前島亜美さんがデビュー1周年を前に届ける、飾らない自分らしさ――TVアニメ『不器用な先輩。』エンディングテーマ「不器用に 君のとなり」に込めた想いに迫るインタビュー!
間もなくソロアーティストデビュー1周年を迎える声優の前島亜美が、通算2作目となるニューシングル「不器用に 君のとなり」を完成させた。どこか懐かしくも温かな気持ちになれる、正統派のポップソングに仕上がった表題曲は、前島本人も堀田美緒役のキャストとして出演するTVアニメ『不器用な先輩。』のエンディングテーマ。仕事はできるが人付き合いが苦手なOL・鉄輪 梓(CV:Lynn)と新入社員の亀川 侑(CV:坂田将吾)のワーキングライフとオフィスラブを描いた、ハートウォーミングな“不器用な年上上司×新入社員”ストーリーに寄り添いながらも、前島らしい優しいメッセージが込められた楽曲になっている。シンガーソングライターの山崎あおいが提供した「恋愛主義にクエスチョン」、前島自ら作詞した「Adaptation」を含め、今の彼女の飾らない想いが込められた3曲にインタビューで迫る!
【写真】前島亜美『不器用な先輩。』EDテーマに込めた想いに迫るインタビュー
歌詞に込められた“傷つく怖さ”と“動き出す勇気”
──ニューシングル「不器用に 君のとなり」はTVアニメ『不器用な先輩。』のエンディングテーマということで、前作の1stシングル「Wish for you」に続き、2クール連続でアニメタイアップとなりました。
前島亜美さん(以下、前島):1stシングルで『公女殿下の家庭教師』のオープニングテーマを担当させていただいた時は、すべてが初めてのことで、右も左もわからないなかでがむしゃらに作品に関わらせていただいたのですが、今回は2回目ということで、自分も少し落ち着いて、より作品に対しても誠実に向き合いつつ、自分の楽曲でもあることを念頭に置きながら制作を進めることができました。
──『不器用な先輩。』には、メインキャラクターのひとり・堀田美緒役の声優としても出演されているので、その意味でも、より作品とリンクした楽曲制作ができたのではないでしょうか。
前島:堀田ちゃんは、作品の中心になる主人公の鉄輪(梓)先輩と亀川(侑)くんをアシストするような役回りと言いますか、2人と周りのみんなを繋いでいくようなキャラクターなので、役柄的にもすごく感情移入しやすかったですし、エンディングテーマ担当アーティストとして作品を後ろから支えて寄り添う姿勢も、堀田ちゃんとのシンクロを感じました。
──堀田美緒を演じる前島さんの声音、凛々しい感じが新鮮で驚きました。
前島:ありがとうございます! ちょっと低音で割と地声に近い、ナチュラルな感じでお芝居させていただきました。堀田ちゃんは立場や持っている思い的にすごく共感できるんですけど、私にはない前向きなエネルギーと行動力を持っているので、演じていてすごく楽しかったです。本当に太陽みたいな子なんですよね。私だったら話しかけにいけないような場面でも、普通に「よぉ!」って声をかけられるし、鉄輪先輩に寄り添って、亀川くんの背中を押す、あたたかい心の持ち主です。アフレコしている中でも、「もうちょっと元気に」というオーダーを結構いただきまして、天真爛漫というか、明るい感じでお芝居をしています。
── 一方、主人公の鉄輪先輩は自分の気持ちを発信するのが苦手で、タイトル通りとても不器用ですが、共感するポイントはありましたか?
前島:「すごくわかる!」の連続でした。心の中では「こう言いたい」「こう振る舞いたい」と思っているのに、いざ相手を目の前にするとうまく言えないし、伝えられない。優しくしてもらった時に素直に「ありがとう」と言えなかったり、差し伸べてもらった手を迷いなく掴むことがなかなかできないところもすごく共感してしまいました。その優しさに甘えて頼っていいのかな、迷惑じゃないかな?と思ってしまうんですよね。方言を隠したいというのも、誰しもが持つ自分の周りとは違う部分を隠したい気持ちと重なりますし、そんな鉄輪さんを演じるLynnさんのお芝居がとにかく素敵で。鉄輪さんの素の部分の人間味がとても魅力的だし、愛らしくて、アニメを観て鉄輪さんのことがより大好きになってしまいました(笑)。きっといろんな方が鉄輪さんに共感できると思いますし、その自分の共感できた部分も愛せるような、新しい形で寄り添ってもらえる作品だと思います。
──そんな作品性を踏まえた楽曲に仕上がっていますが、前島さん自身は楽曲制作にどのように関わったのでしょうか?
