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『山形の名湯9選』やまがた出羽百観音巡礼のあとに立ち寄りたい温泉

草の実堂

画像:雪の銀山温泉(やまがたへの旅)

山形県の最上・庄内・置賜の三地域に、三十三観音が静かに受け継がれてきた。

それらをあわせて巡るのが「やまがた出羽百観音」である。

近年はテレビCMなどでも紹介され、信仰のためのお遍路さんに限らず、旅人たちの足もこの地へ向かうようになった。
けれども、札所を巡る道のりは、単なる観光ではない。

観音さまに手を合わせ、風の音に耳を澄まし、自分自身と向き合う時間。
その積み重ねが、心をゆっくりと整えていく。

画像:蔵王温泉(やまがたへの旅)

そして山形には、もうひとつの恵みがある。
この地特有の自然と山々により培われてきた、豊かな温泉である。

巡礼の道すがら湯に身を沈めると、不思議なほど力が抜けていく。
祈りが心を洗い、湯が身体をほどいてくれるからだろう。

山形の温泉を訪れると、出羽の国は、古くから再生の地であったのかもしれないとつくづく思う。

今回は、巡礼の折に立ち寄りたい山形の名湯を、地域ごとにたどってみたい。

~最上エリア~ 山の信仰と長い歴史に彩られた名湯

画像:鳥兜山展望台(やまがたへの旅)

山形の温泉を語るなら、まずは最上の山々の存在を無視できない。
その深い懐から、名湯は絶え間なく湧き出している。

修験の霊峰の麓に広がる「蔵王温泉」。大正ロマンの面影を今に残す「銀山温泉」。
城下町の気配を宿す「かみのやま温泉」。さらに、湯治場の風情を色濃く残す「赤倉温泉」と「肘折温泉」。

それらには、長い歳月をかけて人々の心身を癒してきた時間がある。

画像:蔵王温泉 大露天風呂(やまがたへの旅)

なかでも「蔵王」の湯は力強い。

温泉街のあちこちから湯気を上げる硫黄泉は、火の山の息吹そのもののようだ。

白く濁る三つの共同浴場を巡れば、湯煙の向こうに、かつての湯治客の姿がふと立ち現れる。

画像:最上札所9番 松尾山観音(撮影:高野晃彰)

そしてこの湯は、霊場巡りの道とも静かにつながっている。

蔵王温泉」までは、第9番札所・松尾山観音から車でおよそ20分。観音に手を合わせたのち、山の恵みに身を沈める、そんな一日の巡礼もまた、山形ならではの贅沢であろう。

公式HP:https://www.instagram.com/zao_onsen/?hl=ja

「銀山」では、夕暮れとともにガス灯がともる。

木造旅館の影が川面に揺れ、歩くだけで物語の中へ迷い込んだかのようだ。

画像:夜の銀山温泉(やまがたへの旅)

山あいの静寂に包まれた「銀山温泉」は、どこか時の流れが緩やかである。

大正の面影を残す街並みは、昼と夜でまるで別の表情を見せる。

とりわけ夕暮れ、柔らかな灯がともる頃、温泉街は静かな舞台へと変貌する。

画像:最上札所24番 上ノ畑観音(撮影:高野晃彰)

そしてこの湯もまた、ありがたいことに巡礼の道と寄り添っている。

銀山温泉」までは、第24番札所・上ノ畑観音から車でおよそ10分。観音堂の静謐に身を置いたあと、川沿いをそぞろ歩けば、祈りの余韻がそのまま湯のぬくもりへと溶けていく。

公式HP:https://www.ginzanonsen.jp/

城下町の面影を今に伝える「かみのやま温泉」。その湯は、やわらかな美人の湯である。

無色透明の湯に身を委ねると、優しいぬくもりがゆっくりと肌を包むように浸み込んでくる。

画像:かみのやま温泉(やまがたへの旅)

石垣や武家屋敷の記憶を残す町並みを歩けば、どこか凛とした気配が漂うが、湯に入ればその緊張はほどけ、城下町の時間が静かに流れ出すようだ。

画像:最上札所10番 上ノ山観音(撮影:高野晃彰)

かみのやま温泉」は、第10番札所・上ノ山観音から車でおよそ4分。

観音堂で手を合わせたのち湯へ向かえば、祈りの余韻がそのまま身体をあたためてくれる。歴史と日常が自然に溶け合う、それが、かみのやまの湯の魅力でもある。

公式HP:https://kaminoyama-spa.com/

「赤倉」は、千年の湯。諸国を行脚した慈覚大師が、錫杖で岩を打ち湯を得たという伝承が残るように、この地の湯はどこか祈りの匂いを帯びている。

画像:赤倉温泉(やまがたへの旅)

山あいに湧く「赤倉温泉」は、華やかさよりも静けさが似合う湯だ。

湯煙の向こうに立てば、はるかな昔、旅の僧が疲れを癒した光景さえ思い浮かんでくる。

画像:最上札所31番 富沢観音(撮影:高野晃彰)

赤倉温泉」は、第31番札所・富沢観音からは徒歩でわずかに4分。

観音堂で合掌し、石段を下りれば、すぐに湯の気配が立ちのぼる。祈りと湯がこれほど近く寄り添う地は、そう多くはない。
巡礼の道と湯治の道が、自然に重なり合う場所なのである。

