亀田誠治(東京事変)情報の入れ方で気をつけていること。#9
東京事変のベーシストであり、椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、山本彩、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど、幅広いアーティストのプロデュースやアレンジを手がけてきた亀田誠治さん。
実は、音楽活動のおおもとには、個性的な少年時代の経験があるのだとか。
「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載を全10回でおとどけします。
第9回は、亀田さんが意識しているSNSとの付き合い方について。
──
糸井さんは質問、いかがでしょうか?
糸井
ありがとうございます。お話、ぜんぶおもしろいです。
ちょっと聞いてみたいのが、いまってみんながやたらにいっぱい情報をほしがる風潮がありますよね。いくら手にしても「もっと情報をほしい」と思って、結局何もできなくなるのが、とても多い悲劇だと思うんです。
けれど今日のお話を聞いていたら、亀田さんは、たとえば畳敷きの部屋の話でも、「そこにあるものを、繰り返し時間をかけて徹底的に見てきた」というか。
またFM局や地下鉄の話も、欲をかくのは絵の中だけで、「機材が欲しい」とかはひとつも言わなくて。
亀田
(笑)そうなんです。
糸井
だから「具体性」と「本気度」はあるけど、基本的にはその場にあるもので、どんどんやる。そこがとってもおもしろかったんです。
それで質問が「いまも情報を入れすぎないように気をつけていますか?」なんですけれども。
亀田
情報の入れ方は、難しくて、正直自分の中でも波がありますね。
たとえば「東京事変がアルバムを発売する」とか、自分の大事なプロジェクトが世に出ていくときは、やはりすごい検索もして、SNSの評判も見ます。
けれどそうじゃないときに、漫然とSNSを追っかけたりとかは、しないように気をつけてます。そのあたりはやっぱり、母の教えの「ほかの人の価値観だけには絶対に振り回されないように」なんです。
あと僕は、自分基準のオリジナルチャートを作っていたのが、すごく大きいんです。
だから「何億回再生」とか言われても、自分にピンとこないと、そのまま置いておくんです。でも、そういうアーティストでも、次の曲で響くものがあったりもするし。
なので常に「できるだけフラットな態勢でいられるように」みたいな意識がありますね。
糸井
ああ。
亀田
あと僕はSNSからすごく恩恵も受けているし、自分も愛用してますけれど、結局SNSって、目立つ意見が目に入るんです。
すごく傷つくような心無い発言とか、めちゃくちゃ褒めてくれる人の声とか、両方ありますけど、そのどちらも、本当に一部の人しか言ってない。
むしろその「あいだ」にいる人たちが大半で、自分はその「あいだ」の人たちの心に染みわたる音楽であったり、感動だったりみたいなものを、まずは届けていきたいと思っているんです。
なので、SNSの両極性を見渡しながら、とにかく自分に本当にフィットする情報を吸収していく。そんなふうに付き合うようにしてますね。
糸井
亀田さんのお話しは、『全米トップ40』のチャートを自分好みに入れ替えていたのが、すごいなぁと。それを中学生ぐらいでやったわけでしょ?大発明ですよね。
亀田
そうなんです。だから僕は「自分がいいと思うものを、ちゃんとかたちにして選び出す」って、すごく大事という気がするんです。
そういうことをしていると、人にも「レコメンド」できるんです。
僕がメディアに出るような仕事でかならず表明していることがあって、「レコメンドはするけど、評論はしない」なんですね。そこははっきりと決めています。
解説も、過度な解説はしたくない。一時期「亀田音楽専門学校」というのをEテレでやっていたんですが、この「解説」という切り口は、そのときにかなりやり遂げた感があって。だからその後、「ここはこうだから感動するんだよ」みたいないわゆる音楽解説の仕事は、基本的にはやらないようにしています。
でも「いまこういう音楽が面白い」とか「コロナ禍で、ミュージシャンやアーティストはこんな発信をしているんだよ」ってレコメンドしたり、伝えていくことはやる。
あと「日比谷音楽祭」みたいな、誰でも参加できるフリーの機会を作って、間口を広げて‥‥。それもやっぱりレコメンドですね。「いいものはここにあるよ」っていう。
そういうことを伝えていきたい。そこは終始一貫しているかもしれないです。
(出典:ほぼ日刊イトイ新聞「 僕と音楽。亀田誠治|(9)「あいだ」の人に届けたい。」)
亀田誠治(かめだ・せいじ)
1964年生まれ。
これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、山本彩、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、yonawoなど、数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。
2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。
2007年と2015年の日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。
2021年には映画「糸」にて日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。同年、森雪之丞氏が手がけたロック・オペラ「ザ・パンデモニアム・ロック・ショー」では舞台音楽を担当。
近年では、J-POPの魅力を解説する音楽教養番組「亀田音楽専門学校(Eテレ)」シリーズが大きな話題を呼んだ。
2019年より開催している、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽体験ができるフリーイベント「日比谷音楽祭」の実行委員長を務めるなど、様々な形で音楽の素晴らしさを伝えている。