前島:結構しっかりと関わらせていただきました。まず楽曲選びはコンペで、候補曲の中から「これがいいです」と私からも意見を出させていただいて、アニメの制作チームにも確認してOKをいただいたのが今回の楽曲になります。アニメ側からは“懐メロ”と言いますか、懐かしさや親しみやすさを感じられるゆったりとしたメロディーの楽曲、というオーダーをいただきまして。それまでの私のレパートリーにはなかった新しい角度の曲調だったので、“懐メロ”感はありつつ私らしさも感じられる楽曲がいいなと思っていたなかで、コンペでこの曲を聴いた時に、エンディングのアニメで登場キャラクターのみんなが歩いているような絵が、イントロから想像できたんです。朗らかで、温かみもあるし、懐かしさもあるけど、ちょっと現代味もあって、私の世代が歌っても違和感がないようなバランス感。それとサビや落ちサビで力強さや意志みたいなものも感じられるのが、私っぽいかもと思って、選ばせていただきました。あとはエンディングテーマなので、作品の余韻を大切にできるような曲にしたいなと思っていました。
──なるほど。作詞は藤林聖子さんで、以前、デビューアルバム『Determination』収録の「Unfallen Angel」でもご一緒されていましたよね。
前島:そうなんです。直接お会いはしていないのですが、藤林さんからコメントをいただきまして、それによると原作を読んでいただいて、作品にしっかりと寄り添いながら、私らしさ、前島亜美という要素も意識しながら書いていただけたようで、それがすごく嬉しかったです。本当に素晴らしい歌詞だったので私からは何も言うことはなかったですし、こうやって作家さんとも何作も共に歩んでいくことでできていく関係性や、生まれてくるものもあるんだろうなと思うと、今後の活動もより楽しみになりました。
──「Unfallen Angel」があったからこそ、前島さんのことをよりしっかり理解してくださったんでしょうね。
前島:いやあ、本当にありがたいです。ソロデビューしてから自分でも作詞を始めてみたことで、よりプロの方のお仕事の見事さがわかるようになって。今回のようなローテンポの楽曲に詞をつける場合、アップテンポの曲よりも耳に言葉が入ってきやすい分、言葉の重要度が増すので難しいだろうなと個人的に思うのですが、こんなにも見事に表現されていて、さすがだなと思いました。鉄輪さんの視点だけでなく、亀川くんの目線でも見れますし、堀田ちゃんの目線でも、私の目線でも見ることができて。誰にでもある心の機微みたいなものを拾ってもらえているなと思いました。
──ということは、歌詞を受け取った時に、作品への寄り添いだけでなく、ご自身の気持ちとして歌える部分も感じた?
前島:感じました。自分が不器用だなと思う方にはとても刺さるものがあると思いますし、自分にはあまり不器用の要素がないなと思っている方も、「こういう視点での生き方もあるんだな」と受け取ってもらえると、周りにいる人のことが大切に思えるような曲になったと思います。
──先ほど鉄輪先輩に共感できるとお話いただきましたが、前島さんも自分のことを不器用だと思っているのですか?
前島:めちゃくちゃ不器用です(笑)。
──その不器用エピソードを聞いてもいいですか?
前島:手先も不器用ですし、私はオンとオフの差がすごくあるんです。外に出ている時、人と関わっている時は「誰かに迷惑をかけてはいけない」という思いで、すごくしっかりしてようと思っているのですが、その反動で家では何もできないんです。もう、家での姿は誰にも見せられないくらいで。
──そうなんですね。真面目でしっかりしている印象なので意外でした。
前島:今回、“不器用”という言葉に向き合ってすごく感じたのが、不器用というのは思いやりの裏返しと言いますか、相手への愛や尊重する気持ち、もっといくと祈りみたいなものの裏返しなんじゃないかなと思うんです。この作品の主人公の鉄輪さんもすごく愛情深い人ですし、だからこそ“不器用”って実はすごく愛すべき点なのかなと思うようになって。自分が何かをできなかったり、足りてないなと思うところも、「まあまあ、これもまあ不器用ということで」みたいな感じで、最近はおまじないのように言葉を借りています。
──ということは、家でのオフモードの自分もちゃんと愛せていると。
前島:そうですね。まあ、普段も外ではオンにしている自覚はあまりなくて、自分を作っているようなことは全くないんですけど、ただ、本当に根がぐうたらなものでして(苦笑)。「このままでは外に出れないぞ……?」みたいな気持ちはちょっとあるかもしれないです。
──歌詞の話に戻りまして、前島さん的に、特に刺さったフレーズはありますか?
