菅田将暉『サンセット・サンライズ』インタビュー。「三陸の朝日はハリウッド級!海の幸にもハマりました」
変幻自在な演技力で圧倒的な存在感を放つ俳優・菅田将暉さん。映画『サンセット・サンライズ』では、宮城県・南三陸に移住した釣り好きサラリーマンを演じます。作品への思い、そして撮影で出会った南三陸のおいしいものとは!?
菅田将暉
1993年、大阪府生まれ。『仮面ライダーW』(2009)で俳優デビュー。2017年には『あゝ、荒野』で第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞などを受賞。同年から音楽活動も開始し、多方面で活躍中。主な作品に、『花束みたいな恋をした』(2021)、『銀河鉄道の父』『君たちはどう生きるか』(声の出演)『ミステリと言う勿れ』(2023)、『Cloud クラウド』(2024)ほか多数。待機作にはNetflix『グラスハート』(2025)がある。
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菅田さん主演の映画『サンセット・サンライズ』は、コロナ禍真っただ中の南三陸が舞台。宇田濱(うだはま)町(町名は架空)の役場で働く関野百香(ももか/井上真央)所有の空き家に、菅田さん演じる釣り好きサラリーマン・西尾晋作が移住してくるところから物語が始まります。
涙の中に笑い、笑いの中に涙
—— 今回の作品は、映画『あゝ、荒野』でタッグを組んだ岸善幸さんが監督、そして宮藤官九郎さんが脚本という布陣です。お話がきたときの気持ちは?
菅田 岸監督の作品には過去2回出ており、宮藤さんは舞台をはじめ、たくさんの作品を拝見していたのですごくワクワクしました。岸監督は涙の中に笑いがあって、宮藤さんは笑いの中に涙があるタイプ。全然違う表情のお二人が交ざるとどうなるのか、その読めなさも含めて楽しみでした。
—— 宮藤さんの脚本からはどんな印象を受けましたか?
菅田 このセリフはどう言おうかな、などとあまり考えなくても、自然とそうなれるように設定されているようで読みやすかったです。
映画的なロマンあるセリフももちろんありますが、すっと口に出せる自然な言葉選びが多くて、そこもよかった。
ラストのほうで晋作が感情を吐露する場面では、うれしいとか悲しいではなくて、もっと曖昧というか。晋作の言葉に「自分でもよくわからないんですけど……」が常に含まれているかんじがすごく好きでした。
—— 笑いどころも満載で、宮藤さんワールドも炸裂していますね!
菅田 楽しかったですよ! 宮藤さんの描く群像劇はポジショニングが絶妙です。この人にこれを言わせたいんだなという変な都合がない。それぞれ身勝手に生活を送っていたら、こういう会話になるというリアリティーを感じました。
みんなで気を使い合うのも美しいけど、みんなで我を通すのも美しいよねと。そしてそのほうが生きやすい気がしました。
でも、みんなでいるということは、やっぱりお互いのことを考えているし、ある意味気を使っているんです。「お互いのために、自分勝手に生きようぜ!」という絶妙なバランスのメッセージが感じられて、宮藤さんらしいなと思いました。
—— 晋作という人物はいかがでした?
菅田 僕が演じた晋作は、東京で生まれ育った30代のサラリーマン。一見特徴がなさそうだけど、釣りが好きだったり、空き家のリフォームを手がけたりと好奇心はすごくある。「これだ!」となったら、飛びつけるエンジンをもっていることが魅力です。
ただ、素直で自由ですが、ともすると嫌なやつとか、わがままなやつに見えかねない。そこをいかに邪気なく演じられるかがテーマでした。コロナ禍真っただ中に東京からきて、隔離するために2週間は家を出るなよって言われているのに、こっそり釣りに行ってますし、それをそんなに悪いとも思っていませんでしたから(笑)。
わがままを言い合える気仙沼の気質が魅力的
—— 東日本大震災のことも出てきますが、彼の素直さがあったから、難しいテーマにも入っていけたということは?
