「一次史料なら真実なのか?」歴史研究で重要な一次史料と二次史料の違いとは
過去に存在した歴史上の出来事を知り、その事実関係を考えるための材料を「史料」と呼びます。
史料には、紙に書かれた文献史料をはじめ、口頭伝承・金石文・絵画などがあります。
さらに、近現代史であれば録音や映像なども重要な史料となります。
もちろん遺物や遺跡なども、広い意味では史料といえるでしょう。
このなかで、歴史を研究するうえで特によく使われるのが文献史料です。
そして文献史料について調べていると、必ずといっていいほど登場するのが「一次史料」と「二次史料」という言葉です。
一次史料と二次史料はいったい何が違うのでしょうか。
今回はその違いについて、できるだけわかりやすく説明していきます。
そもそも「史料」とは? 歴史を読み解くための手がかり
国立国会図書館のホームページでは、史料について、その一つ一つで歴史研究における有効性や信頼度(信憑性)が異なり、その見極めを「史料批判」と呼ぶと説明しています。
文献史料の場合、その目安となるのが、その史料を「いつ」「どこで」「だれが」書いたのかという三つの要素です。
そして国立国会図書館では、この三要素を踏まえて一次史料と二次史料について次のように説明しています。
●「そのとき」「その場で」「その人が」の三要素を満たしたもの = 一次史料
●「そのとき」「その場で」「その人が」の三要素を満たしていないもの = 二次史料
つまり歴史を知るためには、その記録が「いつ」「どこで」「だれによって」作られたのかを確認することが重要なのです。
ただしここで注意したいのは、一次史料だから「絶対に正しい」、二次史料だから「間違っている」と単純に分けられるわけではないということです。
一次史料とは? 過去の出来事を直接伝える記録
一次史料には、古文書や日記など、当時の人々によって作成されたさまざまな文書があります。
「古文書」には、書状や公的文書などが含まれます。
そこには当時の人々が実際に行った活動や、社会の状況などが記録されています。
その代表例を挙げてみると……。
●『正倉院文書(しょうそういんもんじょ)』
奈良時代の東大寺写経所で作成された帳簿類などを中心とした文書群で、紙の裏側に残された戸籍や計帳なども含まれています。
当時の人々の暮らしや社会制度を知るうえで非常に重要な史料です。●『島津家文書(しまづけもんじょ)』
平安時代末期から明治時代初期にかけて、島津家に伝来した古文書群です。
武家社会の政治や経済、土地支配などを知るための貴重な史料となっています。
続いて「日記」です。
日記は、その人物が日々の出来事や考えなどを記録したものです。
そのため個人的な記憶違いや事実誤認、あるいは自分に都合のよい記述が含まれている場合もあります。
しかし、その人物の行動を長期間にわたって追うことができるだけでなく、当時の人間関係や社会の状況なども読み取れることから、歴史研究では非常に重要な史料となっています。
代表例を挙げてみると……。
●『御堂関白記(みどうかんぱくき)』
平安時代の公卿・藤原道長が記した日記です。
道長本人が書いた自筆原本が残されており、平安時代の貴族社会を知るうえで極めて重要な史料です。
2013年にはユネスコの「世界の記憶」に登録されました。●『上井覚兼日記』
薩摩国の戦国大名・島津氏の家老(老中)を務めた上井覚兼(うわいかくけん)が記した日記です。
当時の政治や武士の生活、文化などを知るうえで、非常に価値の高い史料とされています。
このように、一次史料には当時の人々が残したさまざまな記録があります。
しかし一次史料であっても、そこに書かれたことがすべて事実とは限りません。
例えば日記を書いた人物が意図的に事実を隠したり、自分に都合のよいように記したりすることも考えられます。
そのため一次史料であっても、別の史料と照らし合わせながら慎重に読み解く必要があるのです。
二次史料とは? 後世の人々がまとめた歴史記録
一方、二次史料とは当事者自身がその時々に残した記録ではなく、第三者の記録や伝聞、後世の編纂などを経て作られた史料です。
その種類としては、実録、覚書・聞書、軍記物などがあります。
まず、特定の人物や出来事について後世にまとめられた記録である「実録」を見てみましょう。
その代表例として挙げられるのが『徳川実紀』です。
●『徳川実紀』
江戸時代後期に江戸幕府が編纂した、初代・徳川家康から第10代・家治までの徳川将軍家に関する公式の歴史書です。
多くの一次史料をもとに編纂されており、徳川将軍家の歴史を知るうえで重要な史料ですが、江戸幕府自身が編纂した正史であるため、その編纂方針や立場を踏まえて読む必要があります。
次に当時の人々の記憶や伝聞などをもとに、出来事や人物について記録した「覚書・聞書」です。
その代表例として知られるのが『武功夜話』です。
●『武功夜話』
織田信長や豊臣秀吉に仕えたとされる尾張国の土豪・前野家に伝来したとされる記録群です。
信長や秀吉の若き日の姿や、戦国時代の日常、人間関係などが詳細に描かれていますが、現在も成立時期や真贋をめぐる論争が続いており、史料批判の重要性を考えるうえでも興味深い史料といえます。
そして、二次史料のなかでも特に有名なのが「軍記物」です。
軍記物は、合戦や武将の活躍などを題材にした作品で、読み手の関心を引くため、物語的な脚色や創作が加えられている場合があります。
その代表例として『甲陽軍鑑』があります。
●『甲陽軍鑑』
武田信玄・勝頼の時代の合戦や戦略、武士の心得などを記した軍学書です。
江戸時代には武士たちの間で広く読まれ、武田信玄や山本勘助などの人物像の形成にも大きな影響を与えました。
「信長公記」は一次史料? それとも二次史料?
ここで、一次史料と二次史料の境界を考えるうえで興味深い史料を紹介しましょう。
それが『信長公記(しんちょうこうき)』です。
『信長公記』は、織田信長に仕えた太田牛一(おおたぎゅういち)が記した信長の一代記で、信長の没後にまとめられた歴史書です。
厳密には日記や書状のような一次史料とはいえませんが、太田牛一自身が信長と同じ時代を生き、多くの出来事を直接見聞していたことから、一次史料に近い高い価値を持つ記録として、現在の信長研究でも極めて重視されています。
そして『信長公記』の奥書には、「直に有ることを除かず、無き事を添えず」とあり、信長が行った残虐行為についてもしっかりと記載されています。
歴史とは、単に古い記録を覚えることではありません。
残された史料を読み解き、ときには疑い、別の史料と照らし合わせながら「実際には何が起きたのか」を考えていく。
そこに、歴史を学ぶ面白さがあるのではないでしょうか。
参考 :
国立国会図書館「史料にみる日本の近代 史料とは何か」
中村尚史・高島正憲・中林真幸「実証的経済史研究の現在」『社会科学研究』第72巻第2号、東京大学社会科学研究所、2021年
金子拓『織田信長という歴史 『信長記』の彼方へ』勉誠出版、2009年 他
文 / 高野晃彰 校正 / 草の実堂編集部