希少な新潟県産天然ハチミツを生産する「橋元養蜂園」。
お料理に欠かせないハチミツは、意外とたくさん種類がありますよね。調べてみると流通しているハチミツのほとんどが輸入で、国産はわずかなんだそうです。新潟県はそれほど養蜂が盛んでなく、「県内産」のハチミツとなるとさらに希少。そんな養蜂を生業としている「橋元養蜂園」さんに、実際にミツバチを育てている場所でいろいろとお話を聞いてきました。太陽の下でキラキラと輝くハチミツは、とても美しかったです。
橋元養蜂園
橋元 友哉 Yuuki Hashimoto
1989年新潟市生まれ。東京の大学を卒業後に就農。祖父の養蜂場で1年間、専業養蜂家のもとで2年間修業。その後、独立。2023年「橋元養蜂園」を法人化。好きなハチミツはサクラ。
橋元養蜂園
橋元 かおり Kaori Hashimoto
1989年新潟市生まれ。高校卒業後はサービス業に従事。2019年より「橋元養蜂園」に加わる。好きなハチミツはアカシア。
30代で10年以上のキャリアを持つ、若手養蜂家。きっかけは祖父の誘い。
——こんなに若いご夫婦にお会いするとは思っていなくて、びっくりしちゃいました。
友哉さん:そうですか(笑)。でも養蜂をはじめて、もう10年以上経ちます。
——どうして養蜂をはじめられたのか、ぜひ教えてください。
友哉さん:祖父が自宅の庭で養蜂をしていまして。大学3年生のときに、祖父から「卒業して新潟に戻るんだったら、養蜂を手伝ってほしい」と言われたんです。おもしろそうだから、就職はせずに養蜂をやろうと思いました。
かおりさん:主人は小さい頃、おじいちゃんのハチミツをこっそり食べていたんですって(笑)。おばあちゃんが体調を崩して数年間養蜂を休んでいたんですけど、「やっぱりやりたい」って誘ったみたいです。
——ちなみにご両親はなんて?
友哉さん:あんまりいい反応じゃなかったです。じいちゃんも、まさか本業にするとは思っていなかったみたいでびっくりしていました(笑)
——でもしっかり専業養蜂家さんとしてやられているんだから、立派ですよね。最初はおじいさまと一緒に仕事をされたんですか?
友哉さん:じいちゃんと一緒に、休んでいた養蜂業を立て直しました。それから他の農家さんとも知り合いになって、「やっぱり趣味と専業は違う」と気がついたんです。2年目、3年目は専業の方のもとで修業させてもらいました。
——養蜂のお仕事って、なかなかイメージが湧きません。詳しく教えてもらえないでしょうか。
友哉さん:ハチミツが採れるのは春だけなので、春の3ヶ月で1年分のハチミツを採取します。それ以降は、来年の春に向けて蜂を育成する期間です。
かおりさん:ミツバチを飼育してハチミツを採取する以外に「ポリネーション」という事業もしています。花粉交配用のミツバチをイチゴやメロン農家さんなどに貸し出すんです。
養蜂場の繁忙期は早朝からはじまる。独自のやり方で、より高品質なハチミツを。
——春にハチミツを採るということは、ちょうど今は繁忙期ですか?
友哉さん:4時にはハチミツを絞らなくちゃいけないので、この時期は2時に起きます。養蜂場は車で1時間くらいかかるところにもあるのでね。
——2時
それで何時くらいまで作業するんですか?
友哉さん:採取は6時過ぎくらいまでですかね。ミツバチが花から蜜を持ってくる日中は、ハチミツの糖度がまだ十分ではないんですよ。ミツバチは夜中に羽ばたいて、風と熱で蜜の糖度を高めるんです。ミツバチが活動をはじめる前に作業しなくちゃいけないんですね。
かおりさん:山でサクラ、百花蜜、フジのハチミツを採取して。次にアカシアが咲くので、その場所へ蜂を移動させます。それが終わったら今度はケンポナシ、という流れでしょうか。
——分かるような、分からないような……。ただそのすべてを春にされているなんて、「すごい」のひとことです。ちなみにかおりさんは、どうしてご主人の仕事に加わろうと思われたんですか?
