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『古事記・日本書紀』にほぼ登場しない…それでも日本人を祓い続ける「祓戸四神」とは

草の実堂

画像:祓戸大神(京都市・地主神社) wiki c Yanajin33

日本神話には、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)や伊邪那美命(いざなみのみこと)、天照大神(あまてらすおおみかみ)など、数多くの神々が登場する。

その一方で、神話にはその名がほとんど登場しないにもかかわらず、重要な役目を担っているのが祓戸四神(はらえどししん)だ。

祓戸四神とは地上のありとあらゆる罪や穢れを祓うという、いわばお祓い・お浄めを専門とする四柱の神々で、まとめて祓戸大神(はらえどのおおかみ)とも呼ばれる。

瀬織津姫(せおりつひめ)、速開都比売(はやあきつひめ)、気吹戸主(いぶきどぬし)、速佐須良比売(はやさすらひめ)という四柱の神によって成る祓戸四神だが、速開都比売以外の3柱の神は『古事記』や『日本書紀』の本文には名前すら登場しない。

※速開都比売は『古事記』の速秋津比売神や『日本書紀』の速秋津日命と同一視されることが多いが、別の神とする説もある。

しかし夏越の大祓などの祭祀で唱えられる、神道において最も重要とされる祝詞「大祓詞(おおはらえのことば)」には、この神々の名がはっきりと記されているのだ。

なぜ祓戸四神は「祓い」という重要な役割を担いながらも、記紀にはその名がほとんど登場しないのだろうか。

今回は日本人にとって身近ながらも謎多き「祓戸四神」や、神道における罪や穢れの正体について紐解いていきたい。

瀬織津姫~最高神と縁を持つ水の女神

画像:流れの速い清流のイメージ photoAC

大祓詞で名が挙げられる祓戸四神のうち、初めに登場する瀬織津姫(せおりつひめ)は、前述のとおり古事記や日本書紀には記されない女神だ。

その名に川の流れが速く浅い場所を表す「瀬」という字があることから想像できる通り、瀬織津姫は水や瀧、川の神であり、人の穢れや罪を早川の瀬で浄める性格を持つとされ、大祓詞では「速󠄁川の瀨に坐す瀨織津比賣と云ふ神」と記される。

瀬織津姫は、天照大神の荒御魂と結びつけられることもある。

これは中世以降の伊勢神道などに見られる解釈で、地域や時代によっては、龍神や弁財天、鈴鹿権現、大禍津日神などと重ねられることもある。

一説では瀬織津姫は、記紀が成立する以前から信仰されていた水神であったとも言われる。

画像:日本の三重県伊勢市にある皇大神宮別宮荒祭宮。 wiki c N yotarou

瀬織津姫は、記紀に登場しない、つまり朝廷が編纂した歴史書に記述がない神であるにもかかわらず、祀る神社は数多い。

瀬織津姫を祀る神社としては、東京都多摩市の小野神社や、岩手県花巻市・遠野市などの早池峯(はやちね)神社が知られている。

また「瀬織津姫まつり」の公式サイトによると、岩手県内には瀬織津姫を祀る神社が23社あり、47都道府県で最多だという。早池峰山周辺だけでも、大迫と遠野の早池峯神社、山頂の奥宮、宮古市門馬の早池峰新山神社、大迫の田中神社など、各地に瀬織津姫を祀る神社が点在している。

岩手県で瀬織津姫信仰が広がった背景には、瀬織津姫が早池峰山の神として祀られ、山岳信仰や水神信仰と結びついてきたことなどが挙げられる。

また、神名に「織」の字を持つことから、後世には機織りや養蚕との関係も意識されるようになった。

ただし、こうした信仰がどのような過程で東北各地に広がったのかは、はっきりとは分かっていない。

速開都比売~記紀の水門神と結びつく女神

画像:鳴門の渦潮 wiki c Hellbuny

速開都比売(はやあきつひめ)は、祓戸四神の中で唯一、記紀に登場する神と結びつけられる女神で、『古事記』に登場する水戸神の速秋津比売神(はやあきつひめのかみ)や、『日本書紀』の速秋津日命(はやあきつひのみこと)と同一視されることが多い。

