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『松竹新喜劇 錦秋公演』喜劇発祥の地の道頓堀で2年ぶりに開幕、藤山扇治郎と喜劇の名跡を継承する「令和の曽我廼家」三人が芸名の大切さを語る

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『松竹新喜劇 錦秋公演』(左から竹本真之、植栗芳樹、桑野藍香、藤山扇治郎) 撮影=田浦ボン

11月6日(土)より大阪松竹座にて『松竹新喜劇 錦秋公演』が幕を開ける。喜劇発祥の地・道頓堀での公演は2年ぶりのこと。NHK連続テレビ小説『おちょやん』でも話題となり、このたび43年ぶりに復活上演される「お家はんと直どん」と、松竹新喜劇随一の人気作「お祭り提灯」の豪華二本立てとなっている。

また、この『錦秋公演』初日でもって、若手ホープの三人である植栗芳樹が曽我廼家一蝶に、桑野藍香が曽我廼家いろはに、竹本真之が曽我廼家桃太郎に改名し、喜劇のルーツである曽我廼家の名を継承する。曽我廼家五郎、十郎が明治37(1904)年に初めて喜劇と銘打った劇団を道頓堀で旗揚げして以降、曽我廼家の流れを汲み、幾度かの変遷を重ねて昭和23(1948)年に松竹新喜劇が誕生した。喜劇誕生から100余年、令和の時代に新たな曽我廼家が誕生と、こちらも注目の話題だ。

渋谷天外

10月に大阪市内で行われた製作発表では、劇団の代表を務める三代目渋谷天外を筆頭に、藤山扇治郎と、曽我廼家を継承する植栗芳樹、桑野藍香、竹本真之が白い制服姿で登壇した。植栗、桑野、竹本には松竹より改名証が授与され、新たな門出をお祝い。天外も「五郎さん、十郎さんも喜んでいると思う。こんなにうれしいことはない」と目を細めた。

『松竹新喜劇 錦秋公演』

そんな三人に松竹新喜劇の魅力を問うと、「笑って泣いての人情喜劇が魅力。僕は18歳のころに初めて観て衝撃を受けて、今でも大ファンです。先輩たちが演じる姿もたくさん観てきました。今、コロナ禍で大変ですが、お客様には笑って泣いてストレスを発散してもらいたいです」と植栗。桑野は「私も植栗兄さんがおっしゃったように、笑いあり、涙ありの人情喜劇で心温まって劇場を後にしてもらいたいと思います」とコメント。竹本は「普通の人たちが出てきて、普通の会話をしていてもどこか面白い。約1時間半というお芝居の中に人生を凝縮しているところも素敵だなと思います」と語った。

そして扇治郎は「もっと先の未来、僕らが今の天外さんぐらいの年齢になった時に、後輩から曽我廼家や渋谷、藤山を継承したいと思ってもらえるよう、先輩からのバトンをしっかり受け継ぎ、劇団員みんなで手と手を取って頑張っていきたいです」と意気込んだ。

『松竹新喜劇 錦秋公演』

新型コロナウイルス感染症対策としてこれまでも厳しいガイドラインを策定し、上演を行ってきた大阪松竹座だけに「安心してお越しください」と天外。また、11月6日(土)から21日(日)まで上演される本公演は文化庁 子供文化芸術活動支援事業の対象公演となっており、18歳以下の子供は無料で鑑賞可能。この機会にぜひ、劇場に足を運び、大阪が誇る喜劇に触れてみてほしい。

●藤山扇治郎と曽我廼家を継承する三人にインタビュー

『松竹新喜劇 錦秋公演』

続いて、曽我廼家を継承する植栗芳樹、桑野藍香、竹本真之と、藤山扇治郎の四人で座談会を行った。曽我廼家の継承について、また、松竹新喜劇への思いなどをざっくばらんに語ってもらった。
――曽我廼家を継承されるということで、新しいお名前で舞台を迎える今の心境はいかがですか?

植栗:僕は楽しみです。実際、どれくらいの方が今回の継承を楽しみにしてくださっているのかはまだまだ分かりませんが、製作発表記者会見で天外兄さんが「お祭り提灯」の中で僕たちのことを紹介すると言ってくださったので「嬉しい!」と思いました(笑)。

竹本:全然実感がなくて、ここにいるのはまだ竹本真之なんですよね。たとえば名刺を作っても「曽我廼家桃太郎です」と言うのは恥ずかしくて。「桃太郎になります」くらいの感じでしか言えないです(笑)。

植栗:実際そうやしね。11月6日の初日を迎えるまでは僕も曽我廼家一蝶ではないので。

竹本:11月6日を境に植栗さんが一蝶さん、藍香ちゃんがいろはさんに。自分も桃太郎と呼ばれるようになったら、改名の実感が湧いてくるのかなと思います。

桑野:私もまだあまり実感が湧いていませんが、継承させていただくということでチラシの表面にも載せていただいて。改名させていただくからといって面白くなったり、お芝居もうまくなる訳ではないので、新たに自覚を持って、今以上に気を引き締めて頑張っていきたいです。

●「名前が自分を後押ししてくれる」

藤山扇治郎

――扇治郎さんは2013年に松竹新喜劇に入団された時に酒井扇治郎から藤山扇治郎に改名されました。その時の気持ちはいかがでしたか?

