民芸をめぐる長野・松本のショートトリップ
長野県松本市といえば、「民藝運動」の精神が息づく工芸の街。思想家の柳宗悦により提唱された民藝運動により、戦後、「無名の職人たちの手仕事で生み出された日常品」の価値が見直されました。 民藝運動の中心地であった松本では、現在も“用の美”を宿す民芸品の数々に出会うことができます。 民芸の精神に触れられる「松本民芸館」や「珈琲まるも」を訪ね、民芸に囲まれて宿泊できるホテルにステイ。クラフト雑貨や歴史スポットにも寄り道しましょう。
日本各地の民芸に出会える松本民芸館へ
東京から松本までは、電車で約3時間。新宿駅からJRの特急あずさに乗れば乗り換えなしで約2時間40分、松本市の玄関口である松本駅に到着します。
初めに目指したのは、松本駅から車で約15分の郊外にある松本民芸館。柳宗悦の民藝運動に共鳴した「ちきりや工芸店」店主の丸山太郎が、昭和37(1962)年に創設した民芸館です。
まるで武家屋敷のような構えの長屋門を入ると、緑豊かな雑木林の庭の奥に、風情ある蔵造りの建物が現れます。松本民芸館では、丸山太郎が私財を投じて収集した陶磁器、染織物、木工品、調度品、民族衣装、郷土玩具など約6800点を所蔵しており、館内には約800点もの品が所狭しと展示されています。
建物はコレクションを展示するために昭和37~46年に建造されたもので、移築された土蔵建築や木造の住宅建築などの3棟があります。丸山太郎の私設の民芸館として開館し、後に松本市に建物ごと寄贈されました。
1階の展示室には主に信州の陶磁器や暮らしの道具、家具調度品などが。陶磁器のコレクションは約1600点にもおよび、長野県内をはじめアジアやヨーロッパのものなどもあります。2階には日本だけでなく世界各地の民芸品・郷土玩具、漆細工などを展示。松本の代表的な工芸品である松本てまりのほかに、福島の三春張り子や沖縄のシーサー、メキシコの木製玩具などもあり、温かみのある愛らしい品々に思わずほっこりします。
自身も工芸作家であった丸山太郎の作品もあるなど、見応え十分です。ちなみに、丸山太郎が営んでいた「ちきりや工芸店」は、家族が引き継いでおり今も健在。蔵造り建築が立ち並ぶ中町通りにあり、さまざまな産地の器や、型染め作家・柚木沙弥郎氏の図案による型染め布の額、アジアの竹かごなど、さまざまなアイテムを扱っているので、民芸館を見学した後に訪れるのもおすすめです。
施設概要
松本民芸館(まつもとみんげいかん)
所在地:長野県松本市里山辺1313-1
アクセス:JR松本駅から車で15分、または松本バスターミナルから美ヶ原温泉行バスで約15分、松本民芸館下車、徒歩3分
開館時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
定休日:火曜(休日の場合翌平日)
観覧料:大人(高校生以上)500円、小人(中学生以下)無料
公式サイト:https://matsu-haku.com/mingei/
問い合わせ:0263-33-1569
民芸家具に囲まれた珈琲まるもでひと休み
次に訪れたのは、松本の中心部にある中町通り。松本民芸館の創設者である丸山太郎が営んでいた「ちきりや工芸店」をはじめ、伝統工芸品の店やカフェなどが軒を連ねる商店街です。なまこ壁の土蔵が立ち並ぶ、美しい街並みを歩きましょう。街歩きの途中の休憩には、松本らしい老舗の喫茶店を訪れてはいかがでしょうか?
珈琲まるもは、慶応4(1868)年に創業した旅館まるもに併設する喫茶店として、昭和31(1956)年にオープンしました。建物内部は、松本民芸家具の創立者である池田三四郎が設計を手掛けたそう。テーブルやイス、照明にいたるまで松本民芸家具で統一された美しい空間が最大の魅力です。喫茶店の開業時には、「民芸運動の父」と呼ばれる柳宗悦も駆けつけ、その空間美を絶賛したという逸話も残されています。
松本民芸家具は、柳宗悦に影響を受けた池田三四郎が、和家具と洋家具を融合させた新しい家具作りを目指したことが始まりで、民藝運動を背景に発展しました。高度な和家具の技術を持つ松本の職人により生み出された洋家具は、和洋折衷のデザインと丈夫さが特徴です。
ミズメ(ミズメザクラ)など国産の落葉樹を素材とし、複雑な木組みの技術で作られるそう。仕上げに使われるのは漆など。幾重に塗り重ね、つややかに仕上げます。松本民芸家具は使い込むほどに味わいが出る、一生ものの家具として現在も愛されています。
そんな美しい空間でいただくのは、こだわりのブレンドコーヒーにチェリーののったプリンなど、クラシックな喫茶店メニューです。朝はモーニングセットも提供しているそう。人気店とあって、開店後すぐに満席になることもあるので、早めの来店がベターです。珈琲まるもがある中町通りには、松本民芸家具のショールームもあるので、ぜひチェックしてください。
店舗概要
珈琲まるも
所在地:長野県松本市中央3-3-10
アクセス:JR松本駅から徒歩約15分
営業時間: 9:00~16:00(15:30LO)
定休日:月・火曜(祝日の場合営業)
問い合わせ:0263-32-0115
民芸家具が美しい松本ホテル花月にステイ
松本に1泊するならこちら。松本ホテル花月は、明治20年(1887年)創業の老舗。国宝に指定されている松本城から歩いて5分の場所にあります。
現代的なデザインの本館と和モダンな旧館があり、日本独特の西洋式建築と現代建築が融合した空間が素敵です。
お目当ては、随所に松本民芸家具を配した旧館。一部の客室にも民芸家具が設えられ、パリのアパルトマンのようなレトロな空間となっています。
大浴場やレストラン、喫茶室などのファシリティも充実しており、1泊朝食付き1万1100円~(旧館ツイン1泊2名利用時の1名料金)と気軽に宿泊できる価格帯もうれしい!
