【京都市伏見区】伏見の小さなカレーの家。納屋町商店街[メドカレー舎]で黒毛和牛と酒粕のあいがけを
欧風の深みと和の余韻。旨み重なるあいがけがイチオシ|LOVE THE CURRY VOL.97
納屋町商店街の一角にあるカレー専門店。間借り営業を経て着実にファンを増やし、2025年6月に念願の実店舗をオープンした。根っからのカレー好きだという店主が、全国を食べ歩き、試行錯誤の末に完成させたカレーを提供している。
看板メニューの「黒毛和牛メドビーフカレー」は、“スパイス欧風カレー”を掲げる自信作。細かく刻んだ玉ねぎやにんじん、セロリやトマトなどを、形がなくなるまでじっくり煮込み、旨みを徹底的に引き出している。黒毛和牛と鶏ガラを圧力鍋で炊き上げるスープをベースに、クミンやコリアンダーなど数種類のスパイスを合わせ、小麦粉は一切使わない。
ルーに溶け込んだ野菜がやわらかなとろみを生み、食べ心地は軽やか。ひと口目から濃縮された野菜と牛肉の旨みが押し寄せ、赤身の黒毛和牛がゴロリと入ったボリュームは満足感も格別。やがてスパイスのシャープな刺激が追いかけてくるが、圧倒的な旨みがその角を包み込み、次のひと口へと誘う。気づけばもう、スプーンは止まらない。
ほかに「ふしみ酒粕キーマカレー」「京だし肉カレー」「週替わりカレー」を用意。「黒毛和牛メドビーフカレー」をメインに、「ふしみ酒粕キーマカレー」か「週替わりカレー」が選べるあいがけもできる。
「ふしみ酒粕キーマカレー」は、酒どころ・伏見ならではのオリジナルカレー。カツオと昆布の出汁をベースに酒粕を溶かし込んだルーは、スパイスの主張を抑え、和の旨みが前に出した奥深い味わい。刻んだこんにゃくや油揚げ、ゴボウといった粕汁の具材に青ネギが添えられ、「粕汁なのか、カレーなのか」と迷ううちに、酒粕の甘い香りと出汁の余韻に心をつかまれる。あいがけなら「黒毛和牛メドビーフカレー」の濃厚な味わいとの絶妙な調和が抜群。組み合わせの妙を楽しめる。
カレーに欠かせない米は、滋賀県・森元農園が有機栽培する「キヌムスメ」。粒立ちよく艶やかな炊き上がりで、野菜の旨みたっぷりのルーと好相性。塩は伊豆の海水を100%使用した伝統海塩「海の精」。ほのかな甘みとともに素材の味を引き立てる。素材ひとつひとつを厳選。味はもちろん食べる人の安心と健康を追求した一皿に仕上げている。
一人でも家族でも。やさしさに満ちた店内
店内は、以前スペイン料理店だった空間を活かした造り。天井が高く、ゆったりとした広さが心地いい。店に入ってすぐのハイカウンターは、誰もが座りやすい高さに改装し、一人でも落ち着いて過ごせる設計にしたという。
奥のテーブル席は、前の店の名残であるスペインタイルが空間に馴染んだ明るい雰囲気。ベビーカーや車いすでもゆとりをもって利用できるレイアウトがうれしい。老若男女を問わず笑顔で受け入れる店主夫妻の懐の深さが、居心地のよさに繋がっている。
家族で育てた、小さなカレーの家
レジ横に掲げられた写真は、店主の妻の父のもの。35年ほど前に亡くなったが、「商売が好きな父だったから、この店を喜んでくれるはず」と家族会議で“名誉総裁”に任命したそう。朗らかな笑顔は、今ではすっかりこの店の顔。
ロゴは可愛らしい小屋をモチーフに、家族で相談して作り上げたオリジナル。中庭のサインボードや店内のパネルもすべて手作り。画用紙の切り抜きや絵の具の色付けといった素朴な手仕事が温かな質感を漂わせている。家族で少しずつ形にしてきた店全体を包むのは、穏やかでアットホームな空気。
カレーで心も体も回復を。伏見のエイドステーション
店名に添えられている「curry aid」は店主による造語。トレイルラン経験のある店主が、レースで設けられる“エイドステーション”のように、この店のカレーを食べて体も心も元気になってほしい——そんな願いを込めた。
そしてこの店と切り離せない存在が、絵本作家の谷口智則さん。店主とは旧知の仲で、谷口さんが営む大阪のカフェ「ズーロジック」で間借りをしていた縁もある。店内には店主夫妻が「いつか自分の店に飾りたい」と大切にしていた絵がシンボルのように飾られ、シャッターには谷口さんによる直筆のイラストが描かれている。この店のために谷口さんが作ってくれたというキャラクター“カレーサンタ”と店のロゴのコラボレーション、動物たちが「メドカレー舎」のあいがけカレーを運ぶ姿など、ここでしか見られない貴重な作品。閉まっている時間帯も、商店街を明るく彩っている。
店舗情報
店名:カレーエイド メドカレー舎
住所:京都市伏見区納屋町123-1