公式HP:https://mogami-portal.net/

そして「肘折」。豪雪の山あいに抱かれた湯治場には、静かな灯りと、変わらぬ朝市のざわめきがある。

四百年の歴史を刻む「肘折温泉」は、賑わいよりも暮らしが息づく湯である。早朝、湯けむりの立つ通りに並ぶ朝市の素朴なやりとり。湯宿の軒先からこぼれる橙色の光。

そのどれもが、この地に流れる時間の確かさを物語っている。

画像:肘折温泉(やまがたへの旅)

とりわけ冬。

深々と雪が降り積もり、回廊のように続く白の世界に温泉街が包まれると、そこはまさに別天地となる。

湯に身を沈めれば、しんと静まる雪の気配が、身体の芯まで染み渡るようだ。

画像:最上札所33番 庭月観音(撮影:高野晃彰)

肘折温泉」は、第33番札所・庭月観音から車でおよそ45分。

最後の札所で巡礼の結願を終えたのち、この山あいの湯にたどり着けば、祈りの旅は静かに完結する。

観音に守られた道の果てに、湯治のぬくもりが待っているのである。

公式HP:https://hijiori.jp/

~庄内エリア~ 海と祈りのぬくもりを感じさせる温泉

画像:羽黒山五重塔(やまがたへの旅))

出羽三山を仰ぐ庄内の地では、祈りは特別なものではなく、日々の営みと地続きである。

その足もとから湧く湯もまた、どこかやさしいぬくもりを感じさせる。

画像:湯野浜温泉(やまがたへの旅)

日本海を望む「湯野浜温泉」では、絶え間なく波音が耳に届く。

夕陽が海へと沈むころ、湯面は金色に染まり、千年の歴史を秘めた湯が旅人の影を包み込む。

画像:庄内第25番 明石山龍宮寺(撮影:高野晃彰)

湯野浜温泉」は、第25番札所・明石山龍宮寺から車でおよそ5分。

観音に手を合わせ、浜辺へと向かえば、祈りの余韻は潮騒とともにほどけていく。

公式HP:https://yunohama100.com/

画像:湯田川温泉(やまがたへの旅)

山あいに佇む「湯田川温泉」は、鶴岡の奥座敷と呼ばれる静かな湯里である。

竹林に囲まれ、かつて文人墨客に愛されたその佇まいは、今も変わらぬ落ち着きを湛える。春には梅がほころび、孟宗汁や山菜料理が湯宿の食卓を彩る。

画像:庄内第26番 大日山長福寺(撮影:高野晃彰)

湯田川温泉」は、第26番札所・大日山長福寺から車でほんの数分の場所にある。

観音堂の鐘の余韻が消えぬうちに、湯煙が立ちのぼるように、祈りと暮らしが、すぐ隣り合っている。

公式HP:https://www.yutagawaonsen.com/

~置賜エリア~ 城下町と古湯の記憶がよみがえる歴史の湯

画像:上杉神社(やまがたへの旅)

「最上」と「庄内」から南へ下れば、置賜。ここには城下町の歴史とともに歩んできた湯がある。

米沢の奥座敷と呼ばれる「小野川温泉」。そして、開湯九百年余を誇る「赤湯温泉」。

画像:小野川温泉(やまがたへの旅)

「小野川」の湯は、肌にやわらかく、美人の湯とも称される。

小野小町や伊達政宗の伝承を抱きながら、今もこんこんと湧き続ける。

全国でも珍しい飲泉ができる湯としても知られ、身体の内と外から癒してくれる。

画像:置賜第21番 小野川観音(撮影:高野晃彰)

小野川温泉」は、第21番札所・小野川観音から車でおよそ3分。

観音のまなざしを背に湯の町へと下れば、静かに息づく歴史を実感できる。

公式HP:https://onogawa.jp/

「赤湯」は、古さと新しさが交差する温泉街だ。

フルーツ王国やまがたを象徴する6つのワイナリーと、米沢藩歴代藩主の湯治場としての記憶が同居する。春には小高い烏帽子山が桜色に染まり、町はやわらかな光に包まれる。

画像:赤湯温泉 (やまがたへの旅)

また、ラーメン大国やまがたの中でも人気の赤湯辛味噌ラーメンで名を馳せる町としても知られ、湯上がりの一杯を求めて歩く楽しみもある。

画像:置賜第12番 赤湯聖観音(撮影:高野晃彰)

赤湯温泉」は、第12番札所・赤湯聖観音から車でおよそ4分。

祈りと歴史、そして日々の賑わいが交わる温泉街で、置賜の旅は新たな表情を見せる。

公式HP:https://nanyoshi-kanko.jp/search/result/1/0/8

札所で手を合わせ、山を仰ぎ、海を眺め、そして湯に浸かる。
出羽百観音の巡礼は、祈りの旅であると同時に、自分を取り戻す旅でもあるのだろう。

観音さまの慈悲に触れたあと、湯のぬくもりに身を委ねるとき、人の心はやわらぎにつつまれる。

山形が「温泉天国」と呼ばれる理由は、湧出量の多さだけではない。
この土地には、巡礼と湯治という心と身体の両方を受け止める懐の深さがあるのだ。

※参考文献
山形札所めぐり編集室(高野晃彰)著 『やまがた出羽百観音札所めぐり』メイツユニバーサルコンテンツ
文 / 高野晃彰 校正 / 草の実堂編集部

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