【不登校】通信制高校系フリースクールのある1日 傷ついた小中学生に教える高校生のやさしさとは[教育ジャーナリストがルポ]
フリースクールの“いま”を徹底ルポした『フリースクールという選択』(講談社+α新書)を5月11日(2026年)に刊行した教育ジャーナリストのおおたとしまささん。新書では、フリースクールを、小規模な独立型のフリースクール、大手通信制高校系列のフリースクール、オンラインフリースクール、オルタナティブスクールという4つのタイプに分けて、それぞれの特徴や選び方の観点・注意点を説明しています。
この記事ではおおたさんに、大手通信制高校の系列のフリースクールについて書かれた「第2章 大手通信制高校系の多拠点タイプ」の要点をハイライト版として教わります。
【記事のポイント】
●通信制高校とサポート校の違いなど、しくみを正しく理解してから検討する。
●大手の看板に安易に飛びつかない。不登校支援の実績や企業体質も確認を。
●不登校対応型、学習支援型、オルタナティブ志向型などタイプはさまざま。
●間近に高校生の姿が見えるのは通信制高校系ならではの強み。
●キラキラした環境がまぶしすぎる子もいる。焦(あせ)らず、回復してから選んでも遅くはない。
通学型通信制高校とは? サポート校とは?
不登校の増加を受け、通学型の通信制高校または通信制高校のサポート校が、中学生および小学生向けのフリースクールを付設するケースが最近急速に増えています。
通学型の通信制高校とは、本来であればレポートを提出してときどきスクーリング(対面授業)に参加したうえでテストに合格すれば単位がもらえる通信制高校でありながら、全日制の高校のように平日昼間にリアルな校舎に通って、学習指導要領とは関係のない授業を受けることができるしくみです。全日型通信制高校ともいいます。
プログラミング、アニメ、演劇、声優、お菓子づくり、フットサルなど多彩なメニューから選べます。教科授業は苦手な子でも自分の興味関心にどまんなかの授業なら楽しめるというわけです。
一般的な高校に比べて校則などもゆるいし、週何回登校するかも自分で選べるので、不登校経験者でも精神的な負担が少なく通えます。
サポート校というのは、通信制高校に在籍する高校生の日々の学習を支援するところです。非常に大雑把(おおざっぱ)にいってしまえば、通信制高校生専用の塾のようなものです。
本来はレポート提出を支援したり、教科学習を深めたりする機能がメインでしたが、昨今では通学型通信制高校と同様にユニークな学びを提供するサポート校が増えています。
前回の記事で紹介した小規模なフリースクールが個人商店の食堂のようなものだとすれば、今回紹介するフリースクールは大手ファミレスのような存在です。その代表例として、「星槎(せいさ)フリースクール」の様子を覗いてみましょう。
高校生インターンがフリースクール生をサポート
日本を代表する通信制高校のひとつである星槎国際高等学校に併設されているフリースクールです。全国47都道府県に32ヵ所以上ある星槎国際高等学校直営の校舎のうち、27ヵ所にフリースクールが併設されています。
通信制高校の通学コースを利用する高校生と同じ校舎を使っており、希望すれば高校生の授業を受けることも可能です。全国で約150人の小中学生が在籍しています。星槎グループのその他のフリースクールも合わせると、グループ全体では400〜500人の小中学生が学んでいます。
星槎グループは発達障害がある子や不登校経験者に対する教育のパイオニアです。故・宮澤保夫(やすお)さんが1972年に小さな私塾から興し、現在では幼稚園から大学までを擁します。
グループの約束は「人を認める」「人を排除しない」「仲間を作る」。宮澤さんの口癖は「普通の学校やるなよ」「『先生』をやりたかったら帰ってください」でした。旧来の学校や先生という枠組みにとらわれず、学校が生徒に合わせる柔軟性をもてという意味です。
1990年代の終わりには最初のフリースクールを立ち上げています。文部科学省が指定する「学びの多様化学校(旧・不登校特例校)」の草分けのひとつである星槎中学校は、星槎のフリースクールが前身です。
2025年度時点で全国に59校ある学びの多様化学校のうち5校は星槎グループが運営しています。自治体の教育委員会が運営する教育支援センターを丸ごと受託している事例も複数あります。公立小中学校の別室登校のコンサルティングも行っています。
星槎国際高等学校横浜学習センターに併設されている星槎フリースクール横浜かもいには現在約20人の中学生が在籍しています。週1日から週5日まで通学する曜日を自分で選べます。小1以上が対象ですが、低学年は少ないようです。
10時30分、2階の角にあるフリースクール用の教室には6人の中学生と2人の高校生インターンがいました。高校生インターンは通信制高校の生徒で、小中学生の学びを支援する役割です。
「はい、1時間目を始めます」。スーツ姿の爽やかな好青年が「担当」です。彼も星槎国際高等学校の出身です。
50分間の授業が午前2コマ、午後2コマ。休み時間は各10分。昼休みは40分あります。でも時間割はあってないようなもの。フリースクールとしての授業は4コマありますが、選択授業として高校生の授業に参加することも可能です。
1コマ目はゴミの分別について学びました。「CO2って知ってますか?」「ゴミを減らす3R(スリーアール)ってわかりますか?」などと担当が問いかけると、子どもたちは思いついたことをどんどん発言します。
正解かどうかを気にしているそぶりはありません。それを一つ一つ、担当がやさしいリアクションで拾います。それだけで心が温まるやりとりです。
星槎フリースクールの授業風景。 写真:おおたとしまさ
フリースクールで学ぶことを義務教育にすべき!?
