【斎藤工さんインタビュー】今、自然のなかに住まわせてもらっているという自覚を持つべきだなと|Prime Original ドラマシリーズ『犯罪者』
大人の男の色気をたっぷりと身にまといながら、おトボケをかましたり、映画のために!と驚くような行動力を発揮したり。いつでも予想できない動きで見る者をひきつける俳優の斎藤工さん。Prime Videoで世界独占配信されるクライム・ミステリー Prime Originalドラマシリーズ『犯罪者』に出演します。撮影のこと、役柄のこと、腸内環境のこと、田舎暮らしへの興味について、斎藤さんに聞きました。
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掲載:2026年8月号
さいとう・たくみ●俳優/フィルムメイカー。主な出演作に映画『シン・ウルトラマン』『新幹線大爆破』『THIS IS I』『マジカル・シークレット・ツアー』、ドラマ『極悪女王』『誘拐の日』など。Prime Originalドラマシリーズ『犯罪者』、『キングダム 魂の決戦』(7月17日公開) 、公開待機作に『存在のすべてを』(2027年2月5日公開)が控えている。初長編監督作『blank13』は国内外の映画祭で8冠を獲得。企画・プロデューサーを務めるドキュメンタリー映画『大きな家』は第34回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー賞を受賞。永尾柚乃初監督作品『LITA』でもプロデュースを務める。また、全国の被災地などでの移動映画館「cinéma bird」主宰、「Mini Theater Park」、白黒写真家など、活動は多岐にわたる。
多くのレイヤーがないと巨大なものは描けない
「原作者の太田(愛)先生は、『相棒』シリーズなどの脚本を手がける一方で、テレビでは描けないものを書いてやろう、日本社会の構造的な巨悪へのカウンターを!と7年かけて書き上げられたとか。小説家としてのデビュー作で上下巻という大作で、その純度を理解した出版社がそのままのカタチで発表して。それはストリーミングの時代になり、過剰なコンプライアンスへのカウンターでもあって、ある意味で今の社会の核心に触れています。そうした作品のビハインドを含め、点と点がつながって線になったよう。とても興奮したのを憶えています」
斎藤工さんは『犯罪者』のオファーをそう振り返る。脚色を手がけたのは、『科捜研の女』『名探偵コナン』シリーズと数々のミステリーを構築してきた櫻井武晴さん。全8話。白昼の駅前広場で起きた通り魔事件を入口に、警察組織、巨大企業、マスコミ、そして政界が絡む骨太で分厚い群像劇が展開する。
「先生曰く、多くのレイヤー、階層的な構造がないと巨大なものは描けない。登場人物がそれだけ必要だったと」
脇を固めるのは、そこに立つだけで役が背負うものを表現できる〝演技猛者〟ばかり。その中心で通り魔事件を捜査する刑事の相馬亮介に高橋一生さん、相馬とは旧知の関係にあるフリーライターの鑓水七雄(やりみずななお)お に斎藤工さん、通り魔事件の生存者の繁藤修司(しげとうしゅうじ) に水上恒司さん。そして松永大司監督は、ドキュメンタリー映画でデビューして映画『エゴイスト』で国内外から高い評価を得た実力派。
「3人というのがいいんです。2対1や3対0と、その関係性は奇数ゆえにマジョリティ、マイノリティみたいなものが生まれる。2人だったらたどり着けないところまで行ける気がして」
全員が捜査のプロというわけではなく、元々確かな絆があったわけでもない。そんな3人が手を組み、途方もなく巨大な何かと闘う流れに巻き込まれる。
「2人のシーンではそこにいない人を主として語り、その場にいない誰かの存在が大きくなったり。〝石の上にも三年〟〝三日坊主〟という言葉もありますが、数字の魔力でしょうか? 人間関係において、3という数字には何か意味があるのかも。巨悪を前に2や4という偶数なら分断や分裂が起きたかもしれません。でも3人だから、相対する意見があっても置き去りにしない。三角形の構図が変化していくのが面白いなと」
正義感が強過ぎて組織から孤立する相馬と、ガテン系の修司。そこに斎藤さん演じる鑓水が元テレビマンの経験を生かして物事を推し進め、飄々とした優しさが救いとなり、会話にコミカルなテンポを生む。
