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日本銀行・植田和男総裁に聞く 世界で通用する英語力とは【杉田敏の 現代ビジネス英語】

NHK出版デジタルマガジン

日本銀行・植田和男総裁に聞く 世界で通用する英語力とは【杉田敏の 現代ビジネス英語】

日本銀行・植田和男総裁と杉田敏先生の特別対談を公開!

日本の金融政策の重責を担う日本銀行の植田和男総裁。その優れた英語力は広く注目を集めています。

マサチューセッツ工科大学の大学院で経済学を学んだあと、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で助教授として活躍した経験もお持ちの植田総裁に、英語の学び方などについて語っていただきました。

※『杉田敏の 現代ビジネス英語 2026年 春号』より一部抜粋して掲載。

国際会議では、人間としてつきあっていけるのかを


しっかり見られている感じがします

杉田 植田総裁は東京大学などで長く教鞭を執られていました。その時期に、私が講師を務めたNHKラジオ講座「やさしいビジネス英語」を学生さんに勧めてくださっていたと聞きまして、大変光栄に思っております。

植田 私は大学院時代にアメリカ留学を経験したのですが、帰国後は英語の勉強をあまりしなくなってしまったんです。そんな中、学会などで外国へ行くと英語の能力が凍り付いているような感じがしましてね、危機感を覚えて、杉田先生の講座を聞かせていただくようになりました。それと数年前に、私の学生時代には教わることがなかったシャドーイングというのが非常にいい訓練になると気づいたんです。英語の音声になかなかついていけないこともありますが、一生懸命やると、英語のリズムみたいなものが戻ってくる気がします。

杉田 植田総裁が英語で自由闊達に話されている映像を拝見したことがあります。総裁ほどの英語力と経済学の知見を併せ持つ方は日本では少ないと思いますが、今もなお英語上達に努めておられるとは……。このムックの読者の皆さんをはじめ、英語学習に励む方々にとって大変勇気づけられるお話です。

植田 いえいえ、私の英語は言いたいことがようやく通じる程度です。今はだいたい月に1回のペースで、各国の中央銀行総裁が集まる国際会議に出席しているのですが、英語の議論に慣れるまでに、毎回半日くらいかかりますよ。

杉田 そうなんですか。映像を拝見したかぎりでは、ジョークを交えたりして、日本語を話されているときより英語のほうが気楽にお話しになっているように見えますが。

植田 冗談の1つも言えないと、仲間に入れてもらえませんからね。

杉田 よくわかります。私は「ビジネス英語講座の最終目標は、英語で雑談できる力の習得」と常々語っています。ビジネスの仲間と一緒に食事をしたときなどに、気の利いた雑談ができないと、良好な関係を築けないと思うからです。

植田 私はあまり、雑談はうまくないのですが……。ただ、先述の国際会議はたいてい2、3日をかけて行われ、朝食会から会議後の夕食会まで、参加者みんなで1日中ずっと一緒にいるんです。その間はさながらファミリーのようで、会議の合間や食事中はずっと雑談をしています。個人的な信頼関係が深まるよう、ハイキングのようなプログラムが組まれていることもあります。

杉田 そうすると、お互いに気心が知れてきますよね。

植田 ええ。専門の能力を認めてもらうことが第一ですが、同時に、人間としてつきあっていけるのかをしっかり見られている感じがします。

杉田 異文化コミュニケーションにおいて気をつけていることはありますか?

植田 ありふれた答えかもしれませんが、歴史をよく知っておくことでしょう。アメリカ留学時は寮生活でしたが、ルームメイトから「おまえの宗教は何だ?」と聞かれて「仏教」と答えると、「禅宗か? それ以外の宗派か?」と聞かれ、確かわが家は浄土真宗だったなと思ってそう答えたら、「禅宗とは何が違うんだ?」とさらに聞かれて驚きました。自国の歴史や哲学、さらには相手の国についてもある程度知識がないと、有意義な雑談にはなりませんよね。

杉田 そのとおりだと思います。会話が弾むように話をもっていくのも大切ですね。

植田 私は相手に投げかける質問を2つ、3つ先まで考えながら話すようにしています。ただ、それに集中しすぎると、相手の話を聞き逃すことになりますが(笑)。

英語は中学校の1年生の教科書から。


教科書を丸暗記しました

杉田 そもそも英語の勉強を始めたのはいつごろですか? 

植田 ごく普通に、公立中学校の1年生の教科書からスタートしました。たまたま英語の先生が、今思い返しても発音が完璧だったんです。自分もそうなりたいなぁと思ったんですね。当時はネイティブの発音を聞けるチャンスがほとんどなかったので、NHKのラジオ講座「基礎英語」を聞き始めました。英語の発音をするときにどうやって舌や口を動かしたらいいか、という図説がついている本を買って練習したりもしました。さらに「文法を理解したうえで、教科書を丸暗記するといい」と人から聞き、英語の教科書を丸暗記しました。丸暗記はとても勉強になった気がします。

日本人は冠詞の使い方に慣れていない

杉田 中1の英語の教科書のレッスン1に出てきたことばを覚えていますか?

