【倉敷市】企業学び楽舎講座 ~ 見て、聞いて、体験する。倉敷市内の中高生が地元企業の仕事を体験する特別授業
子どもの頃、学校では「将来の夢」や「就きたい仕事」を考える機会が数多く用意されていた気がします。当時、答えに迷っていた人もいるのではないでしょうか。
子ども達の将来の選択肢を増やそうと、倉敷市はさまざまな取り組みをおこなっています。
そのなかのひとつである「企業学び楽舎講座」は、倉敷市内の中高生が地元企業の職業体験ができる特別授業です。
本記事では、2025年2月7日(金)に倉敷市立北中学校でおこなわれた企業学び楽舎のようすと、後日開催された企業と学校の意見交換会のようすを紹介します。
企業学び楽舎講座について
企業学び楽舎講座は、倉敷市・早島町内の中学校、高等学校で実施されている体験型授業です。
倉敷市キャリア教育推進事業の一つとして開催されています。
倉敷市キャリア教育推進事業
職業観の育成や将来の地元就職促進、地域の活性化を目的とした事業です。職業観の育成やワークルール等の理解の促進を図り、働くことの知識やルール等について学ぶ「基礎講座」と、生徒が地元企業の作業を体験して良さや魅力を知り、将来の地元就職につなげる「企業学び楽舎講座」の2本立てで構成されています。
【Youtube】倉敷市動画チャンネル 倉敷市キャリア教育推進事業
自分たちの暮らす街にどのような仕事があり、その仕事が自分たちの暮らしにどのような影響を与えているのか。地元企業で働く人々が、生徒たちに授業をおこないます。仕事の内容だけでなく、企業が地域貢献していることもしっかりと学べるプログラムです。
令和6年度は中学校16校、高校5校で開催され、55社の地域企業が参加しました。
企業学び楽舎講座は、50分の授業×2コマでおこなわれます。学校ごとで受講する学年は異なり、対象学年の生徒は気になる企業の講座を二つまで選んで受講できます。
生徒たちが「やってみたい!」「おもしろそう!」と思える仕事の選択肢が増えるような、特別な授業でした。
当日のレポート
2025年2月7日(金)に倉敷市立北中学校でおこなわれた、企業学び楽舎のようすを紹介します。
この回に参加した地域企業は、以下の9社(8講座)です。
・<高齢者福祉・介護>社会福祉法人 亀龍会
・<建設・管工>株式会社中央設備・株式会社大同設備工業
・<保育>株式会社ドルフィン・エイド
・<建設>目黒建設株式会社
・<飲食>株式会社ふるいち
・<銅造船・修理業>株式会社新来島サノヤス造船
・<アニメーション制作>株式会社ENGI
・<鉄鋼業>JFEスチール株式会社西日本製鉄所
通常、生徒は2つの講座までしか受講できませんが、筆者は取材も兼ねてすべての企業の講座を覗いてみました。
<高齢者福祉・介護>社会福祉法人 亀龍会
体育館で講義をおこなっていたのは、社会福祉法人 亀龍会。
授業の前半では、スライドを使用して介護職の重要さや働く魅力などを伝えていました。職員の「介護職は、命を預かる仕事です」という言葉に、仕事に対する責任を感じられます。
後半では、福祉の現場では欠かせない車いすを使った体験が始まります。
2グループに分かれて、車いすに試乗する体験や、人が乗った状態の車いすを操作する体験などをおこないました。車いすの乗りかたや、車いすを動かすときのコツ・注意点などが説明され、生徒たちは真剣に耳を傾けています。
段差のある場所を車いすで移動する大変さや、自分で操縦しても思ったように曲がれない難しさを体験していました。
<建設・管工>株式会社中央設備・株式会社大同設備工業
株式会社中央設備・株式会社大同設備工業は、水道やガスの配管工事や、空調設備の取り付けなど、生活インフラを作る会社です。
仕事の内容紹介だけではなく、産休・育休などの働きかたに関しても説明があり、働く環境も仕事選びの重要な要素であることを伝えていました。
講義の後には、実際に工事現場で使用される作業服やハーネスをみんなで試着してみました。
「意外に軽い!」「これかっこよくない?」など、生徒同士の会話も弾みます。
同じ教室で、蛇口の取り付け体験もおこなわれていました。
