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『ウマ娘』がアツい今こそ『みどりのマキバオー』を読んでほしい / なぜなら “マキバオーは実質ウマ娘” だから

ロケットニュース24

突然だが、皆さんにクイズである。早押しでお答えいただきたい。「実在の競走馬をモデルにした美少女たちの奮闘を描いたコンテンツと言えば……『ウマ娘』だが、ではその『ウマ娘』と同じジャンルで、かつ大きな共通点を持つ傑作少年漫画の名前は何か」。

おそらく多くの人が「競走馬」とか「美少女」のあたりで回答ボタンを押したことだろう。そして「何だこの卑怯なクイズは」と舌を打ったことだろう。それくらい今『ウマ娘』がアツい。流行りに流行っている。

アニメは2期が好評のうちに終わり、アプリはまだまだ勢いがすごい。そんな今だからこそ、皆さんにお勧めしたい漫画がある。その名も『みどりのマキバオー』だ。私がこの作品を推す理由はただ1つ。もう最初に書いてしまおう、『マキバオー』は実質『ウマ娘』なのである

・大きな共通点

作品が世に出た順番で言うなら、『ウマ娘』は実質『マキバオー』ということにもなる。幼少の頃から『マキバオー』をバイブルとして愛読してきた筆者は、最近になってアニメ『ウマ娘』を視聴し、そしてこう思ったのだ。「これは令和の『マキバオー』ではないか」と。

が、順番は割とどうでもいい。重要なのは先ほどもクイズに出した通り、両作品に大きな共通点が認められることである。その共通点とはすなわち、「レースを走るウマ(馬)が意思を持っており、彼女(彼)ら自身が物語の主役であること」だ。

・『みどりのマキバオー』の世界

そもそも『マキバオー』がどういった作品であるか、知らない方のためにも今一度確認しておこう。同作品は週刊少年ジャンプにおいて、「ジャンプの黄金期」とも呼ばれる1994年から1998年にかけて連載された。単行本は全16巻が発売されている。 

ストーリーは、北海道の「みどり牧場」に生まれた主人公ミドリマキバオーが、牧場の借金のカタに売られた母ミドリコを取り戻すべく競馬の世界に身を投じ、様々な出会いや勝負を経て成長していくというもの。馬とも犬ともつかぬ彼の白い馬体は、作品のトレードマークだ。

しかし、この作品が奇抜なのはそこだけではない。最大の特徴は、登場する馬たちが普通に人間の言葉を喋り、会話ができる点である。馬同士はもちろん、馬と調教師、馬とジョッキー、馬とファンが喋ったりもするし、何なら競馬記者が馬に直接インタビューさえしている。

人間の言葉を喋るのみならず、行動もかなり人間っぽかったりする。馬がラジオの競馬中継を聞くし、テレビも見るし、ギャンブルにも興じる。作品のジャンルは競馬漫画だが、そうした非現実の世界を舞台にしているのが『みどりのマキバオー』だ。

・『みどりのマキバオー』の馬たち

そして、ここからが肝である。馬が人間味を持っている。それによって何が起きるか。現実の世界では知ることができない、馬たちのレースにかける想いが、台詞や行動、心理描写を通して我々に伝わる形で発露するのだ。

『マキバオー』に登場する馬たちは、それぞれが願いや欲望、使命や意地、大志や野心を抱いてレースに臨んでいる。作中で活躍する全ての馬について、彼らの動機が例外なく詳細に描かれていると言っても過言ではない。

例えば母のために走る者、王者の威信を賭して走る者、故障により走れなくなった兄の悲願を胸に宿す者、勝つために手段を選ばぬ者、外国産馬として日本競馬に挑む者、地方馬の誇りを一身に背負う者……劇中に織りなされる馬模様は、実に彩り豊かだ。

『マキバオー』において物語をけん引しているのは、間違いなくそんな馬たちの存在だ。だからこそ『マキバオー』という作品は魅力的で面白いのだ。

・“白い奇跡” ミドリマキバオー

と、概括的なことだけ書いても馬模様が伝わりづらいかもしれないので、もう少し個別具体的に掘り下げていこう。筆者が印象に残った作中の台詞とともに、『マキバオー』の馬たちのエピソードをざっと3つほどご紹介したい。