植田 さすがに覚えていませんね。大学生くらいまでは覚えていたのですが。

杉田 私が中1のときの英語の教科書は、A dog.が最初に出てきて、次にA big dog.と続きました。英文学者の福原麟太郎先生が書かれた教科書でした。

植田 A dog.で始めるのは、いい学び方のように思います。というのも、日本人は冠詞の使い方に慣れていません。例えばThere’s a very stylish new car.と言うときに、日本人はついaをつけるのを忘れてしまいます。英語ではa carという認識がまずあり、「2台の~」ならaではなくtwoになる。「この前話した~」ならtheになる。そのうえでstylishなどのことばが連なる。そうした認識のしかたを最初から頭にたたき込んだほうがいいと思うのです。

杉田 たぶん福原先生はそうした意図で書かれたのでしょう。でもいつしかThis is a pen.といった、いわゆる「文」から教える教科書が主流になっていきました。今ご指摘してくださったようなことを教えてくれる先生が多くいれば、英語に興味を持つ人がもっと増えた気がします。

植田 そうですね。

アメリカ留学時には、


指導教官への電話で大失敗

杉田 植田総裁は、英語以外に数学にも興味があったそうですね。それはいつごろからでしょうか?

植田 小学生のころからです。

杉田 もしも経済学者になっていなかったら、数学の分野に進んでいたとお考えですか?

植田 むしろ逆でして、数学の研究を深めていく中で自分にはあまりその才能がないと感じ、一方で社会的なことに興味があったので、数学も役立つ経済学の道へと進路を変えました。経済学の分野に進んでいなかったら、普通のサラリーマンになっていたかもしれないですね。

杉田 これまでの人生を振り返って、大きなターニングポイントはありましたか?

植田 たくさんありましたが、現職との関係で言うと、大阪大学で経済学部の助教授をしていた30代半ばごろに、当時の大蔵省の方と知り合って、「財政に関する研究所を立ち上げるので手伝ってほしい」と誘われたのです。それで、2年ほど大蔵省に出向したのですが、この経験が、アカデミックな分析だけでなく、政策に関することに興味を持つきっかけになりました。

杉田 そうですか。そのほかにアメリカ留学も1つのターニングポイントになったのでは?

植田 ええ。大学院時代にお世話になった先生が「経済学の学者になるならアメリカで博士号を取りなさい」とアドバイスしてくださったのが、大きかったですね。経済学はアングロサクソンの学問という側面がありますので。

杉田 中学時代から熱心に英語を勉強されていたとはいえ、留学したてのころはコミュニケーションに苦労されたのではないでしょうか?

植田 自分の話はなんとか相手に通じるものの、相手の話がなかなか聞き取れず、特に冗談などは理解できませんでした。あとは、ちょっとした動作を説明するときや、料理の手順を教えるときなど、生活の中で使う英語がすんなり出てこなくて。それは今でもそうですね。

杉田 英語の失敗談はありますか?

植田 あります。指導教官の家に電話したときに開口一番、What’s up?と言ってしまったんです。学生同士で交わすくだけた挨拶ことばが耳になじんでいたので、それを目上の教官にも使ってしまったわけです。教官は1、2秒沈黙したあとに会話を続けてくれたのですが、あとで「ウエダはユーモアのセンスがちょっと変だ」という評価をもらいました(苦笑)。

(『杉田敏の 現代ビジネス英語 2026年 春号』より一部抜粋。本誌では、植田総裁の毎晩のルーティン、若い学生が「思考力」を養ううえで大事にしてほしいこと、AIの活用法などについても語っていただきました。)

『杉田敏の 現代ビジネス英語』では、ビジネスパーソン要注目のトピックをめぐる英会話をお届けしています。
「2026年春号」のテーマは、人生相談コラムに見るアメリカ人の価値観、動物の知能の最新研究、オーバーツーリズム、NYの「おひとり様」事情など。

◆撮影/海野惶世
◆取材・構成/髙橋和子

植田和男(うえだ かずお)

1951年静岡県生まれ。1974年東京大学理学部卒業。同年東京大学経済学部入学。1980年マサチューセッツ工科大学経済学部大学院で博士号を取得。同年ブリティッシュ・コロンビア大学経済学部助教授に就任。1982年大阪大学経済学部助教授、1989年東京大学経済学部助教授、1993年東京大学経済学部教授。1998年から2005年まで日本銀行政策委員会審議委員(2000年再任)を務める。2005年東京大学大学院経済学研究科教授、2017年共立女子大学教授。2023年4月、日本銀行第32代総裁に就任。戦後初の学者出身の総裁として注目を集めた。著書に『ゼロ金利との闘い 日銀の金融政策を総括する』(日本経済新聞出版)、『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』(角川文庫)などがある。

「日本銀行動画チャンネル」で、植田総裁が英語で語る動画を視聴できます
■What Does the Bank of Japan Do? <そこが知りたい日本銀行:全編・英語版>
https://www.youtube.com/watch?v=5wZoFH5lOXE
■日本銀行金融研究所主催2025年国際コンファランス 植田総裁挨拶
https://www.youtube.com/watch?v=HaEqpi12S7Q

植田総裁が各国の中央銀行総裁とともに英語で取材を受ける様子の一例
https://www.youtube.com/watch?v=VjwJ2gtiIVw

杉田敏(すぎた・さとし)

昭和女子大学客員教授。1944年東京・神田の生まれ。66年青山学院大学経済学部卒業後、「朝日イブニングニュース」記者を経て71年オハイオ州立大学に留学。「シンシナティ・ポスト」経済記者を経て、73年PR会社バーソン・マーステラのニューヨーク本社に入社。日本ゼネラル・エレクトリック取締役副社長(人事・広報担当)、バーソン・マーステラ(ジャパン)社長、電通バーソン・マーステラ取締役執行副社長、プラップジャパン代表取締役社長を歴任。NHKラジオ講座「やさしいビジネス英語」「実践ビジネス英語」などの講師を、2021年3月まで通算32年半務める。2020年度NHK放送文化賞受賞。著書に『アメリカ人の「ココロ」を理解するための 教養としての英語』(NHK出版)、『英語の新常識』『英語の極意』(集英社インターナショナル)ほか多数。

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