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「技術だけ追っていても、未来は広がらない」タイミーCTO・山口 徹は“知の横断”でキャリアを切り開く

エンジニアtype

「技術だけ追っていても、未来は広がらない」タイミーCTO・山口 徹は“知の横断”でキャリアを切り開く

CTO’s CAREER STRATEGY

「今ちょっと働きたい」と「今ちょっと人手が欲しい」をマッチングする。

そんな新しい仕組みで注目を集めた『タイミー』は、2018年のローンチ以来、社会の「働き方」に確かな変化をもたらしてきた。

累計ワーカー数は1,000万人を超え、24年度の売上は前年度比66.5%増の268.8億円に到達(*1.2)。その急成長ぶりは、もはや単なるマッチングサービスの枠を超えつつある。

この過渡期に開発組織のかじ取りを任されたのが、24年11月よりCTOに就任した山口 徹さんだ。DeNAで約12年間にわたりプロダクト開発に携わり、BtoB SaaSスタートアップのベルフェイスでは、CPO(Chief Product Officer)とCTO(Chief Technology Officer)の両面から価値づくりに挑んできた人物である。

彼が今見据えているのは、「技術とビジネスの分断を超えた、プロダクトと組織の再設計」だという。その言葉には、これからの時代を生きるエンジニアに必要な視点が詰まっていた。

(*1)プレスリリース|スキマバイトサービス「タイミー」累計ワーカー数1,000万人を突破
(*2)タイミー公式|経営成績

株式会社タイミー
執行役員 CTO
山口 徹さん(@zigorou)

東京工業大学工学部電気電子工学科を中退後、幾つかの会社を経て、サイボウズ・ラボ株式会社にてデジタルアイデンティティとブラウザ拡張の研究開発に従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーでMobageをはじめとしたゲームプラットフォームの開発に携わり、ソフトウエアエンジニアやアーキテクトとして複数のプラットフォーム開発を牽引。さらにスポーツ事業本部のシステム部門を管掌し、システムアーキテクト領域で専門役員を歴任。レイターのB2B SaaS スタートアップにおける取締役CTO兼CPOを経て、2023年5月、タイミーの執行役員VPoTとして入社。以降、技術戦略推進と組織設計、採用等に従事。執行役員CPOを経て、2024年11月に執行役員CTOに就任

目次

開発現場の課題解決には、経営目線が必要だと気付いた部門連携を強化し、好調プロダクトのさらなる進化を変化の時代に必要なのは、知識の深さより視点の広さ

開発現場の課題解決には、経営目線が必要だと気付いた

山口さんのエンジニア人生は、ソフトウエアエンジニアとしてシステムアーキテクトを極めるところから始まった。

「今でこそCTOとして経営に関わる仕事をしていますが、キャリアの初期はずっとスペシャリストとしてやっていくつもりだったんです」

その考えに転機が訪れたのは、キャリアの中盤、約12年にわたって在籍したDeNAでの経験だ。ゲームプラットフォームの開発に加え、企画段階からプロジェクトに関わる機会があり「何を、なぜ作るのかを考える仕事の面白さに気付いた」という。

「開発業務をしていた頃から、どちらかといえば“事業寄り”の考え方で仕事を進めることが多かった。物事を多角的に捉え、ステークホルダーと利害を調整する作業が得意だったんです。DeNAでは、そうした特性を活かせる機会が多かったですね」

中でも大きな影響を受けたのは、任天堂と資本提携して進めたゲームプラットフォームの立ち上げプロジェクトだった。この出会いが、山口さんの「事業観」に大きな影響を与えた。

「任天堂さんは明確なミッション・ビジョンのもと、物作りに対する徹底したこだわりを持ち、全社一丸となってコンテンツを作成していました。その姿を目の当たりにし、『事業の成功なくして開発者にとって良い環境は実現できない。その課題の根本解決には、より深い事業・経営の視点が不可欠だ』と痛感したんです」

技術を極めるだけでは、本質的な課題は解決できないーー。アーキテクトとしての仕事に限界を感じていた山口さんにとって、その気付きは決定的だった。

経営者を目指そう

そう考えるようになった山口さんは、DeNAを退社後、BtoB SaaSのスタートアップに転じ、CPOとCTOを兼任。経営視点を持って、事業に深く関わる道を選んだ。

そして2023年、タイミーに参画。ここでも前職の経験を活かし、CPOとCTOの職を歴任することになる。

部門連携を強化し、好調プロダクトのさらなる進化を

タイミーを選んだのは、「働く」を支える社会インフラという事業の意義に加え、自身の経験が活きるフェーズにあると感じたことが、大きな決め手だったという。

「当時のタイミーはレイターステージに差し掛かり、スタートアップから成熟した企業へと変革する時期にありました。

一般的に、スケールを目指すスタートアップは、その時期特有のさまざまな課題を抱えていることが多い。プロダクトサイドの経験を持つ身として、そこに自分が貢献できる余地を見いだしました」

