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『Over-60 モンテディオやまびこ』!? Jリーグクラブが60歳以上のコミュニティを立ち上げた背景とは

Sports

2023シーズン、23歳以下のマーケティング組織『U-23マーケティング部』を作り、スポーツ界のみならずその取り組みが注目されたJリーグ・モンテディオ山形。
2024シーズン、発表されたのは前年とは真逆の“60歳以上”に対するものでした。『Over-60モンテディオやまびこ』と名付けられたこの取り組みは、60歳以上の方を対象に、“声”を起点に元気にしていくというもの。全国5番目の高齢化率である山形県において、どのような意図や想いを持って取り組むのか?モンテディオ山形代表取締役相田健太郎氏(以下、相田)にお話を伺いました。

アメリカの元気なボランティアから見つけた高齢者の可能性

ーー昨年のU-23マーケティング部の活動に引き続き、今回はO-60モンテディオやまびこ。60歳以上をターゲットにした施策には、どのような理由があるのでしょうか?

相田)日本において「高齢化」はネガティブな印象に捉えられがちです。そこには、高齢者の方々の持つある種の“とっつきづらさ”のようなものが影響しているのかなとも思うのですが、そうした点を払拭すれば、年齢関係なくみんなで一緒に騒いだり楽しんだりできる、「ユニバーサルでアクティブな世の中」は作れるのではないかとずっと考えていました。

ーーそのように思うようになったきっかけにはどのようなことがあるのですか?

相田)楽天イーグルスで働いていたときに、アメリカMLBの試合を視察に行くことがありました。そのとき、ボランティアのご高齢の方が「ようこそ!」と大きな声で挨拶してくれたり、初来場の人に話しかけて「楽しんでこいよ!」と送り出していたりする光景を目の当たりにしました。このようなおじいさんおばあさんの温かい目は、地域にとっての“安心感”にも繋がっているのではないかと感じると同時に、日本にはない光景だなとも感じました。

ーーたしかに、若い人たちと高齢の方が触れ合っている機会を見かけることもなかなかないように思います。

相田)実は山形では3世帯家族も多く、昨年からスタートした『U-23マーケティング部』の学生からも「私のおばあちゃんが・・・」という話がよく出てきます。日常的に一緒にいることで生まれているリスペクトが、家庭内だけではなく地域レベルにまで広がっていけば、そうした光景も増えるのではないかと思わせてくれます。

マーケティングにおける重要な要素

ーー山形県は全国でも高齢化率が高い県です。そうした事実も今回のプロジェクトの背景に関わってくるのでしょうか?

相田)高齢化率という数字もありますが、モンテディオ山形自体、入場者に高齢の方が比較的多いクラブです。日本の現状を見ても、今後高齢者が増えていくのは明白ですよね。マーケティングとして考えると、高齢の方が「行きたい!」と思えて、生きがいを感じられるようなスタジアムにしないと、クラブとしての売上にも大きく関わってくると考えています。

ーーたしかにおっしゃる通りです。ただ、スタジアムにおいて高齢者を対象にした取り組み事例はまだまだ少ないように思えます。

相田)最初は、『U-23マーケティング部』と同じようなことを60歳以上の方々としてみたらどうかということも考えました。ただ、人生の先輩たちが何を求めているのか?と考えると、「健康」などがキーワードになるのかな、という漠然としたものしかなく、ありませんでした。

そこで、アイデアとしてご提案をいただいたのが“SOIP”の取り組みを通してでした。

※SOIP(Sports Open Innovation Platform:スポーツ庁が主導して構築する、スポーツ界のリソースと他産業等との技術知見を連携させることにより、世の中に新たな財やサービスを創出するプラットフォームのこと。)

ーーSOIPで団体さんとマッチングしたことで、“声”を起点とするアプローチが実現に向かったんですよね。

相田)今回は、一般社団法人日本声磨き普及協会さんとともに『O-60モンテディオやまびこ』に取り組みます。
当初は、“声を磨く”というキーワードに対して、「なにをするんだろう?」と想像もつかなかったですし、その効果を想像することが私にはできませんでした。しかし、実際にお会いして話したときのものすごい熱量と、活動に参加されている高齢者の方が純粋だったことが印象的でした。

