Yahoo! JAPAN

【傷物語・劇場版】阿良々木暦の初めての怪異譚を96kHz/24ビット、5.1chで堪能

特選街web

(C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

「音の良いアニメ」を紹介するシリーズの第6回。西尾維新による人気小説をアニメ化した作品で、物語シリーズとして他の作品がTV放送されるなか、本編だけが劇場アニメとして公開された。高いクオリティの映像と音響で、阿良々木暦が遭遇する初めての怪異との物語を描いている。

TVシリーズとは異なる感触で映像化された劇場公開作品

西尾維新の物語シリーズは、「化物語」からスタートした息の長いシリーズで、アニメ化されているのは、阿良々木暦の高校時代(主に高校3年生の1年間)を描いた部分。原作のファーストシーズン、セカンドシーズン、ファイナルシーズンに該当する。

今回紹介する「傷物語」は、2016年から2017年にかけて三部作で劇場公開されたが、それ以外はTV放映されており、原作小説では主な語り手である主人公・阿良々木暦のモノローグが延々と続くスタイルが特徴だ。阿良々木暦の声を担当した神谷浩史の膨大な語りが人気だった。

物語の発端でもある「傷物語」だけは三部作で劇場公開され、映像も音響も演出プランも大きく変えていることが特徴だ。ちなみにTVシリーズを含めてすべてBD/DVD化されているが、「傷物語」だけはパッケージのデザインも異なっている。完全生産限定版のBDには、本編BDと劇伴音楽集CDがセットになっており、これは三篇ともに共通の仕様だ。

「傷物語」三部作のBD(完全生産限定版)。他のシリーズとは異なるデザインとなっている。
インナージャケット(左)とブックレット(右)。イラストも描き下ろしで、2つのイラストが対になっているのがわかるだろう。上から「I 鉄血編」、「II 熱血篇」、「III 冷血篇」のもの。

映像については、背景にCG作画を多用するスタイルは踏襲するものの、CGのクオリティはさらに高くなり、バトルシーンの迫力も増している。バトル中心の展開となる「II 熱血篇」だけはPG12となっているほどだ。手描きによるキャラクターも基本的なデザインは共通するものの、より線の多い作画となり動きも豊かだ。

何よりも異なるのが、音響と演出プラン。劇場公開作品では当たり前とも言える、5.1ch音声が採用された。このため、TVシリーズでは省略されがちだった足音や風の音、さまざまな音が増え、音楽とともに映像を盛り上げている。こうした映画的な作りのためだと思われるが、本作では阿良々木暦の語り手としてのモノローグが基本的にない。阿良々木暦による状況描写や心理描写はすべて映像と音に置きかえられている。TVシリーズを見ていた人は物足りなさを感じるかもしれないが、そのぶん、声優陣の熱演は凄まじく、「I 鉄血篇」の冒頭で違和感すら感じる間もなく、物語の世界に入り込んでしまうだろう。

しかも、BD版の音声は5.1ch、2.0chともに96kHz/24ビット収録。音楽ソフトを別にすれば、映画やアニメのハイレゾ音声によるサラウンドはあまり例がない(アニメでは「AKIRA」がBD版も4KのUHD BD版もスペック上は同じ192kHz/24ビットで音声を収録している)。

BDのトップメニュー。音声は2chと5.1chを選択可能で、どちらも96kHz/24ビット音声。映像特典は特報映像などを収録。 (C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

登場人物の息づかいまでリアルに高音質で堪能

本編の主人公である阿良々木暦。特徴はそのままだが、他のシリーズと比べてより細かく描写され、よく動く。 (C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

この物語は、阿良々木暦が次々に遭遇する怪異譚の原因とも言えるもので、吸血鬼と出会った春休みの2週間を描いている。CGを多用して描かれた映像は情報量を増しているが、それでいてTVシリーズの持つすっきりとした感触を備えたものになっている。

キャラクターもよく動く。四肢を切り落とされた吸血鬼の出会いは鮮烈な赤い色がたっぷりなこともあり、ゾッとする雰囲気が大幅に増している。

そして、阿良々木暦らの声が生々しい。完全生産限定版のBDには、本編BDと劇伴音楽集CDがセットになっている。阿良々木暦の恐怖感を伝える荒い息づかいや絶叫もかなりの熱演だし、羽川翼や忍野メメ、そして吸血鬼といった面々の演技もTVシリーズ以上に力が入っていることがわかる。

阿良々木暦と羽川翼が印象的な初対面をする場面。 (C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

音楽はTVシリーズと同様に神前暁が担当。こちらもさらに充実したものに仕上がっていて、サラウンドの音響で周囲を埋め尽くすように鳴る。ハイレゾ音声の良さで、各楽器の音が生々しいし、ホラー作品のように怖さを伝えるシーンでは重厚で迫力のある音楽が流れ、いつも通りの愉快な会話劇が展開する場面でのシンセを多用した音楽もより小気味よく鳴る。

吸血鬼である、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードは阿良々木暦の助けによって救われるが、四肢を奪われたことが原因で、10歳ほどの幼い姿になってしまう。阿良々木暦は自分が人間に戻るため、奪われた四肢をバトルで取り返すことになる。これが物語のあらすじだ。注目は吸血鬼を演じる坂本真綾の演技で、物語が展開していくに従って、10歳から12歳、17歳、完全体の27歳と思しき姿に変わっていくが、その変化を見事に声で演じ分けている。

地下鉄のホームで吸血鬼に遭遇する阿良々木暦。怪異との初めての出会いだ。 (C)西尾維新/講談社・アニプレックス・シャフト

成績優秀な同級生・羽川翼との青春の甘酸っぱさがあふれる愉快な会話も楽しいし、それでいて羽川翼の抱える闇というか、底知れない怖さもしっかりと表現できているのはさすがだ。韜晦した物言いが多い忍野メメも、決めるところは決めるカッコよさと、阿良々木暦と繰り広げる会話の軽妙さも見事。本シリーズの面白さである会話劇の魅力もまったく損なうことなく、映画として表現できている。

まとめ

ぜひ見てほしい物語の発端にして締めくくりの物語

物語について詳しくは紹介しないが、本作はシリーズ中でも派手なバトルが連続する珍しい内容なので、それを存分に描くための劇場アニメ化だとも思う。大迫力の映像と音で展開する奇想天外な異能バトルは屈指の出来だ。残虐な描写も多少はあるが、多くはコミカルな演出を交えているので、ホラーというか残酷描写が苦手な人でも心配は不要だ。

本作は時系列では最初の物語だが、こうして劇場アニメとして完成した本作を、TVシリーズで描かれた「高校編」の完結後に見直してみると、シリーズのすべてが集約されているとも感じる。いずれにしても、TV放映されなかったからといって本編だけを見ないのはもったいない。今は動画配信サービスで見ることができるので、いっそのことシリーズをすべて見直すのもいいかもしれない。

【関連記事】

おすすめの記事