前島:好きなところはいっぱいありますけど……ひとつ選ぶとしたら、1番Bメロの“傷つくのも 傷つけるのも怖いから 隠した気持ち 動き出しそう”という歌詞は特に大共感です! さっきもお話した通り、「人に迷惑をかけないように生きなくては」という思いがずっとある人生なので、誰かを傷付けるなんてことは本当にしたくないですし、できれば自分も傷つきたくない。でも、それが故に自分の思いや言葉を飲み込んだり、動き出せなかったりすることが日々たくさんあるので、それが歌詞として表現されていて見事だなと思いました。Dメロの“誰だって自分を 信じきれなくて
臆病になって”も、誰もが抱えているもやもやした気持ちがギュッと言葉になっていて、勉強になります。
──タイトルにもある“君”の存在も重要だと思うのですが、そのあたりはどう捉えていますか?
前島:作品を観ていれば相手のキャラクターを想像しやすいと思うのですが、そこの解釈はミュージックビデオですごく広げてもらったなと思っています。今回のMVでは、ネコちゃんが出演してくれていてるので、その意味では“君のとなり”はネコちゃんの隣とも取れますし、その映像の中で私は本を読んでいたり、ヨガをしていたり、植物に水をあげたりしているのですが、どれもそういった日常の隣で生きている自分と捉えることができると思うんです。それと終盤に、鏡に向かってアカペラで歌うシーンがあるのですが、そこは“君”というのが鏡の中の私で、自分自身に向けても歌える曲であるということを監督が表現してくださって。すごく深い解釈になってありがたいなと思いました。
──なるほど。そう考えると“孤独より強くなれる 好きっていう気持ち”というフレーズの意味も広がりますね。
前島:“君”というのは、日常や空間、時間に対しても言えるのかなと思います。それと1番サビのラストが“不器用な私ありのまま 守ってみたいもの”となっているのが、個人的にはすごく希望だなと思っていて。守りたいと思えるほど大切なものが身近にある。好きな歌詞です。
──前島さんにとっての「守りたいもの」は?
前島:私も実際にネコちゃんと暮らしているので、ネコちゃんは絶対に守らなくてはいけないですし、何があってもネコが最優先みたいなところがあります(笑)。あとは本も大切ですね。MVとシングルのブックレットの写真にも私物の本を持ち込んで使っていまして。MVで私が目覚まし時計を止めるシーンで、時計の下に積んである本は、自分が気に入っている本なんです。それと終盤の携帯でお花の写真を撮っているシーンも、私物の携帯をを使っていて、リアルな感じで撮影しています。
──そうだったんですね。ちなみにMVに登場するお部屋は、前島さんの実際のお部屋と似ているんですか?
前島:全然似てないです。私の家は、あんなにお洒落な空間ではないです(笑)。
──でも、ネコとの暮らしは再現されているわけですよね。
前島:あのネコちゃんが本当にすごくて。今回はニボシちゃんというプロのネコちゃんに出演してもらったのですが、スタッフの方からは「師匠」「巨匠」と言われていたので、多分、かなりの大御所の方みたいで、カメラが回った瞬間にビタッとカメラ目線になるし、カットがかかった瞬間にふらーっとどこかに行く感じで、すごかったです。
──すごくプロフェッショナルなネコですね(笑)。
前島:ラストに私と猫ちゃんが並んで窓の外を観ているシーンがあって、あれが監督の一番撮りたい絵だったんですけど、ネコちゃんがあんなに綺麗に並んで窓を見てくれるかが一番の懸念点だったんです。でも、ニボシ師匠はセッティングされた瞬間にビタッと固まって。うちのネコちゃんならそうはいかないので、びっくりしましたね。
──ちなみに、前島家のネコちゃんのお名前は?