相田)熱量があって、参加者も意義を感じている活動、そこにモンテディオが持っている事業作りのノウハウや“伝えるチカラ”を活用して協力できるのではないかと感じました。
また、声を使う取り組みという点で、活動の実現までのハードルが低いことも大きかったです。一緒に声を出す場所を作るなど、イベントには繋げやすいものです。ですが、それゆえに「いかにこの活動の意義を伝えられるか」という点が、今後のポイントになってきます。これまでも、しっかりお話をして伝えられた人たちからは多くの共感をいただくことができ、手応えを感じていますので、その数をいかに増やすかがこれから大事になってきます。

一緒になって解決しよう!と思えるために

ーー『モンテディオやまびこ』の活動は既に始動していますし、声磨き教室は2〜3月にかけても開催されています。今シーズンの活動に向けてなにか計画していることはありますか?

相田)シーズン中には、先ほどお話したメジャーリーグのスタジアムのように、『モンテディオやまびこ』のメンバーが「いらっしゃいませ!」と元気に挨拶をしてくれるようなボランティアになっていただけたら嬉しいですね。スタジアムを明るくしていただき、彼ら自身も試合を観て盛り上がっていただくような機会を作りたいです。

敬老の日に合わせたイベントも計画中です。「この年齢の方もこんなに元気な声が出るんだ!」というように、まわりの方がすごいなと尊敬の念が出るようなことをやりたいですね。

ーーこんな人たちなんだ!とわかると、年齢が高いからという考え方もなくなり、親近感が湧いてきますね。

相田)今シーズンは、そうした高齢者に対する理解がいかに進むかという点も考えながら動いていこうと思っています。
高齢化は、現状を考えると避けられない事実であると同時に、医療費増大など、悲観的な話題が多く飛び交っています。ですが、そのように悲観的にばかり考えてしまうのは、人生の先輩方に対して本当に失礼なことなのではないかと私は思っています。もちろん、車社会である山形県においては、免許返納のことやモビリティサービスのことなど、解決しなければならない問題も高齢化が進むことによってでてきています。そうした課題を悲観的に捉えるのではなく、一緒になって解決していこう、組み合わさることで効果を最大化させようと取り組むことも大事なのではないかと考えています。

ーー『O-60モンテディオやまびこ』が、多くの60歳以上の方々のコミュニティになることで、より解像度の高い課題改善にも取り組めそうですね。

相田)そうですね。ただ、60歳以上に手を差し伸べるという形ではなく、あくまでフェアに、みんなの人生を楽しむ権利を最大限に使えるように、モンテディオがそのための場所を作れたらいいなと思っています。

これからのモンテディオ×O-60

ーー相田さんがこの先に見据える未来はどのようなものでしょうか?

相田)現在、新しいスタジアム作りにも取り組んでいるのですが、そこには医療施設を組み込みたいと考えています。ただ、それは医療が目的ではなく、健康維持やリハビリテーションなど、より人生を楽しむための目的をしたものにしようとしています。また、高齢者に対するデジタルへのアプローチも諦めてはいけないと思っています。今後の国の発展のために、そうしたことにハードルを下げやすい場にスタジアムをしていきたいです。

ーー新しいものに触れることができ、そこに行けばプラスになるような場所になるといいですよね。

相田)また、若者から教わるような場面があってもいいと思います。娘と話をすると、SNSなどに関して明らかに彼女の方がリテラシーが高いです。そうした存在から、素直に意見を聞けることはとても大事だと思いますし、逆に高齢者の方々を人生の先輩としてリスペクトできる大事な人だとみんなが考えられる。今回のO-60は、そんな場になる可能性を秘めていると思っています。僕がU-23の子たちから、「60歳以上のことを大事に思う若者が多くいるんだ」と気づかせてもらったように、その想いが地域に広がるような活動になればと思います。

ーーO-60の方々が、元気にスタジアムで挨拶しているような姿を見られるのが楽しみですね!ありがとうございました!

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