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弁天小僧に挑む尾上右近「両思いがゴールではありません」~歌舞伎座『團菊祭五月大歌舞伎』の意気込みを語る

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尾上右近

2022年5月2日(月)に歌舞伎座で『團菊祭五月大歌舞伎』が開幕する。尾上右近は、第三部『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』に出演し、弁天小僧菊之助を勤める。“知らざあ言って聞かせやしょう”の名台詞で知られる大役だ。本作への意気込み、歌舞伎への思いを聞いた。インタビューとともに、藤浪小道具が現在進めているチャリティー企画の準備風景もお届けする。

■弁天小僧が「振り向いてくれた」

ーー5月の歌舞伎座で、弁天小僧菊之助を勤めます。

いつかは弁天小僧を、と思い続けてきました。2019年の自主公演『研の會』で、尾上菊五郎のおじさまにお教えいただき挑戦した役でもあります。自主公演は、自分でプロデュースして自分が目標とする役にチャレンジする公演。本興行で“右近さん、歌舞伎座で弁天小僧をお願いします”と言っていただき出演するのとは、まるで意味合いが違います。ですから今回のお話をいただき、本当に嬉しかったです。

ーー3年ぶりの『團菊祭』でもあります。

『團菊祭』は、菊五郎家にとって大切な公演。その舞台で音羽屋ゆかりの弁天小僧をやらせていただくんですよね。ずっと片思いで求め続けてきた人が、ついに振り向いてくれた! 両思いになれた! みたいな喜びです(笑)。

「第五回 研の會」『弁天娘女男白浪』  (C)研の會(撮影:田口真佐美)

ーー公演に先立ち、歌舞伎の小道具を扱う藤浪小道具さんの企画で、番傘に絵を描かれました。

「稲瀬川勢揃いの場」で、白浪五人男がもつのと同じ番傘なんですよね。この企画では、2本の傘に異なるイメージで描かせていただきました。

ーー2本のうちの1本には「爆」と描かれました。

弁天小僧をイメージした、赤、黒、金の3色を使っています。好きな色の組み合わせでもあります。そして5月を想像した時に、ポーンと思い浮かんだ言葉が「爆(は)ぜる」でした。最近好きな言葉です。

「真っ白い番傘に、自由に絵を描いてください」という企画。

ーーもう1本には『志』と描かれました。

色は青空に映える桜のイメージ。弁天小僧は桜の中で散っていきます。桜も人間も、散ると分かっていながら生き、散るまでの時間を楽しむ。散るまでの生き方、僕の場合は歌舞伎役者として役にいかにこだわりを持つかが、「志」なんじゃないかって。瞬間瞬間の「爆」と、散るまで付き合いつづける「志」。5月の歌舞伎座でも、志をもって爆ぜたいですね!

■歌舞伎、大好きです!

ーー近年の右近さんは、まさに爆ぜるかのようなご活躍です。

そう見ていただける方がいるなら、「志」を抱けるお役をいただけているおかげです。

ーー菊五郎劇団のお芝居はもちろん、4月は松本幸四郎さんの『荒川の佐吉』、3月は市川猿之助さんの『新・三国志』、昨年12月は中村勘九郎さんと『男女道成寺』に出演されました。色々なお家からオファーがありますね。

本当にありがたいです。歌舞伎を大好きな大人たちが、歌舞伎を好きだと言う子どもを放っておけない……みたいな心理でチャンスをくださっていたのかもしれません(笑)。「こいつ、よほど好きなんだな。そういや俺も、子どもの時こうだったっけ」「役者の家の子ではないのにやりたいと言っている。何かやらせてみようか」と。僕の力ではなく、歌舞伎が先輩方と繋いでくれている感覚です。

右近の希望にあわせて塗料が用意された。

ーー右近さんの歌舞伎愛は、舞台だけでなく、各メディアでのご発言からも伝わってきます。

歌舞伎、大好きです! 好きでやっていますし、歌舞伎を観たことがない人は人生損していると思っています!

ーーミュージカルや映画でも存在感を放たれています。歌舞伎愛は、他のジャンルにも通用するものですか?