『古事記』において速秋津比売神は、伊邪那岐命と伊邪那美命が神々を生んだ際に産まれた神とされ、「速秋津」という名は「勢いが速く盛んな河口」を意味するとも考えられている。

大祓詞では「荒󠄄潮󠄀の潮󠄀の八百道󠄁の八潮󠄀道󠄁の潮󠄀の八百會に坐す速󠄁開都比賣と云ふ神」と記され、「比売」とは女神を示す尊称だが、本来は男神「速秋津比古神(はやあきつひこ)」と対を成す男女一対の神だ。

速開都比売は川を流れてきた水を受け入れる水門の神であり、荒い潮が渦巻き、あらゆる潮流が入り交じる場所にいて、瀬織津姫が川の流れに乗せて海に流した罪や穢れのすべてを、がぶがぶと呑み込んでしまうのだという。

画像:祓戸大神を祀る速開都比売神社の青い鳥居 photo AC

速開都比売を主祭神として祀る神社は、全国的にも珍しい青い鳥居を有する宮崎県西都市の速開都比売神社や、和歌山県和歌山市の鳴神社などがある。

また、兵庫県南あわじ市の湊口神社では、速秋津比古神と速秋津比売神を祀っており、同社では速秋津比売神を大祓詞に登場する速開都比売と同じ神としている。

湊口神社が鎮座する南あわじ市は淡路島最南端に位置しており、「鳴門の渦潮」で知られる鳴門海峡や、播磨灘や紀伊水道に面する地域だ。
同社では、速開都比売は世界最大級の渦潮が発生する鳴門海峡に、鎮まるとされる女神でもあるのだ。

古代淡路・御原の海人族が祀った祖神が由来とされる湊口神社には、古くは源平の戦いに臨む源義経も、佩剣を奉納して海上の快晴を祈ったと伝えられている。

湊口神社は当初、往来する船が見える場所に鎮座していたが、眼下を通る船が神慮に触れてたびたび難破したため、1度船の通航が見えない場所に移転したという。

その後、明治39年(1906)の神社合祀令を受けて、現在の八幡神社に移転合祀された。

気吹戸主~罪や穢れを吹き飛ばす風の神

画像:東出雲町の黄泉比良坂・伊賦夜坂 wiki c ChiefHira

気吹戸主(いぶきどぬし)も、『古事記』や『日本書紀』に記されず、大祓詞の中にその名を確認できる神である。

罪や穢れを祓う出入り口である気吹戸(いぶきど)という場所に座す神とされ、大祓詞には「氣吹戶に坐す氣吹戶主と云ふ神」と記されており、速開都比売が呑み込んだ罪や穢れを吹き飛ばすために、根の国・底の国に向かって息吹を放つという。

「根の国・底の国」は日本神話において、地下や海底にあるとされる異界であり、『古事記』に登場する「根の堅洲国(ねのかたすくに)」や「黄泉国(よもつくに)」と重ねて語られることもある。

気吹戸主は、しばしば神直日神(かみなほひのかみ)・大直日神(おほなほひのかみ)と同一視される。

神直日神・大直日神は、伊邪那岐が死者となった妻・伊邪那美に追いかけられて黄泉から逃げ出した後に禊を行った際、流れ落ちた穢れから生まれた禍津日神(まがつひのかみ)がもたらす厄災を直すために、同じく伊邪那岐から生まれたとされる神である。

画像:本居宣長 public domain

「祓詞(はらえことば)」において、気吹戸主も他の祓戸四神と同じく、伊邪那岐から生まれた神とされているが、その正体については謎が多い。

息を放って風を生み出す風神としての神格を持つことから、伊勢の風神や、豊受大神の荒御魂と結びつける説もある。

祓戸四神における気吹戸主の立場は特に重要であるとも考えられており、江戸時代の国学者である本居宣長が著した『大祓詞後釈』では、気吹戸主について以下のように記されている。

「此神は、すべて万の凶事を、直し清め給う御霊の神にませば、広くいふ時は、早川の瀨に流れ出るより、根国に到りて、さすらひ失るまで、始め終わりすべて、此神の御霊にあらざることなければ也」