「確かに原作や脚本だと鑓水はフレキシブルに動く潤滑油的な存在。それで自分のこと以上に相馬や修司を思ったりします。でも撮影していくと、柔和なはずの鑓水がいちばん硬化する瞬間があったり、相馬の中に鑓水的な要素が生まれたり。それぞれの〝色〟が、混ざり合っていくんですね」
まさにそれは役者同士の化学反応のようなもの。この3人だから、生まれたものでもある。
「高橋さんは研究者のようなところがあって、博学で多彩。水上さんは空き時間にずっと小説を読まれていました。お2人とも、どこか古風なんです。あらためて言葉にせずとも、自分の言葉を持っていらっしゃる感じがある。そうしたところはきっと映像に映り込むだろうなと」
そんな2人に対し、自分はどう居れば? 2週間に及んだ撮影前のリハーサルで、監督らと構築。そこで、「すべて覆る感覚がありました」と斎藤さん。
「俳優の中には普段から魅力的で、こういう部分が世間に知られてないのはもったいない!と思うことがあります。僕の場合は〝演技をしようとする声になっている。普段しゃべるときのリアルな声のトーンがいい〟とそこを徹底し、撮影の4カ月を諦めずに付き合ってくださいました」
それは、「オンとオフが逆転する感覚」だったとか。
「例えば心の反応なら、こんなふうに思うんだ!と、細かいものであればあるほど演技のディテールになります。だからいかに、無意識の意識でそこに近づくかで。僕は本番に豹変して演技をするタイプではまったくないので、誰にも見られていない日常の時間をいかに直接的に生かせるか? 圧倒的に、そんなことを感じた現場でした」
そんな話をしながら、「完成品が想像とは真逆のコマーシャル的なものになっていたらどうしよう?」と笑う。それは斎藤さんお得意のおトボケに違いないが、これまで自身の出演作を、「会心の出来!と思えたことがない」というのは本当らしい。
「だからビクビクはしています(笑)。でも松永さんのキャリアにとっても、今までの代表作と呼ばれるヒューマンドラマとはジャンルが違いますし、ドラマというプラットフォームにも初めて挑まれて。だからこそ監督にとっていちばんの代表作、そのアップデートになってほしいと思っているんですよね」
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腸が意思を司っている!?
『犯罪者』の中で、食の安全は大きなテーマのひとつ。そして斎藤さん自身、発酵食品や腸内環境に強い興味を示す。
「振り返ると自分はシュタイナー教育を受け、食事もマクロビで育って。〝三つ子の魂〟ではありませんが、懐古的になっているのかもしれません」
ドイツで活動した哲学者、ルドルフ・シュタイナーの人間観に基づいた教育、玄米を主食とした食事法であるマクロビオティック。そんな土台があるから? さらにコロナ禍、菌やウイルスについての本を読み漁ったことがその意識を深めた。
「発酵にまつわるもの、土について、土と内臓……。さまざまな本を読んでいくと、今僕らが抱える問題や悩み、そのすべてについてではありませんが、やっぱり日本食、戦前の食事にひとつの答えがあるなと。自分で漬物や味噌をつくると、常在菌のおかげで自分にとってよいバランスになっていく。菌って、めちゃくちゃ健気なんですね」
体内や皮膚に存在して病原性を示さない微生物、〝常在菌〟なんて言葉がさらりと出てくる。斎藤さんがぬか漬けや味噌を仕込む姿を想像してちょっと不思議な気持ちに。
「それで腸内フローラを調べたりして、(頭を指さし)こっちはおろそかでいいから、こっち(おなか)を整えようと思ったんです。脳みそがほとんどない昆虫にも、腸はある。生命体というのは腸さえあれば生きていける、腸が意思を司っている、菌が世の中を回しているのかも!? と身をもって感じる日々です。それで僕に関しては、花粉症が改善されたりしました」
腸内の細菌が、バランスを取りながら腸内環境をよい状態に保とうとする。多様な細菌が密集するさまがお花畑のよう、だから〝腸内フローラ〟。斎藤さんについて知ろうとしたら腸内環境に詳しくなりつつある……。