扇治郎:僕の場合は舞台に出るのが精いっぱいでしたから、名前のことを考える余裕もありませんでした。「祖父が藤山寛美」というのが大きいですが、名前は大事だなと思いました。酒井扇治郎でやるのと、藤山扇治郎でやるのとでは全然違うなと。曽我廼家のお名前も一緒だと思うんです。先人が曽我廼家五郎さん、十郎さん。「喜劇といえば曽我廼家」で、今、生きている我々がお名前を継ぐ。藤山もそうです。名前を自分たちが継がせていただいて、名乗らせていただく。名前というものは大きいですよね。それだけではないですが、名前も後押ししてくれるということを松竹新喜劇に入団してからの8年間で感じました。今日三人にお会いして、曽我廼家になられたんだなと納得しました。これまで気づきませんでしたが、今日、改めて名前のすごさを感じました。多分、まとう空気が違ってくると思います。だから芸名があるんだなと思います。

――確かに「曽我廼家」と聞くと面白いだろうなと期待しますね……。プレッシャーになるかもしれないですが。

植栗:「面白い」の定義によると思いますが、我々松竹新喜劇はギャグをするわけでもないですし、お芝居の中で人間味のある面白さを出していく劇団なので、ただそこにいるだけでも面白い人もいれば、姿かたちが面白い人もいるだろうし、真剣と真剣のぶつかり合いだからこそ生まれるすれ違いと面白さを表現しないといけない劇団なので、そこを担っていければいいなと思います。

桑野:曽我廼家だから面白いというのは、とてもプレッシャーです(笑)。新喜劇では娘役をやらせていただくことが多いのですが、曽我廼家なのだから面白くしないと! と気負いすぎず、作品に描かれた人物に少しでも近づける中で自然と「面白い」が発生するようになりたいなと思います。

竹本:僕が(製作発表記者会見のあった)今日一日を過ごして思うことは、三人のキャラクターが別々なんですよね。特に植栗さんは昔から責任感が強くて、今回も一番先輩で、取材でも最初にほとんどの回答をしてくれます。100点に近い、しっかりとしたコメントをしてくれるんですよ。

植栗:人をおもしろないみたいに言うなよ(笑)。

竹本:いや、ちゃんと喜劇の部分も織り交ぜつつのしっかりした回答をしてくれるので、後から話す僕はすごく楽なんです。植栗さんがその部分を担ってくれるから、僕は思いっきりふざけてみようかなと思えるんです。本当、心強いです。

桑野藍香

――桑野さんは、曽我廼家を継承することについておばさまの川奈美弥生さんから何かお言葉はありましたか?

桑野:最初に相談したのがねえちゃん(川奈美)で、「(曽我廼家に)ならなかったら今のままやね」と言われました。確かに、何かしらの期待を込めて私のような者に名前を継承と言ってくださっていることなので、私自身、何か変えるならこれがきっかけになるかなと思いました。

――大きなご決断でしたね。

桑野:はい。決断までには、とても悩みました。

――お二人も悩みましたか?

植栗:私は単純に嬉しかったです。曽我廼家という喜劇の祖先の名前に対しての憧れは昔からあったので、お話をいただいた時は「やった!」という思いでしたね。

竹本:僕も「やったー!」ですね。当初、誰にもまだ言わないでと言われたけど、すぐお母さんに電話して言いました!(笑)。

――名跡の継承は誰もができるわけではないと思うので、選んでもらったというのは嬉しいことですね。

桑野:製作発表記者会見では「これからは名前を武器に頑張ります」と申し上げたのですが、この「名前を武器に」というのは扇治郎さんが先ほどおっしゃったことと同じで、お名前を継がせてもらうということで自分のお尻を叩いて、奮い立たせて、新たに喜劇の道を頑張ろうという決意表明でもあるかなと思います。

●先人の芝居を受け継いでいくこと

植栗芳樹

――お芝居を作る時は役のキャラクタ―はそれぞれが考えるんですか? それとも台本や演出通りに?