致命的なネタバレはなるべく避けているが、どうしても作品内容には多少触れざるをえないため、その点ご注意願えればと思う。

まずは主人公ミドリマキバオーからだ。彼は最初こそ「母を取り戻すこと」だけを目的に走っていたが、やがて走ること自体の楽しさに目覚めていく。レースで誰よりも早く走り、勝利したいという想いもまた、彼を突き動かすようになる。

その契機が訪れたのは物語の序盤、ライバルである競走馬・カスケードとの初対決の場面だ。圧倒的な強さを誇るカスケードに惨敗を喫し、「走っても走っても追いつけなかった」「もうあんな悔しい思いはしたくない」と一見ネガティブに吐露してから、彼はこう続ける。

だから走るのよね…… 抜かれるとくやしいけど抜くのはうれしい…… だから どうせならうれしい思いすんのね……

負けても挫けない。むしろその負けをバネにし、次こそは勝つ。これ以降も作品内で燃え続ける彼の闘争心に火がついた瞬間だ。

現実の競走馬を見ていても「この馬には闘争心があるな」と感じることは多々あるが、馬の心がわからない以上、それは結局のところ憶測でしかない。しかし『みどりのマキバオー』においては、馬が勝利への意志を抱いていることがこうして明示される。

馬が馬自身の想いを持って走るのがこの作品だ」と読者に見せつける、『マキバオー』を象徴するシーンと言えよう。

・“漆黒の帝王” カスケード

次にご紹介するのは、上で登場したマキバオーの最大のライバル・カスケードだ。名牝である母ヒロポンの良血を受け継ぐ唯一の子として、孤高の王者の宿命のもと生まれた彼は、数々のレースでその強さを振るい、比類なき実力と黒い馬体から “漆黒の帝王” と称される。

最初はマキバオーを歯牙にもかけていなかった彼だが、次第に無二のライバルとして認め合う関係となる。マキバオーに限らず、周囲の競走馬の存在はカスケードの心に熱く影響を与え、良血を受け継ぐだけではない「走る意義」が彼の中にも芽生えていく。

クールな彼が内に秘める炎は、時に激しく燃え盛る。ライバルたちと戦うため、無理を押してでもレースに出たいと彼に言わしめるほどに。良血が絶えることを恐れる関係者たちを前に、「競走馬が伝えるべきものは優れた血だけではない」と反対を押し切り、続けて彼は叫ぶ。

血だけじゃねえんだ!! オレ達ターフで命を賭けている者にしか わからねえものがあるんだよ!!

競走馬としての魂を、走る者の意思を、他の馬や観衆に伝えねばならないと彼は言い放ったのだ。馬自身にこんなことを言われてしまっては、ぐうの音も出ない。痺れるほどに格好良い。個人的に、カスケードを超える「少年漫画のライバルキャラ」は未だに出てきていない。

・“船橋のヒットマン” サトミアマゾン

マキバオーやカスケード以外にも、魅力的な馬はたくさん登場する。最後にその中からサトミアマゾンを挙げたい。地方代表馬として中央競馬に参戦し、ターゲットの馬を徹底的にマークする戦法から “ヒットマン” の異名を持つ馬だ。

注目すべきは、地方の誇りを背負って彼が出走した日本ダービー。マキバオーとの熾烈な競り合いで精神が折れかけ、「自分は地方馬の代表なんだ」「みっともなく大敗はできない」と、2着狙いへ心が揺らぐ彼。その脳裏に、地方の仲間の馬たちの姿がよぎり、彼は思い直す。

何を考えてんだオレは……

大敗するのがみっともない……? 勝負から逃げるのは それ以下じゃねえか!!