「精製された白米や砂糖と、“これは食べない〟という引き算ですね。それで小麦なら国産のものと、昔から日本にあったものを食べるようにして。食品の成分表でいうと原材料と添加物を区別するためのスラッシュ、その後ろに表記されるものに気をつけています。そうは言ってもチートデーはあるし、現場ではみんなと同じものを食べたり。僕にとっての正義は腸を健全に保つことですが、気をつけ過ぎると誰からもご飯に誘われなくなりますから(笑)」
東京にずっと……とはどうしても思えない
そうした考えは、田舎暮らしへの興味に直結しそうに思える。手元に置かれた本誌を見るや、「最高のテーマですね!」と目を輝かせた。
「田舎暮らし、ずっと考えていることです。東京に軸足がないと働けない仕事ではありますが、通えなくはないエリアでローカルと呼ばれる地域もあります。リモートの可能性も広がり、都内の家賃の高騰などを考えると、東京にずっと……とはどうしても思えない。そんな思いが数年前からありまして」
妄想を一歩進めて、海と山ならどちらに心ひかれるだろう。
「その両方に触れられるところもありますよね。海沿いに暮らす方に聞くと、緑の自然が手前にあって、その先に海を眺めると四季が感じられると。それで波の音は胎内記憶に通じるから落ち着くとか、波の音のリズム感で人は生きていくとか、海水に20分も浸かると皮膚が再生されるとか、体質改善がなされるとか……。海にはそんな力があるようで憧れます。でも今は長野や栃木と山のほうに興味があります。土のエネルギーが高いと、そこに暮らす生命体もエネルギーをもらえる気がして」
海には過剰なエネルギーを浄化する力があり、生命が満ちた森に身を置くと内からパワーがみなぎる――。年齢を重ねて森にひかれる感覚はわかる。
「『せかいのおきく』という映画がありましたが、江戸時代には、糞尿を買って肥料として農村に売る仕事があったくらい、糞尿に価値があった。それは土を豊かにするもので、人間が唯一地球に返せるものです。それで今、自然のなかに住まわせてもらっているという自覚を持つべきだなと。〝ガンニバル〟的な村のしきたり、目に見えない壁があるかもしれませんが」
呪われた一族が人を喰う、そんなドラマみたいな現実はないだろう! でも「そういうところに身を置けば、すべてのパフォーマンスが上がるかも」とも。
いやすでに斎藤さんは俳優だけでなく、幅広く活動している。映画監督やプロデューサー、白黒写真家(それからお笑いも?)と直接的に何かを表現するだけでもない。そのひとつが、被災地や途上国での移動映画館 「cinéma bird」。映画館が減り続けるなか、同じ空間で感動を共有する喜びを伝えようと、映画の上映と音楽やお笑いのライブを合わせたフェスティバルのようなプロジェクトだ。福島、熊本、石川と、「点ではなく線で」という言葉通り、その活動は10年を超えた。
「作品やイベントに関わるとき、自分がフロントに立つことで成立するものもあれば、むしろ名前を伏せてサポートする側になったほうがいい場合もある。どうすることがベストか? 毎回疑い、吟味します」
そうした活動のすべてが俳優・斎藤工の武器にも思える。いつでも役に予想できない奥行きを与えるのを期待させる。それで実際、台本からはみ出した何かが加えられていそうで、今回はどんな?と楽しみになる。そんな俳優はほかにいないし、彼自身がどこか楽しそうだ。
「例えば人との出会いであるとか、もし被災地に暮らしていたらこんなイベントがほしい! そんな思いから始まり、ライフワークとしてやっています。でもやっぱりちゃんと食べること、〝ライス〟ワークあってのライフワークですけど!」
『犯罪者』
●原作:太田 愛『犯罪者』(角川文庫/KADOKAWA)●監督:松永大司 ●脚本:櫻井武晴 ●出演:高橋一生、斎藤工、水上恒司 ほか ●7月17日(金)よりPri me Vi deoで世界独占配信
男女4人が刺殺される通り魔事件が発生。犯人は事件直後、薬物中毒死していた。相馬刑事(高橋一生)は一命をとりとめた生存者の繁藤修司(水上恒司)、元テレビマンの鑓水七雄(斎藤工)と事件を追うことに。その2年前、日本の出生率を上げるため、厚生労働大臣から「スマイルキッズキャンペーン」の実施が告げられる。大手食品会社「タイタスフーズ」は新商品開発に奔走。そのころ、乳児に「メルトフェイス症候群」と呼ばれる奇病が広がり始める――。
ⒸPROTX
文/浅見祥子 写真/鈴木千佳 ヘアメイク/くどうあき スタイリスト/三田真一