【試写室からの報告】カンヌでパルム・ドールに輝き、アカデミー賞受賞の『ANORA アノーラ』ショーン・ベイカー監督を支えた女性監督ツォウ・シーチン初の単独作品『左利きの少女』の見どころ
ここ数年、台湾映画の日本公開数や注目度が上昇している。8月14日(金)公開の『左利きの少女』も、ニューヨークを拠点に映画製作をする台湾・台北出身のツォウ・シーチン監督の初めての単独作品である。
本作は、台湾の躍動感を最も強く感じる夜市(ナイトマーケット)で麺屋台を営むシングル・マザーのシューフェン(ジャネル・ツァイ)と5歳の少女・イージン(ニーナ・イエ)、そして自身の将来に葛藤する姉のイーアン(マー・シーユエン)を中心に、彼女たちを囲む人々がぶつかり合いながらも懸命に生きる姿が描かれる。
本作の主人公、イージンは「左利き」。かつて日本でも小さい子どもが左手でお箸を持つと矯正を強いられたように、台湾も同じで、昔気質の祖父は、「左手を使うな、左手は悪魔の手だ」と叱責する。イージンは「悪魔の手」の動きを確かめるように夜市でいろいろな小物をポケットに突っ込む。幸か不幸か店主には気づかれず、家に帰って家族にわからないように秘密の箱にしまい込むのだ。情の深い母は失踪した元夫の借金に振り回され、母親や姉妹から顰蹙を買っている。優秀だった姉は、家庭の事情で進学せず、望まぬ妊娠に思い悩んでいる。それぞれが不幸な事情を抱えながら、賑やかな夜市の片隅で肩を寄せ合いながら精一杯生きている。ところが、イージンが「悪魔の手」で祖母のビジネス上の不都合な書類を手に入れたことで、思いもよらないサプライズが起こる。そして、祖母の還暦祝いに一族が集まった時、これまでひた隠しにされていた秘密が暴露されようとしていた──
シーチン監督は、台北に実在する夜市のシーンを、大げさなセットによる撮影ではなく、スマホ(iPhone)を駆使してありのままの街の姿を映し出した。主人公の5歳の少女の視点から見た夜市の風景は色鮮やかで、反対に家族の住む安アパートは暗く対比される。台湾の夜市の風景は、さしずめ昭和の夏祭りのようで、屋台の料理から臭いも伝わってようなリアルさがある。
シーチン監督が本作で目指したのは、伝統と個性のせめぎ合いの探求だという。
台湾では、特に女性に対して、〝どうふるまうべきか〟、〝どの道を選ぶべきか〟など暗黙のルールが存在し、時に生きづらいとシーチン監督は言う。だからこそ監督は、台湾の大学を卒業した後、ニューヨークに渡って映画製作を学び、その過程で出会ったのが、『ANORA アノーラ』(24)などで時代の寵児となったショーン・ベイカー監督だった。シーチン監督自身が型にはめられた生き方をしてきた女性ではなかった。本作で長年の構想が実現し、初監督作品で故郷に錦を飾った。
つぶらな瞳のイージンが健気で、愛くるしい。演じたニーナ・イエは、3歳から子役俳優として活躍し、台湾のCMで見ない日はないと言われるほどの売れっ子だそうだ。本作のテーマに重く暗いものがあっても、鑑賞の後味が良いのもニーナ・イエの存在が明るい未来に繋がっているからだろう。
『左利きの少女』
2026年8 月14 日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町 ほか全国ロードショー
©2025 LEFT-HANDED GIRL FILM PRODUCTION COMPANY LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
公式サイト: https://cinema.starcat.co.jp/left-handed-girl/