前島:ロワっていいます。フランス語で“王様”という意味で、高い所から常に見下ろしてくる感じなので、我が家の王様です(笑)。ネコちゃんはくびれのあるのが健康体で、ニボシ師匠はしっかりくびれもあってモデル体型だったんですけど、うちのロワは結構ダイナマイトボディなので、その意味でもニボシちゃんに出ていただいてよかったなと思います。
──アハハ(笑)。続いて、「不器用に 君のとなり」のレコーディングでのこだわりポイントを教えてください。
前島:1stシングルの時は、初タイアップということもあってプレッシャーですごく迷ってしまったので、今回は「力まない」「頑張りすぎない」ということを意識してレコーディングに向かいました。作品の“不器用”という言葉もお借りして、声を作らずに今の自分の声で表現してみることと、上手く歌おうとせず、ただ言葉とメロディーに乗って出てきた音を重視してみようと思って。それとテンポが速い曲ではなかなかできない、少し芝居心を感じられる話すような歌い方も入れながら録っていきました。特に2番は、歌うというよりもお芝居するような思いで表現したところが多かったです。
──確かに、特に2番では逡巡している感じがすごく伝わってきました。
前島:嬉しいです。あとは落ちサビの“好きっていう気持ち”のところのロングトーンを、とにかくたくさん録ったことを覚えています。聞こえとしては軽やかに伸びていて気持ちいいんですけど、気持ち的には熱唱していて。自分が好きなもの、それこそネコのこととかを思い浮かべながら、真っ直ぐ歌いました。
──MVでアカペラで歌っていたのもそこの部分ですよね。
前島:そうですね。撮影では、実際にその場でも歌ったんですけど、その時は鏡の中の自分も“君”ということで、「頑張ってくれてありがとう」という思いが少しでも伝わればと思って。最近読んだ本に、「年齢を重ねるということは、これまでのすべての年代の自分が、自分の中に揃っていくということ」という意味合いの言葉がありまして。これまで生きてきた全ての自分と対面するような気持ちで、「日々、お疲れさま」という気持ちで歌いました。
──ライブで歌うと、また違う気持ちになりそうですね。
前島:特に1番のサビの歌詞は、私から日頃応援してくれている皆さんに向けての感謝の気持ちも見事に表現してくださっているので、さすが藤林さんだなと思いました。
──『不器用な先輩。』のエンディングアニメをご覧になった感想もお聞かせください。
前島:コンペの時から、みんなが動いている姿や映像をイメージして楽曲を選んだので、実際に私の歌に乗ってみんなが動いてくれているのを観て、すごく感動しました。しかも、「もしもシリーズ」じゃないですけど、みんなが作品の世界観から飛び出していろんなシチュエーションの恰好をしているのを観ることもできて。小さい頃の鉄輪さんから始まって、不器用に生きてきたこれまでも全部大切に思える、みんなとの出会いのストーリーも感じられて、本当にグッときました。
ハロプロ愛が繋いだ「恋愛主義にクエスチョン」誕生秘話
──ここからはカップリング曲のお話をお伺いします。「恋愛主義にクエスチョン」は、シンガーソングライターの山崎あおいさんが作詞・作曲した強気なロックナンバー。山崎さんといえば、ハロー!プロジェクトへの楽曲提供も多く、そんな方と前島さんのタッグにグッときました。
前島:うわあ、嬉しいです。ありがとうございます! 山崎さんにお願いしたのは私たっての希望でして、ダメ元でオファーをさせていただいたところ、私のグループ時代の活動とかも知ってくださっていたみたいで、ご快諾いただけて実現しました。もう本当にただのファンなので、嬉しくてしょうがなかったです。
──山崎さんにはどんな楽曲をお願いしたんですか?
前島:山崎さんが個人でやられている活動の音楽性も、ハロプロさんに提供されているようなライブ映えする楽曲たちも大好きなので、どんな楽曲を作っていただくかすごく迷ったのですが、まずは初めましてということもあり、ライブ映えするかっこいい曲をお願いしました。1stシングル「Wish for you」で、キラキラした表題曲のカップリングにパンチの効いた「劇薬」という曲を収録したのですが、それと同じようなポジションの皆さんをハッとさせるような楽曲にできればと思って。
──なるほど。山崎さんが提供したハロプロ曲にもパンチの効いた楽曲が多いですからね。
前島:私も大好きです! なかでもJuice=Juiceさんの「「ひとりで生きられそう」って それってねぇ、褒めているの?」の衝撃がすごすぎて。その曲を聴いて、「この曲は誰が作ってるんだろう?」と気になって調べた結果、他にもいろんな楽曲を手がけていることを知って、山崎さんのファンになったんです。本当に全曲好きです!
