感じています。
——オープンから1年ちょっとですよね。着々とつながりを生んでいるなんて、すごいなぁ。
松井さん:燕市からの助成があったので、この地域にはいくつかシェアオフィス、コワーキングスペースがオープンしたんです。でもお互いライバルって感じはないですね。同志みたいかな。
——お答えしにくいかもしれませんが、他との違いはありますか?
松井さん:先ほどお話ししたように、イベントができるスペースがあるのはひとつの強みでしょうか。まだ事例としてはないんですけど、母体が工務店なので、「アオウゼベース」からスタートして、いつかお店を設けるっていうときには、ものすごく協力できる体制があると思います。
高齢化が進む地域だからこそ、協力し合い、活動の幅を広げていく。
——利用者はフリーランスの方が多いですか?
松井さん:地元のフリーランスの方は多いです。でも、ワーケーションっていうんですか。出張や観光の隙間時間に使われる市外の方もいらっしゃいます。シェアオフィスは地元の企業さんが利用されています。今は4部屋のうち、3部屋が埋まっている状態です。
——それはベンチャー系の企業さん?
松井さん:スタートアップの会社さん、本社移転に伴って事務所をコンパクトにされたという会社さんもいらっしゃいます。
——ちなみに「アオウゼベース」のある粟生津って、どんな地域なんですか? 住宅が多い場所?
松井さん:旧吉田町の中でも割と外れた地域で、人口は少なく、田畑が多い場所ですね。高年齢化が進んでいるし、若い方がどうしても外へ出てしまう印象があります。だからこそ、お子さんが大きくなったときに誇れる地域でありたいという思いはありますね。
——近々イベントなどはあるんでしょうか?
松井さん:7月14日にクラフトビールとPOPUPSTOREのイベントを開催予定です。秋には毎年開催の「アベ祭り(アオウゼベース祭り)」も企画しています。「粟生津を盛り上げよう」って熱い気持ちをお持ちの方と一緒に地域を盛り上げていきたいですね。
アオウゼベース
燕市粟生津272-1