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松尾スズキインタビュー PARCO PRODUCE 2026『カッコーの巣の上で』では「俳優の演技だけで見ていられるような舞台を作りたい」

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松尾スズキ

2026年6月~7月にかけて、東京・愛媛・大阪・北九州・仙台にて、演出・松尾スズキ、主演・間宮祥太朗による舞台、『カッコーの巣の上で』が上演される。

原作は1962年に発表されたケン・キージーの小説で、1975年にミロス・フォアマン監督、ジャック・ニコルソン主演で映画化され、大ヒットを記録した。舞台版はデール・ワッサーマンの脚色により1963年にブロードウェイで初演、2001年の再演ではトニー賞リバイバル作品賞を受賞、日本では1978年に初演以降、繰り返し上演されている。

精神病院を舞台に人間の尊厳と社会の不条理を描いた本作において、演出を手掛ける松尾スズキに話を聞いた。

閉塞的な空間の中でドラマが濃密に動いていく

ーー松尾さんは何度も映画を観直すほどこの作品がお好きだとうかがいました。どういったところが好きなのでしょうか。

一つは役者の芝居が素晴らしいところです。ジャック・ニコルソンは言うまでもなく、他の役者も個性的で、彼らの芝居によってドラマの中に渦を巻いたような人間関係を醸し出しているところが魅力的です。ミロス・フォアマンの映画は『マン・オン・ザ・ムーン』とか『アマデウス』もそうですが、個性と才能が突出した人が出てきて、それに周囲の人が魅了されたり、反発を覚えたりして、そうやってだんだん軋轢が生まれて犠牲者になっていく、みたいな話が結構多いんですよね。僕も学生時代とかに変わり者扱いされて疎外感を覚えるようなこともあったので、何かその孤独がわかって感情移入して見ちゃうんですよね。多分、自由に生きるということは、すごく不自由なんだな、という感覚が僕の中にはあるので、そこが一番共感できるところだと思います。

松尾スズキ

ーーでは、この作品では主人公のマクマーフィーに共感したのでしょうか。

そうですね。あんな暴力性は僕にはないし、どちらかというと争い事は好まない人間なんですけど、同調圧力に対する反発みたいなものがあって、それで周囲にどう合わせていいのかわからない感覚というのは理解できます。だいぶ大人になってトゲも取れてはきましたが、自分の好きに自由に振る舞っていたら傷つくんだな、ということをずっと感じ続けている人生なので(笑)。

ーー何度も観直すうちに改めて気づいた魅力や理解が深まった部分などはありますか。

最初、ラチェッドという人が割とまともに見えたんです。忠実に職務を追求する人というイメージでしたが、見れば見るほど「性質(たち)が悪いな」と思うようになりました(笑)。「正義をどう捉えるか」ということを描いた物語でもあるのだと思います。ラチェッドにはラチェッドの正義というものが一貫してあるわけで、本人は他人に対して悪いことをしようなんて絶対思っていないけれども、規律を乱すものを権力の傘の上から懲らしめたい、という無意識下のサディスティックな欲が露呈してしまうところはとても人間らしいなと感じます。

ーー映画版と舞台版では異なる部分もあると思いますが、そのあたりはどう感じていらっしゃいますか。

加藤健一事務所が上演したものを観たことがあるんですけど、舞台版は舞台版でやっぱり面白いんですよね。映画だと、庭に出たりとか、みんなで釣りに行ったりとか、そういう愉快なシーンがあるんですけど、舞台版は閉塞的な空間の中でドラマが濃密に動いていくところが、逆にダイナミックだなと感じました。なんだか、演劇なのに小説を読んでいるような、あるいは映画を観ているような感じを覚えたんです。なので今回の演出では、俳優の演技をしっかり信じて、演出で盛り上げるというよりは演技だけで見ていられるような舞台を作りたいなと思っていて、あえて表面的な演出はそんなに凝らないと思います。

稽古に入るまではそんなに演出プランを立てずにいく

ーー主演のマクマーフィー役は間宮祥太朗さんです。

この役はカリスマ性があって、この小さなコミュニティの中では象徴的な存在として描かれているので、そうした非現実性のようなものを背負わせるに値する存在感を持っている間宮くんにお願いしたいと思いました。

松尾スズキ

ーー間宮さんとは舞台『ツダマンの世界』でご一緒されています。

『ツダマンの世界』でもそうでしたし、映画やドラマで見る感じでも、どこか異質なムードがあるんですよね。だからこの役にはぴったりなんじゃないかな、と思っています。本人には、映画を観てこの時代の雰囲気を感じておいて欲しいということと、トランプさばきを上手くできるようになっておいて欲しいと伝えています。あとは稽古で、間宮くんが感じたものと江口のりこさんが感じたもののぶつかり合いで実際に作っていきたいと考えています。だから、稽古に入ってみるまではそんなに演出プランも立てないでいこうかなと思っています。

ーー江口さんはマクマーフィーたちを統制しようとする看護婦長・ラチェッド役ですね。

江口さんは、普通の人に見えるのに普通じゃないという、どこか不思議なカリスマ性があって、「江口が言うことはみんな正しい」みたいな気持ちになるんですよ(笑)。極論を言われても納得してしまうような独特の説得力があって、魅力的だし面白いですよね。もちろん、江口さん自身はラチェッドみたいな人では絶対ないですけど(笑)。ラチェッドは、マクマーフィーが精神病院に入ってこなければ、あんな行動はとらなかったはずなんですよね。マクマーフィーによって引き出されていく、2人のコラボレーションで生まれた悲劇とも言えると思います。

ーービリー役の坂東龍汰さんとは今回初めてご一緒するとうかがいました。

そうなんですよ、坂東さんだけお会いしたことがなかったんです。でも坂東さんは岩松了さんの演出を受けていると聞いて、勝手に安心感を覚えています。バラエティーとかにご出演されているところを見たら、とても明るい雰囲気の方なので、そういう方が稽古場にいてくださるとすごく助かるな、なんて思っています(笑)。

ーー皆川猿時さん演じる医師スパイビィはどんな役なのか教えてください。

いい意味で息抜きになるというか、唯一中立な感じでいてくれる人ですね。マクマーフィーのことをちょっと面白がってもいるところもあって、そういう人がこの緊迫したお芝居の中の緩衝材になればいいなと思っています。皆川くんもいい年なんで、そういつまでもふざけた芝居ばかりさせていられないな、というのもあって、普通の芝居もできるんですよ、というプレゼンにもなるかな(笑)。あと、コクーンアクターズスタジオの生徒たちにも注目してもらいたいです。特に吉田ヤギは、東野良平くんとコンビで面白いことをしてくれそうだなと期待しています。

松尾スズキ

取材・文=久田絢子      撮影=荒川 潤

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