個人的に、「『みどりのマキバオー』で1番好きな馬は?」と聞かれて「サトミアマゾン」と答える人は、かなり “わかっている人” だし “『マキバオー』レベルの高い人” だと思う。

とにもかくにも、「主人公」と「無二のライバル」以外にも、根っからの勝負師が勢揃いしているこの作品。さて、『ウマ娘』をよく知っている方なら、そろそろ気付いてくれているのではなかろうか。『マキバオー』が実質『ウマ娘』であることに。

・『ウマ娘』もまた

『ウマ娘』もまた、譲れぬ想いや勝利への意志を持ったウマたちばかりが登場し、レースでそれらを炸裂させてくれる作品だ。もっと言えば、同作品は一見すると華やかで見目麗しいものの、その実、なかなかどうして泥臭い「熱血スポ根コンテンツ」ですらある。

例えば勝利を母へ捧ぐために走るアニメ1期の主人公スペシャルウィークや、ライバルであるメジロマックイーンと切磋琢磨する2期の主人公トウカイテイオー、あるいは彼女たち以外のウマ娘の姿に、筆者はどこか『マキバオー』の馬たちを想起しつつ、作品にのめり込んだ。

そうして筆者が『ウマ娘』に夢中になったように、逆もありうると思うのだ。『ウマ娘』にハマった人なら、きっと『マキバオー』にもハマる素質が十分にある。もっと言えば、『ウマ娘』が流行ったこの世の中には、よりいっそう『マキバオー』が広く読まれる素地がある。

現実の競走馬のようでいて、それとは異なるキャラクターたち。現実のアスリートが持つような、血の通った熱い想い。現実とファンタジーの絶妙な狭間、魂の炎が揺らめく次元に、両作品は存在している。少なくとも、筆者の目にはそう映っている。

・決定的な違い

ただ、ここで1つ書いておかねばならないことがある。『マキバオー』と『ウマ娘』では決定的に異なる部分についてだ。『ウマ娘』にハマった人が『マキバオー』にハマることを阻む、唯一の不安要素と言い換えてもいい。

『みどりのマキバオー』という作品は、ハチャメチャにオス臭いのである。作品を占める男性キャラ率は99パーセント、そのうち人間の男性キャラはほぼほぼオッサンである。

それだけならまだいいが、無類の男性キャラ率、無類のオッサン率に加え、男性の恥部や排泄物が乱舞し、それらにまつわる汚言が飛び交うのがこの漫画である。何なら『マキバオー』の世界における競馬ファンは全員が全裸のオッサンである。

見た目だけで言えば、『ウマ娘』が山間を楚々と流れる清流なら、『マキバオー』は汚泥ひしめくドブ川である。しかしドン引きしないでほしい。そうしたギャグテイストが強いのは序盤だけだし、これまで書いてきた通り、両作品の内実はとても似ているのだから。

・愛しき奇異な作品たち

何はともあれ、筆者は『マキバオー』という作品を愛している。そして、より多くの人に読んでもらいたいと思っている。単なるギャグ漫画としてスルーされてしまったり、見た目の取っつきづらさで敬遠されてしまうのは、非常に勿体ないことだ。

思い返すに『ウマ娘』も、開始当初はその斬新さから奇異の視線を向けられがちだったように記憶している。だが冷ややかな反応の大半は、作品のクオリティや熱量によってねじ伏せられていった。そんな経緯も『マキバオー』と重なる部分があって、筆者は感じ入るものがある。

だからこそ余計に、『ウマ娘』を知る方には『マキバオー』も知ってほしいと願わずにいられない。『ウマ娘』を知らない方にも読んでほしいし、『マキバオー』から『ウマ娘』に行くのだっていいだろう。奇異な作品を避けるのではなく、チャレンジしてみてほしいのだ。

そういうわけで、本記事の締めくくりに際しては、『みどりのマキバオー』最終巻におけるマキバオーのこの台詞をもって、お別れの言葉と代えさせていただきたい。

ボクが走り続けることで!!

勝ち負けの問題じゃない! 挑戦を!

挑戦するということを……教えてやるのね!!

(了)

執筆:西本大紀
Photo:Rocketnews24. © 2021 アニメ「ウマ娘 プリティーダービー Season 2」製作委員会、(C) Cygames Inc.

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