普段何気なく使っている水道で、どのように水が流れているのかを学びます。最後は便を模したおもちゃを水で流して、水道というインフラが、私たちの生活のなかでどれだけ重要なのかを実感していました。
<保育>株式会社ドルフィン・エイド
保育について学べる株式会社ドルフィン・エイドの授業では、子どもの感触遊びにぴったりな、スライム作りを体験していました。
各グループに分かれて、カラフルなスライムを作っていきます。実験のような面白さに、教室内は明るい声でにぎわっていました。
出来上がったスライムは、硬かったり、柔らかかったり、人によって感触が変わります。
うまく作れなかった人のスライムを、上手に作り直してあげるチームもありました。作る楽しさはもちろん、遊びを通してコミュニケーションが弾むことを実感できる体験でした。
<建設>目黒建設株式会社
目黒建設株式会社では、水平を測るレーザーレベルを使って教室全体を測っていました。専門の機械や機器を実際に触れられるのも、企業学び楽舎ならではの体験です。
計測するのはなかなか難しいらしく、機器を覗き込んでしばらく考え込む生徒もいました。
後半では、紙を積み上げてタワーを作り、チームごとで高さを競い合っていました。カウントダウンが進むにつれ、教室の熱気も高まっていきます。タワーが崩れた瞬間、「あー!」と大きな声も響きました。
ゲーム感覚で楽しめる体験。生徒にとって印象に残る企業になるのではと思います。
<飲食>株式会社ふるいち
調理室では、倉敷名物のぶっかけうどんを生み出した株式会社ふるいちが授業をしていました。
うどんのだしの良い香りが、調理室に漂っています。
ふるいちの授業では、名物のぶっかけうどんを生徒自身でトッピングしながら、オリジナルうどんを作っていました。
生徒は出来上がったうどんを美味しく食べながら、ふるいちの社長にさまざまな質問を投げかけます。
うどんの作り方や、ふるいちのうどんの特長など、身近な食べ物を作り出す仕事に興味津々(しんしん)なようすです。
「いろいろなうどん屋があるけれど、ふるいちの隠し味はなんですか」という質問には、「内緒です!」と笑いを誘う答えが返ってきました。
代わりに教えてくれたのは豆知識。ふるいちの天ぷらは、てんぷら粉に一番だしを使っているため、だしの風味を感じられる美味しさだそうです。
<銅造船・修理業>株式会社新来島サノヤス造船
株式会社新来島サノヤス造船の授業で生徒たちが真剣で取り組んでいたのは、A4用紙を2枚を使って作る船舶模型。船体構造をわかりやすく学べる内容です。
成功すると、ペットボトルを載せても潰れない強度の紙の柱が作れます。たった2枚の紙で、ペットボトルの重さに耐えられる立体物が作れることが驚きです。
新来島サノヤス造船のスタッフは、各テーブルを回って、ていねいに作り方をレクチャーしていました。試行錯誤しながらみんなで作っていきます。
造船の知識と船体の構造がわかりやすく学べる体験授業でした。
<アニメーション制作>株式会社ENGI
続いて向かったのは、アニメーション制作をおこなう株式会社ENGI(エンギ)の授業です。
「アニメーターの仕事はなぜブラックなのか」という、企業的には話しづらそうなテーマから授業がスタート。データをもとに、軽快にアニメ業界について説明されました。生徒たちは投げかけられた質問に答えながら、アニメ業界の現実について深掘りしていきます。
「アニメーターは1か月に平均何枚の原画を書くのか?」「原画を1枚描くといくらもらえるのか?」といった非常にリアルな話がされ、生徒たちも前のめりになって聞いていました。
しかし、きつい現実だけではなく、仕事の魅力もしっかりと教えられ、アニメーターに興味のある生徒がより具体的に進路を考えられるような授業でした。
仕事の大変な側面もきちんと伝える。生徒に対して誠実な姿勢を感じられた50分間でした。
<鉄鋼業>JFEスチール株式会社西日本製鉄所
JFEスチール株式会社西日本製鉄所は、鉄の実物を見て触れる体験をしていました。
特に面白かったのは、銑鉄(せんてつ)と鉄鋼の硬さの比較です。叩いてみると、不純物が多い銑鉄に比べて、不純物の少ない鉄鋼は非常に硬く感じられます。
