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JR東日本の「エキナカ」はこうしてつくられる 新宿駅構内に「イイトルミネ」誕生(東京都新宿区)【コラム】

鉄道チャンネル

本サイトをご覧の皆さまが興味をお持ちなのは、おそらく鉄道の車両やダイヤ、そして新線プロジェクト……。でも、世間にはもう一つ注目を集める「鉄道のアレ」があります。それは「エキナカ」。やや硬めながら、「鉄道会社が駅構内で展開する店舗の通称」がその定義。JRの若手社員があみ出した、いや大手スーパーチェーンの社長がそう呼んだなど、名前の由来がすでに伝説化しています。

駅の一部なのにテレビで取り上げられるのは旅番組でなく、もっぱら情報バラエティー、鉄道ニュースサイトではほぼアウェーのエキナカ。今回は2024年4月17日にオープンした、JR新宿駅改札内の新しい商業施設「EATo LUMINE(イイトルミネ)」の取材機会をいただいたのを機に、「鉄道とエキナカ」の視点でコラムにまとめました。

1日乗降客78万人

コロナ前のデータですが、JR新宿駅の乗降客数は1日78万9000人(2018年度)。接続する私鉄や地下鉄をあわせると何と350万人とも。ギネス記録に認定される、世界一のマンモス駅です。

駅ビルも多士済々。JR東日本系のルミネ新宿とニュウマン新宿、小田急系の新宿ミロード、京王系の京王百貨店(駅ビルとはいいにくいですが)などが競います。

JRのエキナカは新南口にニュウマン新宿がありますが、利用の多い西口や東口付近にはショッピングゾーンがありませんでした。

その新宿駅、最近ご利用になった方は「駅が変わっている」とお感じになったかも。きっかけは東京都と鉄道各社などが取り組む「新宿グランドターミナル構想」。小田急、東京メトロ、東急不動産が共同開発する地上48階建ての高層ビルは2024年3月に安全祈願祭を実施。JR東日本と京王も2028年度完成に向け、37階建て高層ビルを建設します。

盛り土を高架に変えてホーム下を開発

前置きが長くなって申しわけありません。JRはグランドターミナル構想の一環として駅構造を見直すことを決め、エキナカのスペースを生み出しました。

新しいエキナカ「イイトルミネ」は、新宿駅9~14番ホームの真下。上を中央線特急、中央線快速下り(高尾方面)、中央・総武線緩行上り(千葉方面)、山手線内回りが走ります。

ここで素朴な疑問。JR新宿駅は地平(地上)、高架、地下など、どんな構造なの? 答えは予想外の「盛り土」。線路下に「土」はまったく見えないのですが、たしかに駅のホームに立って周囲を見渡すと一段高くなっているように思えます(もっとも東側に見えるのは駅ビルのルミネエスト新宿、西側は小田急ホームがほとんどですが)。

JR東日本は、新宿駅の盛り土を削ってエキナカのスペースを生み出しました。表現を変えれば、JRは盛り土を高架構造に変えてホーム下を開発しました。

スイーツ界のわらしべ長者!?

ホーム下の開発が決まったのはおおむね2年前。JRの仕事はエキナカスペースを生み出すところまで。実際にどんなショッピングゾーンをつくるかは、新宿の駅ビルに実績を持つルミネに任せます。

イイトルミネはネーミングで分かるように、食に特化したエキナカ。約950平方メートルに28店舗が並びます。

テナント紹介は本サイトの専門外なので、おもしろそうな話を聞けた3店舗だけ取り上げます。

入り口に近いクッキー店、元々は神奈川県茅ヶ崎市に店がありました。縁あって横浜の駅ビルに臨時店を出したら大評判。ルミネの担当者から、「ぜひ新宿のエキナカにも」と持ち掛けられました。とんとん拍子の東京進出に、筆者は思わず「スイーツ界のわらしべ長者」とつぶやいたのですが……。

最近、ブームともいわれる立ち食いずし。目の前で板前が握るスタイルは、訪日外国人に喜ばれそうです。イイトルミネのすし店は、駅ビルの店舗で実績。新商品の持ち帰り「海鮮ばらちらし」は、味とともにSNS映えする見た目重視です。

映える「海鮮ばらちらし」。店の運営は宮崎牛で一世を風びした飲食チェーンです

3店舗目はタイ料理店。エスニックな味わいは本場ゆずりですが、テナントは純粋な日本の会社。店ではタイ人留学生が働きます。日本で学ぶタイからの学生を経済的に支えて、日タイ交流促進に貢献します。

日タイ交流に力を入れるエスニック料理店のオープンキッチン。現地直輸入のスパイスが食欲をそそります

エキナカで食事する意味

JR東日本がエキナカに力を入れる意味。コロナやリモートワーク普及で鉄道利用客は減少、本業の鉄道事業は苦戦を強いられます。

しかし、会社は安定的に収入を挙げなければならない。それは社員のため、株主のため、それとも……。

JR東日本に限らずJRグループ各社、特に本州3社は都市圏や新幹線の売り上げで地方ローカル線を維持してきました。しかし今、そうしたビジネスモデルが崩れつつあるのはご存じの通りです。

ルミネ担当者の話では、現状は未定ながら新幹線や在来線で輸送した地域産品を販売する可能性もありとのこと。イイトルミネで食事したり買い物することで、ローカル線の走る地域を支援する。それが鉄道会社がエキナカを開発する、鉄道ファン目線での意義といえるのかもしれません。

ルミネイストの表玄関に当たる新宿駅東口の駅ビル「ルミネエスト新宿」。1964年5月に新宿ステーションビルとして開業した名門です

記事:上里夏生

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