──山崎さんには他にどんなリクエストをしたのでしょうか。
前島:山崎さんとは事前に打ち合わせをさせていただいて、どういう曲がいいか相談をしたのですが、個人的に山崎さんの素敵なところは歌詞の繊細さだと思っていて、特に“恋愛”がテーマの場合、女の子の繊細な気持ちや感情の揺れみたいなものをすごく綺麗に掬って表現される印象があるんです。なので“恋愛”というテーマで自分の中から出てくるものは何かないか考えた時に、自分の中でずっと思っていたのが、この世の中の暗黙の了解として、“恋愛至上主義”みたいなものがあるよなあということで。
──確かに。音楽やアニメに限らず“恋愛”はエンターテイメント作品において欠かせないテーマになっています。
前島:これは私が表現のお仕事をしているから、より感じるのかもしれないですが、恋愛経験がたくさんある人の方が表現力が優れているだとか、人間として豊かであるみたいな定義に、私はずっと違和感があったんです。そうではない表現の美しさもあるし、そういうぼんやりとした定義に異を唱えてみたいみたいな気持ちもあったので、その違和感が楽曲の爆発力になったらいいなと思ってご提案したところ、山崎さんにも「わかる!」と共感していただけて、この曲を書いていただきました。
──まさに「恋愛主義にクエスチョン」と、疑問を投げかけるところから始まったんですね。楽曲を受け取った時の印象はどうでしたか?
前島:最初は方向性の確認のために歌詞だけが届いたのですが、冒頭の“どうぞ 私を泣かせたって 言いふらせば良いよ 武勇伝”のところからかっこよすぎて、感激しました。私は1番Bメロの“ほんの少し揺らいだだけ”という一文が大好きなのですが、この絶対的に否定しない感じと言いますか、揺らいでいるところが「わかる!」と思って、これはもうあおいさんの歌詞だなと思いました。
──ちょっと強がり感も入ってますよね。
前島:そうですね、背伸びというか、全くの綺麗事ではないというか、生きた目線で言葉を書いてくださっていて。“まがいもんなら 糧にすらしたくない”や“ほんとだけで 私を作りたい”というフレーズも、私の人生のテーマだなと思いました。打ち合わせの時にあおいさんが「すごく怒るというわけではなく、『こういう一面もあるんだ』というのを見せられる曲にしたい」とおっしゃってくださったのですが、まさにそういう楽曲になったと思います。
──かなり凛々しい歌い口ですが、レコーディングはいかがでしたか?
前島:なんと、あおいさんにディレクションをしていただいたので、緊張しました(笑)。この曲は言葉とメロディーが強い意志を持っているので、私も「かっこよく歌わなくては」と思って、最初は力が入っていたのですが、あおいさんが「もっとナチュラルに歌っていきましょう」と言ってくださって。より、心情の吐露というか、リアルさが増したなと思って、とても気に入っています。
──この曲はライブで盛り上がりそうですね。
前島:早く歌って踊りたいなと思っています。やっぱり私はハロプロを見て育ってきたので、この曲は間奏にダンスができそうな尺を取っていただいて。ライブでやるのがとっても楽しみです。
──もう一曲のカップリング「Adaptation」は、前島さんが自ら作詞を担当。デビューアルバム収録の「Determination」と「Azurite」、1stシングルのカップリング曲「アミュレット」に続き、作詞は4曲目になります。
前島:デビュー1周年のタイミングなので、初めての作詞曲「Determination」の空気も少し感じられるような、あの曲で始めた旅を1年間走ってみたうえで、2年目のこれからの旅をどうしていきたいか、という思いを詰め込んだ歌詞にしました。なおかつ、今回はタイアップ作品の“不器用”という言葉をお借りして、自分の不器用さも全面に出せるのがありがたくて。この作詞でも不器用な自分を全開にできたし、いたらないところがあったとしても、それも今の自分であり、未来に向けて伸ばしていける面だなという思いもあって、不器用ながら本音を綴った今の私の“祈り”みたいな曲になりました。
──祈り、ですか。
前島:はい。決意して始めたアーティスト活動ですが、ありがたい機会をいただく度に、どうしても「頑張らなくちゃ」「完璧に近いものにしなくては」という意識が強まって、力んだり、不安になったり、周りのことばかり気になってしまっていて。でも、そうではなく、自分の気持ちも大切にしながら、風に乗るくらいの気持ち、運命に任せてみたり、周りの人に頼ったり、完璧ではない自分を見てもらう勇気を持ちたいと思ったんです。
それもあって、今回は“亜流”という言葉を大切に歌詞を書きました。この言葉は「本流ではないもの」という意味なので、少しマイナスな意味合いで捉えられることが多いのですが、私は“亜流”という本流ではない独自の道を開拓していく美しさもあると思うし、表現者としてそれも本流なのではないか、という思いがすごくあるんです。私自身、順調に軽快に生きてきたタイプではないので、それがもし誰かから見て“亜流”だったとしても、自分なりに適応していきたい、という思いを込めました。“亜流”には自分の名前の漢字も入っているので、ダジャレみたいに言うと“亜美流”という意味もあって(笑)。ラスサビの歌詞に“軽やかに 適応してく 光と旅の続きを”と書いたのですが、自分のスタイルを見つけて軽やかに旅を続けていくための曲になったと思います。
──それが前島さんにとっての“祈り”でもあると。この1年、活動を行うなかで、完璧主義から解き放たれるような瞬間やきっかけがあったのでしょうか?