滞在中ぜひ利用してほしいのが、館内にある八十六温館(やとろおんかん)。松本民芸家具の創始者である池田三四郎が監修を手掛けた喫茶室です。店内は座り心地のいい松本民芸家具の椅子にステンドグラスのランプシェードなど、くつろげる空間になっています。カフェタイムはネルドリップのコーヒーや手作りのスイーツ、ランチならホテルメイドの欧風カレーがおすすめです。
ちょっとぜいたくなディナーなら、ホテル内のレストランI;caza[ikaza](イカザ)で。「ながのテロワール」をコンセプトとしたフレンチのコース料理を提供しています。
松本ホテル花月は、松本市中心部の便利な立地にあるので、観光の拠点としてもぴったりなホテルです。
施設概要
松本ホテル花月(まつもとホテルかげつ)
所在地:長野県松本市大手4-8-9
アクセス:JR松本駅から徒歩約15分(事前予約制の送迎サービスあり)
公式サイト:https://matsumotohotel-kagetsu.com/
問い合わせ:0263-32-0114
ギャルリ灰月でクラフト作家のアイテムを購入
翌日は、松本市内のお買い物スポットや観光地を巡ります。もの作りの街・松本ならではの作家もののアイテムを手に入れるなら、ギャルリ灰月を訪ねましょう。
ギャルリ灰月は、オーナーの滝澤充恵さんのセレクトショップ。作家のアトリエを訪ねて集めた工芸品の数々を展示販売しています。
滝澤さんのセレクトするアイテムは、「食卓や暮らしのなかで使えるもの、飽きずに長く使えるもの」。
実用性と美しさが調和した民芸の精神にも通ずる、スタンダードなアイテムたちがラインナップされています。
長野県内はもちろんのこと、滝澤さんが全国各地のアトリエを訪ねて出会った唯一無二の品々が並びます。
店内では月に2回、展示会も開催しており、いつ訪れても楽しめるのが嬉しいところ。
個人で活動する貴重な作家の作品に出会えるチャンスです。アイテムのジャンルは食器や花器、アクセサリー、バッグなどさまざま。
暮らしを豊かに彩ってくれる、一生ものの品に出会えるかもしれません! オンラインショップでも商品を販売しています。
店舗概要
ギャルリ灰月
所在地:長野県松本市 2-2-6 高美書店ビル2F
アクセス:JR松本駅から徒歩約12分
営業時間:11:00~18:00
定休日:火・水曜(臨時休業あり。インスタグラムで確認)
公式サイト:https://galerie-kaigetsu.com/wp/
https://www.instagram.com/galerie_kaigetsu/
問い合わせ:0263-38-0022
レトロな国宝旧開智学校校舎を見学する
デザインが素敵な観光スポットといえば、国宝旧開智学校校舎です。
開智学校は、明治9(1876)年に完成した小学校校舎。明治の文明開化の時代を象徴する、和洋折衷の「擬洋風建築」が珍しく、2019年に近代学校建築として初めて国宝に指定されました。
パステルカラーの装飾が目を引く外観は、非日常感満点!
特に建物正面は、八角の塔屋に寺院建築のような屋根、「開智学校」の旗を掲げる天使の装飾など、和洋折衷のデザインが面白いんです。
2階建ての建物内部は一般公開されており、見学が可能です。板張りの廊下に漆喰の壁、紙を用いた天井など、西洋風の館内は小学校とは思えないほどぜいたくな空間。扉や照明まわりの彫刻、カラフルな色ガラスなど、装飾にも注目しましょう。
館内の展示室では、明治時代をはじめとする各時代の教科書などの教材、開智学校で行ってきた工夫ある教育や先生の活動など、レトロな学校資料の数々を展示しています。そのほか、立石清重が作成した開智学校新築仕様帳や開智学校の平面図、各時代の大福帳(帳簿)や職人の出勤簿など、貴重な建築資料も。ボランティアによる展示ガイド(事前予約制)もあるので、詳しく知りたい人はガイドさんの案内で見学しましょう。
ちなみに開智学校の観覧料は、事前購入できる電子チケットだと割引になり、松本城など周辺の観光スポットとの共通も。松本の歴史をめぐる旅にぴったりです。
さらに開智学校から歩いてすぐの場所に、松本市旧司祭館という西洋館があり、こちらも見学可能。明治22(1889)年にフランス人のオーギュスタン・クレマン神父により建設されたもので、松本カトリック教会の宣教師たちの住居として使用されていたそう。
パステルカラーがかわいい洋館にも寄り道してみましょう。
松本は東京から電車で約3時間と日帰りも可能ですが、民芸運動ゆかりのスポットをめぐり、ショッピングやグルメも楽しむなら1泊はしたいところ!
週末に行ける、ショートトリップを楽しんでみてはいかがでしょうか?
施設概要
国宝旧開智学校校舎(こくほうきゅうかいちがっこうこうしゃ)
所在地:長野県松本市開智2-4-12
アクセス:JR松本駅からバス(タウンスニーカー北コース)で約15分、開智学校下車、徒歩約1分
開館時間:9:00~17:00(最終入館16:30)
定休日:第3火曜(12~2月は毎週火曜)、祝日の場合翌日
料金:一般700円、小・中学生300円
公式サイト:https://matsu-haku.com/kaichi/
問い合わせ:0263-32-5725