「お家でどう叱ってますか」幼稚園面談でドキリ!謝れない自閉症息子、どうしたら伝わる?【専門家アドバイスも】
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
夏休み前、幼稚園の面談。ASD(自閉スペクトラム症)の息子には、心配なことがたくさん……!
担任の先生との面談を控えていた私は、相談することや質問することをまとめていました。
幼稚園の年中に進級したたーちゃんですが、いくつか心配なことがあったからです。
・進級してから登園渋りがしばらく続いたこと
・友達が遊んでくれないと漏らしていたこと
・クラスの活動が難しくなってもついていけているのか
・自宅ではわがまま放題だが幼稚園では大丈夫か
などなど……。
たーちゃんがASD(自閉スペクトラム症)だということは、年少の頃から幼稚園に伝えていました。
診断書を提出したあとも加配はありませんでしたが、年少では大きなトラブルはありませんでした。
いよいよ、面談の時間。想像していたより、幼稚園では頑張っているみたいでひと安心……?
和やかな雰囲気で始まった面談。
担任はベテランの先生です。
面談の間は、たーちゃんは幼稚園の体操クラブに行っていたので、本人の前では話題にしづらいことも質問できました。
・登園渋りについては、クラスに入って少ししたら泣き止んで、その後は楽しく活動できている
・友達が遊んでくれないと言っていたが、最近は仲良しのMくん以外のお友達と遊ぶこともある
・クラスの活動も、ワンテンポ遅れることはあるが、気になるほどではない
・幼稚園ではしっかりしていて、自分でお支度もできている
……とのことで、たーちゃんなりに頑張って適応しているのだなと知ることができました。
先生からの質問に、戸惑う。私の叱り方が悪い……?
私が心配していたことはとりあえず様子見で大丈夫そうだ、とホッとしたのもつかの間。
最後に先生から私への質問が。
「ご家庭ではどういうふうに叱ったり注意したりしていますか?」
私は質問の意図がすぐには分からず、答えに詰まってしまいました。
「強い言葉で叱ってしまったから、お友達に悪い言葉遣いをしている?」
「私の叱り方が悪いから、何かトラブルがあったのかも?」
と、内心焦ります。
「あまりにも言うことを聞いてくれないと、本当は脅しみたいでダメだと思うんですけど、『先にお風呂に入らないと遊べないよ』とか、『嫌なことをする子とは遊びたくありません』とか言ってしまいますね」
質問の答えになっているか不安でしたが、嘘偽りなく伝えました。
注意されているのが分からない?叱られているのが分からない?
「クラスでちょっとしたトラブルがあって、たーちゃんを注意した時なのですが……」
と、先生は続けて話してくれます。
「注意されているのが分からない、叱られているのが分からないみたいで」
「どうやってたーちゃんに伝えたらいいのか、相談させてほしいんです」
確かに、自宅でもたーちゃんは注意がなかなか入っていかないことがほとんどでした。
叱られている時もへらへら笑ってふざけて、なぜ叱られているのか理解できていない態度をとるのです。
怒られていたり、叱られていたり、嫌がられていることが、本人にはあまり伝わっていなさそうだな、と私も気づいていました。
それは、特性のせいで、相手の表情や雰囲気を読み取ることが苦手だからかもしれません。
それでも、幼稚園で頑張りすぎているから自宅では甘えているだけだと私は思っていました。
自宅ではできてないことも外ではできていることが多かったので、この「注意が響かない」ことも、外ではできているものだと、深く考えていませんでした。
「そうなんです。なかなか謝れないし、悪いことをしたと自覚できていないみたいで」
「自分のデメリットになることではないと、謝れないみたいなんですよね」
「だから、『嫌なことをする子とは遊びたくありません』みたいに脅しになってしまって……」
と、私は先生に注意の仕方について自宅でもどうしたらいいか悩んでいることを話しました。
そして、
「短い言葉で分かりやすく、その場で注意することを心がけています。対処法が合っているかは分かりませんが……」
「今度発達外来で相談してみるので、アドバイスをいただけたら共有します」