実際にCPOとして働き始めると、タイミーの抱えていた開発組織の課題がくっきりと浮かび上がって見えた。

「本来プロダクトの改善活動は、プロダクトの戦略を実現する方向性で進められるべきです。しかし当時は、各プロダクトマネジャーが個々の問題や関心に基づいて改善を進めていたため、統一した方向性が欠けていました。

以前はそれでもグロースできていましたが、今後の成長を考えると、戦略ドリブンな組織への変革は必要不可欠でした」

そこで山口さんは、開発組織の役割や意思決定の流れを整えることに着手。プロダクト戦略の策定と、その背景を言語化し、組織全体に丁寧に共有した。

結果として、複雑だった人員配置のプロセスがシンプルになり、意思決定のスピードは格段に上がった。

そして24年11月、山口さんはCTOに就任。開発組織のトップとして現在目指しているのは、書籍『チームトポロジー』(‎日本能率協会マネジメントセンター)の考え方をベースにした組織の再設計だ。

「今のタイミーの開発組織は、プロダクト、プラットフォーム、データの三つに大きく分かれています。現状はそれぞれが独立して機能していますが、各々の課題を見ていくと、横断的な連携が今後ますます重要になると感じています。

例えばプロダクト開発については、ユーザーであるワーカーと事業者、両方に価値を届けるエンジニアリング体制がしっかり機能していて、その土台となるプラットフォームチームの役割も明確です。

一方、データ部門は少し特殊で、プロダクトに直接貢献する部分と、セールスやマーケティングなど他部門への支援を行う部分が混在している。ここが整理しきれておらず、優先順位や役割の明確化が必要な状況です」

あるべき組織の形を描けても、それを現実の中でどう形にするかは簡単なことではない。ただ、その難題に向き合えるだけの視座と経験を、山口さんは積み上げてきた。

「これまでタイミーのCPOとして培ってきた『プロダクトの価値を最大化する視点』や、前職時代にCTOとして『エンジニアリングとビジネスを横断的にまとめた経験』を活かせば、開発組織全体の最適化は実現可能だと考えています」

変化の時代に必要なのは、知識の深さより視点の広さ

CPOとCTOという異なる立場を経験してきた山口さんは、これからの時代を生きるエンジニアに求められるスキルについて、どう考えているのだろうか。

「今のところAIは、主にプログラミングの領域で活用されていますが、今後はプロダクトマネジメントやデータ分析など、バリューストリームのあらゆる領域に広がっていくでしょう。

ただ、万能的に使える“汎用AI”がすぐに登場するとは思っていません。当面は、特化型AIを組み合わせて成果につなげる力が、人間側に求められると考えています。今後のエンジニアに必要なのは、複雑な要件を適切に分解し、AIに適切に指示を出し、AIのアウトプットを検証して整理する力だと思います」

こうした力を身に付けるためには、「複数の専門性を持ち、多角的に物事を捉える視点が重要」だと山口さんは続ける。

「これからのエンジニアには、『自分の専門に何を掛け算するか』という発想が必要です。私は、目の前の課題が今の知識だけでは解決できないと感じたときに、ビジネスの知見を学びにいきました。その一歩が、今の自分の役割につながっています。

自分に足りない知識があると気付いたときに、そこを自ら埋めにいけるかどうかで、キャリアは大きく変わると思います」

専門外の領域に踏み出す上で、エンジニアとしての思考習慣は大きな強みになるという。

「私はよく『エンジニアリング以外のことをエンジニアリング的に考える』というアプローチを取ってきました。

例えば、組織の意思決定フローもシステムのように捉えてみる。うまく機能していないなら、『決定アルゴリズムに何らかのバグがあるのではないか』と考えてみると、改善策を検討しやすくなるんです。

エンジニア的な思考は、新しい知識を身に付ける際にも役立ちます。だからこそ、未知の分野にも積極的に挑戦してほしいですね」

タイミーを次なる挑戦の場に選んだ理由として、「伸び代」を挙げた山口さん。それは事業の伸び代でもあり、自分自身の伸び代でもあるのだろう。

「まだまだ進化できますよ」

そう語る山口さんは、時代の変革を牽引していくタイミーとともに、まだ見ぬ地平を目指している。

取材・文/一本麻衣 撮影/桑原美樹 編集/今中康達(編集部) 

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