菅田 それはあるかもしれません。晋作がすごいのは、被災された方への接し方がシンプルでフラットなことです。無理に気を使うのではなく、よくも悪くも、釣りが好き、宇田濱が好きという熱量だけで対話ができるのが彼の強みだったと思います。
—— コロナ禍の人同士の距離、東京と地方の距離など、心も含めた距離感もテーマのように感じました。
菅田 そうですね。現場で気づいたのが、地元のみなさん独特の距離感。映画でも物々交換の場面が出てきますけど、本当に物々交換の文化があります。
気仙沼(けせんぬま)で釣り船に乗せてもらったときに、船長のおじちゃんが「あそこにタコ漁のおじさんがいるからタコもらいに行こう!」って言うんです。「え、いいの?」ときょとんとしていたら、タコを本当に一匹もらってお返しに魚をあげている。今度は「あっちでカキつくってるから」と同じように物々交換。
ああ、ここにはお互いが当たり前のようにわがままを言い合える、与え合えることがベースにあると感じました。きっと、素直で自由な晋作にはそれがしっくりきたんだと思います。それで「け!(食べなとか、どうぞという意味)」という、距離感がぐっと縮まるようなセリフが出てきたんだなと。
—— 「け!」といえば、とにかく作品内の食べ物が魅力的でした!
菅田 監督が食べておいしかったものや、みんなでご飯に行って「これ、台本に入れましょう」となった食材やメニューを作品に取り入れているんです。
—— 一番おいしかったのは?
菅田 わぁ~それは難しい! メカジキの背びれの付け根部分を塩焼きにしたハモニカ焼きと、ネズミザメの心臓を刺身にしたモウカノホシかなぁ。ハモニカ焼きは衝撃! もはや魚ではなく肉です。あまりにおいしくて取り寄せています。
——映画に出なかったおいしいものもありましたか?
菅田 いっぱいあります。撮影場所の近くで、地元のみなさんがバーベキューをしてくれてサザエを焼いたり、ウニ丼を出してくれたりしました。印象的だったのがホヤ。個体差もあるし、さばき方で違ってくるから味のグラデーションがすごい。渋いのも、果物みたいに甘いのもありました。
現場の最初のケータリングもおいしかったな。カキご飯やカキの汁ものを出してくれました。生ガキも食べました。何もつけなくても、海の塩味だけで最高においしいんです。
——印象的だったシーンは?
菅田 いろいろありますけど、やっぱり最後の朝日のシーンかな。ハリウッドみたいな風景でした。あんな広大な水平線を見ることがまずないし、ゆっくり朝日が昇る様子が最高にきれいで。こういうときって、みんな無言で太陽を見ちゃいますね。何色かもよくわからない、表現できないくらいすごかったな。
来いよ……という邪念は 魚にバレている!?
——釣りも今回が初めて?
菅田 釣りをしたことはありましたけど、ちゃんとは初めてでした。撮影に向け、スタッフもそろって気仙沼で釣りの練習をしたときに、これは景気づけに釣っておかないと今後の撮影の士気に関わってくるなと思ったんです。その緊張感が海にも伝わったのか、オウゴンムラソイという金色の魚が釣れました!
——すごい! 魚も空気を読んだ⁉
菅田 読んだんでしょうね。しゃーねーなー釣られてやるかって。ただ、そのあとは僕のマネージャーのほうがいっぱい釣っていました。やっぱり欲がないほうが釣れるのかな。僕の「来いよ、来いよ……」という邪念が、重りと糸の挙動で魚にバレていたんですね。ああ、なんか痛いとこ突かれた、見抜かれたな……って思いました。
——新たな趣味が?
菅田 釣りはすごくおもしろかった! だからあえてやらないようにしています。ハマったらヤバいとわかるので(笑)。あれはやり始めたら一日なんてあっという間に過ぎちゃいますよ。
映画 『サンセット・サンライズ』
新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、4LDK・家賃6万円の神物件にひと目惚れ。何より海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごすが、東京から来た〈よそ者〉の晋作に、町の人たちは気が気でない。一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流にとまどいながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの人生が待っていた——!?
脚本/宮藤官九郎 監督/岸 善幸 原作/楡(にれ) 周平
配給/ワーナー・ブラザース映画 出演/菅田将暉、井上真央、中村雅俊ほか
聞き手=岡崎彩子 撮影=千倉志野
ヘアメイク=AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)
スタイリスト=二宮ちえ
衣装協力:コート ¥165,000、シャツ ¥129,000、パンツ ¥153,000、[すべてルメール(エドストローム オフィス/☎03-6427-5901)]
『旅の手帖』2025年2月号より一部抜粋して再構成