前島:自分の中では1stライブがすごく大きくて。あのライブは自分でセットリストやカバー曲を決めて、MCの内容も事前に考えて、準備期間は自分の“完璧”癖が出たりしたのですが、いろんな方から「もっと力を抜いていいんだよ」と言っていただけて。私の中ではお客さんに楽しんでもらうのが最優先事項だったのですが、終わった後に自分が「楽しかった」と思えるライブをした時にこそ、求める結果がついてくるのではないか、と気付かせてもらえたんです。もちろん完璧にしようと頑張ってきた今までを否定するわけではなく、その自分も共存させながら、気持ちを解いてみたり、風に乗ってみたり、いろんなことを試してみたいなと思って。そういう願いを込めました。
──個人的には「“何を為すか”じゃなくて 今日を迎えちゃんと生きたことを 慈しみたいの」という歌詞がすごく好きです。
前島:ありがとうございます! この部分は最近の人生のテーマで、結構ギリギリに書き換えた箇所なんです。元々は自分のいたらなさみたいなものに目を向ける、自己否定じゃないですけど自分の癖みたいな言葉が入っていたのですが、そうではなく、今の自分の一番の思いを入れたいなと思って。もっとかっこいい言葉を入れた方がいいのかな?とも思ったのですが、勇気を出してこの言葉を送り出してみました。
──その勇気、伝わってきました。作詞は楽しいですか?
前島:楽しいですね。まだまだだなと打ちのめされることの方が多いですけど、でも書いている作業がすごく楽しくて。なので、打ちのめされても立ち上がって、継続してみる。まずは10曲を目標に頑張っていきたいなと思っています。
──自分の気持ちや考えを歌詞にしてアウトプットすることで、改めて気付けることも多いでしょうしね。
前島:そうですね。変な言い方になりますけど、作詞って自己カウンセリングみたいなところが少しあって。自分と和解しようとするというか、対話していく感じがあるので、すごく大切な作業だと思います。
──今回のシングルはいろんなタイプの3曲が揃いましたが、アーティスト・前島亜美のどんな部分を表現した1枚になりましたか?
前島:やっぱり“不器用”という言葉をお借りして、ふと肩の力を抜いて「こういう私でも大丈夫ですか?」とお伺いを立てるような作品になったと感じていて。デビューからずっと気が抜けなかったのですが、そうではない自分も出せるようになって、本当の自分の名刺というか、自己紹介みたいな1枚になりました。ここから自分なりの“亜流”を探していく2年目にしたいなと思います。
──最後に、11月24日に開催される2ndライブ「前島亜美LIVE 2025 Blooming NOTE」への意気込みをお聞かせください。
前島:1stライブから新たに5曲増えた中で、セットリストも決まって、仕組みの段階からパワーアップしているので、来てくださる方には満足していただけると思います。まずは自分自身のことも解放して、私が誰よりも楽しむくらいの気持ちでライブができたらいいなと思います。それとタイアップを経て初のワンマンライブなので、作品きっかけで初めて来てくる方もいらっしゃると嬉しいですし、ここからさらに輪を広げていきたいです!
[文・北野創]