4コマ目は高校生インターンが考えたゲームの時間です。じゃんけんで勝ってポイントを増やしていく単純なゲームですが、じゃんけんをするには他プレーヤーとの交渉が必要で、そこに相手の裏をかくかけひきの心理戦が発生します。
「これはゲームだから。ゲームのなかではなんでもありだけど、あとから『あいつに騙(だま)された』とか言って喧嘩をするのはなしね(笑)」と、高校生が念を押します。
すると「嘘つきたくないときは?」と中学生がつぶやきます。「……ん。おまえ、やさしいな」。高校生がニコッと笑います。
見ているとわかります。彼らは本当にやさしいんです。中学生だけでなく、高校生インターンにも、担当にも、競うとか、比べるとか、優位に立つとか、そういう意識がほとんどありません。星槎グループの約束がそのまま教室の空気になっていました。
特にインターンの高校生たちの中学生へのかかわり方には感心させられました。下手なフリースクールのスタッフよりもよほど安心して見ていられます。
余計なことは言わないし、大げさにポジティブな声がけをしたりもしません。自分たちも通ってきた道ですから、不登校当事者の気持ちがよくわかるのでしょう。
フリースクールでみんなこんなにやさしくなれるなら、フリースクールで学ぶことを義務教育にすれば、社会はいまよりずっとやさしくなるんじゃないかとすら思えてきます。
星槎グループの約束「人を認める」「人を排除しない」「仲間を作る」につながるやさしさが校内の随所でみられた。 写真:おおたとしまさ
大活躍だった高校生インターンに聞きました。
「この学校の特徴は?」
「やりたいことが実現できることです。でも、校舎が古い。先生が忙しそう」
たしかに校舎は古いんです。老朽化が進んだ地方の公立高校をそのままずいぶんとコンパクトにしたような佇まいです。見た目におしゃれでキラキラしている昨今流行りの通信制高校の通学コース用の校舎とは印象がまるで違います。でも星槎の校舎には、たくさんの先輩たちが残していった味わいみたいなものがあります。
その校舎が問いかけているように私には思えます。「あなたは見た目でひとを選びますか? キラキラ着飾ったひとが好きですか? そのようなひとになりたいですか? それならば、どうぞそのような学校に行ってください」と。
現在の世の中一般的な価値観では評価のされにくい校舎なのかもしれません。でもだからこそ得られるものがあるように感じます。それこそが、ひとやものを比較し、見下し、排除する世の中への解毒剤になるのではないでしょうか。そういうところにこそフリースクールの存在意義があるのだと私は思います。
昼休み、校舎の前の小さな花壇になにげなく咲いている黄色い花を、写真が趣味という中学生が一眼レフカメラでのぞき込み、シャッターを押していました。
一口に通信制高校系といってもニュアンスはだいぶ違う
拙著『フリースクールという選択』では、星槎フリースクールについてこの約倍の文字数で詳しく実況中継しています。
同書の「第2章 大手通信制高校系の多拠点タイプ」では、星槎フリースクールのほかに、「学研WILL学園初等部・中等部」と「N中等部」についても星槎フリースクールと同様に詳しくルポしています。
「学研WILL学園初等部・中等部」は教育産業大手の学研グループ傘下の株式会社学研エル・スタッフィングが運営するサポート校・学研WILL学園に付設するフリースクールです。付設するといっても、多くの授業で高校生とフリースクール生がいっしょに学んでおり、小中学生も通えるサポート校のような感じです。
「N中等部」は、学校法人角川ドワンゴ学園が運営するN高等学校系列のフリースクールです。角川ドワンゴ学園は出版大手のKADOKAWAとニコニコ動画のドワンゴが共同で立ち上げた学校法人です。つまりもともと教育系ではありません。しかしITを駆使したいままでにない教育というコンセプトが大当たりし、飛ぶ鳥を落とす勢いで通信制高校最大手に成長しました。同じコンセプトで中学生向けにつくられたのがN中等部です。
星槎フリースクールはまさに不登校経験者にとって心地よい学びの場としてつくられていますが、N中等部はいままでにない教育の実現が目的です。目的が違うので、場の雰囲気はかなり違います。
また、サポート校は学校教育法上の学校ではありません。通信制高校そのものでもありません。にもかかわらずメディアでは一括りに“通信制高校”と呼ばれていたりします。そのあたりのしくみもしっかり理解しておきましょう。
なお、星槎フリースクールと学研WILLは一部小学生も受け入れていますが、実際には生徒のほとんどは中学生でした。通いやすさを考えると、小学生までは、近所の小規模なフリースクールをあたるほうが現実的かもしれません。
不登校の増加およびフリースクール等への自治体による助成金制度の拡大を受け、昨今、大手教育産業がサポート校およびフリースクールを開設する動きがますます盛んになっています。
しかしフリースクールの安定した運営には、専門的な知識も経験も必要です。安易に大手の看板に飛びつくのではなく、いつごろフリースクール事業を始めたのか、あまりに営利目的な企業体質でないかなどという点も気にしてみてください。
取材・文/おおたとしまさ
おおたとしまさPROFILE
教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。リクルートから独立後、教育に関してさまざまな観点から取材を行い、著書は90冊以上。どこの組織にも属さない在野の視点で現代の教育への考察・提言を続けている。メディアへの出演や講演も多数。
“フリースクール探し”で最初に読む本、登場! 『フリースクールという選択』(著:おおたとしまさ/講談社+α新書)