工場で作業する際に着られる防護服も試着でき、代表して先生が試着していました。
授業の終わり際、企業のロゴマークが入ったボールペンと、オリジナルのスプーンがプレゼントされ、生徒たちはよろこんでいました。手元に長く残るアイテムがあると、企業のことをふと思い出す機会がありそうです。
多種多様な業界の企業が集まり、中高生の進路の選択肢を増やす企業学び楽舎講座。
大人でも知らない企業の豆知識や、仕事の裏側を学べる貴重な体験授業でした。
次ページでは、企業学び楽舎講座の裏側ともいえる、企業・学校・倉敷市による意見交換会のようすをレポートします。
「企業学び楽舎講座 次年度説明会および意見交換会」のようす
2025年2月13日(木)、倉敷市芸文館アイシアターで「企業学び楽舎講座 次年度説明会および意見交換会」がおこなわれました。
当日は企業40社、中学校・高等学校9校、教育委員会1名が参加しました。福祉・建設・保育など、テーブルごとにざっくりと業界が分かれています。
第1部は説明会となっており、最初に令和6年度の実績報告と令和7年度の事業計画について、倉敷市労働雇用政策課から説明がありました。その後、2社が事例紹介を話します。
次年度から新たに加入する企業も参加しているため、事例紹介は授業のコツやポイントなどがわかりやすく紹介されていました。
1社目の事例紹介は、下津井電鉄株式会社。
授業のポイントは「何を伝えたいかを明確にし、生徒にそれを伝えること」だそうです。授業の目的を冒頭に伝えておくことで、生徒自身が自分事として捉えられると話します。
生徒たちを飽きさせない工夫として、動画を入れたり、クイズ形式にしたりするなどのテクニックも紹介していました。
下津井電鉄は、過去に下電バスを用意して運転席に座る体験を提供しましたが、「運転席に座るまでの時間がヒマ」という生徒の声を聞き、その次から生徒を退屈にさせないためのワークショップを取り入れたそうです。
生徒たちの退屈を無くすことが、興味関心を持ってもらうカギとなりました。
2社目の事例紹介は、菅公学生服株式会社。
座学で実際に使用したスライドとともに、どのような授業の流れで菅公学生服に興味を持ってもらったのかを話しました。ワークショップでは、大量の制服の資料をもとに、生徒たちが自分の学校の制服作りにチャレンジし、非常に盛り上がったそうです。
企業学び楽舎講座で、企業側が得られるメリットについても紹介していました。子ども達と交流することで社員のやりがいにもつながり、また子どもならではの視点に新たな気づきが生まれるそうです。
事例紹介が終わった後は質疑応答タイムがあり、教育委員会、倉敷市、企業のそれぞれの視点からコメントが上がりました。
事例紹介の後は、休憩をはさんで第2部がスタート。コーヒーを飲みながらテーブルごとに意見交換会が始まります。
生徒を飽きさせないための授業の工夫について話し合うグループが多く、「生徒がさらに楽しめる体験を用意していきたい」「生徒のレベルに合わせて体験を分けるのはどうか」など、さまざまな意見が上がっていました。
学校関係者からは、「企業の皆さまが工夫しているのを実感しました」という感想が上がります。
学校・企業・自治体が連携しながら、それぞれ熱意を持って取り組んでいることが伝わってきた意見交換会でした。
おわりに
筆者は企業学び楽舎講座を取材中、「もし自分が生徒だったら、どこの企業の授業を聞いていたかな」と考えていました。福祉、飲食、建設、エンタメなど、さまざまな業界から二つの授業を選べるので、しばらく悩んでしまいそうです。
意見交換会では、生徒たちが楽しみながら学べる工夫をそれぞれの企業が試行錯誤していることがわかり、企業学び楽舎講座が今後さらにパワーアップしていく予感がしました。
今のご時世、県外に出る若者も多いと思いますが、地域企業と交流した経験があるのとないのでは、地域に対する思い入れも変わってくると思います。
個人的には、企業学び楽舎講座のような、中高生が地元企業と関わる機会は今後も継続されてほしいと思いました。