意訳:この神は、あらゆる厄災や穢れを直して清めてくださる神の御霊(みたま)であり、大まかに言えば、罪や穢れが早川の瀬から流れ出て、地下の根の国に届いて完全に消え失せるまで、その最初から最後までの全てがこの神の御霊の力によるものである。

気吹戸主を主祭神として祀る神社は、三重県四日市市の志氐神社や、他の祓戸四神と共に祀られる滋賀県大津市の佐久奈度神社、滋賀県東近江市の小幡神社などがある。

速佐須良比売~最後に罪や穢れを消し去る女神

画像:籠神社 (美濃市) wiki c へぼ飯

速佐須良比売(はやさすらひめ)は、四柱の祓戸四神の中で最後に登場する女神で、根の国・底の国に座す神とされるが、『記紀』にも『出雲国風土記』にも登場しない謎多き神だ。

速佐須良比売は気吹戸主が吹き祓った罪や穢れ、厄災を持って死者の国をさまよい歩き(佐須良ひ)、やがてそれらを失ってしまうとされ、大祓詞では「根國 底國に坐す速󠄁佐須良比賣と云ふ神」と記される。

速佐須良比売が持ち歩き失うことにより、初めてあらゆる罪と穢れが存在を失くし、祓い清めが完了するのだという。

祓戸四神の中で速佐須良比売のみを主祭神として祀る神社は、藤原高光が高賀山の妖怪退治を担った際に参籠したと伝わる岐阜県美濃市の籠神社(こもりじんじゃ)などがあるが、死や穢れに関わるものを忌避する神道の性質ゆえか、死者の国の神である速佐須良比売についての伝承や記述は少ない。

本居宣長は祓戸四神を『古事記』に登場する神々に比定したが、速佐須良比売については根の国にいるという点と神名の類似から、素戔嗚(すさのお)の娘で大国主神の妻でもある須勢理毘売(すせりびめ)に比定するに留まっている。

単独で信仰されることは少ない速佐須良比売だが、祓いの神として担う役割は重要で、ありとあらゆる罪と穢れと厄災を消し去り、さらには新しい命が生まれるための清らかな土壌を整えるとされる。

罪と穢れを洗い流す祓戸四神

画像:佐久奈度神社 拝殿 wiki c MOTOI Kenkichi

祓戸四神の正体は謎に包まれている部分が多いが、私たちにとっては身近で頼れる神々でもある。

大祓詞が奉じられる大祓式で祓う「罪」とは、現実に法を犯す犯罪だけを指すものではない。

大祓詞には、田の畔を壊す、用水路を埋めるといった農耕を妨げる行為から、身体への加害、病や災厄に関わるものまで、さまざまな「天つ罪・国つ罪」が挙げられている。

また「穢れ」も、単なる心の汚れや気分の落ち込みではなく、死や血、病などによって生じると考えられた不浄を含むものだった。

祓戸四神がリレー形式で協力して罪や穢れを祓う大祓は、人々が心の内に抱くモヤモヤとした汚れのようなものをきれいさっぱり洗い流し、明日を気持ちよく迎えるための儀式と考えることもできる。

祓戸四神を祀る神社としては、大祓詞のもととなった「中臣大祓詞」の創始地とされる滋賀県大津市の佐久奈度神社、東京都港区の日比谷神社、宮崎県西都市の速川神社などがある。また、多くの神社では境内の「祓戸社」に祀られている。

意を決して神社に参拝してお祓いを受けるのも良いが、大祓詞は神社の祭儀だけでなく、自ら唱えることもできる祝詞である。

もし外出する気力がない時や、気持ちがモヤモヤして落ち込んだ時は、自宅で心身の姿勢を正し、自らの声で大祓詞を唱えてみてはいかがだろうか。

参考 :
大野百合子 (著), 小野善一郎 (著) 『日本最強の言霊 大祓詞 すべてがうまくいく!魔法の言葉』
八木 龍平 (著)『最強の神様100』
文 / 草の実堂編集部

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