「好き」の気持ちや表現の仕方は歌舞伎が教えてくれました。その感覚や方法は、歌舞伎以外の場にも通じます。もともと色々な挑戦に興味があり、その経験が歌舞伎につながるのでは……と期待もしていました。でも今は少し変わりました。ミュージカル、映画、情報番組など、目の前にくる一球一球に集中して、すべて打ち返す気持ちで取り組むうち、その時々の目の前の世界に完全にハマって、「今の自分はこれが一番好き!」って思えるようになったんです。その瞬間は大好きな演目である『鏡獅子』が頭から消えちゃうくらい。

「弁天小僧のイメージに自分の感覚を重ねました。傘だけに重ね重ね…」と右近。

都合の良いことを言って聞こえるかもしれません。でも、これも歌舞伎から学んだことなんです。毎月の役に集中し、その役でいられることが夢のように幸せです。千穐楽は耐えられないほど淋しい。でも来月が今月になると「やっぱり今月が一番好き!」と言えるので。

■好きだから拗ねるんです

ーー目の前のものを全力で好きになる才能を、お持ちなのかもしれませんね。

だって「好き」って……いい言葉じゃないですか……。

(しみじみする右近に、一同笑顔)

「好き」という言葉も好きですし、好きなものを好きと言うことも好き。少し前まで、僕は自己愛がものすごく強かったんです。今も、まだ強すぎるくらい。でもお芝居で役を演じる中で、自分が愛されたいとかこうしたいという前に、まず皆を好きになり、周りを大切に思うことが大事だと気がついたんです。相手のせりふを聞き、気持ちを受け止めて、答える。当たり前だけど難しいし、できなければキャッチボールにならない。自分をどうみせたいかではなく、役のために自分がいるのだと意識しています。

藤浪小道具さんとフランクにやりとりを重ね、丁寧にイメージを伝える。

ーー「歌舞伎が好き」のテンションは、昔も今も変わりませんか?

こんなに好きなのに振り向いてくれないなんて! と拗ねた時期もありました。恋でも、そういう気持ちになることありますよね。あれを歌舞伎に抱いてしまい拗ね期に入ってしまって。ただ、歌舞伎を好きな気持ちを手放したことはありません。好きだから拗ねるんです!

ーー拗ね期は終わりましたか?

今でも拗ねるときは拗ねる(笑)。でも拗ね期は終わったと思っています。

ーー終わるきっかけがあったのでしょうか。

あえて言うなら、2021年3月の京都・南座ですね。『義経千本桜 川連法眼館』で、佐藤忠信をやらせていただきました。古典の主役を初めて勤めた月であり、仲間を発見した月でもあります。

あの月は皆で同じ夢に向かって、大人の甲子園のように一丸となって打ち込めた。南座の砂を持って帰ろうぜ! って勢いで(笑)。その公演も千穐楽が近づいてきて、僕は世界の終りのように淋しくて。岡村研佑(本名)で舞台に立っていた子役時代から、次の役がないまま千穐楽を迎えることが不安で仕方なく、二度と舞台に立てないかもしれないって恐怖を感じていたんです。父親が役者ではないことも、少し関係あるかもしれない。とにかく当時の感情を、僕は今もトラウマのように引きずっているので。

完成形は乞うご期待!

もう耐えられない……と思っていた夜、「5月歌舞伎座で『三人吉三』のお嬢吉三を」と、電話をいただいたんです。もちろん目標としていた役のひとつでした。おかげで前向きな気持ちで千穐楽を迎えられましたし、僕だけでなくあの時のメンバーは皆、その後大きな役に挑み、それぞれの夢の続きを見ています。最高ですよね。あの公演で、僕の拗ね期は終わりました。 

■孤独だよねと言い合える仲間がいる

ーー目標としてきた大きな役を勤めた後も、モチベーションは維持できそうですか?

6月には猿之助のおにいさんの『猪八戒』に出させていただきます。『鏡獅子』もまだですし、なにより弁天小僧だって両思いがゴールではありません。振り向いてくれた役と、最高の結婚生活を送ることが次の目標です! 何ひとつ不満のない結婚生活なんて、めったにないと聞いています。思うような芝居ができないとか、お客さんに届いているか不安だとか。まず観にきていただけなければそれも苦しいし、悪戦苦闘すると思います。それでも自信を持ってやっていきたいです。

歌舞伎座『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助=尾上右近  (C)松竹(撮影:永石勝)

ーー千穐楽翌日(5月28日)に30歳のお誕生日を迎えるそうですね。これからの抱負をお聞かせください。

芝居にゴールはありません。だから役者って、自分だけの無限階段をのぼり続ける仕事だと思っています。自分ひとりの階段じゃないと、自分にしかできない仕事なんてできないし。一段のぼったら前の段は崩れて消えるから、立ち止まれない。孤独だし辛いけれど、パッと横を見れば、やっぱり自分だけの階段を駆け上がる仲間がいるんです。「お互いに一人ぼっちだよね」と言いあえる仲間です。その存在を感じながら、役者としての階段をのぼり続けていきたいです。

歌舞伎座『團菊祭五月大歌舞伎』は、5月2日(月)から27日(金)まで。共演は坂東巳之助、中村米吉、中村隼人、そして坂東彦三郎ほか。チャリティー企画の詳細は、近日、藤浪小道具より発表される予定。

尾上右近

取材・文・撮影=塚田史香

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