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集団行動が苦手な5歳自閉症娘、年中で保育園へ入園。療育時代から成長した姿に母号泣

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集団行動が苦手な5歳自閉症娘、年中で保育園へ入園。療育時代から成長した姿に母号泣

監修:森 しほ

ゆうメンタル・スキンクリニック理事

集団行動が課題の長女:まゆみ

長女のまゆみは自閉スペクトラム症と知的発達症(知的障害)の診断を受けており、1歳8ヶ月で療育に通い始めてからずっと「周りを見ることが課題」と言われ続けてきました。
5歳半になった現在、ようやく人のまねをして踊る様子が見られるようになりましたが、まゆみのタイミングでふと表れる程度で、みんなと一緒に取り組むのはなかなか難しいのが現状です。

そんな中、保育園の運動会がありました。
年中から入園したのはクラスでまゆみだけ。保育園での運動会は初めてです。私も「周りについていくのは厳しいだろうから、今日はまゆみが楽しんでくれてたらいいや」なんて思いながらまゆみの出番を待っていました。

昨年、療育先で行われた運動会では次のような状態でした。

多動が激しくて片時もジッとしていないまゆみが、マイペースながらもほかの子どもたちと一緒に踊ったり列に並んだりしている姿が見られて感動したものですが、それから1年後となる保育園の運動会ではさらに大きな変化があったのです。

保育園のお友達……つまり定型発達の子どもたちが大多数の中、一緒に何かを発表する機会は6月にあった保育参観以来です。

その時のまゆみは大体どの場面を切り取っても、先生に抱っこされているか、床に大の字で寝そべっているか、教室を飛び出して事務室へ走っていってしまうかのどれかでした(このこと自体は、『その空間がイヤになったら、癇癪を起こすのではなく部屋を移動して自分から環境調整できるようになったんだな』と好意的に捉えました)。

そんな調子なので、『一斉指示に従って集団行動をする』というのはまゆみにとって大きな大きな課題です。6月の時点ではまだ難しそうに思えましたが、4ヶ月後となる秋の運動会では信じられないほどの成長ぶりを見せてくれました。

恥ずかしながら、お遊戯が始まった直後の『みんなで一斉に指差しするシーン』から、私は涙が止まりませんでした。
まゆみだけ左右の手の動きが間違っていて明後日の方向を指していましたが、『サポートの先生なしで集団行動するまゆみ』という衝撃の前にはささいなことです。人目をはばからずオイオイ泣きながらカメラを回しました。

何よりもうれしかったのは、まゆみがずっとずっとニコニコしていたことです。楽しさと喜びが伝わってくる笑顔に、まゆみもみんなと一緒に演技ができてうれしいのだと思いました。

閉会後、先生にお礼を言いに行くと、なんと先生も泣いていました。
「まゆみちゃん、すごい! 本番が一番頑張ってくれました……!!」

聞くと、前日のリハーサルでは上手く参加できず、先生方も心配されていたのだそうです。
思えば、療育を併用しているまゆみは週に3回しか保育園の利用がありません。練習時間もほかの子より短かったはずです。それなのに、周りをよく見て一生懸命頑張ってくれたんだと思うとまた涙があふれました。

演技を見るまで、親の私すら「今日はまゆみが笑ってたらそれでいいや」と過小評価していたことを申し訳なく思いました。まゆみはかけっこもお遊戯も自分から参加していて、演目の待ち時間に多少ウロウロしていたものの騒ぐことは一度もありませんでした。

いつの間にこんなに成長していたんだろう……?
甲高い声を出しながら頬を寄せてくるいつもの仕草も、表情がどこか達成感にあふれているように見えました。

成功の背景にあるのはお友達の存在?

運動会の動画は、療育先のいつもお世話になっている先生と、去年まゆみの担当だった先生にも見ていただきました。
お2人共、去年の療育先の運動会でのまゆみの様子を知っているので、そこからの成長ぶりや日頃の姿とのギャップに驚いて、こちらでも感涙の鑑賞会になったそうです。

お友達のダンスを見ながらワンテンポ遅れて踊るまゆみの動きは、課題の一つ「周りを見ること」ができるようになってきていることの証です。6月の保育参観ではできなかったことが、この4ヶ月でできるようになった要因を私なりに考えてみると……、それはまゆみの中で『お友達』の存在が大きくなってきているからかな、と思いました。

いつもクラスの子どもたちが寄ってきてくれても無視してばかりのまゆみですが、やりとりはできなくても一緒の空間にいられるのがうれしいのか、最近は家や療育先で保育園へ行きたいアピールをする際に「ホイクエ~ン!」だけでなく「オトモダチ~!」という単語が口から飛び出すようになりました。
一見やりとりが成立せず、関心がないように見えてもまゆみの心にはお友達の姿があるんだとうれしくなります。

運動会で感じたこと

運動会の帰り道、一昨年の秋に療育先で言われた言葉をふと思い出しました。

「まゆみちゃんは年少で保育園に入るよりも、もう一年みっちりと療育に通って親以外の大人と関係が構築できるようになってから年中での入園を目指すほうがいいと思います。一対一の関係ができてから、やっと周りが見えてくるでしょうから」

入園を一年延期するのは苦渋の決断でしたが、運動会の様子を見ると「先生の言うとおりだったなぁ」と思えました。
運動会はできるようになったことが目に見えて分かりやすいので、昨年と比べて「こんなこともできるようになっていたんだ!」というたくさんの小さな気づきがあるように思います。

大人である私には「早いなぁ」と感じる1年が、5歳半のまゆみにとってはきっととても長いのでしょう。
毎日少しずつ大きくなる身体の成長に普段は気づかないように、心や精神面も毎日ほんの少しずつの積み重ねで発達しているのだと改めて実感しました。

育児も家事も思うようにいかず「もう今日はこんなんでいいや」と適当にしてしまうことの多い私ですが、まゆみの一日一日をできる範囲で大事にしてあげたいと思います。

執筆/にれ

(監修:森先生より)
「人のまねをすること」は、「見たものを頭の中でイメージして、相手の行動を自分に置き換えて再現する」という、実はとっても高度な能力です。 この能力を身につけると、「新たな能力を身につける力」が飛躍的に向上します。
お子さんは、集団行動が苦手ということで、もともとは「人のまね」が苦手な部分もあったのかもしれません。

療育プログラムで土壌がつくられたうえで、お友達と触れ合うことで、共感性が発達してきているのでしょうね。
保護者の方が、しっかりと必要な支援をしながらも、「本人が楽しんでくれたらいい」とおおらかに構えながら見守ってくれているので、お子さんは安心して成長できているのでしょうね。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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