と先生に伝え、幼稚園の面談は終わりました。
悪いことをしたと自覚できない……?どうやって注意したらいいの?発達外来で教わった対処法。
その後発達外来でこの件について相談したところ、
・注意されたことについて、本人がどう思っているのか聞いてみる
・自分がもし注意されたことをやられたらどう思うのか聞く
・どうしてそれが悪いことなのかを教える
・人付き合いの方法を本や動画で知識として学ぶ
という方法もあると教わりました。
一朝一夕では解決しない問題かと思いますが、たーちゃんを含め周りの人が嫌な思いをしないためにも、夫や担任の先生、療育の支援員さんにも共有して、じっくり向き合おうと取り組んでいます。
執筆/みかみかん
(監修:初川先生より)
たーちゃんの「なかなか謝れない」エピソードの共有をありがとうございます。
まず、幼稚園の先生との面談にあたって、聞きたいことをまとめられ、限られた時間を有効活用できるようご準備されているのがさすがですね。気になっていることを先生に聞いてみると、今回のように園ではうまくやれていたり、すでに解決済であったりします。子どもが日々成長している、先生方もお子さんの様子に対応できているからこそと思います。園の先生から質問されると、どうしても構えてしまうものですね。家庭での対応が間違っているのではと一瞬にして頭をかけめぐる感じ、多くの方が心当たりがあると思います。ただ、実際には、今回のエピソードのように、家庭での様子・対応を聞きながら園や学校での対応に活かしていきたいという主旨で聞かれることが多いと思います。まさに「一緒に考える」ということ。面談でそこがなされるのは何よりです。
さて、「注意されているのが分からない」ように見える件ですが、これはさまざまな状態があるように感じました。たーちゃんが状況を正しく認識できていないこと。特性由来で相手の表情や雰囲気が捉えづらいのもありそうですし、そもそも年中さんなので状況の認識自体がまだ未熟な面もあるかもしれません。また、注意されているのが分かっていたとしても、その場に応じた表情や言動、態度を取ることができるかどうかということもあります。困ったときに泣いたり、困った表情、申し訳なさそうな表情をしてくれたりすれば周囲はきっとこの注意は届いているんだなと感じますが、そうとは限らない面もあると感じます。怒られて居心地が悪いけれど、どんな表情をしていいか分からないからへらへらしてしまう、そもそも自分の表情まで意識が向いていないなどあるだろうと感じます。
発達外来の先生のご助言のように、まずはたーちゃんの認識や思いを聞いてみることは大事です。ただ、その際に適応的な答えとはずれたものが出てくる可能性があります。よくあるものだと、「ぼくは(同じことをされても)嫌じゃない」のように、自分は嫌だと思わないから、相手が嫌な思いをしていることがよく分からないといったものです。強がりで言っている場合もありますが、本当に「相手の立場に立って考える」のが苦手であったり、本当に「自分にとっては平気」な場合もあったりします。そういうときには、周囲の大人はそれを叱ったり注意したりするのではなく、「相手の子は○○されて嫌な気持ちになったんだよ」「○○されると悲しい気持ちになるんだよ」と教えてあげるといいでしょう。そして、相手が嫌な気持ちになったというときは、「ごめんなさい」と言うんだよということも教えてあげるといいと思います。
そうしたことが誰に教わるでもなく、自然と状況を見ながら学び取り身につけていく子もいますが、そうでない場合には一つひとつ教えてあげましょう。そしてそのように行動できたときには、「うまくできたね」「いいね!」と承認します。状況の認識の仕方、状況に応じた言動など、子どもがまだ「知らない」(未学習)ゆえにつまずいている場合には、叱る・怒る必要はなく、教えてあげることが最初の一歩になります。まずはお子さんがどの段階まで至っているのか(状況の認識ができているか、相手の気持ちを想定できているか、注意されたときに自分がどんな言動を取ったらいいか知っているか、謝り方を知っているか、謝ることができるかなど)の確認からぜひ、と思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。