植栗:各々が考えることの方が多いかなと思います。あと、各先人たちがやっていらした思いとか……。周りの先輩方は十人いたら10通りのことをおっしゃってくださりますから(笑)。右向けと言う人と左向けと言う人、じっとしとけと言う人と、どうしたらええねん(笑)! という時も多々ありました。これはみんな経験していることですけど(笑)。でも先輩たちがおっしゃってることは、本当は1つやったりもするし……。これは1回は若手は経験するよね(笑)。

扇治郎:そうですね(笑)。

植栗:誰の言うことを聞いたらええねやろと困惑することもありますが、みんなそうして乗り越えていくのだと思います。

――扇治郎さんは『お祭り提灯』の丁稚役ですが、オチのセリフが重要と言われています。あのセリフを言う時は心構えとかあるんですか?

扇治郎:懐に一両入れてるんですよ。それを落とさないか心配で……。

植栗:どうしようもないもんなぁ、落ちたら。

扇治郎:過去に出演させていただいた時は、うまいこと懐に入れることに精一杯でした。作品自体はよくできていて、お客様も喜んでくださるので、一生懸命勤めさせていただかないといけないなと思います。毎日やっていると、どうしても良くも悪くも慣れが出るんですよね、お芝居というのは。そこが先人はすごいなと思うのは、何回も上演された作品でもいつも初めてのような。先輩方はその気持ちを常に持っておられる方なんですよね。曽我廼家というのは即興、「俄(にわか)」。喜劇のルーツは台本がありませんでしたが、植栗さんも、桑野さんも、竹本さんも即興的なものを持ってはる方なので、僕らは学ぶことが多いです。毎日同じ芝居になりがちな自分ですが、先輩方を見て勉強しないといけないなと思います。

――植栗さんは「お祭り提灯」で名物の追っかけもありますね。

植栗:僕が演じる世話役の勘太というのは、比較的ちょっとお年を召した方が演じることが多かったんです。でも、結構古い文献を調べてみると、髙田(次郎)兄さんが20代で世話役をやっているんですよ。(曽我廼家)文童兄さんも。それを思うと、若い世話役だっておるやろうし、若いなら若いなりのやり方を稽古の中で見つけていこうと。相手役は(曽我廼家)寛太郎兄さんですし、一緒に考えていけたらなと思います。

竹本真之

――竹本さんは「お家はんと直どん」ではきび団子売りのたーやんの役です。

竹本:この役は、もともとなかった登場人物ですが、今回作っていただきました。自分らしく精一杯演じたいと思っています。

――桑野さんは製作発表会見でも「お祭り提灯」で演じるお近(ちか)のセリフをどう可愛く言えるか」とおっしゃっていましたね。

桑野:そうですね。私は今年30歳になるのですが、実年齢よりかなり若い役になるので、楽しく、可愛くできたらと思います。

●子供から大人まで「とにかく1回観てほしい」

藤山扇治郎

――松竹新喜劇の次世代担い手と期待される皆さんですが、ご自身と同世代の方に松竹新喜劇の面白さをお伝えする時、何とお伝えしますか?

植栗:これは実体験ですけど「1回観て」。観たら分かる。観に行くきっかけがないだけだと思うんです。

――上演時間もコンパクトで、物語も分かりやすくてその世界に入りやすいですよね。

植栗:僕の甥っ子、姪っ子も中学生の時から観に来てくれていますが、そのころから面白かったと言っています。だから1回、観に来てもらえたら嬉しいです。

桑野:私も「1回観に来て!」です。吉本新喜劇はテレビで放送されていて、私も子供のころに観ていました。なので松竹新喜劇もメディアを通してもっと知ってもらえたらなと思いますが、自分の友達とか同世代の人には「とりあえず観に来てほしい」と言いますね。

竹本:僕は酷評してほしいです。厳しい目で観てほしいですね。これで満足したくないんです。もっともっと成長したい。良くなかったところを聞いて、もっと考えたい。悪い意見は言いにくいと思いますが……。

植栗:いつでも言うたんで(笑)。

竹本:それはもう、いつもおっしゃってくれていますので、あの、お客様から……(笑)。

扇治郎:僕もね、「1回観に来て」しかないんですよ。食べ物と一緒で、食べてみないと分からないじゃないですか。なので、まずは観て、体験してもらうのが一番。劇場にはロビーの雰囲気とか売店とか、芝居以外の楽しみもありますから、そういったことも体験してもらいたいですね。

植栗:この公演は18歳以下は無料なので、みんなにどんどん利用してほしいです。

『松竹新喜劇 錦秋公演』

取材・文=Iwamoto.K 撮影=田浦ボン

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