かおりさん:あまりに大変そうなので「私も手伝いたい」と申し出ました。今年から研修生が加わって、今は3人で働いているんですよ。
——友哉さん、かおりさんが加わってできることは増えました?
友哉さん:「ハチミツを採る量を増やしてみようか」っていうチャレンジもできるようになりましたね。
——橋元養蜂園さんのハチミツは、どこで手に入るんでしょうか。
かおりさん:「農家の直売所 とんとん市場」さん、「道の駅 漢学の里 しただ」さんなど20店ほどに卸しているので、そちらでお買い求めいただけます。
——春に採取して、販売は年間ですか?
友哉さん:そうですね。専用のタンクに保管してあるものを、1年かけてビン詰めし、出荷しています。ビン詰めや出荷もすべて手作業です。
——「橋元養蜂園」さんのハチミツには、何か特徴があるんでしょうか?
友哉さん:ハチミツの採り方がちょっと違います。蜂は巣に卵を産むし、蜜も貯めるんですけど、私たちは「専用の枠」を使って、ハチミツだけを採取できるようにしています。そうするとハチミツ本来の色が綺麗に出ますし、より衛生的なんです。
——きっとそれはそれで手間がかかるんだと思います。そのやり方を確立された理由は?
友哉さん:現場でハチミツを絞るには、人数が必要です。でも、ひとりではじめたので「できるだけ数多く管理するにはどうしたらいいか」と考えて、このやり方を選びました。手間と費用がかかっても、効率が良かったもので。
かおりさん:質もより高くなるんですよ。主人は、ロイヤルゼリーアレルギーを持っているんですけど、このやり方で採取したハチミツは食べられます。ハチミツを絞る段階で、アレルギーの素となる成分を安全に取り除けているんだと思います。
ハチミツの加工品や花粉交配事業にも、力を入れて。
——友哉さんは、養蜂家としてどんなふうにステップアップをしてこられたんですか?
友哉さん:全国の専業養蜂家さんと交流して、技術的にも効率的にも改善してこられたんだと思います。いろいろな方のお話を聞いて、「自分にはどれが合っているのかな」ってちょっとずつやり方を変えてきました。
——専業でやるというのは、強い気持ちが必要だったと思うんです。
友哉さん:たぶん知らなかったからできたんでしょうね(笑)。若さもあったし「ここで負けたくない」「あとには引けない」って気持ちでしたかね。
——続けてこられたのには、どんな思いが?
友哉さん:養蜂の仕事は好きですよ。自分で何かをいじって育てること自体が好きなので、仕事の内容には苦労を感じないです。ただ金銭的な厳しさを感じたことはありました。
——お魚みたいに不漁の年があるとか?
友哉さん:それはありますね。僕らがコントロールできる部分ではなく、蜜が出るかどうかは自然任せですから。
かおりさん:手伝いはじめて、主人の大変さがよくわかりました。はじめたばかりの頃なんて、ハチミツの採れる量だって少なかっただろうと思うと、ここまで伸ばしてこられたなんてすごいなって思います。
——勢いづいたきっかけみたいなものはあったんですか?
友哉さん:協力してくださる方に恵まれてきたんだと思います。農協さんとのつながりだとか、花粉交配で出荷する先の農家さんにも協力していただいて。「あの辺、いいところあるぞ」と教えてもらうこともあるし、そういう面ではすごく助かっています。
——ハチミツのお酒もあるんですよね。
かおりさん:「エコ・ライス新潟」さんと共同生産しているミード酒の販売を昨年からはじめました。
友哉さん:ハチミツの加工にも力を入れているんです。今後は輸出もできたらいいなと思っています。
——最後にこれからの目標を教えてください。
かおりさん:まだまだ新潟のハチミツは知られていないので、県内の方に「養蜂農家も頑張っている」って広めていけたらいいなと思っています。
友哉さん:僕は、花粉交配の需要に応えていきたいと思っています。最近ではこの辺りでも稲作から園芸への転作が進んでいるんですけど、蜂は県外からの供給が主なんです。でも県内で育てた蜂を安定供給することはできると思っています。「新潟の園芸は、新潟の養蜂家がしっかり支える」って気持ちで、花粉交配の事業を拡大していきたいです。
橋元養蜂園